こんにちは、ピッコです。
「悪女の姉を救う勇敢なわんこです」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
43話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- いつか未来で、もう一度あなたに
クロエは私の部屋のベッドに横たわったまま、静かに目を閉じていた。
その体へ、柔らかな光が頭の先から足先までを包み込むように優しく降り注ぐ。
『あったかい……』
強張っていたクロエの表情が、いつの間にか自然と和らいでいく。
それはまるで、幼い子どもが「えへへ」と無邪気に笑いながら、私の手の甲に愛おしそうに頬をすり寄せてくるような感触だった。
「おやすみ、お姉ちゃん!」
その温もりは、どこまでも優しく彼女の心と体を癒やしていく。
その夜、クロエは深い夢の底で、愛おしいココと再会した。
「お姉ちゃん、私だよ! ココだよ!」
夢の中のココは、死の直前のように苦しげに足を硬直させた姿ではなかった。かつて元気いっぱいに駆け回っていた、あの小さくて愛らしい子犬の姿のまま、こちらへとまっすぐ走ってくる。
涙がこぼれ落ちそうになるほど、健気で、愛らしかった。
だからこそ、そのときのクロエは気づかなかったのだ。
夢の片隅で、自分にしがみつきながら、幾重もの光の粒を懸命に降り注がせてくれている、もう一人の幼い子どもの姿に。
◇
『……お姉ちゃんと、どうやってお話を終えたんだっけ。』
お姉ちゃんが安らかに目を閉じたところまでは覚えているのに、その後の記憶がどうにもぼんやりとして霧がかかったようだった。
「無理、しすぎちゃったな……」
早く治してあげたい一心で、つい無茶をしてしまった。どうにかしてお姉ちゃんの『マナの流れ』に私の治癒の力を流し込もうと、必死になっていたけれど。
『ちゃんと、治せたのかな。わからない……』
一番よく知っているはずのお姉ちゃんはぐっすりと眠っていて、とても起こすことなんてできなかった。
私はふらつく足取りでようやく自分の離れへと戻ると、崩れ落ちるように壁に体を預けた。お腹の奥底から焼け付くような激しい痛みがこみ上げてきて、その場に立っていることさえやっとだった。
すると、私の離れで遊んでいた『生きた皇帝(エンペラー・オブ・ライフ)』のノニルドが、ただならぬ様子を察して心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫か? おい、しっかりしろ!」
「うん……大丈夫……」
「おい、お前……かなりつらそうだぞ」
「でも……お姉ちゃんは、私がいないとダメだから」
私が少しくらい苦しくても、これくらい、なんてことはない。
どうせ私は、あと5年でこの世界を去ってしまう運命の人間なのだから。その短い時間の間に、お姉ちゃんが幸せになってくれることのほうが、私にとっては遥かに大切なことだった。
その本心を胸の奥深くへとしまい込み、私はただ、心配をかけるのを誤魔化すように照れくさそうに笑ってみせた。
『うちのココが、もし人間だったら、どれだけよかっただろう。』
『ワン……?』
『「ここが痛い」とか「誰かに傷つけられた」とか、そんなことも、全部ちゃんとお話しできたのに。』
もし、すべてを言葉にできる人間だったなら。
『……』
『お姉ちゃんが悪い人たちをみんな叱ってくれて、痛いところも全部、優しく治してくれるのに。』
頭の中に響くお姉ちゃんの優しい声を思い浮かべると、思わず愛おしさがこみ上げて笑ってしまった。
『でも……私、もし人間になれたとしても、やっぱりお姉ちゃんには「痛い」なんて言えないな。』
だって、私が痛いと言ったら、お姉ちゃんは自分のことみたいにすごく心配してしまうから。
『だから明日からは、またいつもの勇敢で、たくましいココに戻らなくちゃ。』
私は未来で見たのだ。
お姉ちゃんと腕を組んで、あのきらびやかな皇宮をのんびりと散歩する日を。きらきら光る湖を眺めたり、華やかな展示会へ出かけたりする、そんな満たされた日々を。
その幸せな日が、もうすぐやって来る。
だから私は幸せだし、何もかも全部大丈夫。
私は枕に顔をぎゅっと押しつけ、張り詰めた体から長いため息を吐き出した。
その時だった。
疲労でぼんやりとかすむ視界の先、自分の手のひらの上に、小さな毛のかたまりがふわふわと現れては消えるのが見えた。
『あれ……? 手の上に、毛玉……?』
私はもう子犬じゃない。
人間の姿になったはずなのに、どうして手の上に、あの柔らかくて懐かしい子犬の毛が見えるのだろう。
『気のせい、なのかな……』
深く考え込んでいるうちに、目の前の毛玉は幻のように消え去ってしまった。
そして代わりに、耳元へと届いたのは、小さな子犬の切ない声だった。
「ココ、私との約束を覚えてる?
……私のことを、絶対に忘れないで。
今はこれしか言えないけれど……お願い、私を忘れてしまわないで」
それは、いつものように自分を苛む恐ろしい幻覚とは、明らかに違っていた。
『これ……私の、友達の声だ……』
チェリーだろうか。それともチョコだろうか。
だが、それが誰の声だったのかをはっきりと思い出す余裕は、もう残されていなかった。全身が、水をたっぷりと吸い込んだ綿のように重く、深く沈んでいく。
そうして私は、糸が切れたように深い眠りへと落ちていった。
・・・
ココの治癒によって劇的な回復を遂げたクロエは、すぐさまアルトス公爵のもとを訪れていた。
「もう暴走の危険はありません。公爵、私にも魔獣狩り事件の捜査に参加させてください」
「クロエ……」
アルトス公爵は、まるで真夜中に雷を落とされたかのような驚愕の表情で娘を見つめた。
これまで何度も彼女に能力を使わせ、そのたびに摩耗していく娘の体を見守ってきた彼にとって、目の前の光景はにわかには信じがたい変化だった。
「暴走の危険を完全に克服した例など、歴史上、一度として存在しない。演技ではなく……本当に、健康になったというのか?」
不審の目を向けながらも、父親の目から見てもクロエの体調は見違えるほど良くなっていることは明らかだった。
「では――私の闇魔法をお見せしましょうか」
次の瞬間、静謐だった執務室のすべてが、漆黒の闇に包み込まれた。
一瞬で意識を失いそうになるほどの、濃密で圧倒的な闇。
だが、クロエがすっと手を引くと、その闇は何事もなかったかのように霧散した。
「……これで、証明になりますか?」
息遣い一つ乱れておらず、先ほどまでの不安定な様子も微塵も感じられない。公爵は深く息を吐き、静かに口を開いた。
「……幼い頃から、お前は望んだことは必ずやり遂げる娘だったな。わかった。もともとリベラ大公も――」
「リベラ大公が、どうかしたのですか?」
「大公は、お前の『闇属性の探知能力』を強く望んでおられるのだ」
闇属性の探知能力。それは、人間の心の奥底に隠された、最も醜い本心までをも見抜くことができる異能。
「ずいぶん厄介な能力をお望みなんですね。どれだけ身を休ませても、年に五回しか使えない貴重な能力ですのに」
「そうだ。だからこそ、誰の心を読むかは極めて慎重に選ばねばならない」
アルトス公爵は、手元にあった羊皮紙の資料をクロエへと投げ渡した。
「これが容疑者の一覧だ。大半が社交界の名士たちだ。お前もこの社交シーズンに身を投じ、捜査を進めることになる」
「それくらい、問題ありません」
「標的の能力は『絵画』だったか」
資料の最上段には、ここ一年で絵の腕前が急激に上達したという令嬢、ミレの名前が記されていた。
「強化系の能力による恩恵を受けた可能性もあるし、本当に優れた教育や本人の努力で実力を伸ばした者かもしれない。だから、早まって結論を出してはならんぞ」
「……はい」
「それから、お前が『英雄狩り』の足跡を追っていることを、決して連中に悟られるな。他人の能力を奪って自らに取り込んだ者は、その性格まで歪み、強欲になっている」
「……」
「もし、その中に他人の能力を奪い取った者がいるならば、お前が知っている頃とはまるで別人になっているはずだ。怪物のような力を手にした奴らの欲望を、決して甘く見るな」
「……そうね、そういう可能性もあるわ」
クロエはふっと視線を落とし、小さく呟いた。
「でも、復讐に取り憑かれた女性だけとは限りません」
「復讐?」
「ご心配なく。……では、行ってまいります」
クロエは冷静な声を残し、執務室を後にした。
・・・
確かに、私は胸に冷たい復讐の炎を誓っていた。
けれど、いざ誰もいない自宅へと戻ると、指先が小さく震えるのを止められなかった。庭の片隅にある、ココのお墓が目に入ってしまったからだ。
ココが死んだあの時、半ば正気を失って、何も考えられなくなっていたあの頃――。
私は、何もできなかった。ただの、無力な人形だった。
「ココ……お姉ちゃん、どうしてあんなことをしたんだろう……」
本当に愚かだった。あなたが誰かに殺されたかもしれないなんて、そんな恐ろしい可能性、当時の私には少しも浮かばなくて。
「ココ、耳にお花をつけたら、世界で一番かわいいね。こんなにかわいいのに……どうして、こんなにつらいんだろう……」
『くぅーん……』
「ココ、私のかわいい子。もう少しだけ我慢してね。もうすぐ、痛くなくなるから……」
少しずつ命の灯火を失っていくココを、何もできずにただ見守ることしかできなかった。それなのに。
どうして、あの死が『人為的なもの』かもしれないと、一度だって疑わなかったのだろう。
どの医師も口をそろえて「もう助からない、寿命だ」と言ったとき――
『それでも、私は疑うべきだった。』
どうして、ほんの少しの疑問さえ持たなかったのか。クロエはただ、ココが早く死んでしまったのは、運命という残酷な仕組みのせいだと思い込もうとしていたのだ。
彼女はココの墓の前に静かに腰を下ろし、冷たい墓石を見つめながらぽつりと言葉をこぼした。
「ココ、向こうでは、ほかのわんちゃんたちと仲良く駆け回っている?」
うちのココは、人間の汚い企みなんて何も知らないまま、ただ幸せに元気よく走り回っていてくれたら、それでよかった。
自分を殺したのが、あの醜い大人たちだということさえ、知らないままで。
生きてきた中で傷ついたこと、不幸だったことは、すべて綺麗な空へ忘れてしまって。幸せな思い出だけを胸に、ただ穏やかに過ごせていたらいいのに。
「お姉ちゃん、本当にごめんね……私たちの、愛しい赤ちゃん……」
クロエは静かに墓石を撫でた。自分がなぜ死ななければならなかったのかも分からないまま、遠くへ旅立ってしまったココの姿が脳裏をよぎる。死の神から口づけを受け、その小さな体がみるみる冷たくなっていったあの絶望的な感覚が、鮮明に蘇ってくる。
その瞬間、彼女の瞳の奥に宿る決意は、より一層深く、黒く固まった。
私を慕って後ろをちょこちょことついてきた、少しおバカで、けれど誰よりも愛らしかったあの子犬が、どうか真に安らかに目を閉じられるように。
「いつか未来で、またあなたに会えたなら……その時は、私たちのココを苦しめた悪い奴らは、お姉ちゃんがみんなやっつけたんだよって、そう胸を張って言えるように。……約束するわ」
ココの墓を見つめながら、クロエはついに、自らの手を血で染める覚悟を完了した。
墓地を静かに後にしたクロエは、自分の別荘の前に、見上げるほど大柄な人影が立っているのに気づいた。
「リベラ大公……お目にかかります」
「ああ。アルトス公爵から、君が捜査に協力してくれることになったと聞いた」
「……はい」
「残念な話だが、君の愛犬は殺された可能性が極めて高い。もし君が復讐を望むなら、私は誠意をもって力を貸そう」
「……」
うつむき、小さく拳を握りしめるクロエを見つめ、リベラ大公は気遣うように静かな声をかけた。
「令嬢。時には心のままに涙を流すことも、明日を生きる糧になる」
「……」
「私も、かつて家族を失った身だ。だからこそ言っている」
不器用で、けれど飾らない率直な言葉だった。クロエはしばらく黙ってその言葉の重みを受け止めていたが、やがてそっと視線をそらした。
「……泣くつもりは、ありません」
「目が赤いぞ」
「……」
大公はそれ以上追及せず、懐から一通の書面のようなものを取り出した。
「私は今日、この屋敷を発つ。だが、共に動くことになった以上、連絡手段は共有しておくべきだろう。これを受け取ってくれ」
差し出されたのは、手紙の形を模した精巧な魔道具だった。
「その手紙に文字を書き込めば、私が所持している対の魔道具へ、瞬時にその内容が転送される」
「……ありがとうございます」
こうして、二人は闇の中で手を組んだ。
一人は、最愛の存在を踏みにじられた復讐のために。
一人は、混沌の行く末を見据える興味のために。
二人の目的は違っていた。
しかし、血と硝煙の香りが漂うその向かう先は、完全に一致していた。
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ココの献身と謎の記憶
人間の姿となったココは、自分の命(マナ)を削ってクロエの暴走の危険を完全に治癒した。しかしココ自身は激しい痛みに耐えており、眠りにつく直前、かつての「友達」らしき謎の声から「私を忘れないで」と呼びかけられる。
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クロエの完全復活と捜査への参加
ココの治癒によって劇的な回復を遂げたクロエは、アルトス公爵に圧倒的な闇魔法を見せて復活を証明する。そして他人の能力を奪う「英雄狩り」の容疑者(令嬢ミレなど)を暴くため、リベラ大公の要請でもある「闇属性の探知能力」を手に社交界での捜査へ乗り出す。
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ココの死の真相とリベラ大公との同盟
愛犬ココの死が「人為的に仕組まれた暗殺(復讐)」の可能性が高いと知ったクロエは、犯人たちへの復讐のため自らの手を血に染める決意を固める。同じく家族を失った過去を持つリベラ大公から魔道具を渡され、二人は共通の目的に向かって手を組むことになる。