悪女の姉を救う勇敢なわんこです

悪女の姉を救う勇敢なわんこです【41話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「悪女の姉を救う勇敢なわんこです」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪女の姉を救う勇敢なわんこです】まとめ こんにちは、ピッコです。 「悪女の姉を救う勇敢なわんこです」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...

 




 

41話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 陰謀の狩猟祭

「何ですって? ビリーフ・アルドスがどうして急に現れるの!?」

ルクレチアが激しい怒りを露わにすると、仕えていた侍女は恐怖に肩を震わせ、慌てて頭を下げた。

「お嬢様、今、帝都中がその件で大騒ぎになっております。ビリーフ様は最高位の能力者でいらっしゃるため、その方が能力の成長を少しでも助けてくださるという知らせを聞き、人々が神殿ではなくあちらへ……」

「何ですって!?」

そばで控えていた侍従が、おずおずと口を挟んだ。

「弟子にするわけではなく、ほんの一部を教えるだけだそうですが……それでも、無能な神官たちに比べればはるかに優れた教えが得られると、皆が群がっておりまして……」

「神官たちは一体何をしているの?」

「そ、それが……ビリーフ様の能力がどれほど凄まじいものか一目見ようと、神殿を抜け出して見物に行ってしまいまして……」

「愚かで怠け者の連中め!」

ルクレチアは侍女を激しくにらみつけ、歯を食いしばりながら込み上げる怒りを必死に堪えた。

「……下がりなさい」

完全に面目を潰されてしまった。神殿が空っぽだなんて、まったく何の冗談だろうか。バフ系統の神官を一族に迎え入れるために、これまでどれほど莫大な金をつぎ込んできたと思っているのだ。

「ビリーフ・アルドス様がお戻りになりました、お嬢様!」

少し遅れて、若い神官が一人、息を切らしながらルクレチアのもとへ駆け寄ってきた。その無様な姿に、彼女は深く、冷たいため息をついた。

「はぁ……」

結局、大金を無駄にしたうえ、アルドス公爵を敵に回しただけという最悪の結果になってしまった。

「ど、どうすればよろしいでしょうか?」

「どうするも何もないでしょう……。今はこれ以上恥をさらす前に、撤収するしかないわ」

ルクレチアは奥歯をぎりっと噛み締めた。

娘のテレジアは、未だに薄暗い修道院に閉じ込められたまま。つまり、もはや今の彼女には何の利用価値もないということだった。再びアルドス公爵に取り入ろうとするなら、テレジアは次の政略結婚の場で、自らの価値を身を以て証明しなければならない。

(それとも……別の邪魔な存在がこの世から消え失せれば、あの人はまた私のモネに目を向けてくださるかしら?)

偶然か、それとも運命の悪戯か。私の行く手をいちいち阻む、あの小賢しいクロエさえ消えてしまえば――。

「決まりね」

「え?」

「もうすぐ、待ちに待った狩猟祭の季節よ。もう一度戦力を整えて、準備をやり直せばいいわ」

大洪水の直前ということもあり、精巧な魔法陣が幾重にも張り巡らされた王宮には、呪われた力を持つクロエは決して立ち入ることができない。

そして、年齢が足りず、保護者の付き添いなしではその狩猟祭に参加できない妹のココ。

あの忌々しい少女を、誰にも気づかれずに素早く始末できる絶好の機会――それが、もうすぐ訪れようとしている狩猟祭の季節だった。

「それに、今回の狩猟祭では、なかなか面白いことが起こるはずよ」

もしかすると、世界の運命さえも変えてしまうような劇的な出来事になるかもしれない。ルクレチアは歪んだ笑みを浮かべ、侍女に向かって冷酷に命じた。

「ダリア・メルロマンド令嬢を、今すぐここへ呼んできなさい」

ダリア・メルロマンド。現代の社交界の華と称賛される若き令嬢。かつてはクロエの親友の座に収まっていたが、その本性は極めて強欲な野心家だった。クロエの婚約者を奪おうと、裏で画策したことすらある。

「でも、私にとっては、それ以上に最高に利用価値のある駒よ」

ダリアが持つ異能――それは〈歪曲〉。

能力そのものは決して戦局を覆すほど強力なものではないが、ほんのわずかな手違いや狂いを生じさせるだけで、完璧だったはずの状況を完全に歪めて破滅へと導くことができる。

ルクレチアは意味深に微笑みながら、静まり返った周囲を見渡した。

「じっくりと話し合う必要がありそうね。今回の、狩猟祭について」

ビリーフとココは、毎晩10時を「教育の時間」と定めていた。

五歳のココにとって、それは一日のうちで最も特別な時間であり、毎晩指折り数えてその瞬間を待ちわびていた。

しかし、今夜の訓練は少し毛色が違っていた。

「能力を正確にどう使えばいいのか、よく分からないって?」

「はい! 私、能力をうまく使えないんです。私の能力である動物との親和力を、本当に使いこなせるようになるための知識を“伝授”していただけたらな、なんて……」

ココが小さな手を合わせて見上げると、ビリーフは呆れたように一息つき、静かに告げた。

「君の能力は、動物との親和力などではない。――〈光の能力〉だろう?」

ココは息をのみ、その丸い目を大きく見開いた。

「教える立場の人間が、その程度の本質を見誤るはずがないだろう。親和力と光では、まるで天と地ほど違うんだからな」

まったく、どうでもいいところで抜けている。まさかこの天才児が、本当に自分の能力を勘違いしていたとは。

ココを初めて弟子として迎えたあの日、彼女が自身の力を「治癒能力」と表現した時点で、ビリーフはそれが最高位に属する光の能力だと見抜いていた。まだ五歳だというのに、不思議なくらい頭が冴える一方で、時折こうした妙に抜けたところがある。

そうしたところでは、よくうっかりミスをしてしまうのだ。

ビリーフは、ココが「大好きな姉に関することだけは驚異的に頭が冴える」という、奇妙な条件を持っていることを知らなかったため、ただの子供らしい二面性だと思っていた。

「光の能力なんていう、世界を揺るがす強力な力を持ちながら、なぜ周囲に隠しているのかは分からないが……まあ、君なりの理由があるんだろう」

「はい……」

「なら、今後も徹底して隠し続けなさい」

ホッとしたように胸をなでおろすココの表情を見ながら、ビリーフは自身が持つ〈光の能力〉についての深い知識を語り始めた。

「一つ、絶対に忘れるな。光の能力は、死者さえ蘇らせる絶対的な治癒能力として神話に名高い。だがその反動として、使いすぎれば術者の身体に致命的な負担がかかる」

「えっ、ど、どうしてですか?」

「他のあらゆる能力はすべて体内の『マナ』を源泉にしているが、光の能力だけは、術者の『生命力』そのものを直接の源にする治癒能力だからだ」

「ああ……」

「『ああ』じゃない。要するに、自分の命を削って他人の命を繋ぎ止める能力だということだ。理解したか?」

ココは動きを止め、じっとビリーフを見つめた。

(お姉ちゃんより、五年も早く死んでしまうかもしれないってこと……?)

小さな胸に冷たい風が吹き抜けた。だが、彼女の瞳から光が消えることはなかった。ココはすぐに、その幼い心に強く鉄の決意を固める。

(私は、お姉ちゃんを今度こそ幸せにするために、この過去へ戻ってきたんだから)

お姉ちゃんが暴走して破滅する危険を、少しでも減らすことができるのなら。自分の命の数年など、微塵も惜しくはない。

そう覚悟を決めると、ココは真剣な眼差しで口を開いた。

「これを頑張って練習すれば……いつも暴走の危険に怯えている人も、治せるようになりますか?」

「……おそらくな。死人すら蘇らせる究極の力だ。暴走した者の狂ったマナを救えないはずがない」

「それなら、決めました」

ココはビリーフをまっすぐに見据えて言った。

「暴走の危険に陥った人を、助ける方法を教えてください」

「その具体的な方法自体は、この世界にはまだ存在しない……。だが、暴走を解決するための『原理』なら分かっている」

「どんな原理なんですか?」

「暴走に陥る者は、ほとんどの場合、体内のマナの流れが限界を超えて滞っている。だから、その滞り壊れかけたマナの流れを、外から一つひとつ丁寧に解きほぐしてやらなければならないんだ」

「なるほど……」

「もちろん、治癒能力が桁違いに強ければ、滞ったマナを一度にすべて押し流して解きほぐせるかもしれない。あるいは、その治癒の光を、相手の体内にある極小のマナ回路へ、寸分の狂いもなく極めて正確に送り込めるなら話は別だがな」

「じゃあ私……まずは自分の治癒能力を、狙った場所へ『正確』に使う練習から始めてみます!」

「やってみるといい。練習用の果物を用意してやるから、それを暴走した相手の心臓に見立てて練習しなさい」

そう言って果物を用意しながらも、ビリーフはココがそれほど長くこの過酷な練習を続けられるとは到底思っていなかった。

生命力を直接削って光を生み出すだけでも、大人であってもとてつもなく精神と肉体を摩耗するはずだからだ。

しかし、その予想は完全に裏切られた。

一時間が過ぎ、二時間が過ぎ、三時間が経過しても――。

ココはひたすら、自身の小さな指先に白い光を集め続けた。そして、その光を果物の中心、狙った一寸の狂いもない一点へと正確に当てようと、血がにじむような努力を繰り返していた。

ビリーフは、すでに生命力を使い果たし、肉体の限界を迎えていてもなお動きを止めようとしないココを見て、思わず重いため息をついた。

「はぁ、はぁ、はぁ……っ」

「もうやめなさい。それでも、最初よりはちゃんと果物の近くへ当てられるようになったじゃないか」

「いいえ、まだです……! もっと練習しないと、全然足りません。私が狙った場所に、正確に当てられていないんです!」

ビリーフは、全力で治癒の光を操ろうと抗うココを静かに見つめた。

光を一度放つたびに、ココはその衝撃で小さな床の上へと倒れ込んでしまう。それでも、彼女はすぐに消え入りそうな力を振り絞り、小さな身体を起こした。その瞳には、およそ五歳児のものとは思えない、狂気にも似た強い決意が宿っていた。

ココは歯を食いしばり、もう一度、震える手を前方へと伸ばした。

「怪我をした子犬を……自分の暖かい寝床まで、無事に運んであげたいんです」

ココは、か細く掠れた声でビリーフに尋ねた。

「これくらいできれば……暴走を止められるようになりますか?」

――一体、どうしてそこまで、死に物狂いで必死になれるんだ。

ビリーフは胸を衝かれるような感覚を覚えながら、静かに答えた。

「さうな、私にも分からない……。だが人生は長いんだ。そんなふうに最初から必死になりすぎていたら、五年も生きられないぞ」

その言葉に、ココの小さな身体がぴくりと反応するように震えた。

「……だからなんです」

「ん?」

なぜ、そんな悲痛な表情をするのだろう。

まるで――自分がこの先、長くは生きられないという未来を、最初からすべて知っているかのように。それでも、命に代えても守らなければならない絶対的な存在が、その先にあるかのように。

「……やらなきゃ、いけないの」

仕方がない。

ビリーフは、その痛々しいほど健気な丸い頭を慰めるように、大きな手でそっと撫でてやるしかなかった。彼は心配そうな、しかし複雑な眼差しでココを見つめる。

(あんなふうに生命力を何度も無謀に消耗していたら、彼女の肉体は長くはもたないだろう)

だが、彼女の瞳にあるあまりにも切実な必死さを前にして、どうしてもそれ以上止めることができなかった。

「……これ以上つらそうなら、その瞬間に訓練は強制中止するからな」

「はい! 本当ですか!? それでも全然大丈夫です!」

ココはぎゅっと目を閉じたまま、諦めずに手を何度も何度も前へと振り続けた――。

やがて、その小さな指先から、かすかな純白の光が、ぴりっと空間を弾くように漏れ始めたのだった。



翌朝。

泥のようにぐっすりと眠って目を覚まし、私は幸いにも昨夜削った体力を少しだけ取り戻していた。

そうして私は、大好きな一お姉ちゃん(クロエ)のそばを、怪しまれないように一生懸命うろうろと歩き回っていた。

私が本物の「光の能力」を持っていることは、師匠であるビリーフを除けば、未だ誰にも告げていない絶対の秘密だった。もちろん、お姉ちゃんにだけは能力が知られても一向に構わなかったけれど……。

(でも、本当に綺麗に治るか分からない中途半端な段階じゃ、お姉ちゃんをがっかりさせちゃうもん)

だから私は心に決めた。

(こっそり隠れて治してみて、お姉ちゃんが本当に喜ぶか確かめよう!)

そうして――。

私は庭の植え込みの茂みに小さな身体を潜め、身を隠しながら、離れにいるお姉ちゃんの様子をじっと見守っていた。

窓辺にいるお姉ちゃんに向かって、私はそっと小さな手を振る。

すると、昨夜の猛特訓の成果か、狙いを定めた淡い光の粒が、空気の波に乗ってお姉ちゃんの身体へと静かに流れ込んでいった。

窓の外の景色を眺めながら、冷たいお茶を口にしているお姉ちゃんを凝視していると――。

(あっ! お姉ちゃん、今、笑ってる!)

光を浴びて、少しは気分が良くなってくれたのかな?

『ココ、暗闇を見せてあげようか?』

『ワン!』

『あら、きれい。暗闇の中で星がきらきら輝いているみたいね』

『ワンワン!』

かつて、世界を滅ぼすと言われた未知の闇は怖かったけれど、大好きなお姉ちゃんの手のひらから生まれる優しい闇なら、少しも怖くないと私はずっと信じていた。

お姉ちゃんが、どうか元の健やかな力を完全に取り戻せますように。

そんな切なる祈りを込めて、私はお姉ちゃんへ向けて、命の欠片たる淡い純白の光を送り続けた。

すると、その光が浸透していく隙間から、お姉ちゃんの体内を巡る、澱んで壊れかけたマナの流れが視覚としてはっきりと見えた。

(あっ! あれだ! あの黒い滞りだ!)

私はそのマナの乱れを正確に狙い澄まし、もう一度、全力の光を放った。

その瞬間、お姉ちゃんの全身を包み込むように、純白 of の光がふわっと優しく広がっていった。

(……できた?)

窓辺で少しずつキラキラと散っていく美しい光を見つめていると、私の額からぽたりと大きな汗が落ちた。急激な疲労が身体を襲う。

そして、異変に気づいたお姉ちゃんがこちらを鋭く振り向きそうになった、まさにその瞬間――。

私は慌てて、小さな身体をさらに植え込みの奥深くへと滑り込ませたのだった。



(まさか、本当に自分が見つかっていないとでも思っているのかしら?)

夕食を終えた後、クロエは離れの窓辺にもたれながら、静かに思考を巡らせていた。

先ほど、庭の茂みの中から目だけをきょろきょろとのぞかせていた、五歳ほどの愛らしい小さな妹の姿を思い出す。

彼女が窓辺に頬杖をつき、目を閉じたまま静かにお茶を味わうたびに――あの子の小さな手から、透明感のある淡い純白の光がふわりと流れて、私を包み込んできたのだ。

そのあまりにも優しい光に包まれると、不思議なほど荒んでいた心が穏やかに満たされていった。それだけでなく、かつての暴走以降、身体の奥底を絶えず蝕んでいた不快な鈍痛も、驚くほど少しずつ和らいでいくのを感じていた。

安全を期すため。

(一体、どうしてあの子は、私にこっそりと光を当てているのかしら?)

しかも、あんなに完璧に隠れているつもりになって。

(……それにしても、あの光は何かしら?)

人間の手から、あそこまで不純物のない透明感に満ちた白い光が流れ出ることなど、通常の魔法体系ではほとんどあり得ない。それは、おとぎ話に登場する「光の能力」を持つ者だけが紡ぎ出せる、唯一無二の奇跡の力だからだ。

(光の能力には絶対的な治癒の力があって、瀕死の人間さえ救えるというけれど……)

しかし、公爵家の公式発表では、ココの能力は光などではなく、ただの「動物との親和力」ということになっている。

(……でも、さっき私を芯から包んでいたあの温かい光は、間違いなく本物の治癒の力だったわ)

最近は以前ほど魔力が暴走することはなくなったものの、一度暴走寸前まで世界を脅かした影響で、肉体には重い後遺症のような症状がしつこく残っていた。いつも鉛のように身体が重だるかったり、割れるような頭痛がしたり。

だが、ココの放った光が届いた瞬間、それらの不快な症状は一瞬で嘘のように霧散してしまったのだ。

(本当に……秘密が多い子ね、まったく)

クロエは夜の庭園を見つめながら、愛おしさと一抹の疑問を込めて、小さく微笑むのだった。

お姉ちゃんの治療(隠密作戦)を無事に終えたあと、私は急激な脱力感に襲われながら、自分の離れへととぼとぼと足を引きずって歩いて帰っていた。

(うう、まだ私の光じゃ足りないみたい……。遠くからお姉ちゃんが笑っている姿は見られたけれど、もっと完璧に治してあげたいな……)

「ココ、こんなところで一体何をしてるんだ?」

突然、頭上から聞き覚えのある無愛想な声が降ってきて、私はうつむいていた顔をパッと上げた。

「……あれ、カーリゴ?」

「お前が神殿から新しい補助系能力者を連れてくるのに、大活躍したって聞いてな。わざわざ会いに来てやったんだ。……なんだ、歓迎してくれないのか?」

「ううん、すごくうれしいよ! カーリゴも、私に会えてすごくうれしそうだね!」

「いや、別にそこまでじゃない」

「違うよ! 頭の上の『影』が動いてるもん! 嬉しくてダンスしてるじゃない!」

カーリゴの本人は相変わらず不愛想でそっけない顔をしているのに、その頭の上では、彼の異能である影が楽しそうにゆらゆらと踊っていた。

指摘されたカーリゴの頬が、みるみるうちにほんのり赤く染まっていく。

「カーリゴが本当は嬉しいから、影さんまで一緒に踊っちゃっているんでしょ?」

「……こ、これは、ビリーフ様が少し訓練を手伝ってくださったんだが、意識していないと勝手に……その、動くんだ。嬉しくて動いてるわけじゃない」

「へえ……影さん、いっぱい勉強したんだね! 前より色もすっごく濃くなってる!」

「……まあな」

カーリゴは気まずそうな表情を浮かべると、誤魔化すように慌てて話題を切り替えた。

「そ、それより、ビリーフ様が最近少し疲れているように見えたんだが、お前は何か知らないか?」

たしかにそうかもしれない。私の師匠(ビリーフ)は世界最強のすごい能力者だから、あちこちの勢力から助けを求められて、疲れが溜まっているのかも。

「大丈夫! 私の師匠だもん、きっとすぐ元気にかっこよく復活するよ!」

師匠が所有するあの膨大な「ロキ鉱山」。その鉱山には、術者の能力を十倍にも高める伝説の魔石が大量に眠っている。大量の魔石を完全に採掘できるようになるまでには、もう少し時間がかかるだろうけれど、それまで少しだけ我慢すれば……。

(……それでも、ちょっとお疲れの師匠がかわいそうかも)

そんなことを私が考えていると、カーリゴは真剣な目で私をじっと見つめてきた。

「お前のほうこそ……ずいぶん酷く疲れているように見えるぞ」

「えっ? 私は全然大丈夫だよ!」

「……」

私を見つめていたカーリゴは、やがて視線を少し落とし、静かに口を開いた。

「もうすぐ祝祭の季節だから、それまではこの公爵家に滞在するが……それが終わったら、俺はまた遠い北部へ戻ることになりそうなんだ。でも……その、お前と長い間一緒にいられなくなるのが、寂しいってわけじゃないからな。勘違いするなよ」

「そんな強い否定は……怪しいな?」

「違うったら違う!」

真っ赤に染まったカーリゴの耳を見て、私は思わずくすくすと笑ってしまった。

「うん、分かった!」

とにかく、もうすぐ「狩猟祭」が始まるってことだね。

それは、晩秋から初冬にかけて帝国の社交界で開催される、最大の一大行事だった。でも、私の頭には一つだけ、どうしても気になる未来の記憶があった。

(子犬たちが見せてくれたあの未来のビジョンでは……お姉ちゃんは、この狩猟祭で自ら戦場に動いていた)

だからこそ、過去にお姉ちゃんを苦しめたあの悪い人たちと、真っ向から対峙することにもなっていたのだ。

(お姉ちゃんが行くなら、私も絶対に狩猟祭に連れて行ってもらおうと思っていたんだけど……)

当のお姉ちゃんは今も、相変わらず離れで静かに本を読んで過ごしていた。狩猟祭が間近に迫っているというのに、そのことにはまるで興味がないように見える。

それとも――。

(私が何か、大切なタイムラインを見落としているのかな?)

「ここだ」

リベラ大公が持つ、精密な追跡機に取り付けられた金属性の針が勢いよく振れ、カチカチと大きな音を立てた。

「まともな魔道具かどうかは怪しいと思っていたが……どうやらこの辺りにターゲットがいるのは間違いなさそうだな」

カーリゴが公爵家で元気を取り戻したこの頃。それでもリベラ大公が未だにアルドス公爵領に留まり続けている理由は、ただ一つだった。

(ここが、あの凄惨な事件の発生現場らしいな)

追跡器が示したその場所は、一目見ただけでも肌が粟立つほど薄気味悪い、鬱蒼とした森の奥深く高台だった。

(確かに……ここで凄惨な殺人事件が起きても、何らおかしくはない場所だ)

しかし、その不気味な暗がりのなかに一か所だけ、奇妙なほど苔がしっとりと美しく生い茂る、手入れされた空間が存在していた。

ピッ、ピピッ、ピピピッ――。

苔むしたその美しい場所へ近づくほど、リベラの持つ追跡器の警告音はさらに激しさを増していく。彼は追跡器の先端に取り付けられた小さな針が狂ったように揺れるのを見つめながら、顎に手を当てて思考した。

「珍しいな、こんな最果ての場所で……」

よりによって、アルドス公爵家のこんな敷地の境界線で反応するだなんて。

彼が不審に思い辺りを見回していると、魔導ランタンを手に、近くの地面を丁寧に整備している初老の使用人の姿を見つけた。

「こんにちは」

「ひゃっ、び、びっくりした……!? あ、ああ、これはリベラ大公殿下。クロエ様の別邸の裏手に、何かご用でしょうか……?」

リベラは平然とした顔で、さりげなく懐へその怪しい魔道具をしまい込むと、人当たりの良い極上の貴族スマイルを浮かべた。

「いや、申し訳ない。少し散策をしていたら、道に迷ってしまってね」

誰が聞いても白々しく怪しい言い訳だったが、リベラ大公は今やアルドス公爵家にとって重要な客人だ。使用人は特に疑う様子もなく、恐縮したようにこくりとうなずいた。

「そうでしたか。夜は冷えますので、どうかご無事にご宿泊先の客館へお戻りください。よろしければ、案内役のほかの使用人を呼びましょうか?」

「いや、大丈夫だよ。それより……あそこにあるものは、一体何だい?」

リベラは丁重に断りつつ、その場所だけ周囲の不気味な森から浮いている、かなり立派で丁寧に手入れされているような一角を指さした。彼が指さしたのは、巨大な白石で造られた、美しくもどこか厳かな建造物のようなものだった。

すると、ランタンを持った使用人は、その指の先を見つめながら、誇らしげに、しかし少し寂しそうに答えた。

「あれでございますか? あれは……我が主、クロエ様がかつて何よりも愛していらっしゃった、愛犬のお墓でございますよ」

「……愛犬の、墓?」

リベラの美しい瞳の奥で、冷徹な光が怪しく揺らめいた。

 



 

 

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