こんにちは、ピッコです。
「悪役令嬢の推しに選ばれました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
27話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 招かれざる再会
翌日。私とエヴァンジェリン様は朝食を終えると、すぐに屋敷を出発した。
ちなみにエヴァンジェリン様は、朝から何が始まるのかと、とても楽しみにしているご様子だった。普段は日が高く昇ってからようやく起きる方なのに、今日はなんと夜明けと同時に私を起こしに来たのだ。
「レディ・アンシ、朝ですよ!」
朝食の間もずっと私の隣にまとわりついて、「私たち、いつ出かけるの? ねえ?」と何度も何度も催促してくるほどだった。
そうして屋敷を出たあと、私たちは馬車に乗り、一日をかけてアンシ子爵領を見て回った。
「わあ……とても綺麗……」
青く輝く南の海を眺めながら、エヴァンジェリン様はすっかり見とれていた。
「レディ・アンシ! この砂、とっても柔らかいです! 足がくすぐったい!」
「お気をつけください! そんなに走ると転びますよ!」
ふかふかと沈み込む白い砂浜を裸足で歩きながら、私とエヴァンジェリン様は並んで声を上げて笑った。そのあとは賑やかな商店街も回り、お土産をあれこれ買うことも忘れなかった。
「その貝殻のネックレス、何に使うおつもりなんですか……?」
「物って、必ず実用性がないといけないんですか? 世の中には、綺麗だけど実用性がないからこそ価値のあるものだってあるんですよ」
エヴァンジェリン様は眉一つ動かさずに堂々と言い切った。私はというと、「まあ、そういうものか」と納得するしかなかった。彼女のこういう理屈には、今さら驚きもしない。
「今日は本当に楽しかったです」
夕方になり、ようやくエヴァンジェリン様は、お腹いっぱいになった猫のように満ち足りた表情でつぶやいた。
「公女殿下、お疲れでしょう?」
そう言いながら、私はあらかじめ用意しておいた切り札を出すことにした。
「軽くおやつでも食べて、少し休みませんか?」
「おやつですか? いいですね」
現在のアンシ子爵領には人気スポットがいくつかあるが、その中でもエヴァンジェリン様が特に気に入りそうな場所が一つあったのだ。
「わあ……!」
案内された場所へ着くなり、エヴァンジェリン様は感嘆の表情を浮かべて周囲を見回した。
私がお連れしたのは、アンシ子爵領でも庭園が美しいことで有名なカフェだった。カフェに併設された広々とした庭には、色とりどりの夏バラが見事に咲き誇っており、濃厚なバラの香りが心地よく鼻先をくすぐる。
夢中になって周囲の景色を眺めていたエヴァンジェリン様は、やがて目を輝かせて勢いよく振り返った。
「こんな場所、いったいどうやって見つけたんですか? 本当にすごいです!」
「お約束しましたよね。公女殿下専属の観光ガイドになるって。ちゃんと調べておいたんです」
私はにっこりと微笑んだ。これくらいはアンシ子爵家の令嬢として当然だ。領内にある有名な観光地や店くらいは一通り把握している。それに加えて、以前セラフィーナの付き添いとしてあちこちを回っていた経験も、大いに役立っていた。
ふと過去を思い出して口の中に苦みが広がった気がしたが、私はわざと明るい声で話を続けた。
「帝都にいた頃、公女殿下が私をあの有名なブランチのお店へ連れて行ってくださいましたよね」
「うん?」
エヴァンジェリン様はぱちぱちと目を瞬かせた。
初めてマダム・クリスティーヌのブティックと、あのブランチのお店を訪れた日。あの日のことは、今でも鮮明に覚えている。初めて、自分が自分の人生の主人公なんだと思えた日だった。
『だったら、少し黙って向こうへ行ってくれませんか? 私、静かに食事をしたいので』
理不尽に私へ言いがかりをつけてきたグレゴリーへ、エヴァンジェリン様が言い放ってくださったあの毅然とした言葉。私の味方になってくれる、同い年の友人。誰かに付き従う侍女としてではなく、一人の人間として向かい合い、一緒に笑い合えたあの時間。
(……あの時間が、どれほど幸せだったことか)
思わず顔が熱くなってしまい、私は照れ隠しに視線を足元へ落とした。
「だから私も、いつか機会があれば、公女殿下にも素敵な思い出を作って差し上げたいと思っていたんです。あのとき……本当に楽しかったんです」
私は照れくさそうに付け加えた。
「もちろん、公女殿下にとっては大したことではなかったかもしれませんけど」
それでも、いつか必ずお伝えしたいと思っていた。エヴァンジェリン様が私にくださった、ほんの小さな親切が、どれほど私の支えになったのか。そして、私にとって彼女がどれほど特別な存在なのかを。
そのときだった。
エヴァンジェリン様が突然、私の手をぎゅっと握りしめた。
「私も!」
今日見た南の海よりも澄んだ青い瞳が、まっすぐ私を見つめていた。
「私も、レディ・アンシと一緒に遊べて本当に楽しかったです! だから、お返しなんて考えなくていいんですよ!」
「え?」
「私はただ、レディ・アンシと友達でいられるだけで嬉しいんです……あっ、その、もちろん契約上の友達ではありますけど、それでも――。……それでも!」
しどろもどろになっていたエヴァンジェリン様の顔は、まるで熟したトマトのように真っ赤に染まっていた。
私はそんな彼女を、ぽかんと見つめた。つまり、エヴァンジェリン様は今……。
(照れていらっしゃるの?)
唇をぎゅっと噛んだエヴァンジェリン様は、勢いよくくるりと背を向けた。
「わ、私はちょっとバラを見てきます! 先に中へ入って座っていてください! 食べたいものを注文しておいてくださいね! いいですね!?」
そう叫ぶと、エヴァンジェリン様は一目散にバラが咲き誇る庭園の方へ駆けて行ってしまった。私はその後ろ姿をぼんやり眺めながら、思わず笑みを浮かべた。
(なるほど。ディートリヒ公爵様が、どうしてあんなにもお嬢様を大切になさるのか、少し分かった気がする)
最初はただセラフィーナに一泡吹かせるため、そしてエヴァンジェリン様と親しくなろうという打算だった。友人契約まで結ぶような、利害関係だけの付き合いだと思っていたのに。
(あんなに愛らしい人を、好きにならずにいられるわけがない)
胸の奥がくすぐったくなるような感覚がした。……本当に幸せだった。私は思わず笑みをこぼしながら、カフェの中へ入っていった。
その時までは、これ以上ないほど気分が良かったのだ。まさに完璧な一日だと思えるほどに。
・・・
――しかし。
「まあ、ラリット!」
カフェに足を踏み入れた途端、聞き覚えのある明るい声が私を呼んだ。
(待って、この嫌な予感は……いったい何?)
私はぴくりと肩を震わせた。まさか、この声は……!
嫌な予感しかしない。恐る恐る振り返ると、大きなテーブルを囲んで座っている令嬢たちの一団が目に入った。
そして、その令嬢たちの中心で、まるで女王のように椅子にもたれかかっている一人の女性。波打つ淡い緑色の髪に、エメラルドのような深い緑色の瞳。そして口元に浮かべた上品な微笑みまで――。
「……」
私は思わず言葉を失った。
(セラフィーナ!?)
いや、なんで彼女がここにいるの? 確かにグスト伯爵領に滞在しているんじゃなかったの?
「久しぶりね、ラリット」
セラフィーナは私を見ると、にっこりと微笑んだ。
「こんなところでまた会うなんてね。ラリット、最近は公女様とずいぶん楽しそうに過ごしているみたいね?」
「まあ、そうかな」
私は気のない返事をした。その瞬間、セラフィーナの眉がわずかにひそめられた。
(いつもおどおどしていた私が、好き勝手に振る舞っているのが気に入らないってこと?)
けれど私と目が合うや否や、セラフィーナはすぐに目元を和らげ、不快そうな表情を器用に隠した。一方、私はというと――。
(この子、なんでいちいち人にちょっかいをかけてくるのよ)
せっかくエヴァンジェリン様と一緒に来たのだから、余計な騒ぎは起こしたくなかった。私は苛立ちを隠しようともせず、セラフィーナを見つめた。
私の冷たい態度に、セラフィーナは少し戸惑ったようだったが、すぐににこやかな笑みを浮かべたまま話を続けた。自分が押されてはいけないと思ったのだろう。
「そういえば、公女様がアンシ子爵領にいらっしゃっているって聞いたの。もしかして、あなたと一緒に来たの? だったら、私たちと一緒にお茶しない? 久しぶりに会えて嬉しいの」
セラフィーナは親しげに言葉を重ねた。
「お茶代は私が払うわ。ね?」
昔の私だったら、きっとセラフィーナのそんな優しい態度ひとつで胸を打たれていただろう。子犬のように彼女に懐き、ご機嫌を取ろうとしていたかもしれない。……自分を大切にしてくれる家族の胸に、自ら釘を打ち込むような真似をしながら。
だけど、今は違う。
「断る」
私のきっぱりとした返事に、セラフィーナの笑顔がわずかに引きつった。
「そもそも私は、あなたに会えてそれほど嬉しいわけじゃないの。ましてや、公女様と一緒にあなたの隣に座る理由なんて、なおさらないわ」
私が冷ややかに言葉を続けると、セラフィーナの隣に座っていた令嬢たちが勢いよく立ち上がった。
「なんて失礼なんでしょう、レディ・アンシ!」
「レディ・ロペスがこんなに親切にしてくださっているのに、そのご厚意も分からないのですか?」
「長年の友人を見捨てるほど、公女様のそばにいるのがそんなにいいんですの?」
ふうん、なるほど。
私は目を細め、首を高く上げてこちらをにらみつけてくる令嬢たちを順番に見渡した。まるで待っていましたと言わんばかりに怒り出したところを見ると、きっとセラフィーナがあらかじめ私の悪口を吹き込んでいたのだろう。いつものように、かわいそうな被害者を演じながら。
「あ……」
一方のセラフィーナは、困ったような表情を浮かべ、どうしたらいいのか分からないという顔でこちらを見つめていた。
(この流れさえも、全部セラフィーナの計画だったの?)
その証拠に、セラフィーナは一歩後ろへ下がっただけで、この場を止めようとはしなかった。その姿さえも、いつもの彼女そのものだった。
(本当に、くだらない)
私は思わず苦笑した。周囲の人間をうまく利用して相手を攻撃し、自分は何の関係もないかのように無垢な顔をする。……エヴァンジェリン様への悪い噂を広めていた時と、まったく同じじゃない。
その時、私とセラフィーナの視線が真っ向からぶつかった。セラフィーナは小さく唇を噛んだ。
「ラリット」
彼女の可憐な唇がゆるやかな弧を描く。
「そんなに私をクラウディウス公爵家の舞踏会に招待しなかったことが気に入らなかったの?」
再び薄く笑みを浮かべたセラフィーナは、場を収めるふりをしながら、逆に火に油を注ぎ始めた。
「みなさん、もうやめてください」
今にも泣き出しそうな表情で、眉を下げて震わせながら言う。
「ラリットも、わざと私を困らせようとしたわけじゃないんです」
ほら、ここでわざわざ「困らせる」なんて言葉を選ぶあたりが彼女らしい。セラフィーナは不安そうに肩をすくめた。
(本当に、毎回同じパターンね)
私は心の中でため息をついた。もううんざりして、あくびすら出ないくらいだった。
「わ、私にはよく分かりません。でも、もしかしたら私がラリットに何か悪いことをしてしまったのかもしれなくて……」
すると令嬢たちは、一斉に気の毒そうな顔でセラフィーナを見つめた。
「まあ、レディ・ロペス!」
「大丈夫ですか?」
「そんなに気を落とさないでください。レディには何も悪いところなんてありませんから……」
セラフィーナを慰めていた令嬢たちは、再び私へ鋭い視線を向けた。その目は険しく冷たかった。
「レディ・アンシは、そんなに権力がお好きなんですの? 公女様に取り入った見返りに、そんなに満足なんですの?」
「本当に、プライドもないのね!」
その罵声を聞いたセラフィーナは、か弱いふりをして首を横に振った。
「みなさん、そんなこと言わないでください。ラリットにもラリットなりの事情が……」
しかし、セラフィーナは最後まで言い終えることができなかった。
「そうですよ」
私が彼女の言葉を途中で遮り、あっさりと深くうなずいたからだ。
「公女様と友達になれたこと、本当に嬉しいです」
嘘をついても仕方がないでしょう?
そう堂々と言い切った私は、誇らしげに周囲を見回した。その瞬間、その場は水を打ったように静まり返った。まさか、私がこんなふうに開き直って堂々と答えるとは思っていなかったのだろう。令嬢たちはもちろん、セラフィーナまでもが言葉を失ったようだった。一斉に眉をひそめ、唇をきつく結びながら私を見つめている。
見れば分かる。でも、どうしてか怒って飛び跳ねる令嬢たちの姿が、まるで怒り狂ったチワワみたいで……。
「ぷっ」
私は思わず口元を押さえ、小さく吹き出してしまった。その瞬間、令嬢たちの顔が真っ赤に沸騰した。
「い、今、私たちを笑いましたわね!?」
「公女様が最近レディ・アンシを気に入っているからって、ずいぶん思い上がっているんじゃありませんこと!?」
どうしよう。キャンキャン吠える様子まで、本当にチワワそっくり!
(だめ、笑っちゃだめ……!)
私は下唇を噛んで必死に笑いをこらえ、それでも笑いを含んだ声で口を開いた。
「ごめんなさい。笑うつもりはなかったんです。ただ……」
さすがに、「怒ったチワワみたいで笑ってしまいました」とは言えなかったので、私はやんわりと言葉を選んだ。
「皆さん、とてももっともなことをおっしゃっているので」
「も、もっともですって?」
「私に聞いたんですよね? 権力がそんなに好きなのか、公女様に取り入って優遇されるのがそんなに誇らしいのかって」
私のあまりにも率直な言葉に、何人かの令嬢が思わず肩を震わせた。
「好きに決まってるじゃないですか?」
私は堂々と胸を張った。
「そもそも、この場に権力が嫌いな人なんているんですか?」
――後ろ暗いことのない人だけが石を投げなさい、という話だ。令嬢たちは完全に言葉を失い、唇を噛み締めることしかできなかった。
私は腰に手を当て、人差し指を立てながら続けた。
「ただ、皆さんのおっしゃることには、一つ大きな訂正があります」
「訂正……ですって?」
「そうです。私は公女様の権力だけが好きなんじゃありません。公女様のすべてが好きなんです」
うちの公女様は、それほど魅力にあふれた方なのだから。私はにっこり微笑みながら続けた。
「帝国でも指折りの名門であることも、公女様がとても裕福でいらっしゃることも、公女様が息をのむほど美しいことも、大好きですし……」
「れ、レディ・アンシ!?」
「公女様のさっぱりしたご性格も、私にいつも優しく接してくださるところも、全部大好きなんです」
私は肩をすくめて見せた。
「私は、公女様の友人でいられることをとても誇りに思っています」
私の堂々とした態度に、令嬢たちは互いに顔を見合わせるばかりだった。誰一人として、すぐには言い返せなかった。
・・・
そのとき――。
「まあ、これはどういう状況かしら?」
上品な声が会話に割って入った。
振り返ると、エヴァンジェリン様が両手いっぱいにバラの花束を抱え、じっとこちらを見つめていた。そういえば、このカフェでは小さなバラの花束も売っていると聞いていた。
(その間に、バラまでたくさん買っていらしたのね)
私は思わず苦笑してしまった。さっきまで湧き上がっていた闘志が、風船の空気が一気に抜けるようにしぼんでしまう、このむなしさときたら。まあ、とにかく、エヴァンジェリン様、そんなにたくさんのバラを買われたんですね。応援しています……。
「いったい何が問題なのか、私にはさっぱり分かりませんわ」
令嬢たちを細めた目で見回したエヴァンジェリン様が、一歩前へ進み出た。どうやら、今までのやり取りを全部聞いていたらしい。
コツッ。
静まり返ったその場に、エヴァンジェリン様の靴音だけがはっきりと響く。
「つまり、レディ・アンシは――」
私を横目で見ながら、彼女は花束を少し持ち上げて続けた。
「権力もあって、身分も高く、お金もあって、とびきり美しい私を誇りに思っている、ということなのですよね?」
「……ええ、まあ」
いや、その通りではあるんだけど。私は思わずしどろもどろになってしまった。自分で自分を大絶賛するような話なのに、その内容が全部事実だから否定もできないというのが、なんとも言えない雰囲気だ。
「レディ・アンシが、私みたいに優秀で、美しくて、格好いい友達と仲良くしたいというだけでしょう? 何か問題でもありますか?」
エヴァンジェリン様はぱちぱちと愛らしく瞬きをしながら首をかしげた。
「むしろ私は、皆さんのほうが気の毒です。友達がいることの楽しさを、まったく知らないみたいですから」
「ですが、公女様!」
そのとき、一人の令嬢が必死に声を上げた。
「レディ・アンシが、公女様と肩を並べられるような品格のある人間なはずありません!」
「ふぅん?」
その言葉を聞いたエヴァンジェリン様は、すっと美しい眉をつり上げた。令嬢たちは口々に訴え始める。
「親友だったレディ・ロペスにまで背を向けて、知らないふりをしているじゃありませんか!」
「そうです、公女様は騙されているんです!」
「ああ、なるほど」
エヴァンジェリン様の口元に、ゆっくりと笑みが広がった。まるでバラのつぼみが花開くような、華やかな笑みだった。けれど、その笑みを見つめた私は――。
(ひっ……!)
思わず息をのんだ。
(公女様、本気で怒ってる……!)
エヴァンジェリン様の笑顔には、いろいろな意味がある。本当に嬉しいときに笑うこともあるけれど、今みたいに機嫌を損ねたときほど、かえって笑顔が輝く癖があるのだ。笑顔のまま相手を圧倒する。以前、ブランチのお店でグレゴリーをやり込めたときと同じように。
そして私の予想は、一分の狂いもなかった。エヴァンジェリン様は冷気が漂うような声で口を開いた。
「つまり皆さんは、私がレディ・アンシの口先だけの話に簡単に騙される愚かな人間だと、おっしゃりたいのですか?」
「い、いいえ……」
「そういうわけでは……」
令嬢たちは一斉にうろたえた。
「まずは、『親友』という言葉の定義から確認しなければなりませんね」
エヴァンジェリン様は目を細め、改めて問いかけた。
「皆さんは、親友とは相手を召使いのように扱う関係だとお考えなのですか?」
「……」
「……」
令嬢たちは気まずそうに肩をすくめた。まあ、そう考えるしかないだろう。あの令嬢たちは皆、セラフィーナの取り巻きだったのだから。そして取り巻きというものは、たいてい自分たちが慕う相手の振る舞いを真似するものだ。
(そのほうが……都合がよかったんだろうね)
セラフィーナにならって、私を召使いのようにこき使うのが。そんな私が今では、公女様に支えられて、召使い扱いされる立場から抜け出しようとしている。
(気に入らないに決まってるわ)
私はちらりとセラフィーナを横目で見た。彼女の表情は、氷のように冷たくこわばっていた。
「レディ・アンシが、私を騙しているとでも言うのですか?」
エヴァンジェリン様は穏やかな口調で続けた。
「でも、どうしましょう。私は友情と召使い扱いの区別すらできない愚かな人たちとは、お付き合いしたくありません。それなら、私はむしろ心優しいレディ・アンシと一緒にいるほうがいいです」
「こ、公女様! 私たちは……」
「少なくとも、レディ・アンシと一緒にいると本当に楽しいんです。でも皆さんは……」
エヴァンジェリン様は令嬢たちを上から下まで見渡し、口元をゆがめた。それは冷ややかな嘲笑だった。
「さあ、どうでしょう?」
令嬢たちの顔が恥ずかしさで赤く染まる。だが、エヴァンジェリン様の言葉はまだ終わらなかった。
「それと、これからは皆さんも少し行動を慎んだほうがいいですよ」
それは紛れもない警告だった。
「私の友人関係に軽々しく口を出せるほど、クラウディウス公爵家の名は軽いものではありませんから」
公爵家の名が出た途端、令嬢たちの顔色はみるみる青ざめていった。
「ふふ」
小さく笑ったエヴァンジェリン様が、きっぱりと言い放った。
「グスト伯爵家で開かれるパーティー、7月5日でしたよね?」
その瞬間、セラフィーナの顔に濃い警戒の色が浮かんだ。それをあざ笑うかのように、エヴァンジェリン様は堂々と言い放つ。
「その日、アンシ子爵家でもパーティーを開きます。そして、そのパーティーには私も出席します」
聞こえないふりをしながら耳をそばだてていた周囲の人々が、一斉にざわめいた。
「えっ!?」
「クラウディウス公女殿下が?」
同時に、セラフィーナの顔から血の気がさっと引いた。
(わあ……!)
私は心の中で大きく感心した。エヴァンジェリン様が意図して言ったのかは分からない。でも、今のこの一言だけで、セラフィーナにはとてつもなく大きな打撃を与えた。
グスト伯爵家の夏のパーティー。南部社交界でも最も有名なそのパーティーを目当てに、人々は集まる。さらにセラフィーナは、グスト伯爵家の次男と最も親しいとされる令嬢だった。そのため自然と、彼女はそのパーティーで最も輝く華となっていたのだ。夏のパーティーで彼女が輝けば輝くほど、南部社交界におけるセラフィーナの立場もますます強固になっていた。
(だけど、いくらグスト伯爵家やセラフィーナが力を持っていたとしてもね)
私は軽く肩をすくめた。クラウディウス公爵家のたった一人の公女に勝てるわけがない。
つまり――エヴァンジェリン様のたった一言の宣言で、セラフィーナが主役として君臨してきた重要な舞台は、大きな危機に陥ったということだ。本当に、あの方は権力の使いどころをよく分かっていらっしゃる。私、もう公女様に惚れてしまいそう……。
「どちらのパーティーに参加するかは皆さんの自由です。でも……もしアンシ子爵家のパーティーで、皆さんのお顔をお見かけできなかったら――」
同時に、エヴァンジェリン様は意味深な笑みを浮かべた。
「私、とっても悲しくなってしまいます」
令嬢たちは一斉に青ざめた顔で、お互いを見回した。
(ど、どうしよう!?)
(なんでこんなことに……!)
焦った視線が令嬢たちの間を飛び交う。そんな彼女たちには目もくれず、エヴァンジェリン様はくるりと私を振り返った。
「私たちはもう行きましょう。ここには一秒だっていたくありません」
そう言って私の手首をさっとつかむと、彼女は令嬢たちを軽蔑するような目で見渡した。
「こんな愚かな人たちと一緒にいたら、私まで馬鹿になってしまいそうです」
その言葉を最後に、エヴァンジェリン様は私の手を引いて、颯爽とその場を後にした。
ああ、本当に格好いい。今日からファンクラブを作らなきゃ。
ファンクラブの名前は略して――〈エ・ジュ・サ〉。
「エヴァンジェリンを死ぬほど愛する会」。
そしてファンクラブの会員第一号にして会長は、もちろん私、ラリットだ。これで決まり!
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ラリットとエヴァンジェリンの深まる友情
観光を満喫した二人はバラの美しいカフェへ向かい、ラリットは過去に救われた感謝と特別な想いを伝えます。エヴァンジェリンは真っ赤になって照れながらも「友達でいられるだけで嬉しい」と応え、二人の絆はより確かなものになります。
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宿敵セラフィーナとの遭遇とラリットの堂々たる反論
カフェの店内で偶然再会したセラフィーナと取り巻きの令嬢たちは、ラリットを「権力に取り入った」と非難し、いつものように被害者を装って攻撃します。しかし、ラリットは怯むことなく「公女様の権力も美しさも性格もすべてが大好きで、友人であることを誇りに思っている」と堂々と開き直って一蹴します。
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公女殿下の参戦と、権力を用いた圧倒的な完全勝利
一部始終を聞いていたエヴァンジェリンが怒りを伴う完璧な笑顔で参戦し、取り巻きたちの欺瞞を痛烈に批判します。さらに、セラフィーナの晴れ舞台であるグスト伯爵家のパーティー(7月5日)と同日にアンシ子爵家でもパーティーを開催し、自身も出席すると宣言することで、南部社交界におけるセラフィーナの立場を完全に失墜させ、ラリットと共に颯爽と立ち去りました。