こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
161話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 過保護な大人たち
その日以降、レリアは赤ちゃん部屋に通じる扉にしっかりと鍵をかけて眠るようになった。
それだけではない。今後ベビー用品を城内に持ち込む場合は、何であれ必ず事前に自分の許可を得るようにと、通達をあちこちに出したのだ。
その宣言を聞いた祖父のシュペリオン公爵、祖母、母のユリアナ、そして叔父たちや叔母までもが、一様に不満そうな表情を浮かべた。しかし、妊婦であるレリアに余計な気苦労をかけまいと、彼女の前では必死にその不満を隠していた。
「これはどうしたものか……」
すでに純金で作られた動物の玩具を特注していたカリウスは、自室で深い悩みに暮れていた。せっかく用意した至高の品を、このままお蔵入りにするなど耐え難い。
「そんなに悩むことか?」
そこへ通りがかったシュペリオン公爵が声をかけると、カリウスはもごもごと言い訳を並べた。
「いや、レリアが贅沢なベビー用品は禁止だなんて言うものですから……。ですがお父様、禁止されているとはいえ……お父様だって、いくつか隠して持っているんじゃないですか?」
「ちっ……まったく呆れる。お前は本当に私の息子なのか?」
公爵がわざとらしく眉をひそめると、カリウスは悪びれもせず笑った。
「父上に似たからですよ、きっと」
「このガキめ……」
「とにかく! 何か良い方法があるなら教えてくださいよ」
シュペリオン公爵は目を細めて息子を見つめ、それからわざとらしく咳払いをひとつした。
「ふむ……そうだな。新しい命がもうすぐ生まれるのだから、私の心も和らいでいる。特別に教えてやろう。極めて簡単なことだ。ただ、“時”を待てばいい」
「……ただ待つだけ、ですか?」
「そうだ」
「それって、ただ今は倉庫に保管しておくだけってことでしょう?」
「こいつは本当に……」
「まあ、当たっているでしょう?」
「……まあ、とにかく、赤ちゃんが生まれるまではお前の倉庫に厳重に保管しておけ」
「赤ちゃんが生まれたら?」
「『誕生日プレゼント』という名目で、その時に一気に渡せばいいのだ」
「……お?」
聞いてみれば、これ以上ないほど単純で、かつ完璧な抜け道だった。
そうだ、誕生日プレゼントだ! なぜその盲点に気づかなかったのだろう。
赤ちゃんが生まれる日こそが、まさにその子の誕生日なのだ。ならば「誕生日プレゼント」だとこじつければ、レリアの「生まれる前のベビー用品禁止令」には抵触しない。
「さすが……お父様は賢明でいらっしゃいますね」
カリウスがにやりと笑うと、公爵も満足げに口元を歪めた。
「ところで父上、父上の倉庫、一度見せてもらってもいいですか?」
「ふん、すぐに行こう」
二人はまるで悪巧みをする親友のように仲良く肩を並べ、廊下を歩いていった。通りかかった使用人たちは、久しぶりに見る和やかな父子の姿に、ほっこりとした微笑みを浮かべていた。
こっそり隠しておいて、時を待つ。
この画期的な潜伏方法は、瞬く間にシュペリオン城に住む者たちの間で広まり、公式な暗黙の了解となった。確かにこれなら明確で、レリアの逆鱗に触れることもない。
ただし、そうしてプレゼントを密かに溜め込むシュペリオン一家とは異なり、レリアの友人たちは、より手堅く大胆な方法を選ぶのだった。
・
・
・
遅い午後のティータイム。
この日、オスカーは叔父のカリウスと一緒に領地の巡察に出かけていた。
そのおかげで、レリアは温室でロミオと二人、穏やかなお茶の時間を楽しんでいた。そうして雑談を交わすうちに、自然と例の赤ちゃん用品の話題になった。
「私は堂々としているわ」
レリアがそう釘を刺すと、ロミオはこの上なく堂々とした態度で返した。ティーカップを持ち上げて紅茶を口にする仕草には、貴族らしい優雅さがあふれている。
(色白でのっぺりした顔をしているくせに、ちゃっかりしているわ……)
レリアは心の中で毒づいた。ロミオは先日のおしゃぶりを、すでにレリアの目を盗んで赤ちゃんの部屋に置いてきていたのだ。『僕たちの友情はこれがなきゃダメなんだ』とロミオが涙目で縋り付くように言うものだから、レリアもそれ以上は強く言えず、どうしようもなかった。
レリアとしては、あれが最後の過剰なベビーグッズだと考えていた。だからこそ、これ以上の侵入を防ぐために部屋に鍵をかけ、「もう買わない」と宣言したのだ。
その時だった。
二人がお茶を楽しんでいた温室の扉が開き、誰かが入ってきた。
現れたのは、ひどく疲れた様子で灰色の髪を揺らすグリフィスだった。
「中央区域に行ってきたって言っていたけれど、うまくいったの?」
レリアがにこやかに挨拶しながら尋ねた。グリフィスは席に着きながらも、どこか落ち着かない様子でもごもごと動いている。ロミオは彼に注目しながらも、何も言わずにお茶を一口すすった。
最近のグリフィスは、どうにも忙しそうに動き回っていた。どうやら神殿で何かしているらしいが、もともと神殿のシステムを嫌っていたグリフィスだ。何か良からぬことでも企んでいるのではないかと、レリアは少し心配していた。
「……赤ちゃんへのプレゼントを作ってきたんだ」
「………」
まさにロミオと話していたテーマそのものだったため、レリアの表情が引き攣った。
「赤ちゃんの部屋に置こうとしたら、君の許可が必要だって門前払いされてね」
グリフィスは最近あまりに多忙だったため、他の人より遅れてその禁止令の噂を聞いたようだった。
「何を持ってきたの?」
レリアが身構えながら尋ねると、グリフィスは「見てみて」と言わんばかりに、持ってきた小さな箱をテーブルの上に置いた。
レリアは慎重にその箱を開けて中を見た。
「……」
そして、静かにフタを閉じた。
「グリフィス……これって、私の見間違いよね?」
レリアがどこか戸惑うように問いかけたが、グリフィスは何気ない表情で肩をすくめるだけだった。
(いや、どう見てもこれは……神殿の最高級の供物だわ……)
以前、祖父から聞いたことがあった。確かに神殿の秘匿された供物の中に、青い光を放つ、黒い手のひら大の稀少な石があったはずだと。
「それ、供物だろう」
レリアが箱を閉じようとした瞬間、横から中身を覗き込んでいたロミオが平然と言い放った。
「……グリフィス、あなたって人は……」
レリアは思わず、「お前、そのうち天罰を受けるぞ」と言いかけたが、辛うじて言葉を飲み込んだ。もちろん、指摘したロミオ自身も過去に供物を私的に利用した前科があるため、偉そうなことは言えないのだが。
言葉を失うレリアを余計に困惑させたのは、その中身の造形だった。
「これって本当に……歴史的な聖物じゃないの?」
剣の刃はとうに失われ、今では柄の一部しか残っていない、貴重極まりない聖物。伝説によれば、この一対の剣はクロイチュ教の主神が悪魔を退けるために直々に使ったとされるものだった。
「あなた、本当に正気なの?」
レリアは思わず荒々しい口調で詰め寄った。
「いや、なんでそんなに貴重な『聖剣の柄』で、赤ちゃん用のガラガラを作っているのよ!?」
「………」
グリフィスはレリアの想定外の剣幕に戸惑い、助けを求めるように目だけを右往左往させてロミオを見つめた。しかし、ロミオはフンと肩をすくめると、冷酷にその視線から目をそらした。
助け舟を出す者もなく、結局グリフィスは居心地悪そうに言い訳がましく口を開いた。
「供物だからさ……振ると神秘的な音がするんだ。神聖な力が込められた音だよ。大人が聞いても頭がすっきりする」
グリフィスは神という存在自体は信じていなかったが、自分に宿った神聖力、その「力」そのものは信頼していた。レリアもまた、神聖力がどれほど得難い奇跡の力であるかを知っている。それは人を傷つけるためではなく、人を癒すための力。その本質は偉大で敬うべきものだ。
だが……それを鈴に? ガラガラにしたというのか。
グリフィスは、呆れて逆にくすくす笑い始めてしまったレリアを見て、真面目な顔で呟いた。
「この鈴の音を聞けば、赤ん坊が泣き止むと思って」
「………」
「何日も苦労して……手作りしたんだ」
グリフィスは落胆したように視線を落とし、口をつぐんだ。そのあからさまにシュンとした様子に、レリアは思わず大きなため息をついた。
「もし中央区域の大神官たちがこの事実を知ったらどうするの? すぐに戦争を起こしかねないわよ」
「それは心配しなくていい」
グリフィスはきっぱりと言い切った。その自信に満ちた様子を見る限り、本当に政治的な心配は要らないのだろうが……。
「それより、あなた自身は本当に大丈夫なの?」
レリアが彼の身を案じて尋ねると、グリフィスは嬉しそうに口元を上げて笑った。レリアの心配が、彼にとってはたまらなく心地よいようだった。
「いや、笑いごとじゃないわよ……」
「……大丈夫だよ、レリア。むしろ、最近は楽しいんだ」
グリフィスは安心させるように、レリアの手のひらにそっと自分の手を重ねて答えた。その瞳はひどく真剣だった。
中立区域の神官たちを裏から統率し、支配することが、これほど面白いものだとは思わなかった。最近ではむしろ、この環境に感謝しているほどだった。
正直、神殿の権力闘争など元々はまったく興味もなく、面倒なだけだった。だが――将来、レリアの子どもたちが大きくなった時、神殿のせいでやりたいことが制限されるような未来は絶対に阻止したかった。そう考えると、自然と身体が動いていたのだ。
子どもたちが将来、母親のように錬金術をやりたいと思うかもしれない。
邪魔な結界石を片付けるような軽い気持ちで、あれこれと神殿の内部をいじり回していたら、気がつけば神殿の権力構造そのものを自分の手中に収めていた。ほかのことはどうでもいいが、この神殿という巨大な組織が、子どもたちの未来の盾になればいいと願っていた。
「……子どもたちに護身用の道具が必要なくなったら、この聖物はすぐに元の場所に返してね。わかった?」
「もちろん」
全くそんな気はなかったが、グリフィスは素直にうなずいた。彼は、子どもたちがガラガラを卒業した後は、この聖物の神聖力を利用して、彼らを守るための最強の護衛用短剣を作ろうと、すでに次の計画を立てていたのだった。
確答を得たレリアは、もう仕方がないといった様子で両手を広げた。
「じゃあ、ここまで。これ以上のベビー用品のフライング持ち込みは全面禁止。みんな分かった?」
「分かった」
「いいよ」
グリフィスとロミオは黙々と貝を剥くように、素直に返事をした。しかしレリアは二人の返事を聞いても、どこか妙に背中がむずがゆい気持ちを拭えなかった。
(なんだか変ね……。この胸騒ぎは何かしら?)
その不穏な予感の正体は、数日後に明らかになる。
数日後の午後、レリアは応接室の窓辺に座り、暖かい日差しを浴びながら甘い果実水を飲んでいた。
膝の上には厚い本を開いて置いていたため、周囲から見れば、優雅に読書をしながら静養しているように見えただろう。
だが実際には、彼女は脳内で「錬金復元ゲーム」の画面にどっぷりと没頭していた。
(ちょっと待って、今月だけで一体いくら課金したっけ……?)
レリアは一瞬ゲームの手を止め、頭の中で恐る恐る計算を始めた。
今回のアップデートで新しいガチャシステムが導入され、それに夢中になるあまり、我に返って腰が抜けそうになっていたのだ。
ゲーム内に実装されたのは、錬金術の貴重な素材を自動で集めてきてくれる「ドラゴン」を召喚するシステムだった。レアなドラゴンほど、より希少で素晴らしい素材をどんどん注ぎ込んでくれる。そのほかにも魅力的なアップデートが多く、一つ一つ確認しているうちに時間を忘れてしまった。気がつけば、彼女は最高レア等級のドラゴンをコンプリートしようと躍起になっていた。
【所持していたクリスタルをすべて使用しました。追加でクリスタルをチャージしますか? ( •᷄ὤ•᷅ )✧】
(え、もう全部使っちゃったの!?)
まだ大して引いてもいない気がするのに……レリアは唖然とした。
彼女はそっとゲーム画面を閉じた。何か対策が必要だった。
もちろん、現在のシュペリオン城の経済状況からすれば、金銭的にはいくら課金しようがビクともしないほど余裕がある。彼女自身が錬金術で稼いだ蓄えも十分にあったし、家族たちが惜しみなく援助してくれた軍資金もあった。
そして何より……これは最近知った衝撃の事実なのだが、夫であるオスカーが、まさかこれほどの莫大な個人財産を隠し持っていたとは思いもしなかったのだ。
詳しく調べてみたところ、フレスベルグ帝国王室が保有していた膨大な資産と財団のほとんどが、すべて「オスカー」個人の名義に変更されていた。名ばかりの傀儡皇帝を立てておく一方で、欲深い貴族たちがその資産を絶対に狙えないよう、裏で様々な法的・魔術的な手を打っていたらしい。
本当に意外だった。正直なところ、普段のオスカーにはお世辞にも経済観念があるようには見えなかったからだ。
おそらく、お金があまりにも湯水のようにあるせいで、そもそも経済という概念に興味を持つ必要すら staff なかったのだろう。
いずれにしてもお金には困っていない。けれど、ゲームのデータにこうしてポンポンと大金を使い続けるのは、なんだか少しためらわれるというか、もったいない気がした。
【チャージが完了しました ✧。٩(ˊᗜˋ)و✧*。】
*(ヒ・死^_^)*
実は、チャージをするたびに、やけに狂喜乱舞する「錬金」システムの反応が原因かもしれない。その喜び方がなんだか少し不気味で……あまりチャージしたくなくなっていた。
(子どもたちが生まれたら、本格的に独自の錬金術ビジネスを立ち上げて稼がなきゃね)
すでに構想している事業アイテムのアイデアは、山ほどあった。素材も着実に集めている。この不思議な「錬金術」さえあれば、ゲームのサービス終了を心配することもなく、ずっと自分の力としてそばにいてくれるだろう。
「錬金術さん、これからもよろしくね」
〔所持していたクリスタルはすべて使用されました。追加でクリスタルをチャージしますか? (・∀・)✧〕
自分の殊勝な決意を完全に無視して、無慈悲にチャージを要求してくるシステムメッセージ。
ちょっと腹が立ったけれど……まあ、これはこれで今の彼女にとって、誰にも邪魔されないささやかな楽しみでもあった。
その時だった。窓の外の庭園から、何やら騒がしい足音と声が聞こえてきた。
(何事かしら?)
レリアはゆっくりと体を起こし、窓からそっと外を覗き込んだ。
「……ちょっと、あれ何?」
数日前、ある事件の解決のために姿を消していたカーリクスが戻ってきた。無事な姿を見て安心したのも束の間、彼が一緒に連れてきた、あの「隣にある巨大な物体」はいったい何なのだろう。
遠目には、地面から根こそぎ強引に引き抜かれた、恐ろしく太い大木に見えた。当のカーリクスは、非常に上機嫌な表情で周囲の使用人たちを見つめている。
何はともあれ、無事に元気で戻ってきてくれたのは良かった。
だが、カーリクスの前に立ち塞がっている城の使用人たちは、どうにも困惑しきった顔で立ち尽くしている。
(どこからあんなに巨大な木を持って itinerant きたのよ? 庭に植えるつもり? いきなり木って何なの?)
レリアは溢れる好奇心を抑えきれず、確認するために一階へと降りていった。
・
・
・
レリアがちょうど一階の広場に降りてカーリクスと対面した瞬間、彼女は使用人たちがなぜあんなにも困惑していたのかを完全に理解した。
近くで見ると、その木は窓から見えていたよりもはるかに巨大で、恐ろしいほど太かったからだ。
「レリア!」
レリアの姿を認めると、カーリクスは嬉しそうに大きく手を振った。にっこりと無邪気に笑うその姿は、まるで大型犬がちぎれんばかりに尻尾を振っているかのように見えた。
「無事に帰ってきたのね、カーリクス」
「うん。僕に会いたかった?」
「ええ、もちろん。みんな心配していたのよ……どこかで事故にでも遭ったんじゃないかって」
「僕を子ども扱いしないでよ。事故なんて遭うわけないだろ」
カーリクスは「何を言うんだ」と笑いながら、すぐ隣にある大木の幹をコツンと拳で叩いた。
「それで、どう?」
「……何が?」
「この木、どう思う?」
「……う、うん。すごく……大きいわね」
レリアのあまりにそっけない評価に、カーリクスは気まずそうに顔をしかめ、不満げに口を尖らせた。
(え……この木って、そんなに重要なことなの?)
レリアは余計な前置きを飛ばして本題に入った。
「それで、これは何なのよ?」
「木だよ」
「だから、どんな木かって聞いているの」
「子どもたちが生まれたら、プレゼントするんだ」
「……は?」
レリアが呆気に取られていると、カーリクスは誇らしげに胸を張った。
「そんなに大げさに構えることないよ。どうせカバン(インベントリ)に仕舞うつもりなんだから、君の『ベビー用品禁止令』の許可だって要らないだろう?」
「……まあ、確かにそうだけど」
言われてみればその通りだが、何かが引っかかる。レリアはその時ようやく、その不自然な大木をじっくりと観察し始めた。
いったい何の木なのだろう。
樹高自体はそれほど高くはないが、幹の太さは尋ねるまでもなく異常だった。少なくとも、大人が三人で手をつないで腕を回して、ようやく抱えられるかどうかという巨木だ。
木のまわりをぐるりと歩いて観察していたレリアは、ふとある部分で足を止めた。
幹のちょうど中心あたりに、何かが深く埋め込まれている。よく見ると、それは古びた、しかし強大な気配を放つ剣の「柄」だった。
「カーリクス、これって何?」
カーリクスはその質問を待っていたと言わんばかりに、途端に神妙な、どこか懐かしむような面持ちで話し始めた。
「これさ、アスカード帝国の皇城の、奥深くにある古い庭園に植えられていた木なんだ。この木には古い伝説があってね」
「伝説……?」
「成人する前の子供が、この木に突き刺さった剣を引き抜けば、その者は歴史に名を残す偉大な英雄になる……と言われているんだ」
「……そうなの?」
「うん。でも、建国以来、未だに誰も引き抜いたことがない」
「それで……その木をまるごと引っこ抜いて持ってきたの?」
「うん」
レリアはカーリクスをじっと見つめ、呆れて目をぱちぱちと瞬かせた。本当にこの男の行動力は恐ろしい。
「カーリクス……じゃあこれ、アスカード帝国で国宝級に貴重とされている木じゃないの。それを勝手に盗んで来ただなんて、もし見つかったら……」
「いや、これは最初から『僕のもの』だよ」
「え?」
「僕がすごく小さかったころ、おばあ様が亡くなる直前に、これを僕に遺産として残してくれたんだ」
「そうなのね……」
レリアは予想外の告白に、目を丸くした。カーリクスはもともと、自分の過去や家庭環境について多くを語るタイプではなかったため、そんな切ない思い出話を自ら進んでしてくれるとは思ってもみなかったのだ。
「久しぶりに見に行ったらさ、荒れ果てた広い庭園に、ぽつんと寂しそうに残されていたんだ。今のアスカードの奴らは、誰もこの木の存在なんて気にも留めていなかった」
「………」
「なんだか、子どものころの自分を見ているみたいで……気づいたら、引き抜いて持ってきちゃったんだ」
「そうだったのね……」
「うん。それに、この伝説の聖剣……きっと僕たちの子どもなら、あっさりと引き抜けるはずだ」
先ほどまでのセンチメンタルな雰囲気を一瞬で吹き飛ばす、カーリクスのあまりに親馬鹿(叔父馬鹿)なセリフに、レリアは思わずくすっと笑いながらも、少し呆れてしまった。
「……カーリクス、いくらなんでもそれは……」
その返事に、カーリクスは過敏に反応した。まるで我が子の能力を疑われた親のように、必死になって言い返す。
「なんでさ! うちの子たちなら絶対にできるよ! おじさんである僕の血を引いているんだから、どれほど強いか君だって知っているだろう!」
「……はいはい、そうね」
結局、そのアスカードの巨木は、シュペリオン城で最も広大で華やかな中央庭園の、ど真ん中に植えられることになった。植える場所の指定はレリアが細かく行い、実際に大木を軽々と持ち上げて植樹したのはカーリクスだった。
「自分たちで運ばされるのでは」と戦々恐々としていた使用人たちは、カーリクスが一人で怪力を見せて作業を終わらせたのを見て、心底胸をなでおろしていた。
木を綺麗に植え終えると、カーリクスは満足そうに満面の笑みを浮かべた。レリアもそんな彼の純粋な笑顔を見て、心がじんわりと和むのを感じていた。
その大木にどこか不思議な親しみを感じたレリアは、使用人に頼んで、座り心地の良い大きな敷物を持ってこさせた。そして、その敷物を巨木の根元に広げ、幹に寄りかかるようにして腰を下ろした。
そよそよと心地よい涼しい風が、二人の髪を揺らした。
庭園に咲き誇る色とりどりの花の香りが、風に乗って優しく漂ってくる。カーリクスはレリアの隣に座り、彼女の真似をして太い幹に背中をもたれかけさせた。
「ねえレリア、僕、うまく持ってこられたよね?」
「ええ、よくやったわ」
レリアが優しく微笑んで褒めると、カーリクスは少年を褒められた子犬のようにはにかんだ。
「でも、本当に誰にも見つからなかったの?」
「全然。おばあ様が過ごしていた離宮はもうかなり古くてね……今ではすっかり廃墟同然で、誰も近づかないんだ」
「そうだったのね……」
「幼いころ、おばあ様は『カーリクスなら、いつか必ずあの聖剣を抜けるだろう』って、皇城のあちこちで自慢げに言い回っていたんだ」
「……」
「今の皇帝である叔父にとっては、それが面白くなかったんだろうね。僕が将来、皇帝になるかもしれないとまで予言されていたから」
レリアは膝に顎を乗せたまま、カーリクスのかすかに寂しげな横顔を見つめた。カーリクスは幼い頃、少し陰を帯びてはいたが、誰よりも正義感の強い少年だった。正直なところ、もし彼がそのまま正当に皇位を継承していたら、今のアスカード皇帝よりも何倍も素晴らしい名君になっていただろう。
「もしあなたが皇帝になっていたら、叔父さんよりもずっと立派に国を治めていたでしょうね」
「……ううん、僕は嫌だよ。皇帝なんて、なんだか息苦しいだけじゃないか」
「まあね。もともと皇城っていうのは、そういう冷たい場所なのかもしれないわね」
「でも、もし君が皇帝になるなら、それはまた別の話だけど……。君が皇帝で、僕が君をすぐ側で守るんだ」
「……ふふ」
「正直に言うよ。僕は君と一緒にいられるなら、この世界のどこだって構わないんだ」
カーリクスは目を閉じたまま、愛おしげに呟いた。吹き抜ける風が、彼の張り詰めた心を優しく解きほぐしていくようだった。
「私もよ、カーリクス」
しばらくの間、二人は言葉を交わすことなく、ただ風の音を感じながら美しい庭園の景色を眺めていた。レリアはカーリクスから、彼の幼い頃の話をもっと聞いてみたいと思ったが、今はあえて何も尋ねずにいた。
カーリクス自身も、そして他の友人たちも皆、心に簡単に触れられない深い傷を負っている。それをすべて分かち合い、語り合うには、もう少し時間が必要なのだと分かっていたからだ。
「ねえカーリクス。その聖剣のことだけれど……本当に、今まで誰も抜けなかったの? 私が試しても無理かしら?」
「もちろん無理だよ。力自慢の僕ですら、びくともしなかったんだから」
力比べでは右に出る者がいないカーリクスが失敗したとは。レリアは俄然好奇心に駆られ、すくっと立ち上がった。突き刺さっている聖剣の柄は、彼女が手を伸ばせばちょうど届く高さにあった。
「僕たちの子は双子なんだから、どちらか一人は必ず抜けるはずさ。いや……もしかしたら、二人で同時に引き抜いて、伝説を塗り替えるかもしれないぞ」
カーリクスは100%の確信を込めた声で、未来の甥と姪に期待を寄せた。
レリアは、木の幹に深く、頑なに突き刺さっている聖剣の柄をじっと見つめた。
そして、小さく微笑んだ。
(本当にカリクスの言う通り、将来この子たちがあの剣を抜いてしまったら……どうしましょう?)
その時、この子たちは本当に、世界を救う英雄になってしまうのだろうか。
まだ見ぬ我が子たちの、あまりに壮大で輝かしい未来を想像しながら、レリアは静かに、愛おしそうにお腹を撫でるのだった。
-
シュペリオン一家の抜け道と友人たちのフライング
レリアが「生まれる前のベビー用品の持ち込み禁止令」を出したため、祖父や叔父カリウスらは生まれた瞬間に「誕生日プレゼント」として一気に渡すという抜け道を考案します。一方で、友人たちは禁止令をかいくぐるため、より大胆な方法でプレゼントを持ち込み続けます。
-
グリフィスが贈る「聖剣のガラガラ」と将来への誓い
神殿の最高級の供物である「聖剣の柄」を勝手に改造し、振ると神秘的な音がする赤ちゃん用のガラガラを手作りしたグリフィス。レリアに呆れられつつも、彼は将来子どもたちの未来の盾となるよう、すでに裏で神殿の権力構造を掌握しつつあることを明かします。
-
カーリクスが運んできた「伝説の巨木」と叔父の願い
数日後、カーリクスはアスカード帝国の廃離宮から、伝説の聖剣が突き刺さったままの巨大な木をまるごと引っこ抜いて庭園に植樹します。幼い頃の切ない思い出が詰まったその国宝級の木を前に、彼は未来の双子たちがいつかこの剣を引き抜き、英雄になる未来を確信してレリアと穏やかな時間を過ごします。