悪党おじさんと暮らしています!

悪党おじさんと暮らしています!【49話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【悪党おじさんと暮らしています!】まとめ こんにちは、ピッコです。 「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...

 




 

49話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 小さな預言者

「未来が……見えると言うのか?」

カッセル叔父様の低く掠れた声が、狭い馬車の中に響いた。私は叔父様の衣服をぎゅっと握りしめたまま、小さく、けれど真っ直ぐに頷いた。

「うん……。そのとき初めてお祖父様の家に来たのもね、叔父様が馬車の事故に遭うんじゃないかって、すごく心配だったからなの」

以前、どうしても引き止めようとして、叔父様に「今日は外出してはいけない」と泣きついたあの日の記憶が蘇る。

「……」

叔父様は何も言わず、ただ凍りついたように私を見つめている。私は溢れ出しそうな胸の内を、一気に吐き出すように言葉を続けた。

「レトのときもそうなの。あの夜、レトが暗い場所で怖い人たちにひどく叩かれている未来を見たの……。だから『行かないで』って、あんなに一生懸命引き止めたのに……。でも、レトが行っちゃうかもしれなくて……」

結局、レトの件はすべて私が予知した通りの現実になってしまった。

突拍子もない話だから、きっと怒られるか、子供の妄言だと一蹴されるだろう。そうは思ったけれど、ここまで真実を打ち明けた以上、自分が決してふざけていたわけではないこと、そして何より、愛する家族を救いたかったのだということを叔父様に分かってほしかった。

「それにね、私が見えるのは、すべての未来じゃないの。ときどき、断片的にしか見えないの……。それから今日も、ベルポイ・ロギス先生が私の部屋に入ってくる映像が頭に浮かんで、それを止めようとしたの。あの先生、どうしても悪い人に見えたから、一刻も早く叔父様に伝えなきゃって思って……」

私が必死にすべてを打ち明けたあと、馬車の中には息が詰まるほどの沈黙が降りてきた。

沈黙。

また、沈黙。

私はただ、じっと息を殺して叔父様の表情をうかがうことしかできなかった。

――信じてくれているのだろうか?

それとも、あまりにも現実離れした私の告白に、怒りを通り越して言葉を失っているのだろうか。

「……」

「……叔父様、怒ってる?」

どれだけ見つめても、叔父様が今何を考えているのか、その真意を読み解くことはできなかった。私は未来の出来事を見ることはできても、一番近くにいる叔父様の心の中までは読むことができない。叔父様はいつも私の考えていることを透かしたように見抜いてくれるのに、どうして私はそれができないのだろう。

結局、私はぎゅっと唇を結んだまま、お仕置きを待つ罪人のように叔父様の返事を待つしかなかった。問題は、相変わらず叔父様の長い脚が馬車の扉を完全に塞いでいて、物理的にもこの空間から逃げ出せないということだった。

「叔父様……」

長い沈黙の果てに、ようやく叔父様が重い口を開きかけた。

「うん?」

「……はぁ」

けれど、叔父様は何かを言いかけて、ただ深く深い溜息をつくと、片手で痛そうに額を押さえてしまった。

『大丈夫よ、アイカ。伝わってるわ』

脳内で、精霊のセレが暖炉をパチパチと軽く叩くような温かい気配で語りかけてくれた。私もそうであってほしいと心の底から願いながら、小さく頷いた。

けれど、それからの車内は、静かというよりは酷く気まずい沈黙に包まれていた。私はとっくに叔父様の腕から離れていたけれど、手持ち無沙汰のあまり、膝の上に置いたお気に入りの人形の髪をいじることしかできなかった。

「ピーナッツ」

どれほど時間が経っただろうか。気まずい沈黙を破り、再び叔父様が私を呼んだ。

「ん?」

私は弾かれたように顔を上げた。

「ひとまず……家に帰ろう」

そう告げる叔父様の顔は、これまでに見たことがないほどひどく疲れているように見えた。あるいは、世界を揺るがすようなとてつもない難題を、たった一人で抱え込んでしまった人のようにも。どうやら、私の告白は、あの冷静沈着なカッセル叔父様をこれほどまでに震撼させてしまったらしい。

「うん、叔父様。でも私、おじい様(ロンド)にまだちゃんと挨拶してないの。今夜は一緒に夕食を食べる約束だったのに……」

今はお母様の代わりに誰かが財団の仕事を引き継いでいるから、おじい様ももう以前ほどその激務には関わっていないはずだけれど――。それでも、おじい様はいつも分刻みで忙しかった。せっかく一緒に夕食を食べようと約束していたのだから、もう少し屋敷で待っていれば、おじい様も来てくれたかもしれないのに……。

「また今度にしよう」

「うん……」

叔父様にそう言われてしまえば、従うしかなかった。

私は馬車がお祖父様の屋敷の広大な庭を出ていくまで、ずっと胸の中で人形をぎゅっと抱きしめたままでいた。

叔父様は、馬車がガタゴトと街の路地を走っている間、一言も口を聞かなかった。あまりの静けさに耐えかねて、私はためらいながらも、そっと叔父様の大きな手の小指を両手で握りしめてみた。

無表情のままじっと前を見つめていた叔父様が、ようやくゆっくりとこちらへ視線を向ける。

「えへっ」

私はわざと白い歯を見せるようにして、無邪気な子供の笑みを作ってみせた。

けれど、叔父様の張り詰めた表情は相変わらず硬いままで、少しも和らぐ気配がない。いつもなら「ピーナッツ、お前そんな間抜けた顔をしていたら大変なことになるぞ」なんて意地悪くからかってくるのに、今日はその気配すら一切なかった。本当に、私の能力について深刻に考え込んでいるらしかった。

そのとき、馬車がパカパカと大きく揺れた。

「きゃっ!」

衝撃で叔父様の方へ傾いた私の小さな身体を、頑丈な大きな手がしっかりと受け止める。

「ピーナッツ、お前はまともに座っていることもできないのか?」

「わあっ、叔父様! 私、落ちるところだった! 助けてくれたんだね!」

私は叔父様にすっぽりと抱き留められたまま、ここぞとばかりににっこりと笑いかけた。

「……ここでお前は笑うのか?」

叔父様は心底呆れたような顔で私を見下ろした。

「えへへ」

それでも、私はこの重苦しくて深刻な空気が大嫌いだった。私がめげずににこにこと笑い続けていると、叔父様もついに根負けしたように表情を緩め、ふっと小さく吹き出した。

「この問題児め。何がおかしいんだ、まったく」

「問題児じゃないもん」

「……お前のせいで、こちらの頭がどれほど痛んでいるか分かっていないだろう」

「だって……叔父様、お顔がすごく『ちゃんと考えなきゃいけない顔』になってるから。私は静かにしてた方がいいかなって」

「そうしてくれると非常に助かる」

「うん!」

文句を言いつつも、叔父様は私がぎゅっと握った小指を振りほどこうとはしなかった。私は公爵邸に到着するまでの間、ずっと人形の代わりに叔父様の大きな手をいじって、指相撲の真似事をして遊んでいた。

やがて馬車が速度を落とし、懐かしい我が家の敷地へと滑り込んでいく。

「部屋で大人しくしていろ。今日は家庭教師の授業も休みにする。余計な心配は何もするな」

馬車が完全に停止すると同時に、叔父様は私に言い聞かせるように、けれどどこか保護者らしい優しい声音でそう言った。

「家庭教師の先生、来ないの?」

「あ。だから部屋で大人しく遊んでいなさい」

「はーい!」

ところが、私が馬車を降りて自分の部屋へ向かおうとしたその瞬間、再びパカパカと別の馬車の足音が近づいてくるのが聞こえた。私はてっきり、おじい様が追いかけてきてくれたのだと思い、慌てて窓辺へと駆け寄った。

けれど、そこに現れたのは見慣れたバリエット公爵家の黒い馬車ではなかった。

見覚えのない、どこか見事な装飾が施された上等な馬車が、私たちの屋敷の裏手へと静かに停まったのだ。

叔父様にひょいと抱え上げられて地面へと降ろされる間も、私はその見知らぬ馬車から目を離すことができなかった。

誰だろう? もしかして、バロン叔父様かな?

――あれ?

馬車から降りてきた人物の姿を見た瞬間、私は思わず目を丸くした。

「ルスフェー! 叔父様、ルスフェーが来たよ!」

バリエット公爵邸に、なんの前触れもなく現れたのは、私の大切な友人であるルスフェーだった。

「約束もしていないのに、どうしてこんな時間にわざわざ来たんだろう?」

しかも、驚いたことにルスフェーのすぐ隣には、彼とまったく同じ輝く髪色、同じ深い瞳をした大人の男性が立っていた。それどころか、気品のある端正な顔立ちまで驚くほどそっくりだ。

私は思わず嬉しくなってルスフェーの方へ駆け寄ろうとしたけれど、途中でハッと足を止めた。叔父様は「これから考える」と言っていたけれど、まだ私たちの話は完全に終わっていない。本当に私の話を全面的に信じてくれたのかも、まだ分からない状態だ。

そっと不安になって叔父様を見上げると、叔父様は私の小さな背中を優しくポンと押してくれた。

「余計なことは考えるな。行って遊んでこい。お前が得意の、あの“白いピーナッツ”みたいな妙な挨拶でもしてくるといい。あとの大人の事情は気にするな」

「うん、叔父様。でも……本当に、私の言ったこと嘘じゃないんだよ?」

念のためにもう一度だけ小さな声で念を押すと、叔父様はじっと私を見つめ、その大きな手で私の額を軽く小突いた。

「分かっている。だからお前は気にせず、子供らしく遊んでいろ」

「うん! ルスフェーと部屋で遊ぶ!」

叔父様がそう言って安全を保証してくれるなら、もう何も怖くない。

「遊ぶのは構わんが、部屋の中で取っ組み合いの喧嘩はするなよ。見つけたら二人とも容赦なく叱るからな」

「私がルスフェーを殴るわけないじゃない……っ」

叔父様は本当に私を何だと思っているのだろう。というか、私の体格からして、注意するなら「殴るな」じゃなくて「殴られるな」の間違いじゃないの?

「ちょうど良い時間にお戻りになられたようですね。姪御さんとどちらかへお出かけだったのですか?」

その洗練された声に、私は思わず弾かれたように視線を向けた。

ルスフェーに酷くよく似たその男性が、いつの間にか音もなく私たちの目の前まで歩み寄ってきていたのだ。

おじさんと言うにはあまりにも若々しく、かといって叔父様と同年代にも見える、どこか現実離れした不思議な気品を纏った人だった。優しげな雰囲気の中に、叔父様に一歩も引けを取らないほどの圧倒的な強者のオーラがある。

ルスフェーは、なぜか父親の少し後ろに控えたまま、緊張した面持ちでじっと立っている。どうしてこっちへすぐに来ないのだろう?

確か、現皇帝陛下はルスフェーの叔父にあたる人だと聞いたことがある。ということは、この目の前にいる高貴な人は、ルスフェーのお父様なのだろうか。

私はもう一度怯えて叔父様を見上げたが、叔父様は特に嫌そうな様子も、険しい表情も見せていなかった。

「こんにちは! アイカ・デ・バリエットです!」

まずは、淑女としてきちんと挨拶をしなければ。私は礼儀作法の先生から厳しく教わった通り、ドレスの裾を小さな指先で丁寧につまむと、軽く膝を折り、完璧なカーテシーを披露した。

「はい、こんにちは。実に可愛らしいお嬢さんだ。とても元気で素晴らしいご挨拶ですね」

その低く穏やかな声音に、私はそっと顔を上げた。

驚いたことに、その高貴な男性はわざわざ自ら地面に膝をつき、私と同じ目線に合わせて微笑んでくれていたのだ。

「今日はバリエット公爵家に少し用事がありましてね。そんなに長居をして、君たちの邪魔をするつもりはありませんよ」

その言葉に、カッセル叔父様が肩をすくめた。

「どうせ今日はもう暇だ。ゆっくりしていけばいい。それに、よその高名な後継者殿が、わざわざ私の力を借りたいと言って頭を下げにきたんだ。大いに興味もある」

「ふふ、ではお言葉に甘えましょうか」

「中へどうぞ。――ピーナッツ、お前はさっさと行って遊んでいろ」

叔父様とその人の大人びた会話を聞いているうちに、私はどうしても好奇心が抑えきれなくなり、思い切って尋ねてみた。

「ねえ、あの……おじさんは、ルスフェーのお父様なの?」

すると、その人は目元を優しく細めてくすくすと言った。

「そうだよ。ルスフェーとは仲良くしてくれているのかい?」

もちろんだ! そう叫びたい気持ちが、私の顔いっぱいに広がった。私は何度も、壊れそうなほど大きく首を縦に振った。

「はい! ルスフェーは、私の一番仲良しの友達なんです! 私の人生で、初めてできた大切な友達なんですよ!」

「初めての友達か。それは彼にとっても素敵なことだね。どうかこれからも、仲良くしてあげておくれ」

「はい! じゃあ、今からルスフェーと私のお部屋で遊んでもいいですか?」

「もちろん、構わないよ」

「ありがとうございます!」

私はぺこりと深く頭を下げると、少し離れた場所に彫刻のように立っているルスフェーのもとへとダッシュした。

「ルスフェー!」

いつもなら私の姿を見るなり真っ先に駆け寄ってきてくれるのに、今日の彼はなぜかその場から頑なに動こうとしなかった。それどころか、どこか酷く硬い表情で、何かを耐えるようにしている。だから、私は彼が心配で仕方がなかったのだ。

私が息を切らせて近づいていくと、ルスフェーようやく小さく口を開いた。

「アイカ……」

その声は、どこかいつもより低く、静かだった。

「どうしてここにいるんだ? 父上はあそこにいるのに……」

「ああ、父上が『今日はアイカのところへ一緒に来い』って言ってくれたから」

「本当?」

「うん」

私は後ろの大人の二人をちらりと振り返ってから、もう一度ルスフェーへと向き直り、彼の小さな両手をぎゅっと握りしめた。

「一緒に遊んでもいいって、お父様もお許しをくれたよ! 私のお部屋へ行こう。叔父様が『アイカの部屋は安全だ』って言ってたから!」

「安全……?」

「ええと……とにかく、そういうことなの!」

私は詳しい事情を子供の言葉でうまく説明できず、ごまかすように無邪気に笑った。

ルスフェーの手を引いて歩き出したそのとき、彼はふと何かを決意したように足を止め、まだカッセル叔父様と話し込んでいる父親の方を真っ直ぐに見つめた。

「父上」

ルスフェーの声は小さかったけれど、どこか大人の男としての約束を確認するような、強い響きを帯びていた。

「分かっているよ、ルスフェー。大人たちには大人たちの複雑な話がある。お前は大切な友達と、楽しく遊んでいるといい」

父親の言葉に続き、カッセル叔父様も口を開く。

「用件が終わる頃には、責任を持ってそいつをお前の元へ帰してやるさ。うちで預かる」

叔父様の言葉を聞いたルスフェーの父親は、満足そうに息子の頭を優しく撫でた。

「それでは頼みます、バリエット卿。ルスフェー、友達と素晴らしい時間を過ごしておいで」

「――ありがとうございます、父上」

その瞬間、ルスフェーの瞳にパッと眩しい輝きが灯った。彼は深く頭を下げると、今度は自分から私の手をぎゅっと力強く握り返してくれた。

「早く行こう、アイカ」

「うん!」

私たちはそのまま、弾むような足取りで豪奢な公爵邸の中へと入り、二階へと続く大階段へと向かった。

「お嬢様! お帰りなさいませ!」

階段の途中で、顔を合わせたメイドのお姉さん――メリーが、持っていたトレイを落とさんばかりに慌てて駆け寄ってきた。

「うん、メリー! ただいま!」

「みんな! アイカお嬢様がお帰りになったわよ!」

メリーがそう大声を上げた途端、屋敷の奥から次々とメイドたちが波のように集まってきた。

「レアもお姉様たちも、こんにちは!」

あっという間に、私とルスフェーは興奮したメイドたちの温かい輪の中に閉じ込められてしまった。

「これからは、ずっとこちらのお屋敷にいてくださるんですよね、お嬢様?」

「うん、そうだけど……みんな、どうしてそんなに嬉しそうなの?」

私がきょとんとして問いかけると、メイドたちは一瞬顔を見合わせ、それからパッと花が咲いたような明るい笑顔になって、パチパチと拍手をした。

「違うんです、お嬢様! ただただ、お嬢様がお帰りになられたことが嬉しくて! 本当に寂しかったんですよ、どれほどお会いしたかったことか!」

「そ、そうなの……? えへへ、みんなありがとう! 私もみんなに会いたかったよ!」

私は急に熱烈な歓迎を受けて、少し照れながら笑った。ただ家に戻ってきただけなのに、こんなにみんなが涙ぐんで喜んでくれるなんて、なんだか不思議な気持ちだった。

ずっと、胸の奥が不安で押しつぶされそうだった。

けれど、カッセル叔父様に最大の秘密を打ち明けたし、叔父様は私の話を信じると言って、守ると約束してくれた。それに、屋敷のメイドたちもみんな、こうして私を心から歓迎してくれている。みんなの笑顔のおかげで、私の胸の奥に重くのしかかっていた冷たい不安が、ずいぶんと軽くなっていくのが分かった。

今日は叔父様に「心配するな」と言われたのだから、あの花畑の花屋に残してきたメイドたちの安否については、後で確認すればいい。

どうか、ネリお姉さんがロドリゴ伯父様のところへ無事にたどり着いていますように――。

そう心の中で強く願いながら、私はメイドたちの熱烈な歓迎をようやく切り抜け、二階の自室へと上がることができた。

ルスフェーとしっかりと手を繋いで廊下を歩いている途中、彼がふいに足を止めて、少し決まり悪そうに口を開いた。

「あのさ……数日前、アイカに宛てて手紙を送ったんだけど……あれ、届いた?」

「手紙?」

私はきょとんとしてルスフェーを見上げた。ぱちぱちと瞬きをして、私の小さな脳細胞がようやく過去の記憶を呼び覚ます。

そうだ、手紙だ! 叔父様が「まだ読むな」と言って、没収して渡してくれなかった、ルスフェーからのあの謎の手紙!

「あっ……! そうだ。ルスフェーの手紙ね、たぶん今、叔父様が持ってるの」

「えっ、バリエット伯爵様が?」

「うん。私、ずっとおじい様の家(本邸)にいたから、まだ渡してもらってないの。あとで絶対に叔父様から取り返してくるね! 一体、何が書いてあったの?」

そう無邪気に問い詰めた瞬間、さっきまで少し緊張で硬かったルスフェーの顔がふっと緩んだ。

そして、見る見るうちに彼の白い耳の裏までがほんのり赤くなっていく。ルスフェーは気まずそうに視線を泳がせながら、蚊の鳴くような小さな声で答えた。

「別に……大したことじゃない。手紙を読めば、全部分かるから」

「そうなの?」

「うん……」

「じゃあ、あとで絶対に取り返して読むね!」

私が顔を近づけてにっこり笑うと、ルスフェーはさらに顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。

「……うん」

なんだか、今日のルスフェーは様子がおかしい。けれど、本人がそう言うなら、手紙を読むまでのお楽しみに取っておこう。

「それよりね、もうすぐジェンダもここに来るかもしれないよ! みんな揃ったら、私のお部屋で特製の人形遊びをしよう!」

「……はは、またあの人形遊びか」

「うん!」

私はルスフェーの手をぐいぐいと引っ張りながら、自分の部屋の扉を勢いよく開け放ったのだった。

ネリの話を最初から最後までじっと聞き終えたロドリゴは、相変わらず胸の前で頑強な腕を組んだまま、微動だにせず椅子に座っていた。

その大きな片手には、ネリが命懸けで持ち帰った、あのしわくちゃの『裏切りの証拠』がしっかりと握られている。

「――なるほどな。それじゃあ、あの日お前の店を訪ねてきた怪しい連中は、全員がお嬢様(アイカ)の命を不当に狙う、レギア侯爵の手先どもだったってことか」

背中の毒の痛みは未だ凄まじかったが、ネリは脂汗を流しながら、一生懸命に何度も頷いた。

「……はい。その袋の中に、侯爵家の家紋が刻まれた本物のボタンも取っておいたんです。以前、店内に落ちていたのを、私が誰にも見つからないようにこっそり拾って保管していたんですよ。私たちのような平民が、貴族と危険な裏取引をするときは、いつもいざという時のための『別の財布(切り札)』を持っていなきゃ生き残れないってことを、嫌というほど知っていましたから」

「だから、お前はこれを残していたわけか」

「……はい」

「……」

「それから、そこにある計画書の筆跡も……もちろん公的な確認をする必要はありますが、あの男が自らの手で直接書いたものですから、調べれば必ず本人のものだと突き止められるはずです。ただ、そういう高貴な方の筆跡鑑定には、民間だとかなり莫大な費用がかかると聞いていたので……」

ロドリゴは、ネリのその心配を遮るように、大きな手をひらりと無造作に振った。

「その程度の心配は一切無用だ。すべては我らが至高のお嬢様のためのこと。その程度の金など、我がエボソフ家にとっては端金(はしたがね)にもならん問題だ。まずは、この決定的な証拠の数々をカッセル公爵様(※バリエットの次期当主)に完全な形でお伝えしよう。当然、お前にはそのための証言をしてもらう必要がある。公爵閣下の前でも、そして必要ならば、いずれ開かれるであろう法廷の場でもな」

「はい……。ここまで生きてたどり着いた以上、自分が何をしなければならないのかは、もう痛いほど分かっています」

ロドリゴは、ネリの目を鋭く射抜くようにして問いかけた。

「――たとえその結果、お前自身が一度は陰謀に加担しようとした『共犯者』として、厳しく処罰されることになってもか?」

ネリは一瞬だけ躊躇ったが、すぐに覚悟を決めて真っ直ぐに応えた。

「はい。私が私欲のために犯そうとしていた罪についても、すべて、逃げずに責任を負うつもりです」

その一切の誤魔化しのない答えを聞いて、ようやくロドリゴは満足したように、どっかりと腰掛けていた椅子から重々しく立ち上がった。

「よろしい。その覚悟があるならば、お前の命は我がエボソフ家が保証してやる。だがな――」

ロドリゴはそこで言葉を区切ると、部屋の頑丈な木製の扉へと視線を向けた。

「たとえ後でお前が恐怖に負けて気が変わったとしても、この屋敷から逃げようなんて馬鹿なことは一切考えないことだ。――おい、そこにいるんだろ、もう入ってきなさい! 聞いていないふりをして盗み聞きなど、見苦しいぞ」

閉ざされた扉に向かって、ロドリゴが突然声を張り上げた。

ネリは何事かと頷きかけて、思わず目を大きく見開いた。どうやら、扉の外にはとうにあの偏屈な医者が戻ってきていたらしい。

その瞬間、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

マルコム医師が、これ以上ないほどわざとらしい大袈裟な咳払いをしながら、部屋の中へと堂々と入ってきたのだ。その狸寝入りならぬ「狸聞き」の姿を見たロドリゴは、盛大に舌打ちをした。

「何をそこで姑息に聞き耳を立てているんだ。戻ってきたなら、さっさと入ってくればいいだろう」

「いやいや、君たちの極めて大事な密談が終わってから入ろうという、私なりの高度な配慮だよ。非常に深刻そうな話だったから外で待っていたら、入れと言われたり、入るなと言われたり……。まったく、この家の主人は相変わらず人使いが荒くて敵わん」

「能書きはいいから、さっさとこの娘の解毒治療の続きをしてやれ。わざわざ薬を取りに戻った意味がなくなるだろう」

ロドリゴに促され、マルコムは意外そうな顔をしながら丸縁眼鏡を指先で押し上げた。

「おや、そこのお嬢さんとの話し合いは、首尾よくまとまったようだな」

「だったら治療を頼む。命に関わるんだろう」

ロドリゴはマルコムの肩を無造作に軽く叩くと、そのまま部屋を出て行こうとした。

「ま、待ってください……っ!」

ネリは慌てて、身体に残された最後の気力を振り絞り、遠ざかる背中に向かって声を上げた。ロドリゴが足を止める。

「まだ何か私に言いたいことでもあるのか? 最初にすべて話しておけばいいものを、何度も出入りするのは面倒なんだ。私は別の仕事のせいで、これ以上帰りが遅くなるのは御免なんだよ。最愛の妻が家で待っているんでね」

「そ、その……。私をここまで執拗に追い回していた、あの恐ろしい人たちは……その後どうなったのか、教えていただけますか……?」

ネリのその怯えた問いに、ロドリゴは「なんだ、そんなことか」と言わんばかりに平然と答えた。

「ああ、あいつらか?」

「さっき、君が逃げ込んだあの倉庫の地下に、一網打尽にして閉じ込めておいた連中のことかね?」

横からマルコム医師が、ちらりとロドリゴの顔を見ながら補足するように尋ねた。

倉庫に……閉じ込めた……?

あの、武器を持った、私を殺そうと殺気を放っていたプロの暗殺者集団を?

ネリは驚愕のあまり、完全に言葉を失って目を丸くした。

「そいつらが隠し持っていた暗殺の証拠品と一緒に、後でバリエット公爵家の憲兵団へ引き渡すつもりで、ひとまず全員の手足をへし折って大人しく捕まえておいたんだ。何か問題でも? どのみち、お前を追う刺客はもう街には一人も残っていない。だから、安心してそこで治療に専念しろ。――それと、重ねて言うが、逃げ出そうなどとは夢にも思うなよ」

それだけを冷淡に言い残すと、ロドリゴは今度こそ今夜の仕事を終えたという風に、悠然と部屋を出て行ってしまった。

「……お嬢さん、今のあの一徹な主人の荒っぽい言葉は、あまり深く真に受けない方がいい。その方が、君の精神衛生上とても良いですよ」

マルコムは苦笑しながらネリを優しくたしなめると、手慣れた手つきで、鞄から強力な魔力を帯びた解毒剤や清潔な包帯を次々と取り出し始めた。

(……まったく、バリエット家に関わる人々というのは、一体どんな怪物たちなのだろう)

ネリはベッドの上で、言葉にならない衝撃に震えていた。

血の繋がりがなくても、あのバリエット公爵家に引き取られ、その傘下に入った者たちは皆、平民の常識を遥かに超越した並外れた実力を持っているということなのだろうか。そうでなければ、ただのベーカリーの店主であり料理長にすぎないはずの男が、武装したプロの暗殺者集団を、おまけのようにあっさりと単独で制圧できるはずがない。

自分は一体、誰を相手に、どれほど恐ろしい命知らずな裏切りを働こうとしていたのだろう。

ネリは自らの愚かさを呪うと同時に、バリエットという名の巨大な影の底知れなさに、改めて背筋が凍りつくような本物の戦慄を感じずにはいられなかった。

 



 

 

  • アイカの予知能力の告白とカッセル叔父様の苦悩

    アイカはカッセル叔父様の事故やレトの悲劇を予知していたことを必死に打ち明ける。カッセル叔父様はあまりの衝撃に深く苦悩しつつも、アイカの言葉を信じて「子供らしく遊んでいろ」と彼女の安全を保証し、バリエット公爵邸へと連れ帰る。

  • ルスフェー父子の来訪とメイドたちの熱烈な歓迎

    公爵邸に到着すると、ルスフェーとその父親(次期皇位継承者)が前触れもなく現れる。大人たちが複雑な事情を話し合う間、アイカはルスフェーと自室で遊ぶ許可を得る。さらに、屋敷のメイドたちからも涙ぐむほどの熱烈な歓迎を受け、アイカの不安は和らいでいく。

  • ネリが差し出した決定的な証拠とエボソフ家の鉄壁の保護

    一方、ロドリゴ(エボソフ)の屋敷では、ネリが命がけで持ち帰ったレニア侯爵の陰謀の証拠(自筆の計画書や家紋入りのボタン)を差し出す。ロドリゴはネリを追ってきた暗殺者集団を単独であっさりと制圧・拘束しており、自らの罪を認めたネリの身の安全を保証してマルコム医師に治療を委ねる。

 

 

【悪党おじさんと暮らしています!】まとめ こんにちは、ピッコです。 「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹...