こんにちは、ピッコです。
「ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
どういう訳か小説の中の悪の一族、アグリチェ一家の娘「ロクサナ」に生まれ変わっていた!
アグリチェは人殺しをものともしない残虐非道な一族で、ロクサナもまたその一族の一人。
そして物語は、ロクサナの父「ラント」がある男を拉致してきた場面から始まる。
その拉致されてきた男は、アグリチェ一族とは対極のぺデリアン一族のプリンス「カシス」だった。
アグリチェ一族の誰もがカシスを殺そうとする中、ロクサナだけは唯一家族を騙してでも必死に救おうとする。
最初はロクサナを警戒していたカシスも徐々に心を開き始め…。
ロクサナ・アグリチェ:本作の主人公。
シルビア・ペデリアン:小説のヒロイン。
カシス・ペデリアン:シルビアの兄。
ラント・アグリチェ:ロクサナの父親。
アシル・アグリチェ:ロクサナの4つ上の兄。故人。
ジェレミー・アグリチェ:ロクサナの腹違いの弟。
シャーロット・アグリチェ:ロクサナの妹。
デオン・アグリチェ:ロクサナの兄。ラントが最も期待を寄せている男。
シエラ・アグリチェ:ロクサナの母親
マリア・アグリチェ:ラントの3番目の妻。デオンの母親。
エミリー:ロクサナの専属メイド。
グリジェルダ・アグリチェ:ロクサナの腹違いの姉。
ポンタイン・アグリチェ:ラントの長男。
リュザーク・ガストロ:ガストロ家の後継者。
ノエル・ベルティウム:ベルティウム家の後継者
44話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 招かれざる訪問
翌日、ペデリアンの正門の方がなんとなく騒々しかった。
「どうした?」
カシスがイシドールを訪ねてきた。
「オルカ・フィペリオン様が主様とのご親交を強調して訪問をお願いしております」
カシスはその言葉に眉をひそめる。
「帰せ」
「はい」
オルカ・フィペリオンと親交がなかったわけではない。
しかし、だからといってこのような状況に出入りを許可するほど親密な仲でもなかった。
結局、オルカはペデリアンに歓迎されず、門前払いを食わされる。
それから一時間ほど経った時、飛行型の魔物を使って城門を超えていたオルカの姿が摘発された。
「ああ、これはこれは。不本意ながら失礼することになった。近くの魔物の生息地を集中して探し回っていたが、目の前にそびえ立つ壁がペデリアンの城門だと知らずに飛び越えてしまったのです」
それでもオルカは緊張する気配もなく、ニヤニヤ笑ってとんでもないことを喋っていた。
「オルカ、この狂人・・・」
オルカと一緒に捕まったパンドラが横で歯を食いしばっている。
オルカが彼女の魔物であるチュロべの支配権をしばらく渡すように言った時まで、まさかこんな奇想天外なことをするとは思っていなかったのだ。
「そんな言葉を信じろと?」
その時、カシスが彼らを引き止めた場所に入ってきた。
「あっ!青の貴公子!」
イライラしているカシスの一方で、オルカは彼を見て喜ぶ。
「魂の半分を分けた親友よ!いつぶりでしょうか?訪問の要請も冷たく断られて、私がどれほど寂しかったか・・・。こんな風にまた会えて嬉しいです」
「親友?いつから君と私が友情を分けあった仲になったんだ?」
オルカはカシスの冷遇にも屈せず笑顔を浮かべたまま。
カシスは彼のペースに巻き込まれずに淡々とした口調でオルカを取り調べた。
「初めにペデリアンを訪問しようとした目的が何なのか、それを明らかにしろ。処遇はその後に考える」
「あ、大したことではないのですが、ちょうど近所に来たついでに挨拶でもと思ったのです。まあ、本当にそれが全部ですから。それでも一応侵入者だから調査をしなければならないでしょう?しばらくお世話になりますね」
「・・・」
カシスはしばらく目を細くしてオルカを見た後、イシドールに尋ねる。
「捕獲した魔物は?」
「閉じ込めてあります」
「フィペリオンから返信が来るまでは拘禁させていただく」
「そうですね、原則というものがあるので仕方がありません。僕と姉さんもそのくらいは理解していますよ。そうだよね、姉さん?」
オルカは図太い態度でパンドラの同意を求めながら笑った。
カシスが招かざる客を相手にせずに席を立とうとした瞬間。
「ところで、ここのご飯は美味しいですか?何日間もずっと干し肉と草だけを食べていたのでお腹が減りました」
オルカの呑気な言葉に、パンドラをはじめとする人々は、当然、荒唐無稽さを感じて空笑いをしてしまう。
「一体どういうつもり?」
しばらくして、刑務所に閉じ込められたパンドラが、声を小さくしてオルカに厳しく問い詰める。
しかし、オルカはペデリアンから出された食事を食べるのに余念がなかった。
「そんな目をしないでよ。何日かの休養だと思えばいいさ。それよりも、ここの食事は美味しいね」
「お前・・・、もしかして私を利用したの?」
ふと考えた。
もし困難な状況になれば、パンドラにすべてのことを被せて、一人だけ足を引こうとする思惑ではないか?
「え?利用?姉さんも同意したじゃないか?何を今更のように」
「お前・・・!」
「私には飛行型の魔物がいないから、姉さんがいなかったら毒蝶を見つけても諦めざるを得なくなるところだったからね。やっぱり、これは運命じゃないかな?ここにいる間に、毒蝶を探し出せれば・・・」
オルカはそう呟きながら、一人だけの世界に嵌ってしまう。
「どう見ても、あれは主人のいる毒蝶だったんだ。私の知らない魔物師がペデリアンにいた?ベールに包まれた青の貴公子の妹ではないだろうか?」
パンドラはそんな彼を見て、怒っていた心を少しなだめた。
「それなら殺して奪うのは・・・」
彼は自分が疑うような意図をしていたわけではなさそうだ。
「いや、最初に主人がいた毒蝶の刻印が切れた後、再び手懐けることができれば・・・」
そう、オルカはあらゆる最上級の魔物を保有していたが、飛行型魔物とは不思議なほど縁がない。
そのため今回も、単に城門を超える最も簡単な方法としてチュロべを思い出しただけなのだろう。
「姉さん、食欲がないの?じゃあ、僕が食べてもいい?」
「黙れ」
しかし、いくらなんでも自分を巻き添えにして、一人だけ気楽なオルカを可愛がるのは不可能だった。
そして、これ見よがしにプレートの上の食べ物を口の中に流し始める。
隣で虎視眈々とパンドラのご飯を欲しがったオルカが挫折したが、当然彼女の知るところではない。
「お客さんが来たようね。今日は外が少し落ち着きがないわ」
ロクサナがカシスに視線を投げかけたとき、彼は少し眉をひそめる。
オルカのことでしばらく雑念に耽っていたことに気づかれたようだ。
「招かれざる客だ」
「じゃあ別館は使わないの?」
「言ったとおり、客ではないのだから」
カシスの態度は断固としていて、ロクサナは思わず笑ってしまいそうになる。
「相手はフィペリオンだけど、それでもいいの?」
コップに手を伸ばしていたカシスの手が止まる。
「どうして分かった?」かのようにロクサナを見ると、彼女は瞬きをするだけ。
カシスの推測通り、彼女は毒蝶を通じてオルカ・フィペリオンがペデリアンを訪れたことを知っていたのだ。
もちろん、それを訪問と表現してもいいかどうか分からないが。
「私は構わないわよ」
そう呟いて、ロクサナは食事を続けた。
カシスはそれ以上何も言わない。
ロクサナが説明を求めない理由もあったが、カシスは彼女にオルカのことを話したくなかった。
けれど、どうしてこんな気持ちになるのか理由は分からない。
いや・・・。
本当に知らないわけではなく、ただ知らないふりをしているだけ。
なぜか食欲が衰えたので、カシスは虚な目つきで、目の前の皿を見下ろす。
夜が明ける頃、ロクサナは入浴後、窓際に腰を下ろした。
ペデリアンの領主と夫人には、これまで一度も会っていない。
彼らは自分がここに来た日すぐに外出し、まだ帰ってこないと聞いている。
それは本当なのか、それともカシスが言い繕った言葉なのか少し知りたかった。
もし後者なら、ペデリアンは自分の存在を喜んでいないのかもしれない。
しかし、カシスやシルビアはその後も何も言わなかった。
また、ロクサナが先にその話を切り出すつもりもなく、この問題はうやむやに。
もちろん毒蝶を本館に飛ばせば、真実を知ることもできるはず。
けれど、そこまでする理由もなく、そうしたくもない。
カシスは、ロクサナが知っておかなければならないことを除いて、その他のことを詳しく語らなかった。
ペデリアンに到着する前、焚き火を挟んで向かい合った時のように。
あの時もカシスは、ロクサナが望む以上の説明をしてくれなかった。
一方、カシスはあの日のように自分が彼に何か先に聞いてほしいと望んでいるようだった。
しかし、彼女はそうしなかった。
食事中にカシスが注意を逸らした間に取り出したナイフ。
そのナイフで腕を引いた。
切り傷から血が溢れ出て、すぐさま駆けてきた毒蝶が寄り添って彼女の血を吸う。
床に落ちた血も毒蝶が綺麗に平らげて、血の汚れは残らなかった。
しばらくしてロクサナは、ため息交じりに口を開く。
「そんな風に思わないでちょうだい」
首を回すと、いつの間にか入り口に立っているカシスの姿が。
部屋には明かりがついておらず、彼の表情は闇に紛れている。
彼は何か変な気配を感じてロクサナの部屋を訪ねてきたようだ。
相変わらず、彼は無駄なところで気が利く。
「どうせ私が死ぬまでは定期的にやるべきことだから」
カシスはロクサナの言葉に答えず、彼女に近づいてきた。
距離が狭まると、彼は無表情でロクサナを見下ろす。
「腕をこっちに出して」
カシスの手が傷口を覆うやいなや、傷口が塞がり血が止まった。
周囲に残っていた毒蝶も姿を消す。
ロクサナはその光景をじっと眺めながら口を開く。
「これは便利ね。治ったついでに、もう一度引いてもいいかしら?しばらくの間、餌を十分にあげられなかったから、もう一度食べさせておきたいんだけど」
彼女の腕を握る手に力が入る。
向き合ったカシスの瞳は、さっきより冷たく沈んでいた。
「・・・そうね。今日はやめておくわ」
カシスはロクサナの手に持っているナイフを片付けた。
その姿を見つめていたロクサナが、突然口を開く。
「でも、あなた。どうして私に何もしないの?」
テーブルの上にナイフを下ろしていたカシスの手が止まる。
彼が振り返ると、ロクサナは窓際から立ち上がった。
彼女は首を傾げながらカシスに近づく。
「おかしいわ」
ロクサナの顔のラインに沿って、金色の糸が柔らかに波立っていた。
「私を見るたびに、そんな目をしながら」
続いて綺麗な手がカシスの胸の上に落ちる。
目的を持っているのではなく、単に何かを確認しようとする動き。
「分かってる?」
しばらく下に垂れ下がっていた赤い瞳が、再び正面から彼を見上げた。
「今、あなたの心臓がすごく大きく脈打っていることを」
風呂上がりにガウンを一枚だけ羽織っているロクサナの体から、ほのかな香りが漂っている。
「でも、どうして?」
目の前のか細い喉を一口噛めば、甘い汁が染み出してきそうだった。
「私を見たら触りたくなるし・・・」
「・・・」
「キスしたいと思うんだけど?」
ロクサナは彼を誘惑しようとしているわけではない。
彼女はカシスのことを理解できなかったので尋ねただけ。
それでも今この瞬間、彼の目に映ったロクサナの全てが魅惑的だという点が問題だった。
「・・・まるで私の心を知り尽くしているように言うんだな」
低い声で話した彼の言葉を聞いて、ロクサナは反問する。
「それじゃあ、違うの?」
「いや、その通りだ」
カシスは意外にも納得し、彼の手が胸の上にあるロクサナの手を握る。
そして、それを引き寄せて香りを含んだような白い指先に唇を押し付けた。
囁くような低い声が部屋の中に静かに散る。
「あの日、アグリチェを出た夜に・・・」
続いてカシスに触れたロクサナの手が震えた。
「もし手を差し出した人が私じゃなくても、君には関係なかったのだろうな」
カシスも震えを感じたに違いないが、ものともせず囁き続ける。
「でも私は、君じゃないと駄目だった」
虚空から視線が移された。
「今ももし私の目の前にいる人が君じゃなかったら・・・」
ロクサナは浅い呼吸で、真っ直ぐに自分を見つめる金色の瞳を見つめる。
「こうして頭からつま先まで、全部を飲み込んで自分のものにしたいとも思わなかっただろうし」
部屋の中を覆う涼しい風で髪の毛が細かく揺れた。
「それだけでなく、どうしても君の心の奥底まで届きたくて、これほどまでに焦れなかっただろう」
カシスの言葉に、ロクサナは何も言えない。
カシスは一瞬か永遠か分からない時間を手先で流し、ロクサナを見て滑稽に笑う。
「・・・ただ言っておきたかっただけだよ」
言葉の重さをロクサナから減らそうとしているかのように、わざと軽く付け加えた言葉だった。
そして、今夜の別れを告げる挨拶をする。
「夜はまだ空気が冷たいから、早くパジャマに着替えて」
その後、穏やかに肌に染み込んでいた温もりが消えていく。
ロクサナはこの前のように、カシスが去った後もしばらく動けずにいた。
オルカとパンドラは、比較的早く拘留から解放された。
フィペリオン側で彼らの蛮行を知り、出来るだけ急いで返信を送ったため。
普段から奇想天外な行動をするオルカだったため、対処が早かったのだ。
予想通り、フィペリオンはオルカが犯した行為に頭を悩ませていた。
アグリチェの問題でただでさえ状況が複雑なのに、分別のない後継者がこんな行為をしたのだから、頭を悩ませるのは当然のことだろう。
カシスは別館の周囲に部下を配置し、警備を厳重にした。
万が一のことに備えて。
ひとまず、フィペリオンとの関係を考え、拘禁状態から解放したが、まだ警戒心を壊したわけではない。
もし自分がいない間に、オルカがロクサナのいる別館を騒がせる危険もあるから。
「見たことのない人がいるわね」
ロクサナも気づいていた。
彼女の呟きにシルビアが説明する。
「屋敷内に危険人物とされるお客様が来ています。それで別館に近づけないように守っているのです」
シルビアはいつになく目元を細めていた。
彼女も荒唐無稽な理由から、城門を越えたフィペリオンの招かざる客たちのことが気に食わないようだ。
(やっぱり晩餐会の時間に正式に挨拶を交わすことになりそうね)
「それじゃあ、今日の夕方はカシスも席を外すのね」
「お兄様がいなくて残念ですか?」
ロクサナが何気なく言った言葉に、シルビアは素早く反応した。
顔を上げてみると、なぜか妙に嬉しそうなシルビアの顔が視界に映る。
「晩餐が長引くようなら、お兄様だけでも早く帰れるように、私が何とかしてみますね」
シルビアはニコニコ笑いながら「私だけを信じて」と言った。
彼女が何を考えているのか分かる気がする。
けれど、ロクサナは何も言わない。
それよりもペデリアンの兄妹とフィペリオンの来賓の晩餐だ。
オルカは和合会に出席しなかったので、晩餐会がオルカとシルビアの公式の初対面になる。
小説のように、現実でもオルカがシルビアを好きになるのだろうか?
もしそうだったら、小説のようにシルビアに歪んだ執着を見せるのではないか少し心配だ。
「シルビア」「あの」
二人が同時に口を開く。
シルビアが固まっている間に、ロクサナが先に譲った。
「先にどうぞ」
するとシルビアはちょっとまごまごする。
その姿が普段とかなり違っているので、ロクサナは多少怪しく感じた。
そして、シルビアはついに決心したかのように唇を噛み締める。
「髪を触ってみてもいいですか?」
思いもよらない頼み。
ロクサナはシルビアの緊張した姿を見て瞬きしたが、すぐにそっと視線を逸らして受諾する。
「ええ」
シルビアの頬が一瞬で紅潮した。
彼女はサッと席を立ち、ロクサナの後ろに移動する。
気持ちを代弁するかのように、踊るような軽快な歩き方で。
「髪が絹の糸のように細く綺麗でしたので、一度触ってみたかったんです。あの・・・、もし良かったらブラッシングしてみてもいいですか?」
「好きにしてちょうだい」
「じゃあ、リボンで結んでみるのは・・・」
「構わないわ」
ロクサナにとっては何でもないことだったのに、シルビアは初めてキャンディを貰った子供のように喜んだ。
そんな彼女を見ていると、何だか妙な気分に。
浮き浮きした気持ちが如実に伝わってくる手が髪の毛に触れ始めた。
そしてロクサナは、シルビアに言おうとした言葉を忘れてしまう。
「髪形が変わったね」
シルビアが訪れた直後、ロクサナの部屋に入ってきたカシスが微かに顔を固める。
彼の視線はロクサナの頭に留まっていた。
「シルビアが結んでくれたのよ」
長い髪の毛は一本に緩く触れて、彼女の瞳の色と似た濃い赤色のリボンで縛られていた。
「変?」
「いいや」
ロクサナに似合わない髪型はなかったので、カシスは躊躇なく答える。
ただ、ロクサナの髪型はオルカに似ていたのだ。
もちろんシルビアはオルカを見たことがなかったから、知らないはず。
でもロクサナは・・・。
「君が直接シルビアにこの髪型に縛ってくれと言ったのか?」
心なしか、どこかやさぐれた感じの声が耳元を掠める。
「いいえ、勝手にしてもいいと言ったら、シルビアがこの髪型にしたのよ」
ロクサナは、カシスの考えていることに気づいていないように答えた。
カシスの手が金色の髪に繋がれたリボンの周りを静かに徘徊する。
まるで、そのリボンを今すぐにでも掴んで解き放して何処かへ放り出してしまいたいかのように。
赤いリボンを見下ろす瞳も、餌を目前に控えた飢えた獣のように、短期で鋭かった。
その後、カシスは辛うじて強烈な誘惑を振り切って手を下ろす。
彼はいつものように静かな姿に戻ってロクサナに話しかけた。
「今日の食事は一緒に食べられなくなった」
「シルビアから聞いているわ」
「出来るだけ早く帰って来るから」
カシスはロクサナの顔に不満を持っていることに気づいていないふりをする。
「じゃあ、行ってきます」
「いや〜、ペデリアンにこんなに美しい方がいらっしゃるとは知りませんでした。こういう運命的な出会いがあると知っていたら、和合会にも早くから参加していたのに」
晩餐会に出席した4人の中で唯一オルカだけが明るい顔をしている。
彼が口を開いて一言ずつ投げる度に、オルカを除いた全ての人が顔を冷やした。
彼は気に入った女性に色目を使う市井の輩のような格好をしていた。
ガラスの破片のように透き通った外見に対して、彼の口から出る言葉は安っぽい。
「運命って・・・、意味が全然分からないのですが」
シルビアは冷ややかな態度でオルカの言葉を断ち切るが、それでも彼は屈しない。
「いいえ、考えてみてください。シルビア嬢は花のように美しく、私は蝶のように美しいので、私たちは本当にお似合いのカップルになるでしょう。あ、でも僕の美貌が花のように華やかでもあるので、私が花の役でシルビア嬢が蝶の方を担当してもいいですよ。シルビア嬢は、もしかして蝶が好きですか?」
オルカの言葉が続くにつれて、食卓を囲む3人の表情が一様に変わっていく。
カシスは冷たく顔を固め、シルビアは荒唐無稽な様子を隠せず、パンドラは訳が分からないという表情を。
「白の魔術師。私の妹にずっと軽薄な口を利かせるのなら、昨日いたところに戻してやる」
カシスは冷ややかに警告した。
「あっ、申し訳ありません。元々人見知りをするので、緊張するほど口数が多くなってしまうのです。もし私の辻褄の合わない言葉に気分を害されたのであれば、お詫び致します、シルビア嬢」
オルカは丁寧に謝罪したが、その内容は依然として荒唐無稽なもの。
人見知りが激しいなんて、オルカを知っている世界中の人々と魔物たちが嘲笑う言葉だろう。
シルビアはオルカの言葉で気に入らない部分をきちんと訂正する。
「もう一つ。私は名前を承諾した覚えはありません。ペデリアン嬢とでも呼んでください」
「あはは。でも私のことはオルカと呼んでほしいです」
それでもその後はやや正常な対話が交わされた。
オルカはシルビアに興味があるらしく、かなり頻繁に話しかけていた。
カシスは時々、彼が過度に馴れ馴れしくする時に制止する。
何度か話しているうちにオルカの口数は次第に減っていき、シルビアは彼の関心が自分から遠ざかったことに安堵した。
「ううっ、急にお腹が・・・」
そして、突然オルカが不快感を訴えるように胸と腹を押さえる。
「久しぶりに脂っこいものを食べたから、お腹を壊したのかもしれません」
事実、オルカは冷や汗までかいていた。
「あっ、突然大腸から大自然の気運が・・・」
「汚いことを言わないで、急いでいるなら早く出ていけ!」
パンドラが怒鳴ると、オルカは慌てて食堂を出ていく。
「フィペリオンの家風はかなり自由な方ですね」
「オルカがユニークなだけです・・・」
シルビアの遠回しの発言に、パンドラは呻き声を上げて呟く。
穴があったら入りたかった。
オルカが食堂を出た途端、カシスは目で合図する。
すると、晩餐会場のドアのそばに立っていた部下たちが音もなくオルカの後について姿を消した。
「オルカの無礼さは、私が代わりに謝罪します」
パンドラは心の中でオルカに向かって歯軋りしながら、ペデリアンの兄妹に頭を下げる。
「しばらく魔物の生息地を転々としながら外で生活してきたせいか、まだ新しい環境に適応できていないようです」
オルカはフィペリオンの後継者だ。
「今回の侵入の件についても責任を痛感しております。魔手を操る能力が足りず、オルカと共にこの辺の生息地を調べていたところ、不本意ながらペデリアンの城門を超えてしまったのです」
だから、彼に恥をかかせるわけにはいかなかった。
「魔物生息地の調査もあらかじめ許可を得なければならなかったのに、前もってタイミングを逃した点、申し訳なく思っております」
「白の魔術師の独特な気質についてはペデリアンの中でもよく知っています。すでにフィペリオンと公文書を通じて話を終えた後なので、このように説明する必要はありません」
カシスはパンドラの個人的な言い訳なんか何の興味もなさそうに形式的な言い方で告げる。
その声はひどく乾燥していて無情にさえ感じられるほど。
「そう言ってくださって、ありがたいです」
カシスのドライな視線がパンドラに当たる。
彼女は内心、密かに感嘆していた。
(こうして見ると、青の貴公子もすごくカッコよくなったわよね)
数年前に見た時までは、もう少し柔らかくて有限な印象だったと思うけど、こんなに雰囲気が変わるとは。
もちろん、その時もカシス・ペデリアンは貴公子という言葉に事足りず、夜明けの光のような秀麗な魅力を誇っていた。
しかし、今の「カシス」を見ると、あの時の彼は未熟な果実も同然だったという事実が分かった。
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オルカらのペデリアン潜入と拘留
フィペリオン家の後継者オルカが、パンドラの飛行型魔物チュロべを使ってペデリアンの城門を密かに飛び越え侵入したため捕獲されます。オルカは「毒蝶の新しい主人(ロクサナ)」の存在を疑い、ペデリアン内にいる毒蝶の調査を目的に不敵な態度で拘留されますが、実家の素早い謝罪公文書により一時的に解放され、晩餐会が開かれます。
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カシスとロクサナの冷たくも濃密な距離感
ロクサナは自らの血を毒蝶に与えるため定期的に腕をナイフで傷つけており、それに気づいたカシスが能力で傷を癒やします。カシスへの理解に苦しむロクサナが「なぜ私に触れたりキスしたりしないのか」と問い詰めると、カシスは彼女の手の指先に唇を寄せ、「頭からつま先まで全部を自分のものにしたい」「心の奥底まで届きたくて焦れている」と秘めた独占欲と深い情愛を告白します。
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晩餐会でのオルカの暴走とそれぞれの思惑
解放後の晩餐会で、オルカはシルビアに対して「運命の出会い」などと軽薄な態度でアプローチを重ねますが、カシスやシルビアに冷徹にあしらわれます。その後、オルカは体調不良を装って席を外しますが、カシスはすかさず部下に追跡を命じて警戒を緩めず、パンドラはオルカの数々の無礼を平謝りしながらも、以前より圧倒的な大人の魅力を纏ったカシスの姿に密かに感嘆します。