こんにちは、ピッコです。
「悪役令嬢の推しに選ばれました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
37話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- セラフィナの焦り
「まあ、クラウディウス公爵令嬢様でいらっしゃいますか?」
修道女は慌てて頭を下げた。
「公爵家から定期的にご寄付をいただいているおかげで、私たち大神殿の地方にも、孤児院をさらに増やすことができました。本当にありがとうございます。」
侍女たちは目を丸くして公女を見つめ、当の公女は少し照れたような表情を浮かべる。
「公女様でしたら、そのままお入りください。公爵家のお名前で、毎日お花もお供えいただいておりますので。」
「ありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ感謝しております。」
そうして挨拶を交わしたあと、私たちは礼拝堂の中へと足を踏み入れた。奥には女神像を祀った祭壇が見えている。
慈愛に満ちた母の姿で表現された女神像を中心に、白い花があふれる花瓶が周囲を取り囲むように並び、その光景は神聖さに満ちていた。
祭壇の中でも最も目立つ場所――言うまでもなく女神像のすぐ前には、ひときわ豪華な花瓶が一つ置かれていた。
「まあ、あれをご覧になって」
一人の令嬢が目を丸くして指さした。
「クラウディウス公爵様からの献花ですわ!」
ひときわ見事なガーベラが活けられた花瓶の下には、「クラウディウス」と書かれた札が添えられている。令嬢たちは目を輝かせながら公女を見つめた。
「公爵様は寄付にも熱心でいらっしゃるのですね……」
「本当に素敵ですわ。」
すると、本好きで有名な令嬢セウードが口を挟んだ。
「クラウディウス公爵様は、貴族としての権利だけでなく、道徳的な義務にも忠実なことで有名なんです。このことは『ロイヤル・ブラッド』という本にも書かれています。」
「説明にもちゃんと書かれているのに……」
「も、もういいです。恥ずかしいので……」
公女は頬を赤らめながら、慌てて手を振った。そんな公女の姿を初めて見た侍女たちは、一斉に目を丸くする。
(ああ、ようやく少し慣れてこられたのね。)
最初の頃は、まるで針を立てるように周囲を拒んでいらしたのに。今では他の侍女たちの中にも自然と溶け込んでいるようだった。私は思わず微笑んだ。
そうして私たちはそれぞれ献花を終えたが、その中で、まだエヴァンス首席司祭への未練を断ち切れない侍女が一人いた。
「公女様……」
レディ・サンチェスが、切実な眼差しで公女を見つめる。
「一つだけお願いを聞いていただけませんか?」
「……」
公女はあからさまに気乗りしない表情でレディ・サンチェスを見返した。それでもレディ・サンチェスは諦めない。
「その……公女様は、エヴァンス首席司祭様とも親しい間柄なんですよね?」
「そうですけど?」
「今回私たちが選んだ本は、エヴァンス首席司祭様ご本人が著者でもありますし、直接お話を伺えれば、内容ももっと理解できると思いまして……」
あれこれ理由を並べていたが、結局はエヴァンス首席司祭との面会を取り持ってほしいというお願いだった。
(いや、この子はいったい何を考えているの?)
私はただ呆れるしかなかった。公女様に無茶をさせるつもりなの? しかも、首席司祭ほどの立場の人物と、約束もなく会えるわけがないでしょう!
(公女様だって、当然お断りになるはずよね!?)
そう思って公女様を振り返ると――。
「え?」
私は思わず目を瞬かせた。公女様が、じっと私を見つめていたからだ。しばらくためらったあと、公女様は複雑そうな声で私に尋ねた。
「レディ・アン、あなたも首席司祭様にお会いしたいのですか?」
「会いたいんですか?」
「いいえ、別に。」
私はきっぱりと首を横に振った。いくら顔が良くて有能でも、セラフィナと同類の人間とは、できれば関わりたくない……。
(それに、公女様はエヴァンス首席司祭のことを苦手にしているし。)
私が男性主人公に多少興味を持っているとしても、男性主人公より公女様のほうがずっと大切だ。私の返事を聞くと、レディ・サンチェスは不満そうに私をにらんだ。
(何よ、あなたに関係あるの?)
私は気にしなかった。一方、公女様は少し困ったような表情で、私とレディ・サンチェスを交互に見比べると、
「分かりました。ひとまず司祭様には、お伝えだけしてみます。」
と言った。当然断ると思っていたのに……え?
(ええっ!?)
私は目を丸くして公女様を見つめた。公女様は少しためらいながら続ける。
「ただ、あらかじめ言っておきますが、断られる可能性は高いですよ。」
「はい、それでも構いません! 本当にありがとうございます!」
レディ・サンチェスは興奮のあまり頬を赤く染めた。
「……」
最後に私をじっと見つめた公女様は、そのままその場を離れていった。私は少し呆然としてしまう。
(何なの、これ……?)
今、公女様はレディ・サンチェスの頼みを聞き入れてくださったの? いつもの公女様なら、きっぱり断っていたはずなのに……。まさか、私の返事を聞いたレディ・サンチェスが気まずい思いをしないように?
……私の立場を気遣ってくださったから?
(そんなはず……。)
私はぎゅっと唇をかみしめた。頭では分かっていた。サルロンでの件も無事に終わり、南部教会での仕事もあり、今回の読書会でも――。
読書会に毎回欠かさず参加するようになってから、公女様が傲慢だという評判は以前よりずいぶん薄れてきた。とはいえ、その評判が完全になくなったわけではない。だから私は今まで、できるだけ穏便に済ませようとしてきたけれど……。
(先に一線を越えたのは、あっちでしょう?)
これまで公女様とほとんど交流もなかったくせに、男に目がくらんであんな失礼な頼み事をするなんて。正気なの?
私は冷たい視線でレディ・サンチェスを見つめた。
—
その頃――。
セラフィナは大神殿の礼拝堂へ足を踏み入れた。今回、クラウディウス公女が読書会の仲間たちと大神殿を訪れたと聞き、何とか接点を作ろうと、はるばる後を追って来たのだ。
それでも、自尊心が傷つくのは避けられなかった。
(そんなわけない。)
セラフィナは自分にそう言い聞かせる。
(私はあくまで神殿に供物を捧げるために来たのよ。決して読書会を目当てに来たわけじゃないんだから……!)
礼拝堂の入口で記帳をしようとしていたセラフィナは、ふと足を止めた。
【ラリテ・アンシ】
【エヴァンジェリン・フォン・クラウディウス】
並んで記された名前が、妙に気になった。しばらくその名前を見つめていたセラフィナは、やがてにこやかな笑みを浮かべて司祭に尋ねる。
「失礼ですが、司祭様。クラウディウス公女様は、お花をお供えになったのでしょうか。それとも花瓶を奉納されたのでしょうか?」
「え?」
司祭は思いがけない質問に戸惑ったような表情でセラフィナを見返した。
「公女様は、特に供物をお供えになる必要は――」
「ございません。クラウディウス公爵家のお名前で、いつも神前に花瓶がお供えされていますので。」
「……」
その瞬間、セラフィナの表情がわずかにこわばった。
(本当に嫌。)
こうして何気ない場面で、公女との圧倒的な差を思い知らされるたびに――。公女が、越えられない高い壁のように感じられた。セラフィナがどれほど努力しても、決して公女には及べない気がして……。
「レディ・ロペス?」
急に黙り込んだセラフィナを、司祭が不思議そうな顔で見た。我に返ったセラフィナは、とっさに笑みを作る。
「それでしたら、私にも花瓶をひとついただけますか?」
「あ、はい……」
司祭は戸惑いながら花瓶を差し出した。代金を支払おうとしたセラフィナは、表示された金額を見て肩を震わせる。
(こんな……。)
その金額を見て、ようやく我に返った。それは当然のことだった。セラフィナはそっと唇をかむ。
(やっぱりそうよね。)
花の数が一番少ない、質素な花瓶だったとはいえ、その花瓶代はセラフィナの一週間分の生活費に近い金額だった。ラリテからの援助はとっくに途絶え、最近ではグレゴリーもセラフィナにとても冷たくなっていた。
(どうにかして生活費を切り詰めないと……。)
手に抱えた花瓶の重みが、急にずっしりと感じられた。それでも――。
(貴族として取り乱すわけにはいかない。)
セラフィナは意識して背筋を伸ばし、優雅な足取りで歩き出した。内心はどうであれ、表向きは教団の「白百合」として、堂々と自信に満ちた姿を見せなければならなかった。
そのとき。
「あれ?」
セラフィナは思わず足を止めた。遠くの柱の陰に、身を隠すように立っている一人のレディの姿が見えたからだ。
黄金のように輝く美しい金髪。そして、一目で高級品と分かる最高級のドレス。頭の先からつま先まで、まるで名工が作り上げた人形のように美しい彼女は――。
(クラウディウス公女?)
セラフィナは目を見開いた。
(でも、どうして一人なの? 最近はラリットという女といつも一緒だったはずなのに。)
周囲を見回したセラフィナは、少し離れた場所に数人の令嬢たちが集まっているのを見つけた。ラリットたちの一行だった。レディ・サンチェスの姿もある。
(……まさか。)
その瞬間、深緑色の瞳が不穏な光を帯びた。
(あれだけ偉そうにしていたくせに、公女もあの集団では仲間外れにされているの?)
—
「首席司祭様に、少しお時間をいただけないでしょうか?」
「……」
その問いを聞いた司祭の表情は、みるみる曇っていった。エヴァンジェリンも、その気持ちはよく理解していた。実際、それはエヴァンス首席司祭に対して少々失礼なお願いでもあったのだ。
首席司祭は神殿内でも多忙を極める高位の聖職者なのだから。たとえエヴァンジェリンが帝国唯一の公女であり、その親族だったとしても、普通は事前に約束を取り付けてから会いに行くべきだった。
「ひとまず、お伝えはいたしますが……」
司祭は困ったような表情で答える。
「ただ、首席司祭様がお断りになる可能性もございます。」
「ありがとうございます。それだけで十分です。」
エヴァンジェリンはうなずくと、その場を後にした。
「はぁ……」
紅い唇から、長いため息がこぼれる。今日は一日中、気分が晴れなかった。
(今日は本当に……嫌なことばかり。)
ラリテが他の令嬢と親しくしているのを見るのも嫌だったし、アイザックにまで気まずいことを言ってしまい、その顔を見るのもつらかった。レディ・サンチェスが無茶なことを言って無理やり頼み込んできた、というわけでもない。もし普段のエヴァンジェリンだったら、「嫌です」と言って即座に断っていただろう。
だが今回は、そう簡単にはいかなかった。なぜなら――。
(さっき、私がレディ・アンシーにきつく当たってしまったから。)
あの時の険悪な空気が、今もなお鮮明に残っている。ここで令嬢たちの頼みまで断ってしまえば、また気まずい雰囲気になってしまう。ラリットは読書会をとても楽しみにしているようだから、なおさらだ。
エヴァンジェリンはそっと唇を噛んだ。
(私のせいで、レディ・アンシーを困らせるわけにはいかない。)
彼女は先ほどの出来事を思い返す。
「もしかして、レディ・アンシーも首席司祭様にお会いしたいのですか?」
「いいえ。違います。」
ラリテがそう答えると同時に、レディ・サンチェスはじっとラリテを見つめた。その視線はどこか鋭い。
(私がレディ・サンチェスの頼みを断ったせいで、レディ・アンシまで困った立場になったらどうしよう。)
そう思うと少し気まずかったが、それでも頼みを引き受けるほうがよかった。そのとき――。
「あれ?」
エヴァンジェリンが首をかしげた。遠くから誰かの話し声が聞こえてきたからだ。ラリテたちの一行だった。
「公女様、最近レディ・アンシに少し厳しくされているように見えるのですが……」
レディ・サンチェスが心配そうな表情でラリテに尋ねている。
「もしかして、公女様はレディ・アンシをきつく扱っていらっしゃるのではありませんか?」
その言葉を聞いた瞬間、エヴァンジェリンは胸が大きく締めつけられるような感覚に襲われた。反射的に柱の陰へ身を隠したエヴァンジェリンは、令嬢たちの会話に耳を澄ます。
すると、その時――。
「そんなことはまったくありません。」
ラリットがきっぱりと言い切った。
「公女様は、私にとても親切にしてくださっています。」
その言葉に、エヴァンジェリンの青い瞳が大きく揺れた。
-
礼拝堂での面会依頼: レディ・サンチェスがエヴァンジェリン公女にエヴァンス首席司祭との面会を頼み、公女はラリテ(アンシ)への気まずさや配慮から、気が進まないながらもその依頼を引き受ける。
-
セラフィナの焦りと誤解: 神殿を訪れたセラフィナは、自分と公女の圧倒的な格差(献花の扱いの違いなど)に直面して自尊心を傷つけられ、さらに公女が孤立していると誤解して密かに優越感を抱く。
-
ラリテの庇護と公女の動揺: 柱の陰で盗み聞きしていたエヴァンジェリンは、レディ・サンチェスから自分とラリテの関係を疑われた際、ラリテが「公女様はとても親切にしてくださっています」ときっぱり庇ってくれた姿を聞き、大きな衝撃と動揺を受ける。