こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

53話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 復讐
アウラリア皇城では、光竜を追い払って帰還した英雄たちを盛大に迎えていた。
そして本国に帰らずアウラリアに留まった四人の英雄たちには、さらに一層の関心が寄せられていた。
「でも、彼らはどうしてアウラリアに来たんだろう?」
「理由は分かりませんが、いろいろな面で、五つの帝国の中でも我がアウラリアが一番だ、ということでしょう。もしかすると、ここに腰を落ち着けるかもしれませんね。」
「陛下もさぞかしお喜びになるでしょう。」
「ちょうど私の娘の縁談を探していたところでしたが……良かった。」
アウラリアの大臣たちは、宴席に参列している彼らを見て密かに感心していた。
無理もない、彼ら四人は今回の戦争で目覚ましい功績を立てた者たちだった。
アウラリアの大臣のひとり、ノク族の出身者は興味深そうに彼らを観察していた。
少し前、娘の縁談を探していると言っていたその大臣だった。
彼はあの四人の中で、誰が自分の娘と一番釣り合うかを考えているような目つきだった。
しかも、あの中の一人は聖皇に直接謁見し、神聖力を認められて眼帯を授けられたと聞いた。
『あの子か。』
ノクィ族の視線が向かった先はグリフィスだった。
ほんのり青白い表情が儚げではあったが、周囲の女性たちの目線を見ると、むしろその点がさらに魅力的な要素のようだった。
しかし、いずれは神殿の人間となるだろう。
娘を神殿へ送りたくはなかった。
ノクィ族の視線はその隣へと移った。
『フレスベルグ帝国の皇太子だって?』
オスカーだった。
貴族は感嘆した。
絵に描いたようなハンサムな青年だった。
しかも皇太子なら、なおさら良い。自分の娘が帝国の皇后になれるかもしれないのだから。
その瞬間、貴族の視線がオスカーと交わった。
「……!」
貴族はぎょっとして視線をそらした。
なぜかその目つきが鋭く、まるで高貴な存在と目が合ったような気がした。
『……こいつはダメだな。』
まるで魔族かと疑いたくなるほどの、冷たい気配を感じた。
本能的に危険を感じるほどだった。
貴族はしばらくゴケを噛みしめた後、再び視線を動かした。
次に見たのは、傭兵として名を馳せたカリクスだった。
貴族は呆れたようにゴケを噛み直した。
カリクスは狂竜との戦闘で両目の視力を失ったためだ。
まだ完全に失明したわけではないという話だが――
『身体に傷がある者を婿にするわけにはいかない。』
貴族は冷静に評価を下しながら視線を移した。
『どう考えても、あの子が一番いい。』
ロミオ・ローズベリ。
たとえ皇位を放棄したとはいえ、やはり皇族だった。
しかも外見もまた美しく、よく笑う様子から性格も良さそうに見えた。
こうして、称賛の時間は終わった。
人々は自由にシャンパンを手に取り、デザートを食べながら会話を楽しみ始めた。
貴族は隙を見てシャンパンのグラスを持ち、ロミオに近づいた。
彼が近づくと、ロミオは待っていたかのように先に挨拶をした。
『礼儀もいいじゃないか。』
貴族は内心でほくそ笑みながら、ロミオと会話を続けた。
あれこれ話しているうちに、いつの間にか話題は奇妙な方向へと移っていた。
「レリア?レリアか……ふむ……」
貴族はロミオが尋ねた名前についてしばらく考え込んだあと、何かを思い出したかのように「あっ!」と言いながら口を開いた。
「あの皇女のことか!死んだイリス皇女の娘!」
その反応に、ロミオはにっこり微笑みながら話を続けた。
「その方について、何かご存じでしょうか?」
「その皇女なら……たしか数年前に失踪しましたよ。最初は陛下が兵士たちを動員して捜索させていたと記憶していますが……結局、自ら皇城を出たのでしょうし、自由に生きるよう放っておいたのでしょう。」
「行方不明とは……」
「政略結婚を避けるために自ら姿を消したそうです。陛下もあえて深く追跡せず、そのまま放置するようにと命じられたとか。聞いた話では、それ以前は森の奥の塔で暮らしていたそうですよ。」
彼は知らず知らずのうちに知っていた情報を酒の勢いで語っていた。
酔ったせいか、やけに饒舌だった。
遅れて貴族はロミオに向かって尋ねようとした。
「それで、婚約者か何か……いるのか……?」と。
だが、気を引き締めて周囲を見回したときには、金髪の青年の姿はどこにもなかった。
まるで魅了されたかのようだった。
夜遅く、アウラリア皇城の森の端。
小さく古びていた塔は、かつての姿をまったく思い出せないほどに変わっていた。
かつてはレリアが過ごしていた場所だったが、今は違った。
今やここは、ユリアナ皇女の秘密のアジトであり、宝物のような場所だった。
彼女は気分が沈んだとき、この場所に来て自由に過ごしたり、夜空の星を眺めたりしていた。
セドリックとデミアンが戦地へと旅立つ前、ユリアナのために贈り物として建物全体を丸ごと修繕してくれていたのだ。
その後、その場所は「クリスタル別館」と呼ばれるようになった。
名前の通り、華やかさを誇る建物だった。
「ここで暮らして、そこから逃げたってわけか?」
ぱっと見ただけでも目を引く豪華な別館を前に、四人の若者たちは圧倒された表情で建物を見つめた。
夜が更けていたせいか、別館の灯りはすべて消えていた。
そこはもともとユリアナのためだけに用意された空間だったため、ユリアナがいないときは誰も訪れないのだった。
「はぁ、本当に豪華すぎる……」
ロミオが呆れたように小さな声でつぶやいた。
誰かがわざわざ目立たせようとしたとしか思えない、そんな煌びやかな建物だった。
「そうだね。」
彼らが共通して思い浮かべたのは、セドリックとデミアン皇子の顔だった。
セドリックとデミアンは遅れて戦地に合流した。
結論だけ言えば、ここにいるこの四人とはあまり相性が良くない。
セドリックとデミアンは常に人々の中心で注目を集めるタイプだったが、 この四人は目立つのを避けて集まるタイプだった。
しかし結果だけ見れば、光竜討伐戦でより大きな功績を立てたのはこの四人だった。
彼らはセドリックとデミアン兄弟のことを 「口だけ達者な奴ら」と評していた。
ちなみに、その双子の兄弟はペルセウス皇帝の息子たちだった。
現在、フェルセウス皇帝は、犯人の背後にいる可能性が最も高い人物の一人だった。
セドリックとデミアン皇子が目立たないのも当然だった。
もっとも、まだフェルセウス皇帝が黒幕だと断定はできなかった。
確実な証拠を得るためには、まず「レリア」という最有力容疑者を見つけ出さなければならなかった。
「レオを殺して、こんなところでのんびり暮らしてたってわけか……でも、どうして逃げたんだ?」
カリクスは目を覆っていた腕を下ろしながら、ぽつりとつぶやいた。
「レオを殺せば自分が皇帝になれると思っていたのに、突然フェルセウス皇帝が現れたから、慌てたのかもしれないな。もしかすると、フェルセウス皇帝にこの事実が知られるのを恐れて逃げたのかもしれない。」
グリフィスがそう答える。
黙って聞いていたロミオが、さらに一つの仮説を付け加えた。
「セドリックとデミアン、あの二人も暗殺しようとして逃げた可能性もある。」
オスカーも意見を述べた。
「逆に、ペルセウス皇帝があの女を隠した可能性もある。」
新しい情報を集めれば集めるほど、なぜか辻褄が合わなかった。
ひとつ疑問が生まれると、また別の疑問が生じ、また振り出しに戻る。
それでも四人は本能的に、たった一つの事実だけは確信していた。
レオの死に、「レリア」という女性が深く関わっていること。
彼女が犯人である可能性が非常に高いこと。
その疑惑の最大の根拠は、レオが送った最後のダイイングメッセージだった。
「皇帝が追跡を諦めた相手なんて、どうやって探すんだ?」
カリクスは、何とかしろと言わんばかりにロミオをじっと見た。
「……」
その視線に、ロミオは戸惑ったように瞬きをした。
ロミオは幼いころから魔力を持っていたが、光龍との戦いの後、途方もない魔力を得ていた。
彼が光龍の心臓に宿った魔力を吸収したという事実は、この四人以外、誰も知らない秘密だ。
ただ、まだ能力が安定せず、定期的に苦痛を伴う発作が起こるのだった。
「おい、魔力で探るって言ったって、何があるっていうんだよ。何もないのに、どうやって探るんだ?」
ロミオが反発すると、カリクスはグリフィスに視線を向けて言った。
「……グリフィス。神聖力が魔力より優れていると証明する機会だ。」
「同じことだよ。何もないのに、どうやって追跡するんだよ?」
グリフィスが苛立ちを隠さず答えると、カリクスは「だから神を信じる必要なんてないんだ。」と笑った。
オスカーがロミオに向かって尋ねた。
「じゃあ、その万年筆は?それで何とかするしかないな。」
「おっと、そうだった。」
数年前――。
ロミオは本国の魔法使いを通じて、ある事実を知った。
それは、友人たちと自分が持っていた万年筆に刻まれた魔石を追跡できるということだった。
しかし、本国の魔法使いから教わった方法では、レオの万年筆を追跡することはできなかった。
本国の魔法使いは、その理由をこう説明した。
「どうやら誰かが万年筆と魔石を分離させたようですね。魔力が拡散してしまい、追跡ができなくなったようです。」
その話を聞いたロミオと仲間たちは、犯人が意図的にそうしたのだろうと推測した。
あるいは、あの混乱の中で誰かが盗んでいったのかもしれないと。
いずれにしても、ロミオは別の方法で追跡できないかと研究を続け、本国の魔法使いに協力を依頼した。
そして、しばらくして朗報が届く。
ただその頃は、ロミオの魔力がまだ完全には整っておらず、すぐに実行に移すのは難しい状態だった。
「とりあえず、その方法でも試してみるしかないな……」
もちろん、万年筆がどうなったのかは誰にも分からなかった。
レオが処分した可能性もあれば、誰かに盗まれた可能性も、犯人に持ち去られた可能性もあった。
しかし、現時点では何の手がかりもない以上、それでも追跡してみるしかなかった。
「当分は皇帝側もしっかり見張らないとね。」
ロミオの言葉に、彼らの目が鋭く輝いた。
たとえ犯人がこの帝国の皇帝だったとしても、彼らは必ず復讐を遂げる覚悟だった。
数日後。
本格的な宴が始まってから、数日が経った。
この宴は7日間続く予定だった。
招待されたのは、アウラリアの高位貴族たちや、今回の戦争で功績を立てた英雄たちだった。
数日前まではパーティーに出席していなかったが、今日は4人とも必ず出席しなければならなかった。
なぜなら、今日の宴には皇帝自らが出席する予定だったからだ。
集まった人々の中には、オスカー、カーリクス、グリフィス、そしてロミオの4人が、なぜわざわざアウラリアにやって来たのかを議論する者たちもいた。
それを前向きに受け取った人たちは、「我が帝国の威光を示す絶好の機会だ」と喜んだが、一方で、「アウラリアに関する情報を探りに来たのではないか?」と疑う声もあった。
実際、四人はもし皇帝が犯人なら、いっそ彼を殺してしまうことまで考えていた。
とはいえ、当面は疑いを避けた方が賢明だった。
そのため、彼らは今日だけは華やかな礼服を身にまとい、目立たず静かに宴会に参加した。
人々はひときわ背が高く、整った顔立ちの四人の若者たちに目を奪われた。
先に声をかけようかと迷う貴族の令嬢たちもいたが、話しかけるのがためらわれるような雰囲気に、結局皆、ただ呆然と眺めるしかなかった。
まるで彼らの周囲だけに透明な壁が張られているかのようだった。
優雅な音楽が流れる宴会場の中。
四人に注がれる視線の中で、ひときわ異質な視線があった。
それは「ルート」という名の、整った顔立ちの若者からの視線だった。
『あいつら、一体なぜアウラリアに来たんだ?』
ルートもまた、光龍討伐隊の所属だったが、セドリックやデミアンとは違い、あの4人とはそれなりに親しい関係にあった。
少なくとも、すれ違えば挨拶を交わす程度には。
様子をうかがうと、4人は深刻な表情で集まっていて、どうにも近づきにくい雰囲気だった。
ルートは、自分が代表して声をかけるべきかどうか迷っていた。
ドン、ドン――。
そのとき、階段の上から侍従が床を杖で打つ音が響いた。
やがて大きな扉が開き、現れたのは、豪華な礼服をまとったセドリックとデミアン兄弟だった。
そして、その中央には――。
『ユリアナ……!』
ユリアナ皇女が、セドリックとデミアンの腕に軽く手を添え、優雅に歩み出た。
ルートは昨日、久しぶりにユリアナと再会し、たくさんの会話を交わした。
その過程で、特別な感情が芽生えたのを感じていた。
ユリアナもまた、自分を待っていたという事実にどれほど喜んでいたか。
その時、ルートの視線はふいに四人の青年たちへと向けられた。
『……!』
ルートは、瞬間、心臓がドクンと跳ねるような感覚に襲われた。
四人の視線が、階段の上をまっすぐに見上げていた。
とても強烈な視線だった。
やがて彼らはその方向を見ながら、何か会話を交わし始めた。
「まさか……」
ルートの中にひとつの疑念が湧いた。
「彼らがアウラリアに来たのは、ユリアナのためじゃないのか?」
そんなはずはない……と思いながらも、ふと頭をよぎった。
なぜなら、遅れて討伐隊に合流したセドリックとデミアン皇子たちの存在があったからだ。
彼らはいつも首からペンダントを下げており、その中にはユリアナの肖像画が入っていた。
特に、各国から集まった勇士たちに、その肖像画を見せては自慢していたものだ。
そのたびにルートは、二人の兄弟に嫌悪感を覚えていた。
彼らにとっては妹かもしれないが、ルートにとっては――想いを寄せる相手だったのだ。
『あいつらもユリアナの肖像画を見たんだな。』
ルートの口元がわずかに釣り上がった。
まあ、無理もない。
肖像画に描かれたユリアナは誰もが目を離せないほど美しかった。
もちろん本人の方がもっと美しいが、それでも肖像画を見るためにここへ来る価値は十分にあった。
冗談のようではあるが、『ユリアナ皇女の顔を見るためにアウラリアへ行かなきゃならないのか?』とまで言い出す者がいるほどだった。
だが、いつも何か重たい空気を纏っているあの四人が、その理由でここへ来るとは夢にも思わなかった。
『あいつらも男だったか。』
ルートは、こみ上げる嫉妬心と、妙な緊張感を覚えた。
彼はジャケットの襟を正し、兄たちの手を取って階段を下りてきたユリアナに向かって歩み寄った。
「ユリアナ。」
「……ルート。」
目を合わせて微笑み合う二人を見て、セドリックとデミアンは、あからさまに不満げな顔をした。
一方、彼らの様子を見ていたロミオは、そっとつぶやいた。
「……あの皇子たちが犯人って可能性、ないかな?」
「……黒幕である可能性はあるけど、直接毒を盛ったわけじゃないだろうな。あのときは王城の外にいたはずだから。」
グリフィスがなめらかにきっぱりと答えると、ロミオの顔が歪んだ。
「関係があったらいいのに。」
一緒に殺してしまいたい。
ロミオはその後の言葉を小声で呟いた。
彼がセドリックとデミアン皇子たちをあれほど敵視するのにも理由があった。
初めに四人がアウラリアへ向かっていると知れたとき、セドリックとデミアンは彼らを探し出し、こう言ったのだ。
「奴らがアウラリアへ行く理由なんて何だ?何か得るものでもあるってのか。」
「……本国で歓迎されない事情でもあるのかもな。」
セドリックの隣に立っていたデミアンが、ぶっきらぼうに口を挟んだ。
セドリックは眉をひそめた。
「まあ……そうかもな。それとも、もしかして……君たちもユリアナの肖像画を見たことがあるんじゃないか?」
「……本当か?」
セドリックの言った推測に、デミアンがすぐさま過敏に反応した。
その直後、突然戦いが始まってしまい、その場の会話は自然と立ち消えになった。
最初は無視していた他の三人と違い、ロミオは当時の会話をいまだに覚えていた。
「そんなに呼んでいたユリアナって、あの女のことか。」
ロミオが呆然としていると、カーリクスがうんざりした様子で乱れたネクタイを引き下ろしながら尋ねた。
「くだらない話はもういい。追跡は進んだのか?」
その問いにロミオは眉間に皺を寄せた。
「何日も同じ質問ばかりして、飽きないのか?俺が遊んでるとでも思ってるのか?何もせずに文句ばかり言ってるくせに、口だけ達者なくせに。」
ロミオの焦りを察したのか、カーリクスは肩をすくめた。
ロミオは深いため息をつきながら言った。
「追跡は無理だな。誰かが魔石を削除するか、消してしまったらしい。」
ロミオはふと思いついて、ポケットから自分の万年筆を取り出した。
青い魔石がはめ込まれた部分を指でトントンと叩くと、彼の指先から見えない魔力がふわりと流れ出た。
そのときだった。
「……あれ?ちょっと待って。」
ロミオの眉がピクッと動いた。
「どうした?」
シャンパンを一気に飲み干したグリフィスが問いかけた。
オスカーも鋭い視線でロミオを見つめ、質問していたカーリクスも驚いて姿勢を正した。
「何だよ、何だ?何か感じたのか?」
「……」
カーリクスの問いにロミオは答えず、ただ意味深に口元を歪めて笑った。
そのときだった。
ドン!
また一度、拍手のような音が床に響き渡り、皇帝夫妻の入場が告げられた。
会場は静まり返り、金色と白色が混じった華やかな礼服に身を包んだ皇帝夫妻が姿を現した。
ペルセウス皇帝は、若い頃の面影を色濃く残す、魅力的な中年男性だった。
貴婦人たちは、その変わらぬ姿を見て、少女時代に皇太子だった彼に密かに憧れていた頃を思い出していた。
人々は軽く頭を下げ、皇帝夫妻への礼を示した。
ペルセウス皇帝は片手を軽く挙げて人々に応え、皇后とともにゆっくりと階段を下りてきた。
演奏者たちは再び、優雅な旋律を奏で始めた。
皇后はペルセウス皇帝と一旦別れ、顔なじみの貴婦人たちが集まっている方へと向かっていった。
「皇后陛下!」
貴婦人たちや侍女たちが、彼女を出迎えた。
しかし、良い天気にもかかわらず、皇后の顔色は暗かった。
風邪をひいた幼い息子を寝室に置いてきたことが気がかりだったのだ。
3年前、フェルセウス皇帝とマリアンヌ皇后の間に新たな皇子が誕生した。
セドリック、デミアン、ユリアナに幼い弟ができたのだった。
会話の途中だった。
「皇后陛下、彼らはいつまで皇城に留まる予定なのでしょうか?」
ある貴婦人が、紅潮した顔で皇后に問いかけた。
皇后の視線は自然と、その貴婦人の扇子が隠す方向へ向いた。
そこには、最近貴族たちの間で話題となっていた青年たちが集まっていた。
「ユリアナの結婚について聞いているのか?」
皇后の微笑みを浮かべた一言に、貴婦人たちは空気を読み取り、軽く会釈をしながら笑みを返した。
『まあ、素敵な青年たちではあるけれど……』
皇后は彼らをじっと見つめながら、まるで何気なく貴婦人たちの問いかけに答えるふうに、ユリアナのことを思い浮かべた。
ユリアナにも、そろそろ婚約者が必要な時期だ。
マリアンヌは、ペルセウス皇帝とは考えが違った。
『陛下はユリアナを結婚させることに、ほんの少しも興味を持っていないけれど……』
マリアンヌは、何よりも娘に完璧な幸福を与えたいと願っていた。
娘にとって最高の相手を選びたかったのだ。
一方、自分たちに向けられた視線の意味をまったく理解できずにいる四人は、鋭い視線を受け止めた。
「なんだよ、どうしたんだ。」
カーリクスは、時間が止まったかのように固まっているロミオを見て、からかうように尋ねた。
ロミオは眉をひそめたまま答えた。
「……魔力の流れが途切れた。とりあえず少し待ってみて。」
そう言い終えると、ロミオは人のいないテラスへ向かった。
残った三人は真剣な表情でロミオが消えた方向を見つめた。
いずれにせよ、一人の方が集中しやすいだろう。
「はあ……宴会は性に合わない。」
カーリクスはネクタイをほどき、ポケットに無造作に押し込んだ。
「お疲れさま。」
グリフィスは半ばあきれたように言い、カーリクスはひたすらシャンパンをぐびぐびと飲み続けた。
オスカーは、周囲から向けられる興味深そうな視線に居心地悪さを感じたのか、一人そっとその場を離れた。
「…………」
遠くからそれを眺めていたルートは、彼らの様子を静かに見守った。
そのとき、ペルセウス皇帝のもとに向かっていたユリアナが、ルートのもとへと歩み寄ってきた。
「ユリアナ。」
ルートはすぐに表情を変えて、ユリアナに向かって微笑んだ。
彼女の美しい翡翠色の瞳を見た瞬間、心臓が高鳴った。
ユリアナはそんなルートを見て、にこやかに尋ねた。
「楽しい時間を過ごしている?」
「もちろん。」
二人は自然と穏やかに会話を交わし始めた。
幼い頃に共有した思い出があったからか、久しぶりの再会にもかかわらず、ぎこちなさはすぐに消えた。
やがて話題は「宴に出席している令嬢たちの視線が向かっている場所」へと移った。
「もしかして、あなたも彼らに興味があるの?」
ルートがやや緊張した声で言った。
ユリアナは何を言われたのかわからないように目をぱちくりさせた。
「ほら、あいつらのことだよ。」
ルートの言葉に、ユリアナの視線もそちらへ向かう。
「ああ……」
ユリアナがそっと目を伏せたのを見て、ルートはますます気恥ずかしくなり、ぼそぼそと続けた。
「たぶん、あいつら、君のこと好きなんだと思う。」
あまりにも恥ずかしかったせいか、ルートは自分でも知らないうちに顔をそらしていた。
それに対してユリアナは、静かに微笑んだ。
「…それがどうして気になるの?」
「その……」
「………」
そのとき、招かれざる客たちが二人の間に現れた。
「ここで何してるの、ユリアナ?」
現れたのは、セドリックとデミアン皇子だった。
さらには……
「…へ、陛下。」
ルートは続いて現れた皇帝の顔を見て、動揺しながらも礼を取った。
「何の話をしてたんだ?」
デミアン皇子が鋭い目つきで尋ねた。
ユリアナはくすっと笑いながら答えた。
「若者たちの間で話題になってる方たちのことですよ、お兄さま。」
「ああ……あいつらのことか。」
その言葉に、セドリックとデミアンは同時にそちらを振り返った。
そこには、ネクタイをほどいてだらしなくしているカーリクスと、いつも通り無表情なグリフィスの姿があった。
「よりによって、あのふたりだけか。あのだらしないやつら。」
「まぁ、おだやかではありませんね。」
デミアンの言葉に、ユリアナは驚いたように目を丸くした。
デミアンはにやりと笑いながら続けた。
「そいつらのことだよ。なぜここに来たか分かる? お前に会うためさ。」
デミアンの言葉に、ルートは一瞬目の前が真っ暗になる気分だった。
まさか、本当だったのか?
「何のことだ?」
その言葉に驚いたのはルートだけではなかった。
傍で見ていたフェルセウス皇帝もまた、眉をひそめた。
「明らかです。私が戦場でいつもユリアナの肖像画を自慢して回っていたので、それを見て来たんです。ユリアナ本人を見に。」
デミアンがきちんと説明すると、ユリアナは顔を赤らめて固まってしまった。
「…あり得ない。」
「どうして黙ってるの?」
ユリアナが否定すると、セドリックはかえって戸惑った。
「ねえ、ユリアナ。もしあの子たち全員にプロポーズされたら、誰と結婚する?」
デミアンがからかうように尋ねた。
その言葉に、ペルセウス皇帝、セドリック、ルートまでが一斉にユリアナの顔を見つめた。
「私は……うーん……」
ユリアナはしばらく考え込んだあと、そっとルートの方をうかがった。
「結婚禁止令でも出さなきゃいけないかもな。」
ペルセウス皇帝が、うっすら目を細めながらつぶやいた。
「同意します、父上。」
「私もです。」
セドリックとデミアンが続いて言うと、ユリアナはぷっと吹き出して笑った。
気取らない、心からの笑みだ。
フェルセウス皇帝も、そんなユリアナを見て小さく笑った。
震えながら初めて「お父様」と呼んでくれたあの瞬間がまるで昨日のことのようなのに、いつの間にか大人になっていた。
血のつながりはないものの、フェルセウス皇帝は一度もユリアナを実の娘でないと考えたことはなかった。
それほどに、ユリアナは彼にとって大切な存在だった。
守ることができず、胸に深い傷として残った亡き娘。
彼女とよく似た、温かな笑顔を持った――かけがえのない娘だった。
誰かにとっては哀れに思える話かもしれないが、ペルセウス皇帝は「レリア」という存在そのものを、心の中から消し去ってしまった。
あの子が行方不明になった後、探そうと努力はしたものの、結局、内心では執着を持てなかったのだと感じた。
妻を苦しめた姉に対する復讐のために、その子まで傷つけたくなかった。
自ら王城を離れた子ならば、むしろ自由に生きてほしいと願い、そっと手放したのだった。
「私も賛成です!どうせ一生結婚しないで、家族と一緒に暮らしますから!」
ユリアナが満面の笑みでそう宣言した。
その言葉に、ペルセウス皇帝とセドリック、デミアンは、まるで世界を手に入れたかのような顔で笑った。
一方、ルートは無理に笑みを浮かべたまま、胸の奥に苦い思いを飲み込んだ。
結局、カーリクス、オスカー、グリフィス、ロミオの四人は、宴会の途中で席を立った。
どうせこれくらい顔を出しておけば、怪しまれることはないだろうと判断したのだ。
彼らが向かった先は、皇城の書館の一角にある貴賓室だった。
宴もまだ盛り上がっていたため、書館の貴賓室には彼ら以外誰もいなかった。
ロミオの部屋に入るとすぐ、グリフィスがドアを閉めながら尋ねた。
「追跡できたってこと?」
「うん、まあ、だけど……」
ロミオが曖昧に笑った。
「どうした?」
「……そんなに遠くないところにいるみたいだ。」
「……え?」
オスカーは聞き間違いかと耳を疑い、耳をそばだてた。
カーリクスとグリフィスも、ぼんやりした表情になっていた。
「もし俺の予想が正しければ……いや、間違いなくそうだ。万年筆を盗んだ奴か、レオを殺した奴が、すぐ近くにいる。」
「……」
「首都にある。すぐ近くだ。」
三人の視線がロミオに向けられた。
彼らの視線を受けながら、ロミオは片方の口角を上げて笑った。
「出発しよう。」
宴会の最終日が目前に迫った、三日前の早朝。
一部の商人たちが店を開き始める時間だった。
濃い青色の空の下、黒いローブをまとった4人の騎士たちが、ある建物の前で足を止めた。
そこは、レリアが滞在している宿舎だった。
「ここか?」
「そうだ。とりあえず……待ってみよう。今日一日中、ここを出入りするやつらの中に、きっと怪しいのがいるはずだ。」









