こんにちは、ピッコです。
「政略結婚なのにどうして執着するのですか?」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

98話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 死を迎えた時期④
バラジット家門の馬車が静かに荒野の上を駆け出し始めた。
公爵家の威勢にふさわしく豪華な馬車。
広々とした空間に響き渡るくしゃみの音がその代わりに満たしていた。
「クシュン!クシュン!」
そのくしゃみの主は他でもない、バラジット公爵だった。
激しい咳をしていた彼は、しばらくすると肺を吐き出すかのように体を震わせ始めた。
「ゴホッ!」
「伯父様!」
向かい側に座っていた甥のエイデンが慌てて彼に駆け寄った。
エイデンは馬車の窓を開けながら叫んだ。
「馬を止めて!」
するとガタガタ揺れていた馬車が急にピタッと止まった。
同時に呼吸が荒かった公爵も少し落ち着きを取り戻した。
「大丈夫ですか?」
「頭が少しズキズキするが、だいぶよくなった。」
「体調もあまり良くないのに……長時間の外出は無理だと申し上げたではありませんか? 特にこういう天気の日には。」
まるで叱るような口ぶりだった。
もし家臣の一人がこのような態度をとったなら、無礼だとして咎めただろう。
だが、その中に込められた心配を知っていたので、彼は笑って答えるほかなかった。
「でも仕方ない。私が代理を立てれば、私の健康に異常があることを察せられてしまうだろう。」
「くだらないことを気にしてないでください。それより大事なのは伯父様の健康です……はぁ、私がこんなことを言っても聞いてくださらない方ですものね。」
「よくわかっているな。」
「……少し休んで行かれませんか?」
公爵が小さく咳払いをする。
エイデンの側近は背中に分厚いクッションを敷いてそっと馬車の外に出た。
そして使用人に言った。
「少し休んでから行く。君は公爵様に温かいお水をお持ちしてくれ。」
「はい、坊ちゃま。」
エイデンは馬車の中に医員が入っていくのを確認した後でようやく歩き出すことができた。
周囲の岩に腰掛けて一息ついていると、馬の蹄の音が近づいてくるのが聞こえた。
幌をめくって見ると、タクミが馬に乗ったまま近づいてくるのが見えた。
彼は馬から飛び降りて尋ねた。
「具合が悪いのですか?」
「息苦しさが少しある。はは……だから私が直接出る必要はないと何度もお願いしたのに……」
「公的なことには少し頑固な傾向がおありですから。でも、私もこういう形式的な会談にどうして直接出られたのか疑問です。どうせ成果もないはずなのに。」
「いや、それは違う。成果がなかったわけじゃない。」
「……?」
この会談で成果があったって?
困惑するタクミに向かってエイデンが続けた。
「とにかく、うちの従姉が一族を裏切ったということは確実のようだ。」
「それって……。」
「遺言状を調査させてくれというあちらの要請に対し、我々は3つの条件を提示したんだ。そのうちの1つが、公爵令嬢の身元を渡せというもので……そう言ったとたんに彼の表情が曇ったな。」
その者は仮面をしていたが、それが隠している人物が誰なのか、一目で見抜くことができた。
「もし公爵家の令嬢の身元が認められたら……どう思われますか?」
「うーん、それについてはよく分かりませんね。おそらく当主様が決定なさるでしょう。」
「……命をもって罪を問われるのでしょうか?」
「どうかな、そこまではしないと思うけど。興味でもあるのか?」
「……」
するとタクミの表情が一瞬で凍りついた。
軽く尋ねただけのエイデンが戸惑うほどの硬い表情だ。
「つまり、私が言いたかったのは……叔父様の決定に関心があるのか、という意味だったのに。」
「あ。」
ようやく自分が考えていた意味ではなかったと気づいた彼が、短くため息をついた。
気まずさで顔が赤くなる。
気まずい雰囲気を和らげようと、エイデンが手を叩いて笑った。
「大丈夫。そういうこともあるさ。あれだけ騒がしい場だったから、誤解したんだろう。」
「……ありがとうございます。」
そのとき、遠くから人々のざわめきが聞こえてきた。
馬車の方を見ると、使用人たちが焚き火を消して、かけていた毛布を再び馬車に積み込んでいた。
「伯父様が出発を命じられたようだ。私たちもそろそろ戻ろう。」
「はい。」
・
・
・
バベル暦2世15年、11月。
首都で新王の即位式が執り行われる。
一部の臣下が反発するも、王室は返答しない。
王室はオルデル伯爵に対し、皇帝であるフレイの身柄を引き渡すよう要求する。
定められた期限までに要求に応じなければ、先制攻撃の可能性を示唆する。
・
・
・
12月31日、年の最後の日。
明日になれば、ナディアの年齢は24歳になる。
23歳の年齢で死んだ彼女としては、感謝するしかなかった。
雪が降る窓の外を見つめながら、ナディアは静かに思いにふけっていた。
『これから起こることは、私が経験していないこと。』
それは、どんな苦難や危機が訪れようと、すべて自分の力で解決しなければならないという意味だ。
これまで未来に起こることが分かっていたという点を積極的に利用してきた彼女としては、緊張するしかなかった。
静かに窓の外を眺めていたナディアの肩に、何かがそっと置かれたのはちょうどそのときだった。
「……?」
彼女の怪しげな視線が後ろを向いた。
左肩の上には、ウェンダミオンが肩掛けをかけていた。
「グレン?これは何ですか?」
「寒そうだったからだよ。唇が青かった。」
「……あ。」
窓をしっかり閉めておいたものの、北部の冷たい風は簡単には遮れない。
別の考えに没頭していたせいで、窓の隙間から風が入ってくることにも気づかなかった。
遅れてやっと感じた寒さが押し寄せてきた。
「それにしても、何を考えていたの?すごく深刻な表情だったけど。もし僕が助けになれることなら、手伝いたい。」
「それは……」
前世で死んだ日が過ぎたのにまだ生きているのが不思議で、とは言えなかった。
「もうすぐ起こる戦いで勝つなら、私の復讐も終わるってことですよね。長い旅の終わりに目的地が見えたと思うと……感慨深いですね。」
そしてその瞬間、グレンとの契約も終わることになる。
これ以上彼と結婚を維持する理由はないのだ。
そう考えると、不思議な気持ちになった。
「ありがとう。」
「うん?」
「私がどんな理由で家族に復讐しようとしているのか、どんなことがあったのか、何も聞かずに支えてくれたじゃないですか。」
「いや、感謝するのは私の方だよ。そうじゃなかったら、今ごろ命がなかったかもしれないから。」
グレンが肩にかけていたショールを握りしめながら言った。
「この3年間、本当にいろんなことがあった。ここまで来られたのは、私じゃなくて君のおかげだ。君に出会えたことは、私の人生で最大の幸運だと思ってる。」
「………。」
「誤解しないでね、ひょっとしたら誤解するかもだけど、ビダン家門の縁組に関する問題じゃないんだ。ただ、ナディア・ウィンターフェルという人に出会えたことだけで……僕には幸運だった。」
告白とも取れない言葉に、彼女の頬がほんのり染まる。
千年樹の下で彼が言った言葉が耳に響くようだった。
『私が彼の告白を受け入れさえすれば……ずっとウィンターフェルにいられるかもしれない。』
3年、長いといえば長く、短いといえば短い時間だった。
そしてそれは彼女の人生の中で最も生き生きと楽しく過ごした時間でもあった。
そんな時間を共に過ごした人たちと場所を離れるというのは、明らかに未練が残ることだ。
『でも、だからといって嘘で気持ちを受け取ることなんて……』
正直、自分の心なのにわからなかった。
グレンはこの3年間、自分と一番多くの時間を過ごしてきた人だ。
一緒に頭を突き合わせて議論し、悩み、時には意見がぶつかって長い議論をしたりもして……。
グレンに好意を抱いていることとは別に、彼と本当の夫婦になるという問題については簡単に決断できなかった。
それはひとえに、ナディアがこれまで直面したことのない種類の悩みだったからだ。
幼い頃から父が決めた相手と政略結婚をすることになるだろうと思っていた。
誰かに告白され、それについて自分の気持ちを決めなければならない状況が来るなんて、想像もしていなかった。
『本当にわからない。どうすればいいのか。』
彼女が何も答えられずにいると、グレンはそれを理解したかのように微笑みながら尋ねた。
「もしかして今、急いで行く用事でもあるのか?」
「いえ。特にないですけど、それはどうして……。」
「他でもなく、1階で忘年会が開かれているんだ。本家の人々が皆集まる場なんだけど、もし参加するつもりがあるかと思って聞いてみたんだ。」
「うーん……」
本来、格式ばった席は好まないタイプだったが、ナディアは今年くらいは参加することに決めた。
もしかしたら来年からはもう機会がないかもしれないという気がしたのだ。
「いいですね。ちょうど夕食をとる前のことですし。」
彼女が前向きに答えると、グレンがエスコートするように右手を差し出す。
ナディアは彼の手を握ったまま、歩みを進めた。
大切な人たちと二十三歳最後の日を過ごし、まだ迎えたことのない二十四歳の最初の日を迎えるために。
・
・
・
新年を迎えて間もないある日。
北部同盟がバラジット公爵を非難して立ち上がった。
一部の家臣たちがそれに同調する。







