ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜【１６０話】ネタバレ

ユグドラシルは、もう初夏に近い天気だった。

中立地域でも南部側に近接した位置であるためか、昼間に周辺を包む空気の気温がかなり蒸し暑い。

オルカは馬車のシートに垂れ下がって窓の外の光景をぼんやりと眺めていた。

世界樹の形をした石造の柱が視界に映るのを見ると、ようやく本当に目的地に着いたようだ。

フィペリオンからユグドラシルまで移動する過程は非常に退屈だった。

先日までのオルカだったら、当然所有している魔物に乗って移動していただろう。

だが、フィペリオンの首長は再びオルカが事故を起こすことを憂慮したのか、出発する時から彼にしっかりと脅しをかけて行列に縛っておいたのだ。

そのためオルカは運命にもなかった団体生活の退屈さに身震いするしかなかった。

その上、先日のことで保有中の魔物を大半失った後なので、乗って移動するほどの魔物がいない。

その瞬間、液体でも固体でもない薄い膜を通過したような奇妙な感覚が全身を通り過ぎた。

「この感覚はいつ経験しても本当に不愉快だよ」

オルカは横になっていた体を斜めに起こし、不平を言う。

今ちょうどユグドラシルの呪術陣を通り過ぎたところのようだ。

そうするうちに突然馬車が止まった。

車輪が石に引っかかったのかと思ったが、時間が経っても馬車は動かない。

オルカは眉をひそめて窓の外を見つめる。

「何だよ、アグリチェじゃないか」

オルカの視界からさほど遠くない場所にアグリチェの馬車が見えた。

ユグドラシルに入る街角で、よりによって両家が直面したのは偶然だった。

広いスペースに到達する前の入り口部分なので、二つの群れの行列が同時に動くほど舗装された道路が広くないということも原因だ。

その上、その二つの家門が互いに入場する順番を譲歩しろと言い争い始めたのも頭の痛いことだった。

「何をしている？早く馬車を後ろに退かせろ」

「なぜ私たちが順番を譲らなければいけないのですか？」

フィペリオンの人々とアグリチェの人々は激しく対立した。

プライドなのだろうか、彼らは互いに馬車を後ろに引くようにと相手の譲歩を促している。

「何を当たり前のことを聞いている。没落してようやく蘇ったアグリチェのくせに」

その言葉が出た瞬間、一気に棘を立てたハリネズミのように、アグリチェの群れを覆った気運が一瞬で荒くなった。

「どうしたの？」

一瞬即発の瞬間、奇異な重みを持った声が彼らの間に舞い降りる。

アグリチェの人々はどの声を聞いて道を開いた。

その間から姿を現したのは、黒髪と青い瞳の男だ。

昨冬、新しい首長に就任したジェレミー・アグリチェ。

彼の無感情な瞳が向かい側にいる彼らを一度見た。

目が触れた瞬間、フィペリオンの人々は思わず身をすくめる。

ジェレミー・アグリチェの雰囲気が和合会の時とかなり変わっていた。

背も一段と高くなったせいで、今この場にいる人たちの中でジェレミーより視野が高い人は誰もいない。

そのためか、ただ視線を一度滑らせただけなのに、自然にジェレミーが他の人たちを敷いているような姿が演出された。

フィペリオンの挑発に今にも席を蹴って飛びつきそうだったアグリチェの人々も、ジェレミーが登場してから不思議なほど大人しい。

彼らはジェレミーに先ほどの状況を説明した。

それを聞いて彼は一度低い舌打ちをする。

「こんなつまらないことで腹を立てるな」

続いてジェレミーから流れたのは冷笑だ。

「こんなにみっともない方法で相手を制圧できると信じる愚か者だとは」

その言葉にフィペリオンは激怒した。

「何だって・・・！」

ジェレミーの言葉は明らかに自分たちを嘲笑っている。

馬鹿でない限り、その事実を知らないわけにはいかなかった。

「まだ終わらないのですか？」

その時、近くにあったフィペリオン馬車の窓が開く。

窓から姿を現したのはフィペリオンの後継者であるオルカだ。

「首長も私もじっとしているのに、なぜ無駄に乗り出して雑音を起こしているのですか？」

彼はアグリチェと入場順を巡って争っていたフィペリオンの人々の中で一番前にいる男に向かって話しかけた。

オルカの美しい顔には笑みが浮かんでいたが、目つきだけは冷ややかだ。

実際、オルカは今の状況のせいで馬車で過ごす退屈な時間が長くなってイライラしていた。

警告を受けたフィペリオンの人々も、結局はその辺で退くしかない。

アグリチェとフィペリオンは、それぞれの馬車に戻った。

しかし、彼らは依然として鋭い目でお互いを睨みつけていた。