ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜【２１８話】ネタバレ

両側から飛びつく人々から完全に抜け出すことは事実上不可能に見えたが、ニックスは想像以上に俊敏だった。

水が流れるような動作で自分に向けられた攻撃を全て避けたニックスが素早く反撃を図る。

その並外れた一連の動きを見たアグリチェの人々はなぜか動揺した。

クァアン！

その時、突然ニックスの横にテーブルが飛んできた。

ニックスが反射的に腕を上げてそれを阻止している間、他の人たちはすぐにニックスを襲う。

ニックスは彼らを振り払うために動いた。

しかし、相次いで誰かにあごを蹴られ、脳が揺れる感じを受けながら揺れてしまう。

その後、強い握力が後列を押して彼を床に担ぎ、花のように打ち込んだ。

呻き声を上げるニックスの頭上から冷たい声が落ちる。

「まだこんなに発悪する力が残っていたなんて、驚きだね」

その氷のような声を聞いてニックスは体をこわばらせた。

「やっぱりあの時、私があなたのことをあまりにも大目に見てあげたのかな？」

カシス・ペデリアンの声を聞いた瞬間、先日それによって体験した身震いする激痛が再び全身に刻印されるようだった。

ニックスは天敵を目前にした動物のように震える。

「シルビア、怪我はないか？」

「うん、大丈夫」

まずシルビアの安否を確認したカシスが庭にいた人々のざわめきを聞いて眉をひそめる。

「一体あの人は誰だ？」

「あらまあ、今きっとペデリアン様を捕まえようとしていましたよね？」

「あんな人は今まで見たことがないけど、もしかして外から来た侵入者かな？」

こんな風にニックスの存在が人前に現れるなんて、当初の予定とは違うことだった。

「これはどういう騒ぎだろう？」

うるさい音を聞いて一歩遅れて訪ねてきた他の人たちも騒ぎに加わる。

そこにはリセル・ペデリアンとヒアキン・フィペリオン、そしてオルカ・フィペリオンも属していた。

両首長もすぐに状況を把握し、頭の痛い表情を浮かべている。

「ああ、これがまさに噂の人形ですか？」

オルカは興味深い目を輝かせ、軽い反応を見せていた。

フィペリオンの首長であるヒアキンが眉をひそめて顔色を伺わせたが、オルカはただカシスに制圧されて押さえつけられているニックスを好奇心のこもった目つきで観察するだけ。

そうするうちに庭に立っている人たちを分けて誰かが現れる。

「どうしたのですか？お茶会があると聞いたのに、どうして皆さん立っていらっしゃるのですか？」

朗々とした声が鳴る瞬間、当然の手順かのようにその場にいた人々の目が一斉に彼女に集まった。

群衆の前に姿を現したのはロクサナだった。

相変わらず無欠な美しだが人々の視線を一気に捉える。

カシスは隣にいる人たちとは少し違う表情でロクサナの顔を少し沈んだ目で見つめ、唇を離した。

「ベルティウムの人形がちょうど脱出を試みたところを捕まえました」

その時になってようやくカシスと彼の下に敷かれたニックスを発見したかのよに、ロクサナが息を吸う。

「なんてことでしょう。怪我をした人はいませんか？」

「一応はいないようですが」

カシスは彼女の質問に短く答えた後、体を動かして制圧していたニックスを立ち上がらせる。

その時、興味深い目で状況を見守っていたオルカが横から割り込んできた。

「まあ、幸い負傷者はいないようですが、人質になるところだった人はいますね」

当時の状況を目撃した人々の視線が一斉にシルビアに集中する。

「試みだけで終わって良かったじゃないですか、ペデリアンさん？」

オルカはシルビアを振り返り、ニッコリと笑った。

カシスの冷たい視線が公然と前に出たオルカに届く。

急に耳目が集中したシルビアが慌てたが、ロクサナの目つきを受けて素早く首を横に振って自分の無事を表明する。

「私は大丈夫です。怪我をしたところもありませんから」

それでもロクサナの顔は明るくならない。

実際、ロクサナは見た目と違って、今は気分がとても悪い状態だった。

その理由

は当然、デオンとニックスのためだ。

直前にカシスとデオンが会ったことで、ロクサナの神経は鋭く逆立った状態だった。

途中でデオンのせいで蝶との繋がりが途絶え、二人が何の話を交わしたのかは確認できなかったが、以前まで聞いた内容だけでも心が散乱するには十分だった。

そんな中でニックスまで生意気に部屋から勝手に脱出するなんて。

さらに、それだけでは足りず、ニックスはシルビアを人質に取ろうとしたではないか。

ロクサナは蝶を通じてニックスが部屋から脱出する場面を両目で直接見た。

その手法がアグリチェとかなり似ているように見えたのは単純な錯覚だろうか。

その時の光景を再び思い出している間、ロクサナの心も次第に冷たく沈んでいった。