ニセモノ皇女の居場所はない

ニセモノ皇女の居場所はない【145話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【ニセモノ皇女の居場所はない】まとめ こんにちは、ピッコです。 「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介と...

 




 

145話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 崩壊

イエリスはよろめきながら体を引きずり、部屋の中へ入ってきた。

「フィロメル――!」

そう叫ぶと、ものすごい勢いでフィロメルに突進してきた。

「きゃあっ!」

イエリスの手がフィロメルに届こうとした、その瞬間だった。

バチン!

悪神は火花を散らして弾き飛ばされた。

自動防護魔法の効果だ。

『なるほど! エステリオンも“美”の力というわけか!』

だが――イエリスの領域においても、〈亡霊の魔法〉は確かに作用していた。

威力は半減している。

だが、無効ではない。

その隙を逃さず、フィロメルは床に転がっていたリボルバーを掴み取った。

銃口をエレンシアの太腿へと向け、引き金を引く。

――タン!

しかし次の瞬間、彼女の身体を包み込んだ闇が蠢き、弾丸は甲高い音を立てて弾き飛ばされた。

――タン!タン!

立て続けに撃ち込む。

だが、結果は同じ。

闇は盾となり、銃弾をことごとく拒んだ。

「……この状態じゃ、エレンシアを狙っても無駄ね」

歯噛みしながら、フィロメルは瞬時に結論へ辿り着く。

「なら――狙うのは、あっち」

視線が、自然と奥へ向く。

“心臓”。

この空間の核。

すべての力が、そこから供給されている。

「――やるしか、ない」

フィロメルは再び一歩、前へ踏み出した。

いずれにせよ、悪神を本当に滅ぼすには心臓を取り除かなければならない。

身体をいくら切り刻んでも、それだけでは終わらない。

フィロメルはリボルバーを単発に切り替えた。

そのとき、イエリスが再び飛びかかってきた。

「フィロメル!」

バキィィン!

自動防護魔法が再び発動したが、今度はそれすら突き破られた。

「こんなものが、私を止められるとでも思ったか!」

悪神はフィロメルに向かって手を伸ばす。

指先の爪が砕け散ることなど、まったく気にも留めていない。

「早く、心臓を!」

フィロメルは、もう一度だけ心臓へとバルバドの剣を深く突き立てた。

「アァッ――!!」

イエリスの喉から、抑えきれない悲鳴が漏れる。

その顔は苦悶に歪んだが、それでも後退はしなかった。

「……退きなさい!」

叫びと同時に、空間が軋む。

だがフィロメルは止まらない。

歯を食いしばり、これまで温存していた力までも引きずり出すように、剣を捻じ込んだ。

一度、二度――連続して心臓を貫く。

全身から汗が噴き出し、視界が揺れる。

それでも、腕を離さなかった。

心臓はみるみるうちに色を失い、黒く濁り、収縮を始める。

それに呼応するように、“茎”は狂ったように脈打ち、壁や床を叩いた。

『――やめろ……!』

空間そのものが悲鳴を上げているかのようだった。

「……もう少し……!」

フィロメルの胸に、確信が灯る。

――あと一撃。それで、完全に破壊できる。

そう思った、その瞬間。

イエリスの腕が、意思とは無関係に動いた。

カチリ、と魔力が噛み合う音。

発動したのは、反射的な――自動防御魔法。

光の膜が展開され、フィロメルの剣を弾き返そうとする。

「っ……!」

刃が阻まれ、衝撃が腕を痺れさせた。

――だが、まだ終わっていない。

フィロメルは、剣を離さなかった。

防御が完成する、その“刹那”を――彼女は逃さない。

「……今度こそ、終わらせる」

低く、確かな声で呟きながら、彼女は全体重を預けるように、もう一度踏み込んだ。

「ぐっ!」

悪神はフィロメルの首を締め上げた。

彼女が反撃しようとした拍子に、二人はそのままもつれ合い、床に転がった。

「そんなふうに、永遠に幸せな夢を見ていればよかったのに」

「だ、誰が……そんな……!」

息を塞がれ、言葉が最後までうまく出てこない。

フィロメルは両手でイエリスの腕を振りほどこうとしたが、力及ばなかった。

抗いようのない怪力だ。

上級の力の秘薬を飲んだフィロメルでさえ、呼吸を締め上げるその手を、わずかに緩めさせるのが精一杯だった。

そのとき、不安定に揺れる紅炎の指輪から、神聖力が流れ出した。

「ククッ……あいつが、お前を守ろうとして足掻いているのか」

太陽神の神聖力は、瞬く間に悪神の闇へと呑み込まれていった。

――息が詰まる。

フィロメルは不足する酸素を求めて大きく口を開いたが、それは虚しい足掻きに過ぎなかった。

視界が滲む。

悪神の手首を掴んでいた手から、じわじわと力が抜け落ちていく。

意識が遠のいていった。

『……だめ。今、もう一度だけ耐えられれば……』

彼女の世界を救えるというのに。

脈絡もなく、過去の記憶が脳裏に浮かび上がった。

フィロメルは、はるか昔に庭園で〈皇女エレンシア〉を拾った。

その後、生き延びるために必死で、ついには皇宮から逃げ出した。

そうしてルグィーンや兄弟たちと出会い、最初の印象は最悪だったものの、少しずつ親しくなっていった。

本当の友人もできた。

ナサールとも心を通わせるようになった。

〈皇女エレンシア〉の存在だけでなく、この世界の真実も知ることになり……。

皇帝とはいまだにわだかまりが残っているが、それでもエレンシアは……。

物事は、そう都合よくは進まない。

「……詰み、かな」

もしかしたら、本当にもしかしたら、これが終わりなのかもしれない。

死にたくないという気持ちさえ、次第に薄れていくそのとき――。

その時――突然に。

「っ――!」

本当に、唐突に呼吸が戻った。

「はぁ、はぁ……」

フィロメルの肺いっぱいに、新鮮な空気が流れ込んでくる。

彼女はしばらく荒い息を繰り返し、ようやく状況を把握した。

自分の喉を締め上げていた悪神の圧倒的な力が、明らかに弱まっている。

理由はすぐに理解できた。

「貴様ごときが、よくも……!」

イエリスの左手が、フィロメルの首を掴んでいたその大きな手を、引き剥がそうとしていたのだ。

「……何?」

悪神が鋭く叫んだ。

「完全に体を乗っ取れ!」

その声は、フィロメルに向けられたものではなかった。

むしろ、自分の左腕に命じているように見えた。

まるで左腕そのものが、独立した意志を持っているかのように。

その瞬間、稲妻のような理解がフィロメルの頭を貫いた。

「エレンシア……!」

侵入者ではない、本物のエレンシア。

あの子だった。

侵入者が悪神に逆らい、なおかつフィロメルを救おうとする理由は一つしかない。

それは、彼女自身だった。

イエリスの表情が、凄絶に歪んだ。

「これまでみたいに、眠ったままでいればよかったのに!」

一拍置いて、かすれたほどに微かな声が零れ落ちた。

「……し……した……い」

エレンシアの声だった。

「わ、私は……フィ……フィロメルを、殺したく……な……い……」

その子は、必死に言葉を紡ぐ。

「もう、誰かを殺すのは……嫌……!」

エレンシアの瞳から溢れた一粒の涙が、フィロメルの頬へと落ちた。

――エレンシアは、抗っている。

かつてフィロメルがそうであったように、彼女もまた必死に戦っていたのだ。

歪められ、引き裂かれた運命の中で、それでもなお孤独に。

その姿は、フィロメルの胸の奥に火を灯した。

フィロメルは再び力を振り絞り、イエリスの腕をつかんだ。

彼女の右腕には、三本の手が絡みついている。

「諦められるわけない!」

あの子が必死に戦っているのに、ここでフィロメルが手放してしまえば、あまりにも救いのない結末ではないか。

フィロメルは奥歯を噛みしめ、残る力をすべて振り絞った。

首に走る痛みなど、今となってはどうでもよかった。

「はな……して……」

イエリスの右手から、少しずつ力が抜けていった。

「離れろ!」

――ついに、引き剥がした。

フィロメルはよろめきながらも立ち上がり、部屋の隅に転がった短剣を拾いに走る。

「殺してやる!」

悪神は血走った双眼で奇声を上げ、フィロメルの背後へと猛然と迫った。

――ドンッ!

次の瞬間、鈍い衝撃音とともに、“柱”が大きく軋んだ。

イエリスが体勢を崩し、床へと崩れ落ちる。

フィロメルもまた引きずられかけたが、咄嗟に何かを掴み、必死に耐えた。

外の状況は容易に想像できた。

フィロメルは歯を食いしばる。

ベルレンの攻撃は、確かに命中していたはずだ。

だが、手の中に伝わってくる感触が、どこかおかしい。

「……ん?」

フィロメルは、つい先ほど自分が掴んだものの正体を確かめた。

――心臓だ。

それは、天が与えた好機だった。

正確には、太陽神が授けたものだが。

彼女は、その心臓に向けて、渾身の力で剣を振り下ろした。

「やめろ!」

悪神が叫んだ。

「やれ!」

その瞬間、彼女が引きずり出した闇が、フィロメルへと押し寄せて来た。

濃密な闇が、彼女を呑み込もうとした、その瞬間。

――ズンッ!

間一髪、バルバドの剣が、僅かな差で先に心臓を貫いた。

苦悶の絶叫が、部屋の中――否、“柱”そのものを満たしていく。

「ぐ……ぐ、ぅ……!この……下賤な人間どもが……この、私を……!」

フィロメルへと伸びかけていた闇も、イエリスを包み込んでいた闇も、その一撃で一斉に掻き消えた。

それでもなお、悪神はよろめきながら、執念深くフィロメルへと歩み寄ってくる。

「この世に生まれ落ちたすべてのものは……無へと還らねばならぬ……それこそが、我が存在の意義……!」

血走ったその目から、強烈な執念が感じ取れた。

「ごめん、エレンシア。」

フィロメルは、行動に移る前にまず謝った。

ドンッ!

そして、悪神の顔面めがけて拳を叩き込んだ。

無駄のない、鮮やかな一撃だった。

いざという時に備えて、ナサールから護身術を学んでおいて正解だった。

イエリスは、うめき声を上げながら床に崩れ落ちた。

一発くらいは、自分の手で殴ってやりたかったのだ。

すうっと――気を失ったエレンシアの身体から闇が流れ出す。

フィロメルは、もはや一片の灰と化した心臓を見つめ、静かに言葉を零す。

「存在意義が、他者の破壊だなんて……」

結局のところ、悪神とはそういう宿命を背負って生まれた存在なのだ。

だからこそ、これほどの惨劇を引き起こした。

「神でありながら……なんて虚しい生だろう」

――けれど、人は違う。フィロメルは違う。

生きる意味は、誰かに与えられるものではない。

自分自身で選び、定めるものだ。

そして今こそ、これまで他者に縛られ、操られてきた一人の少女に、自由を取り戻させる時だった。

フィロメルは、心臓に深く突き立っていた短剣を引き抜き、その切っ先をエレンシアの胸へと向ける。

「……痛いのは、少しだけ我慢して。必ず――あなたの身体を、取り戻してあげるから」

バルバドの剣は、単に悪神を討つためだけの聖剣ではない。

実体を持たない、霊的な領域に存在するものにさえ影響を及ぼすことができる剣だ。

「う……」

その時、エレンシアが目を開いた。

「はぁ、クソ……何なの、なんでこんなに痛いの……?」

ぱっと見た限りでは、エレンシアではなく“侵入者”だったが。

侵入者は顔をしかめ、頬をさすりながら、こちらに剣を向けて構えるフィロメルを見つけた。

「フィ、フィロメル!」

フィロメルはためらうことなく、剣を振るった。

「きゃあっ!」

侵入者は腕で防ごうとしたが、バルバドの剣のほうが一瞬早かった。

「その身体から――出て行け!」

もはや侵入者の魂を縛りつけておくことのできる悪神はいない。

今こそが、まさに千載一遇の好機だった。

「――あっ!」

剣身が澄んだ光を放ち、侵入者は意識を失う。

フィロメルが剣を鞘へと納めた時、エレンシアの胸元には、傷ひとつ残っていなかった。

バルバドの剣が、不浄なる侵入者の魂だけを選び取り、斬り払ったのだ。

もちろん、その魂はエレンシアの身体を離れただけで、完全に消滅したわけではない。

――たとえ「消滅」するとしても、それはこの世界ではなく、向こう側の世界でのこと。

「……ここから出ないと。」

そうしなければ、亀裂は完全には閉じない。

ゴゴゴ……。

その直後、凄まじい轟音が響いた。

心臓が破壊され、悪神も消滅すると同時に、「幹」が崩壊を始めたのだ。

「早く出なきゃ!」

フィロメルはエレンシアを抱きかかえようとしたが、膝が崩れてしまった。

体に力が入らない。どうやら、力の秘薬の効果が完全に切れてしまったようだ。

「秘薬……秘薬はどこ!?」

ここから脱出するには、さらに秘薬を飲む必要があった。

――ドンッ!

フィロメルが、部屋の隅に落ちていた包帯を見つけ、手に取ろうとしたその時――何かが彼女を突き飛ばした。

「……うっ……」

脚を走る鋭い痛みに、即座に状況を悟る。

天井が崩れ落ちてきたのだ。

頭を直撃することこそ免れたが、瓦礫が脚を押し潰していた。

取り除こうと身をよじるが、力が入らず、どうにもならない。

「……危ない」

脳裏で、警鐘が鳴り響く。

――“柱”は、まもなく完全に崩壊する。

フィロメルは、万が一に備えて、胸元に下げていた《紅焔の指輪》にそっと触れた。

だが、指輪には瞬間移動を発動させるどころか、汚染を浄化するにも足りないほどの、わずかな神聖力しか残っていなかった。

先ほど悪神に攻撃された際、流出した神聖力があまりにも多すぎたのだ。

「どうしよう……」

その間にも、「幹」には次々と亀裂が入り、崩れ落ちる箇所が増えていった。

太陽神が現れて彼女を救ってくれるのと、瓦礫に巻き込まれて死ぬのと、どちらが早いだろうか。

「もしかしたら……神聖力が尽きて、汚染で死ぬほうが早いかもしれない」

フィロメルの意識は次第に霞んでいった。

そもそも、イエリスに首を絞められた時点で、限界寸前の体を無理やり動かしていたのだ。

ついに限界が来たのか、どれほど気力を振り絞っても、体に力が入らなかった。

「……本当に、終わったの……?」

フィロメルは、エレンシアの方へと手を伸ばした。

――あなたが私を救ってくれたように、今度は私が、あなたを救いたかったのに。

瞼が、ひどく重い。

もう、これ以上は耐えられそうにない。

――その瞬間。

「フィロメル様!」

まるで救い主のように、彼は現れた。

太陽神ではない、ナサール。

彼女の――恋人だ。

「……ナサール?」

フィロメルは信じられず、何度も瞬きをする。

「しっかりしてください!」

ナサールの温かな手が、フィロメルの頬をなぞった。

幻ではない。本当にナサールだ。

「どうして……?」

どうやって、ここまで来たのか。

この問いには、大きく分けて二つの疑問が含まれていた。

一つは、彼の体が汚染されるはずだということ。

もう一つは、彼女がどこにいるのか分からなかったはずだということ。

「詳しい話は後で!」

ナサールはフィロメルの脚に引っかかっていた瓦礫をどけると、彼女をひょいと抱き上げた。

いつの間にか、彼の腕にはフィロメルの鞄まで掛けられていた。

「私は大丈夫ですから、エレンシアをお願いします!」

ナサールといえども、二人を抱えるのは無理だった。

――このままでは、ここから脱出するのは難しい。

フィロメルは素早く背嚢から包帯を取り出し、脚にきつく巻きつけた。

じんじんと走っていた痛みは、ほどなくして引いていく。

「……本当に、大丈夫なんですか?」

「時間がないの!早く!」

フィロメルが叫ぶと、ナサールは短く頷き、エレンシアを抱き上げた。

――不思議だ。ほんの少し前まで、指先を動かす力すら残っていなかったというのに。

彼の顔を視界に捉えた瞬間、全身の奥から力が湧き上がってきた。

――死ねない。

――死にたくなんて、ない。

フィロメルは、そう強く心に誓った。

その間にも、「茎」は休むことなく崩れ落ちていった。

「っ、道が……!」

部屋を出たフィロメルの視界に、瓦礫によって塞がれた通路が飛び込んできた。

「こちらです!」

ナサールは、フィロメルが来た方向とは別の部屋へと彼女を導いた。

彼は、その道を通って来たらしい。

だが――

「こっちも!」

あいにく、その先も同じように巨大な瓦礫に阻まれていた。

「どうしよう……何か方法は……」

行き止まりを前にしても、フィロメルは決して諦めなかった。

――きっと、方法はあるはず!

その想いに応えるかのように、彼女の手が淡く光り出す。

手の甲には、つるはしを模した紋様が浮かび上がっていた。

――ドワーフ族長が刻んでくれた紋章!

紋様から溢れた光は、ある一点を目指して細く、まっすぐに伸びていく。

本能的に理解した。――進むべきは、あちらだ。

「ナサール、こっち!」

ナサールも同じ考えだったのだろう。

一切の躊躇もなく、フィロメルの後を追う。

光は一つの部屋へと続いていた。

外へ出ようとすれば、瓦礫に押し潰されて命を落としかねない中庭ではなく、むしろさらに奥へと踏み込んでみると、そこは非常識としか言いようのない光景だった。

それでもフィロメルとナサールは、ためらうことなくそちらへ向かった。

ヒュオォン。

二人を迎えたのは、外の空気だった。

部屋の片側の壁が完全に崩れ落ちており、外の明かりがはっきりと差し込んでいた。

ゴゴゴゴゴ……!

これまでとは次元の違う轟音が二人を襲う。

「茎」が、もはや形を保てなくなっているのだ。

天井も床も区別なく、すべてがばらばらと崩れ落ちていく。

これ以上ここに留まれば、埋もれてしまうに違いない。

「ナサール、飛び降りて!」

フィロメルは崩れた壁の縁へ駆け寄り、眼下を覗き込んだ。

底知れぬ高さだ。ここから落ちれば、即死は免れないだろう。

――だが、迷っている暇はなかった。

「……ふぅ」

フィロメルは深く息を吸い込み、腹に力を込めて叫ぶ。

「ベレレン!」

そうして、飛び降りた。

ナサールと固く手を取り合ったまま。

太陽神は告げていた。

ひとまず悪神の領域の外へ出さえすれば――どこにいようと、必ずフィロメルを見つけ出せる、と。

――どうか、その言葉が虚言ではありませんように。

フィロメルは地面に向かって落下しながら、必死に祈った。

そうでなければ、彼女とナサール、そしてエレンシアは、逃げる間もなく地面に叩きつけられ、即死してしまうだろう。

「神よ……」

その祈りに応えるかのように、次の瞬間、三人の体は空中で静止した。

彼らの前に姿を現した太陽神が、口を開いた。

「我が名を軽々しく呼ぶ人間とは、実に久しぶりだな」

生きていた。

三人は、生き延びたのだ。

 



 

 

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