こんにちは、ピッコです。
「死んでくれと言われて」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

35話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 弱点②
キャロンが部屋を出た後。
チェフとフレンヒルディがベッドの下から苦労して這い出してくる間、リンは冷静に先ほどの事件を整理していた。
『毒入りクッキーを持ち帰らなければ、ビルヘルムにトゥスレナに送り返されるってこと?』
乱暴な脅迫にさすがに衝撃を受けたが、キャロンはすぐに信じるほど単純ではなかった。
やつの手紙をだしに、リンをじっと見守ろうとする意図がありありと見える。
『ビルヘルム。』
どうにも好きになれない。
『ヤナはまだ十四歳じゃないか。家の外にいる兄弟のために、ここまで犠牲にならないといけないの?』
まったく。この家族、まともな家族愛が一つもないな。
それでも一方では、キャロンに握られたヤナの弱点がビルヘルムでよかったとも思った。
『妹のことも知らない兄貴ならともかく……ヤナならまだしも、私の弱点になるわけがないよね?』
結局、どんな方法でもビルヘルムが学業を続けられればいい。
それならこの問題も簡単に解決できるんじゃないか?
大公夫人に代わりに手紙を送ってもらうよう頼めばいいんじゃないか?
ベッドの下でゆっくりと体を起こしたチェフが、ズボンのほこりを払いながら言った。
「もう一度言うけど、あのオバサンが言ってた箱はすでに君のおじいさんに渡ってるよ。」
「知ってる。」
「でもそんな話、こっちに聞かれてもいいわけ?」
チェフの隣では、ようやくベッドの下から這い出してきたフレンヒルディが、慌ただしく髪を直していた。
『あんたなら違うかと思ったけど。やっぱり、あんたもね……。』
チェフの優れた機転には欠点が一つだけあった。
それは、あまりにもあけすけすぎることだ。
リンは返事をせずに、フレンヒルディを見つめた。
「お姉ちゃん。」
オロオロしていたフレンヒルディが、一拍遅れて答えた。
「なに?」
「お姉さんの目には、私とビルヘルム……どっちが近く見えるの?」
キャロンとの会話を聞いていた後、フレンヒルディの心情はかなり複雑そうに見えた。
だが、かろうじて抑えていた表情も、すぐに苛立ちに変わった。
「そんなのどうでもいいでしょ?それに、片方は学園に入学してから一度も顔を見せないやつなのに、顔を忘れないだけでもありがたいでしょ!何考えてるか知らないけど、今後あいつのせいで私まで巻き込まれるなんて、考えたくもないわ。はあ!イライラする……頭が痛い!」
フレンヒルディはぶつぶつ文句を言いながら背を向けた。
リンの鋭い視線は、微かに震えるフレンヒルディの肩越しに彼女の袖を捉えた。
『袖、破れてるんだ。』
ほんの短い間に袖口をちぎって床に落としたのか?
想像すると、自然と笑みがこぼれた。
だけど。
『ビルヘルムが入学してから一度も顔を見せなかったって?』
にわかには信じがたい話じゃないか?
毎月手紙を書くほど妹を恋しがっていたのに、休暇のたびに帰ってこなかったなんて?
リンはキャロンに、わずかに苦味を帯びた視線を向けた。
「学術院卒業は大家がビルヘルムに提示した最後のチャンスでもあるから……その最後のチャンスって、入学してから卒業までずっと学術院に缶詰めにされて勉強することだったの?』
どれだけ筋金入りの性格だったら、大家が一歩も学術院から出さなかったんだ?
妹の弱みになっただけでも足りず、すっかり台無しになったとは。
やっぱり気に入らない。
「チェフ、いつレテ城に行くの?」
チェフはバスケットの下に隠していた果物をもう一口かじりながら答えた。
「一週間後。」
「え?そんなに早いの?」
「早い?むしろ予定よりかなり遅れた方だよ。まあ、時間があっという間に過ぎた気もするけど。ふん、君に会えたから……手紙くらい送ってよ?」
「それはちょっと考えさせて……」
……しばし考える。
さっき、ヤナの弱みを消すにはかなり良い手が思い浮かんだ。
しかしこの作戦には一つ欠点があった。
少なくとも一日はトゥスレナを空けなければならない。
『気をつけなきゃいけないのに、キャロンだろうと誰だろうと適当に歩き回っていいわけないじゃないか?』
もし今サブが隣にいたら、どうやって諭してくれただろうか。
「このバカ!」
……うん。
「そんな結末を迎えても、図々しく泣きたくなるのか?敵に一息つく暇を与えちゃだめだ。お前が見えないとき、敵が安心するんじゃなくて、緊張させるようにしろ!」
サブの警告が響いた。
『席を外す間、キャロンが隙を見せないように対処した方がいいな。』
「チェフ、元気でね。今日はありがとう。」
「ありがとう?なにが?とにかく回復頑張れよ。」
リンは急いでチェフを見送り、オルガを呼んだ。
「オルガ?」
「はい。」
「君の情報力が必要なんだ。今話したあの子について、少し調べてきてくれる?」
リンはほんの一度だけだが、はっきりとした特徴を持った少女の印象を説明しながら、新しい計画を着実に立てていった。
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ここに、長い赤髪をたなびかせる、そっけない雰囲気の少女がいる。
名前はフレンヒルディ。
トゥスレナ家の分家の娘であり、長女でもある。
彼女は実は非常に厄介な呪いにかかっていた。
しかもその呪いは、フレンヒルディが知る中でも最も自己中心的で暴力的な乱暴者にかけられたものであり、彼女一人の力では到底解けないものだった。
いったいどんな呪いかというと……
「この能天気な小娘を見ろよ?お前の兄貴がこんな目に遭ったってのに、何日も平然と本読んでうっとりしてやがったのか? クソッ、家主には涙鼻水垂らすこともせずによ!」
毎日午後、このゴミのような兄弟たちと「オープンタイム」を持つ呪いだった。
『はあ。』
ため息をついた彼女は、うんざりしたようにマリウスを見た。
彼女を侮辱していた間、少しでも気が晴れるかと思ったが、今や憎悪すら感じたこの男が、妹にまで八つ当たりしている様子に心底嫌悪感を抱いた。
荒々しい小犬のような姿だった。
大家の命令でマリウスがこの部屋に住み始めてから、もう何日も経っていた。
当然のことだが、マリウスに罪悪感や反省の気配は微塵もなかった。
「なんで私が?あなたがバカみたいにあの子の頭を殴ったからでしょ?」
嫌いだ。本当に死ぬほど嫌い。
どれだけ見たくなくても、この見苦しいティタ家の名は引き継がなければならない。
父が残した唯一の言葉――それは、彼ら兄妹の中で、唯一フレンヒルディだけが父に似ている、ということだったからだ。
「よく聞きなさい、フレンヒルディ。お前の父である私の言うことを絶対に守り、マリウスを支えていくんだ。そうすれば我が家は生き残る。あいつは早くに両親を亡くし自制心が足りない。だからこそ、特に気を配らなければならない。怒りを抑えられず子どもに手をあげたりしてはいけない。失敗して落ち込んだら、そばで励ましてやれ。マリウスから決して離れず、彼を支えろ。それが――お前の役割だ。」
役割だと?
だが、不満を抱こうが何をしようが、父でありグリゴリーの名を持つ存在である以上、フレンヒルディは黙って従うしかなかった。
そしてグリゴリーは、悪魔たちの暴君。
不幸にも、その悪魔には彼の実の娘であるフレンヒルディも含まれていた。
フレンヒルディが本を片付けて壁際に押しやったところで、マリウスが鼻を鳴らして言った。
「やれやれ……。父さんが席を外したぐらいで浮かれるとはな……。せいぜい油断しないようにしろよ。俺がこんなに地位を得たのも、父さんがただ黙って見ていたわけじゃないからな。父さんが戻ったら私生活だろうがロマンスだろうが、すべて終わりだ。分かった?」
普段ならマリウスの暴言を無視して、また本を読むか、怒りをこらえたはずだった。
だが今日は、そうしたくなかった。
なぜか分からないが、この忌まわしいマリウスをぶん殴りたい衝動がどうにも抑えられなかった。
席から勢いよく立ち上がったフレンヒルディは、マリウスを見下ろして言った。
「父さん、父さん。ほんとにうんざりで死にそう。」
「は?」
「お前、自分一人じゃ何もできないのか?父さんがいなきゃ、この部屋から一歩も出られないの?お前みたいなやつより、ヤナ・トゥスレナの方が百倍マシだ。あの子は少なくとも自分の力でこの狭い部屋から抜け出したんだから。」
一瞬うつむいていたマリウスの顔が、さっと険しく強張った。
「はは……。私生児だからって、この下賤な奴まで一緒に気が触れたのか……!」
彼は今にもフレンヒルディに危害を加えそうな勢いで立ち上がった。
だが、その動きを予想していたフレンヒルディは素早く本をまとめ、マリウスの部屋を脱出した。
バタン。
ドアが閉まったあとも、心臓は狂ったように跳ね続けた。
建物を出たあとも同じだった。
いつも兄に黙って従っていた自分が、初めて真っ向から逆らったせいだろうか?
フレンヒルディはマリウスに反抗した自分を信じられなかった。
『どうして急に……?』
「赤ん坊が泣いたと思ってるの?私は、そんなふうに生きたくなかっただけよ。」
「……」
不意にヤナ・トゥスレナの顔が脳裏をよぎった。
気分転換に書庫から出たフレンヒルディは、向きを変え、演武場へと向かった。
こんな日は、少し騒がしい場所で本を読む方が、心の安定に役立つ。
そんな意味で、フレンヒルディが新たに目指したのは、自由訓練が行われている演武場の観客席だった。
そこなら、誰にも邪魔されずに静かに読書を楽しむことができた。
――だが、フレンヒルディのささやかな計画は、演武場に到着してわずか10分も経たないうちにあっさりと崩れ去った。
「また会ったね、お姉さん。」
まったく歓迎できない訪問者が、親しげに挨拶してきた。
しかも、その相手は……。
『チェフ、お前か。』
その整った顔を見た途端、昨日の出来事がよみがえった。
トゥスレナのベッドの下に引きずり込まれ、一緒に息を潜めていたあのことを……。
フレンヒルディは気まずそうに視線をそらした。
「……ああ、そうね。」
「本を読みたくて来たの?ここで僕はお母さんに一発お見舞いしようと思ってるんだ。ちょっとうるさくなるかもね。大丈夫?」
常々感じていたが、チェフの口調には、男にしては妙に柔らかさがあり、気の強いフレンヒルディでさえ、普段よりも少し穏やかに返答してしまうのだった。
「……あまりに静かすぎるより、少しざわついてるくらいがいい。」
「そうだね。」
軽く肩に手を置いた相手が、観客席から演武場へと降りた。
『こんなに長く話したのは初めてだな。』
チェフ家の社交性は優れていたが、発言は少なく、今まで長く話す機会がなかった。
挨拶さえも滅多に交わさないほどで、その点は母親であるアウクスをそっくり受け継いでいるようだった。










