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外伝10話




 

こんにちは、ピッコです。

今回は10をまとめました。

 

 

 

 

 

ネタバレありの紹介となっております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

各話リンク こんにちは、ピッコです。 ネタバレありの紹介となっております。 ...

 




 

10話

外伝9話 こんにちは、ピッコです。 今回は9話をまとめました。 ネタバレあ...

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 剣術大会

「どうしても去らなければならないのか?」

荷造りをしていたリプタンは肩越しに首をかしげた。

黒い角の傭兵団の団長、ガイルが壁に寄りかかって、いらいらした目で彼を睨んでいた。

「今まで面倒を見てくれた恩をこんな風に返してもいいのか」

「あなたに面倒を見てもらった覚えはないんだけど」

リプタンは斜めに答え、荷物を肩に担いだ。

「何の役にも立たない小僧を今まで食べさせ寝かせてあげたりしたのに、そんなに恩知らずだなんて」

リプタンは苦笑いする。

この男は、彼が傭兵団に入ったばかりの時から、魔物たちを誘引する餌に利用していた。

一度も何かをただでもらった覚えなどない。

「私はあなたに借りはない。私の口に入るのは水一口まで全部私の力で得たものだと。まさか違うとは言えないよね?」

「生意気な奴め」

ガイルは否定できず、軋むように拳で壁をたたきつけた。

「東部で内戦が起こるだろう。貴様は主要戦力なんだ!」

「私の知ったことではない」

そのぶっきらぼうな返事にも屈せず、ガイルが執拗に食い下がる。

「もう一度よく考えてみて。戦争で功を立てれば、領土に土地を貰うこともできる。君のすべきことさえうまくやれば、別に一役買ってあげるよ。君が20歳を過ぎたら副団長の席まであげるつもりだ。我々がバルトの正規軍になれば、お前は部隊長になるんだ」

リプタンは冷笑的に口元をひねった。

「私をバカだと思っているのか?いつまでもこの地で転がって食べてみたところで、私は異教徒の血が混じった雑種にすぎない。悪いけど、これ以上そんな無駄な苦労はしたくないね」

「分かった、もう引き留めるない!お前が行きたい所に行けばいい。「お前」という行動を見れば、近いうちに死ぬに違いないが、少なくとも国境を越えるまでは首がついていることを祈る」

それから足を踏み鳴らしながら立ち去ってしまった。

リプタンは淡々とした顔で残った装備をすべて持って行き、その後を追うように部屋を出る。

宿の裏口から外に出ると、銀色に凍った大地が目の前に広がった。

西北部地域は、四季折々、地面が雪と氷で覆われている。

こんな索漠とした所で人間が場所を取って生きていくというのが信じられないほどだ。

東に下ると広い草原が広がっていたが、それさえも安息の季節が来れば白く死んでしまうのが常で、馬と羊を育てる流浪民族まで南に行くと、この地は魔物だけがうようよする荒れ地に変貌してしまう。

リプタンはうんざりする凍土を見渡し、荷車を1台手に入れた。

別れを告げたい人は一人もいない。

彼は身軽な気持ちでわらの山の上にどっかりと座り込んだ。

南の方へ発とう。

どこでもここよりはましだろう。

リプタンは騎手に出発の合図を送った。

その瞬間、誰かが馬車の上にひらりと駆け上がってきた。

リプタンは険しい顔をする。

ルースは当然のように向かいに座った。

「遅くなってすみません。思ったより気をつけなければならないことが多かったもので」

魔法使いが一緒に発つことをあらかじめ約束しておいたように、図々しく吐き出しては、大きな荷物カバンを手でばたばたと叩いた。

「馬を一頭買いたかったのですが、ここでは家畜が途方もなく高くて思いもよらないです。国境を越えるには南部地域に到着し次第、馬を手に入れる必要がありそうですね」

それから長いあくびをしながら藁の山の上に斜めに身を横たえる。

「それでは、私は一眠りします。目的地に着いたら起こしてください」

リプタンは呆れた目つきでルースを睨みつけ、飛び起きて彼の胸ぐらをつかんだ。

魔法使いが「うわぁ!」というけたたましい叫び声をあげた。

リプタンは彼を意に介さずに投げ捨てようとする。

すると、魔法使いが馬車の手すりにしがみつきながら、急いで叫んだ。

「ちょ、ちょっと待ってください!言葉にしましょうよ!私にも去らなければならない理由があるんですよ!」

リプタンは冷たい視線で彼をにらみつけ、それから放り投げた。

魔法使いは急いで馬車の中に潜り込み、荷物をぎゅっと抱きしめる。

「本当に酷いんじゃないですか!?一寸の迷いなく投げ捨てようとするなんて!どうしてそんなに頭が上がらないんですか!」

リプタンは彼の抗議を完全に無視し、猛烈にうなり声を上げた。

「次の村で他の荷馬車を手に入れるか、馬を手に入れるかのとちらかだ。どこへ行っても君の気持ちだけど、私を追いかけることは夢にも思わないで」

魔法使いが傲慢な顔をする。

「必ずそのように薄情にならなければなりませんか?」

彼は答える価値を感じずにとっかり腰を下ろした。

車輪が雪原の上を転がっていく音だけが続くのをしばらく、彼の顔色をうかがっていたルースが泣き声を吐き出し始めた。

「私が同行した方が、カリプスさんにとってもお得じゃないですか。魔法使いがいれば依頼費ももっとたくさん貰えるし、一人で歩き回るよりずっと安全ですよ」

「・・・どっちが安全なんだ?」

鋭い指摘にルースは肩を動かし、すぐに率直に認めた。

「私一人でこんな所に残りたくないんです!ここは魔法使いに対する待遇が非常に悪いじゃないですか。率直に言って、いつ神殿の裁判官の前に連れて行かれるのではないかとハラハラするんです。他の人たちが積極的に私を保護してくれるような気もしませんし」

リプタンは歯を食いしばる。

自分もやはり彼を保護するつもりがないということを一体何度言ったら分かるのか。

「それが私と何の関係があるの?」

その無情な返事にルースの顔が赤くなった。

「私一人で国境を越えようとしたら命が残らないと思います。強盗に全財産を落とされたり、人身売買犯に拉致されてある変態貴族の奴隷になったり、魔物の代弁になるんですよ!本当に私がそんな格好になるように放っておくというんですか?私がカリプスさんの命を救ったことが何度もあるのに、命の恩人をこんなに知らんぷりしていいんですか!?」

リプタンは疲れた顔で耳を塞いだ。

甲高い声でぎくしゃくしていた魔法使いが、今では彼のズボンの股をつかんで泣き言を言い始めた。

「私は大魔法使いなんです。世界のトップも認めた天才魔法使いですよ!こんな私が世話をしてあげるというのに一体何が不満ですか?何がそんなに気に入らないのですか!」

「は・・・、放せ!」

「死んでも放しません!率直に言って、他の傭兵たちをまったく信じることができないんです!カリプスさんが私の後を見てくれているとほらを吹いておかなかったら、みんな私の分を取っていたでしょう。暇さえあれば狂ったことをして人の魂を抜いておくが、それでもあなたほど報酬をきちんと用意してくれる人はいないんですよ!」

リプタンはルースの頭を押さえつけ、悪態をつく。

確かにこいつの芸はいろいろと使い物になった。

これまで経験を十分に積んできたおかげで、危機の際、驚くべき瞬発力を発揮したり、治癒魔法と防御魔法に卓越した能力を見せたりもしている。

しかし、このうるさい奴が呼び起こすイライラは、到底我慢できないほとだった。

リプタンは容赦なく彼を引き離す。

「何度も言ったけど、私は一人が楽なんだ。保護者が必要なものなら、他の人を調べろということだ。お前の実力なら欲しがる人が一人や二人ではないはずなのに、どうして私に執着する?高位の,魔法使いと言えば、どの領主も両手を広げて歓迎してくれる!」

「そんなはずがないからこうするんじゃないですか!」

魔法使いはふさふさした髪をかきむしって悲痛に叫んだ。

「私は現在、世界の塔を背にして出て、彷徨っているところです。他の魔法使いたちの反発を買ってまで私を近づける領主はいないだろうと」

初めて聞く話だった。

複雑な事情があるようだとぼんやりと感じたが、世界の塔を敵にしているなんて。

いったい何をしでかしたのか見当もつかなかった。

リプタンはこめかみを親指でぐっと押さえる。

魔法使いは哀れな顔をして、哀願するように彼を見上げた。

このしつこいやつは、きっと自分を追いかける決心をしたに違いない。

打ちのめして気絶させない限り、取り外すのは難しいだろう。

リプタンは諦めのこもったため息をついた。

「よし、同行を許すよ。ただし、いくつかの条件がある」

「条件ですか?」

リプタンはうなずいた。

「どうしても必要な場合でなければ、私に話しかけないこと」

ルースは唇を突き出す。

リプタンは目を細め、一字一字力を入れて言った。

「不必要な質問はしないこと。煩わせず、苛立たせず、あるようでないように静かについて来たら・・・」

「いっそ口を縫ってしまわれたらどうですか?」

魔法使いが皮肉を言った。

「気に入らなかったら、すぐに馬車から降りろ!」

「誰が気に入らないと言いましたか?」

ルースはすぐに尻尾を下げる。

「わかりました。わかりましたよ!私がそばにいることも分からないくらい静かにしています」

リプタンは不審そうに彼を見下ろし、しぶしぶ吐き出した。

「・・・気に障ったらすぐに捨てるからな」

承諾がされると、ルースはにっこりと笑い,鼻歌を歌いながら毛布を体に巻いた。

気が狂いそうな旅行先になるのが火を見るより明らかなことだった。

リプタンは歯ぎしりしながら目を閉じる。

 



 

予想とは裏腹に、魔法使いは最悪の同行者ではなかった。

彼はほとんどの時間、布団をかけずに横になってのんびりと昼寝をし、起きている時も火を起こしたり食事を準備するなど、こまめに自分の役割をした。

時々独り言でなんだかんだ言って神経が尖ったが、殺伐とした目つきを送るとすぐに静かになる。

この程度なら我慢できた。

彼らは丸一日馬車で移動し、小さな町で休憩を取る。

そして幸運なことに、そこから南に下る商団の行列に合流することができた。

商人はリフタンを雇うことを嫌がったが、ほとんどの傭兵が内戦に備えて北部に向かったため、選択権がなかったのだ。

リプタンは、オシリアまで商団を護衛する見返りに、銀貨6枚を受け取った。

とんでもない金額だったが、お金を稼ぐ目的で引き受けた仕事でもなかったので、あえて交渉しようとはしなかった。

そもそも、この北半球で彼を雇ってくれる商人を探すのは、砂の中で針を探すのと同じだったから。

「さあ、頭金だ」

リプタンはルースに3枚の銀貨を渡す。

彼はすぐにそれを受け取り不満そうな顔をした。

「千里の道を行くのに、たったこれですか?」

「不満があれば、今からでも傭兵団に戻れ。仲介を経ずに仕事を受けていると、こんなことは一度や二度ではないだろう」

彼はぶっきらぼうに返事をし、鞍の上に荷物を置く。

馬車を護衛する仕事を引き受けるためには、馬2頭を購入せざるを得なかった。

リプタンは、自分の体を支えるには全く不実に見える雄馬を気に入らない目で眺めていたが、旅行の準備をしている商人の群れを見回した。

行列は12人の傭兵と14人の商人で構成されている。

商人たちも北方民らしく一様に風采が良かったが、魔物や盗賊の群れに出くわした時、どれほと役に立つかは分からなかった。

リプタンは傭兵たちの実力を見計らって、護衛除列の中間に立つ。

出発の準備が終わると、行列は村を離れ、南に移動を始めた。

旅程は覚悟の上で順調だった。

途中で吹雪が吹き荒れたが、天気が良くない日には魔物や盗賊の群れに会う確率がはるかに少ない。

おかげで彼らは何の問題もなく、凍土を通って南部に位置する小さな都市に到着することができた。

そして、そこで一日ほど休憩を取った後、すぐに国境に向かって出発する。

リプタンは半年ぶりに緑の草原を見ることができた。

ちょうど水の季節を迎えたオシリアの平原はさわやかな緑色で覆われており、力強く流れる小川の近くには鹿たちがのんびりと水を飲んでいる。

彼らは馬車を小川のほとりに置き、馬に思う存分草を食らわせてやった。

「あと一週間で首都に到着できそうだね」

地図を見ていた商人が、ふとリプタンを振り返りながら尋ねた。

「目的地に着いたら、君たちはどうするつもりなんだ?」

リプタンは不思議そうな目で彼を見る。

自分を見れば不快な表情をしていた人が突然声をかけてくると警戒心が起きたのだ。

彼はジャーキーをかみしめながら生意気な口調で答えた。

「数日休憩を取って新しい依頼を探すつもりだ」

すると商人の顔が目に見えて明るくなる。

「私たちは約10日ほど滞在し、品物を購入して再び領土に戻る予定だ。その時も護衛をしてくれるか?帰り道には賃金を2倍にするから」

リプタンは口元をひねった。

国境を越える間、彼らは活動を始めたばかりのウェアウルフに2度も出会わなければならなかった。

その時見せた自分の実力がかなり気に入ったようだ。

彼は残りのジャーキーを口の中に突っ込み、手を横に振る。

「提案はありがたいが、遠慮しなければならない。しばらくはオシリアに泊まる予定だよ」

商人の顔に物足りなさの色が通り過ぎた。

「もしかして、大神殿が主催する剣術大会に参加しようとしているのかな?」

「剣術大会?」

「聞いたことないかな?各国の貴族と王族が見守る中、剣士たちが実力を競うものすごい試合だ。君のような流浪の剣士が名を馳せるにはもってこいではないか」

「普通、そういう大会には騎士だけが参加できるんじゃないの?」

「そうじゃないね。馬上競技ならともかく、大神殿が主催する剣術大会は2デナールさえ出せば誰でも参加できる」

リプタンは冷笑を漏らした。

2でナールは、平民たちは一生手にすることすら難しいお金だ。

大神殿が身分上昇の虚夢に膨らんだ彼らを相手に商売をしているとしか考えられなかった。

リプタンは水筒を取り出して喉を潤した後、冷たく答えた。

「別に関心がない」

「君くらいの実力なら貴族の目に入ると思うけど?」

「貴重な方々の機嫌を取りながら生きるには、私の気性がもともと汚いからね」

「確かに、それもそうだ」

商人が素直に同意する。

少し離れた場所で静かに口の中にパンを押し込んでいたルースが、露骨にくすくす笑いながら笑った。

リプタンは鋭い目つきで彼をにらみつけ、席から立ち上がる。

「そろそろ出発しよう。日暮れ前には村に着くべきじゃないか」

彼らは馬を引き連れて南へ旅立つ。

広い野原を半日も走り続けると、まもなく小さな村が姿を現した。

そこで1日休んで、さらに2日移動した後、彼らはオシリアの首都、バルボンに到着する。

リプタンはかつてロエム帝国の首都だった巨大都市の城壁を眺めながら、思わず口を開いた。

ドラゴンも入れるほど雄大な城門を通過すると、馬車6台が通ってもいいほど広くてきれいな大通りが姿を現す。

彼は手綱を握ったまま絶え間なく目を転がした。

ウェデンからリバドン、バルトまであらゆる場所を通ったが、バルボンほど荘厳で美しい都会は見たことがない。

道の左右にぎっしり詰まった建物は一様に石造で建てたものであり、平民が住む家屋とは思えないほと綺麗で美しかった。

大通り周辺にはよく手入れされた低木や花壇が並んでおり、人々の服装も概して綺麗で、ありふれた家畜の糞便の匂いもしない。

リプタンは、汚物一つない綺麗な道とその上を秩序正しく行き来する馬車を疑いの目で眺めた。

彼の経験によれば、巨大な都市ほど悪臭が酷くなるものだ。

こんなにたくさんの家畜と人々が住んでいるのに、どんな方法で清潔な環境を維持するのだろうか。

そういう無駄な考えに浸っていると、先頭に立って馬車を運転していた商団行列の頭が道路の端を指して大声で叫んだ。

「あそこが大神殿だ。宿に行く前にちょっと寄って行こう」

リプタンは不愉快そうな表情で馬の鞍の上で寝返りを打った。

荷物をいっぱい積んだ馬車は広場を通り、ゴシック風の建築物の前で止まる。

バルトの商人たちが階段を上ってアーチ型の入口に列を作って入った。

彼らが神殿に供え物を上げ、祈りを捧げている間に、リプタンは馬車のそばに立ち、澄んだ水を噴き出す噴水台を限りなく眺める。

いつも神殿の前に立つと、必ず招待されないお客さんになったような不便な気分になった。

「カリプスさんは中に入らないのですか?」

御者席に座ってうとうとしていたルースが、ふと彼を振り返りながら尋ねた。

リプタンは肩をすくめる。

「旅行先ごとに献金を出していたら、私は乞食になっいただろう」

「こういう時はカリプスさんも間違いなく傭兵ですね」

ルースは首を横に振った。

「私を苦しめるには、敬虔な旧教徒になると思っていました」

「私があなたを虐めるのは、あなたが癇癪を起こすからであって、魔法使いだからではない」

ぶっきらぼうな返事にルースが文句を言う。

リプタンは噴水台の前を歩き、聞き流していた。

クリスタルのように輝く水の上に12人の騎士を従えたウィグルと、王冠をかぶったダリアン皇帝、そして彼らに祝福を与える天使たちの彫刻像がそびえ立っていた。

リプタンは頭の上にかぶったフードを深く引っ張り、目の下に陰を垂らす。

険しくて汚い環境に慣れているからだろうか、それとも根強い劣等感のためだろうか。

伝説の中に登場,する騎士たちの姿が無駄にまぶしく見えた。

 



 

「さあ、もう休みに行こう」

しばらくすると、礼拝を終えた商人たちが神殿の中から出てきた。

リプタンは再び馬の鞍の上に座る。

そして馬車を護衛しながら宿に向かって移動すると、ふと6台の豪華な四輪馬車と数十人の騎士が神殿に向かって列をなしていく姿が見えた。

リプタンは見慣れた旗を見て目を細める。

すると、商人たちが馬車を道の横に寄せて止めて大騒ぎをした。

「おい!早く馬から降りないで何してるんだ!?」

きらびやかに輝く鎧と金箔で飾った馬車を遠く眺めると、傭兵の一人が彼の足を厚い手のひらでぴしゃりと叩きつけた。

リプタンは不快感で眉をひそめ、しぶしぶ鞍から降りる。

商人が彼の裾を引っ張っぱると、息を殺した声で叱責してきた。

「あれはクロイソ公爵家の紋章だよ。ウェデン東部の土地の半分があの家門のものだ。七国をひっくるめて十指に数えられるとてつもない家なので、あの紋章を見ればすぐに頭を下げるのが良いだろう」

リプタンは雷に打たれたようにまっすぐに体を固めた。

そうだった。

幼い頃に飽きるほど見た、まさにその旗だったのだ。

銀色の魚と赤褐色の鹿、黄金色の穂が絡み合っている複雑な模様を眺めていたリプタンは商人に向かって尋ねる。

「ウェデンの貴族がなせオシリアに?」

「もうすぐ剣術大会が開かれると言ったじゃないか。競技を観覧したり、有力者の間で親睦を深めるために訪れたのだろう」

リプタンは彼の説明に耳を傾けながらも馬車から目を離さなかった。

理解できない理由で、口の中がからからに乾いて心臓がドキドキする。

ひょっとして、あの女の子も一緒に来たのだろうか。

彼は抑えきれない好奇心を感じながら、カーテンがかかっている窓をじっと見つめた。

しかし、厚いカーテンには影がちらっと映るだけ。

リプタンはいらいらして首を長く伸ばした。

今頃、彼女は何歳になったのだろうか?

13?14?

思い出の中の女の子が、どのように育ったのか気になって狂いそうだった。

何よりも元気な姿が見たかった。

ついに我慢できず行列を追おうとすると商人は驚いて彼の肩をつかんだ。

「どうしたの?知っている人でもいるのか?」

リプタンは肩をこわばらせ、首を横に振る。

彼は不思議なことのようにリプタンをじっと見つめ、宿の方を指差した。

「じゃあ、早く行こう。大通りにいては貴族や、王族が行幸する間に頭を突っ込んでいなければならないだろうからね」

リプタンはますます遠くなる公爵家の旗を見て彼らについて歩いた。

しかし、宿に戻ってからも、この街のどこかに彼女がいるかも知れないという考えにやきもきする。

彼はただ彼女を遠くからでも一度だけだからも見たいだけだった。

自分が苦しい度に慰めになってくれた幻想を、直接目で確認したかったのだ。

ベッドの上で疲れた体を寝かせながら、ぼんやりと天井を見上げていたリプタンは、騒々しいラッパの音に立ち上がり、窓際に向かって歩いた。

大通りにはウェデンの旗を持った王室の親衛隊が4頭の馬が率いる馬車を囲んで威圧的な行軍をしている。

凛々しい威容を誇って大神殿に向かって行進する騎士たちを眺めていたリプタンは、都市の東側にある巨大な円形競技場に目を向けた。

涼しい風が濡れた髪を掃いて通り過ぎていく。

リプタンは目を剌すような前髪を手でかき分けながら窓を閉めて歩いた。

身に余る考えはやめよう。

こうやって善良である理由がない。

自分を説得するように心の中で繰り返したが、彼女が同じ都市にいるかもしれないという考えは彼を捕らえて離さなかった。

リプタンは顔を荒々しくこする。

あの子は南方民の血が混じった卑賤な召使いなど覚えてもいないに違いない。

しかし、それがどうだというのか。

自分は彼女のことを覚えていて、その記憶が彼の過酷な人生の唯一の慰めだった。

魔法で作った幻想などではなく実在する彼女を見れば、この荒涼とした人生に慰めがもう一つできるのではないか。

真っ暗な洞窟の中で夜を明かす時や魔物の負傷で苦しむ時、逃避先になってくれる記憶をもう一つ作ること。

それがそんなに無駄なことだろうか。

結局、リプタンは彼女に会いたいという誘惑に負けてしまった。

リプタンはすぐに商人を訪ねる。

「どうした?」

部屋で一人で休憩を取っていた雇い主が疑いの目で彼を眺めた。

突然訪れたのが警戒心を呼び起こしたようだ。

リプタンは彼を害するつもりはないという意味で一歩後退し、無愛想に尋ねる。

「剣術大会について聞きたくて来た。平民も自由に参加できると言ったよね?出場するにはどうすればいいんだろう?」

商人が驚いたように目を大きく開けて失笑を漏らした。

「今日の騎士団行進を見たら気持ちが変わったようだね?」

「・・・」

リプタンはあえて答えなかった。

愛想のない態度が気に入らないような不機嫌な表情をしていた商人が無愛想に答える。

「大神殿に行って出場費を払えば大会に出られると思う。今日は遅れたから明日一度訪ねてみたらどうだ?」

「そうか、休憩の邪魔をして申し訳ない」

彼は肩をすくめてドアを閉めなおした。

リプタンは翌日の朝、夜が明けるやいなや大神殿を訪れる。

街の中心地に位置する巨大な神殿は、ロエム帝国黄金期に建築されたものであるだけに、どの王城よりも雄大な規模を誇った。

しかし、どこで出場申し込みをしなければならないのか迷うことはなかった。

礼拝堂の左側に位置した建物の前に、ばっと見ても流れ者の剣術師と見える人たちが長い列を成していたのだ。

彼は列の端に立って、いらいらしながら自分の順番を待つ。

参加登録の手続きは予想外に簡単だった。

参加費を払って名前を載せればそれで終わり。

ただ、本大会に出る前に予選を経て実力を検証しなければならなかった。

金貨2枚を捧げた数百人の平民の中で、貴族の前で実力を披露できる人は30人にも満たないのだ。

(本当に楽な金儲けだね)

リプタンは、ひねくれた考えをしながら金貨を置く。

出場リストに名を連ねると、1人の神官が彼を練習場のように見えるところに連れて行った。

リプタンはそこで計5人と組手を組んだ末、本大会に参加できる資格を得る。

別に予選試合を主催するほどの誠意もないのかと思い、しばらく呆れたが、長く引きずらなくて楽でもあった。

彼は神官が渡した出場表を受け取り、大神殿を後にする。

いつの間にか日は暗くなっていた。

リプタンは夕食のために宿の食堂に入る。

すると隅に座って食事をしていたルースが、ぱっと席から立ち上がった。

「カリプスさん!剣術大会に出場することにしたんですって?」

魔法使いが食べていたスープの器を手に持ったまま、ちょろちょろと彼の前に走ってきた。

「そんなことにはちっとも興味がなかったじゃないですか。急にどういう心境の変化ですか?」

リプタンはルースの目を避ける。

なぜか彼女を見るためにこのような騒々しい行事に出場するということが恥ずかしく感じた。

彼は適当に言い繕う。

「賞金が思ったより良かった」

「いくらですか?」

魔法使いが目を輝かせながら尋ねると、彼はいらだたしそうに鋭い目つきをした。

「余計な質問はしないと約束したのを忘れたの?」

「余計な質問ではありません!重大な質問ですって!今、居酒屋ごとに剣術大会の
優勝者を占う賭け事が行われているんです!」

ルースは真剣な表情をした。

「カリプスさんが出場したという話を聞くや否や、私は巨額をかけました。当然、真剣な姿勢で臨みますよね?」

リプタンは呆れた表情で彼をにらみつけ、首を振りながら居酒屋の隅に座る。

ルースは彼の隣に座り、磨きをかけ続けた。

「カリプスさんがその気になれば、優勝は私たちのものです。配当がなんと20倍なんですって!」

「何を言っているんだ!」

「私が一文無しになってもいいのですか!?カリプスさんを信じて、お金を全部入れたんです!配当金をもらったら、カリプスさんにも一口差し上げます。だから渾身の力を尽くさなけれはなりません!わかりましたか?必ず勝たなければなりません!きっとです!」

ルースは夕食中ずっと彼のそばでキツツキのように鼓膜を刺した。

リプタンはスープの器を彼の顔に投げ込まないように忍耐強く感じなければならなかった。

 



 

ここでクロイソ公爵家の登場!

マックは来ているのでしょうか?

ここで再会する?

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