こんにちは、ピッコです。
「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
41話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 父親と娘
カッセルはベッドに横たわり、額に手を当てながら、午後に起きた出来事をずっと考えていた。
今日、友人たちと遊んで帰る途中の馬車で、小さな事故があったという報告を受けたのだ。
「ただの接触事故でしたが、お嬢様がひどく驚かれまして」
暴走した鹿が飛び出してきたせいで、姪はかなり肝を冷やしたらしい。その後しばらく口数が減り、一日中アイカのそばを離れなかったとも聞いた。
あの凄惨な日の記憶が蘇ったのではないかと心配していたが、そうではなかったと聞いて、カッセルはひとまず胸をなで下ろした。だが、もっと気を配るべきだったという後悔が募る。今日の出来事まで、すべて自分の責任のように思えて気分が晴れなかった。
本来ならカッセルは、アイカに馬車そのものを見せないようにするつもりだった。しかし記憶を失ったあの子は、馬車に対して恐怖を抱くどころか、公爵邸でも真っ先に乗りたがったと聞いて安心していたのだ。
「それでも午後にはすっかり元気になられていました。お菓子も美味しそうに召し上がっていましたし、人形遊びにも夢中になっておられましたよ」
「……そうか」
「あ、それから事故の直前、お嬢様が今日のお茶会でお会いしたレフィ・デイム令嬢と、デイム伯爵のことをお話しされていたのを覚えています」
「どんな話だ?」
「特別な会話ではありません。ただ帰りの馬車の中で、『二人は仲が良さそうだね』とか『髪の色と目の色がそっくりだ』とか、そんな話をされていましたので、一応ご報告いたします」
さらに、ジェラードが先ほど「アイカが無事ならそれで十分だ」と何度も口にしていたことも引っかかっていた。
「お嬢様は何気なくおっしゃっただけかもしれませんが、その時ずっとあの親子をじっと見つめておられたのが印象に残っておりまして……」
父親と娘。
アイカは、そういう温かな関係を羨んでいたのだろうか。
これまでアイカが、自分の実父について強い関心を示したことはなかった。いや、もしかすると一度もまともに話題にしたことすら記憶にない。子どもなら一度くらいは聞いてきてもおかしくないのに。
ふと、夏の大宴会で友人たちと遊んでいたアイカを眺めていた時のことを思い出した。ほかの子どもたちが「これ、お父様にもらったの!」と嬉しそうに自慢し合っているのを聞いて、アイカは一歩後ろに下がり、ただ黙って彼らを見つめていたのだ。やはり、ずっと気になっていたのだろう。
実際、カッセルもイルロード公爵も知っているのは、セリアが子を産み、その子がアイカであるという事実だけだった。彼らにとって、それ以外に重要なことは何もなかった。
『アイの父親は――』
『……カッセル、いつか話すわ。いつかね』
もちろん、カッセルも尋ねなかったわけではない。だが、アイカの父親の正体についてだけは、セリアは頑なに口を閉ざし続けた。だからこそ、いつか彼女自身の口から語ってくれる日が来るのだろうと信じて待っていたのだ。
あんなにもあっさりと逝ってしまうと分かっていたなら、あの時無理にでも聞いておけばよかった。もしその男を見つけたら、自分の手で殺してしまいそうで、あえて深く追及しなかったのだ。カッセル自身には、今でもその男を探したい気持ちはない。だが、もしアイカが望むなら――話は別だった。
「待てよ……」
カッセルの脳裏に、ある奇妙な記憶がよみがえった。
『叔父様、聞きたいことがあるの』
『何だ?』
『ねえ、皇帝陛下って結婚してるの?』
「……まさか」
『結婚しているかどうかなんて、お前が気にすることか?』
『気になることだってあるでしょ! だって今日から私は皇帝陛下と友達なんだから!』
『理由としては立派だな』
あの時は何気なく聞き流した質問だった。けれど今になって、その言葉が遅れて胸に痛烈に引っかかった。
『ねえ、教えてよ、叔父様。結婚してるの? してないの?』
『していない』
『してないの? 本当に?』
『ああ。答えただろう。もうしつこくするな、出ていけ』
――まさか。
カッセルの表情が、みるみる険しくなっていく。
『どうして結婚していないの?』
『さあな』
――もしかしてアイカは、ウィンチェスター皇帝を、自分の父親かもしれないと疑っていたのか?
なぜそんな考えに至った? 母親と親しかったからか?
『叔父様がそれだけ教えてくれれば――好きな人がいるのかどうか分かるでしょ。運命の相手でもいるのか? おとぎ話みたいに』
『さあな。そうかもしれないな』
『ねえ、叔父様! じゃあその運命の相手って誰なの? もしかして……』
「……」
その時、思考に没頭していたカッセルの耳に、扉の外からかすかな物音が聞こえた。
ギィ、と扉の取っ手がわずかに動き、すぐにぴたりと止まる。
誰かが扉の前でうろうろしているようだった。気配をまったく隠せていないせいが、姿が見えなくても何をしているのか手に取るように分かる。
目を閉じていたカッセルはゆっくりと体を起こし、扉の方へ視線を向けた。
そのまま歩み寄って勢いよく扉を開くと――。
そこには、小さくて華奢な後ろ姿があった。
ふわふわした可愛らしい寝間着を着て、うさぎのスリッパを履いたまま。
突然扉が開いたことに驚いたのか、アイカは肩を跳ね上がらせて振り返った。その小さな腕には、自分の体ほどもある大きな枕がぎゅっと抱えられている。
あまりの驚きに、息を呑む音がこちらまで聞こえてくるほどだった。アイカは怯えた子ウサギのように目を丸くすると、慌てて枕を背中の後ろへ隠した。しかし隠しきれるはずもなく、両脇からはみ出した枕が丸見えになっている。まるで甲羅をひっくり返した亀のようだった。
「……叔父様」
「何してるんだ、お前」
問いかけると、アイカはさらに枕を抱え込み、必死に自分の体で隠そうとした。
「えっと……その……」
普段なら生意気な言い訳の一つや二つはすぐ出てくるはずなのに、今日のアイカは妙に大人しく、ちらちらとこちらの顔色ばかりうかがっている。
そもそも、この姪は底なしの体力の持ち主だった。昼も夜も関係なく元気いっぱいに騒ぎ回る。なのに今日は、どうしてあんなによそよそしいんだ。らしくもない。
「何か言いたいことがあるんだろう?」
カッセルは、もうアイカの考えに気づいていながら、あえて知らないふりをした。自分から切り出すのではなく、本人の口から言うのを待っていたのだ。
アイカはもじもじしながら、ふっくらした自分の頬をむにむにと押し、体をくねらせた。
「ねえ、叔父様。もう寝るの?」
「ああ、寝る」
「うん……」
アイカはまたちらりとこちらを見た。
「何だ?」
そう尋ねても、しばらく唇をもごもごさせるばかりだったが、やがてぷいと顔を忍ばせた。
「違うよ! 叔父様、おやすみ!」
ばいばい、と手を振り、くるりと背を向けたものの、その肩は見るからにしょんぼりと落ちていた。どう見ても、元気のない哀れな子ウサギそのものだ。
「てっきり、またピーナッツと一緒に叔父様と寝るつもりかと思ったぞ」
カッセルが意地悪くその小さな後ろ姿に声をかける。
すると、しゅんと垂れていたウサギの耳がぴくりと立ち上がったかのように、アイカが勢いよく振り返った。
「違うもん!」
「そうか?」
「で、でも……いいの?」
金色の瞳が、期待にきらきらと輝いていた。まるで暗闇の中で灯る小さなろうそくのように。
カッセルは思わず吹き出してしまった。そして少し腰を浮かせ、ベッドから手を差し出す。
するとアイカは弾かれたように駆け寄ってきて、そのまま胸に飛び込んできた。
「よいしょ。お前、どうしてそんなにらしくないことをするんだ?」
「…………」
アイカは返事の代わりに、小さな体をさらに丸めてカッセルの首元へ顔を埋めた。まるで母親の懐に潜り込む小動物のようだった。
まだ記憶は完全に戻っていないようだが、今日の馬車での出来事がこの子に大きな衝撃を与えたのは間違いない。普段ならからかってやるところだが、あまりに静かなのでカッセルも冗談を言うのをやめた。
ぽん、ぽん、とコアラのようにしがみつく姪を抱き上げ、背中を優しく叩きながらベッドへと運ぶ。今の自分にできるのは、この子が眠るまでそばにいてやることくらいだった。
その夜は、ただ黙って――。
不安そうに強ばる小さな体温が落ち着くまで、カッセルはずっとアイカを抱きしめていた。胸に重い石を置かれたように息苦しかった。子守歌でも歌ってあげるべきだろうか。歌詞など一つも知らないけれど。
ベッドに寝かせ、大人しく横になる小さな後ろ姿を見ながら、カッセルは胸の痛みを抑えきれなかった。やはり、言うことを聞かない騒がしいピーナッツのほうがまだましだ。こんなにしおらしい姿は見たくなかった。
カッセルは横になったまま片腕を枕にし、ベッドの端でおとなしく眠るアイカをじっと見つめた。
「叔父様、早く寝てください」
「え? おい、お前今……」
「早く!」
しおらしいピーナッツになって口数まで少なくなったと思ったら、ベッドに横に入るや否や「早く寝て」「叔父様も早く寝て」と布団をぽんぽん叩いて急かしてくるのだから、拍子抜けするほどだった。もしかして、まんまと騙されたのではないかと思うほどだ。
それでも、この小さな体には相当こたえる一日だったのだろう。横になって五分も経たないうちに、気を失うように深い眠りへ落ちていった。
カッセルのもう片方の手は、アイカにしっかりと握られたままで、先ほどから身動き一つ取れない状態だった。大人の手のひらの半分にも満たない小さな手なのに、握る力はなかなかのものだ。少しでも動かせば自分の胸元へ引き寄せられるので、何度かそっと引き抜こうとしてみたが、結局あきらめた。
むしろ握れば握るほど、その小さな手にはうっすらと汗までにじんでいた。その手は、呆れるほどに温かかった。
「……」
「ふにゃ、むにゃ……」
何か食べる夢でも見ているのか、アイカがしきりに口をもぐもぐさせている。まるで夢の中でも何かを頬張っているようで、思わずくすりと笑いがこぼれた。
カッセルは手を握られたまま、そっと愛おしそうに姪の頭を撫でた。力を込めすぎないよう、触れているのかいないのか分からないほど慎重な手つきだった。生まれてこの方、こんなにも他人に気を遣ったことなど一度もない。目の前の姪があまりにも小さく、儚く見えて、こうでもしなければ何か大変なことが起きてしまいそうだったのだ。
「まったく、単純な子だな……」
にこやかに眺めていたカッセルの片眉が、ぴくりと上がった。
「ポアケ、この悪党め……」
――こいつ、本当に寝ているのか?
「まったく……」
呆れながら見つめていると、アイカはむにゃむにゃと寝言を漏らしながら、へへっと嬉しそうに笑った。
本当に、愛嬌だけは満点だな。カッセルは思わず吹き出した。
「ピーナッツ、お前は寝ている時まで普通じゃないのか」
どうしてこんな珍妙な生き物が生まれてきたのやら。
朝になるまで、カッセルはずっと姪の寝顔を見守っていた。見守るために、一睡もできなかった。
「ピーナッツ、他の乳歯はどうなんだ?」
「え? なんともないよ!」
「ぐらついているわけじゃないのか?」
「うん、ぐらつてないけど?」
「前に、新しい歯が生えてくると下の歯が一本ぐらつくって聞いたんだがな」
「へっ、あ……違うよ! ちょっとぐらついてるだけ!」
「叔父様が抜くのを手伝ってやろうか?」
私はぶんぶんと激しく首を横に振った。
叔父様は朝からなんて物騒なことを言っているのだろう。歯を抜いてくれるだなんて、どうしてそんな恐ろしいことを平然と言えるのか。
昨夜、私は叔父様と一緒に眠った。
昨日の夕食のとき、セレに記憶のことを話していたけれど、結局最後まで話せないまま悶々としていた。そしてお母様のことを思い出して、胸が苦しくなり、結局叔父様のところへ行ったのだ。ゼンダにも何も言わず、枕だけ抱えて部屋を出た。
あまりにも混乱していて、記憶もまだ全部は戻っておらず、頭の中がぐちゃぐちゃだった。それなのに、お母様が恋しくてたまらなかった。
――いや、本当は叔父様に会いたくてたまらなかったのだ。
けれど、もう夜も遅く、叔父様の部屋の扉は固く閉ざされていた。叔父様のところへ行きたいのに、昨日に限って妙に勇気が出なくて、ただドアノブをいじもじとしていた。結局、私はそのまま引き返そうとしたのだ。
ところが不思議なことに、私が来たことを伝えてもいないのに、叔父様の部屋の扉が突然開いた。
「何をしているんだ、お前」
叔父様が私を見下ろした瞬間、言葉が喉につかえて出てこなくなった。でも、昨日だけは叔父様にからかわれたくなかったし、叱られたくもなかった。挨拶だけして戻ろうとしたそのとき、叔父様の声が耳に飛び込んできたのだ。
「またピーナッツが叔父様と一緒に寝るのかと思ったんだがな」
「へえ、叔父様はどうして私と同じことを考えていたんだろう」
本当に不思議だった。叔父様はとても賢いから、きっと私の心を見透かしていたのかもしれない。
だから私は昨夜、叔父様の隣で眠った。叔父様の部屋で寝るのは初めてだった。この前、一緒に昼寝をしたことを除けば、誰かと一緒に夜を過ごすこと自体が初めてだった。
少し音程の外れた変な子守歌だったけれど、それでも叔父様は本当に子守歌を歌ってくれて、布団も丁寧に掛け直してくれて、胸まで優しくぽんぽん叩いてくれた。
昨日は本当に怖い一日だった。それなのに、叔父様のおかげで少しも怖くなかった。
血を流していたお母様の顔が何度も鮮明によみがえってきて、本当はとても怖かったのに。私に剣を向けていたあの貴人の冷たい瞳が思い浮かんで――息が詰まるほどだったのに。聞き覚えのある声が聞こえてきて、怒りがこみ上げるほどだったのに。
私がこれまでに覚えていた記憶では、お母様は私に宝石を食べさせながら、いつも優しく話しかけてくれていた。けれど、新たによみがえった記憶の中のお母様は、私を強く抱きしめたまま、ぐったりと目を閉じていた。
『お母様……! お母様!』
何度呼んでも、お母様は返事をしてくれなかった。何度も、何度もお母様を呼んだのに。
その先の光景を思い出そうとしたところで、記憶はいつも途切れてしまう。
だから私は、その記憶を思い出してはまた反芻するたびに、とても怖くて苦しかった。もし昨夜、叔父様と一緒に寝ていなかったら――私は本当に恐ろしい悪夢にうなされていたかもしれない。
お母様はいつも「強い子でいなさい」と言っていた。
『アイカ、約束よ。絶対に泣かないこと』
お母様との約束を破って、きっと私は夜中に大泣きしていたに違いない。
叔父様の隣で寝たからだろうか、夢の中では叔父様が何度も私の大切なアイスクリームを横取りしていったけれど。五回もぺろりと食べられてしまって、どれだけ悲しかったことか! 夢の中では、悪い叔父様から逃げながら、アイスクリームを抱えて必死に廊下を走り回っていた。
それでも、夢に叔父様は出てきても、あの恐ろしい貴人は出てこなかったので安心した。
朝起きて、またすぐに叔父様の顔を見られたのも嬉しかった。夢は夢だから。
「うわっ、叔父様!?」
「……」
「ひゃっ。叔父様、いつ起きたの?」
叔父様はいつも朝は遅くまで寝ているのに、今日はなんと叔父様のほうが先に起きていて、私はものすごく驚いた。叔父様が先に目を覚ましているなんて! しかも、もう服までビシッと着替えている。
私は髪がぼさぼさなのに、叔父様は昨夜見たままのきちんとした姿だった。今日は横になって眠らなかったのだろうか。
まったく、うちの叔父様がおかしくなってしまった。今日は太陽が西から昇ったんじゃないかと聞こうとして――叔父様にデコピンをされた。そこまではよかったのだけれど。
「ほら、口を開けてみろ」
「い、嫌だ!」
それにしても、どうして今日に限って叔父様は私の下の歯ばかり気にするのだろう。しかも朝起きてすぐから。最初に「ほら」と口を開けさせられたとき、すぐに逃げればよかった。上の歯と下の歯、二本もぐらついていて十分危ういのに、叔父様はしきりに私の歯を抜こうとしてくるのだ。おかげで朝から気が気ではなかった。
私は今日一日、叔父様から自分の下の歯を全力で守り抜くことに決めた。
「これ以上しつこくするなら、もう叔父様と遊んであげないからね!」
「何だと? 昨日、半べそをかきながら叔父様と寝るって言っていただろう」
「一度も泣いてないもん! 叔父様は嘘つき!」
「お前は覚えていないだろうが、昨日は寝ながら『叔父様に会いたい』ってわんわん泣いていたぞ」
「そ、それは嘘だよ!」
今日の叔父様は本当に危険だ……。今はそんなことを言い争っている場合じゃない。今日も新しい一日が始まるのだから。私は隙を見て、叔父様のベッドからぴょんと飛び降りた。
「叔父様、そんなことより朝ごはんを食べに行こう!」
すると叔父様も仕方なさそうにベッドから立ち上がった。私は叔父様の手を強く握り、そのまま食堂へと引っ張っていった。
叔父様は朝食を終えたあとも外へ出かけず、ずっと私の後ろをついて回っていた。本当に無理やり歯を抜こうとしているのではないかと思って、私は必死に逃げ回った。
しばらくしてようやく、叔父様は「夕方にもう一度下の歯を見せろ」などという恐ろしい捨て台詞を残し、ようやくお仕事へ向かわれた。
『はあ、本当に怖かった……』
私は今、セレと一緒に空間ポータルを使って書庫へと来ていた。静かに昨日の記憶を整理するために。そして、これから自分がどうするべきか考えるために。
まだはっきりとした答えは出ていないけれど――それでも、昨日ふいによみがえった記憶の中に、初めて明確な見覚えのある人物が現れたのだ。ようやく目の前を覆っていた暗雲が、少しずつ晴れ始めた気がした。
これで、お母様を傷つけた者を見つけられる。もう少し記憶を取り戻せば、お母様を傷つけた者たちを全員突き止められるはずだ。そのためには、どれだけつらくても記憶を思い出さなければならない。
「私ならできる」
「アイカ、無理しすぎないでね」
隣でセレが私の頬に顔をすり寄せながら、優しく言ってくれた。昨日、記憶が戻ったことを話してからというもの、セレはずっと私に「大丈夫だよ」「私がそばにいるからね」と励まし続けてくれていた。そのおかげで、私はもっと勇気を持つことができたのだ。
ジェミエル。
まず間違いなく、あの嫌な祖父が母を傷つけたのだと思う。あの時は声しか聞いていなかったけれど、確信があった。あの白髪の祖父の声に違いない。
あの男を罪に問うには、叔父様に渡せる確たる証拠を見つけなければならない。
――でも、まずは何から始めればいいのだろう?
私は静まり返った書庫で、古い本のページをめくりながら、じっと考え込んでいた。