こんにちは、ピッコです。
「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
53話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 乗馬練習
「わあ……っ」
目の前に、馬たちがのびのびと駆け回る広大な練習場が視界いっぱいに広がった。
木柵で囲われた一角では、大人の馬の半分ほどしかない小さな子馬たちが、元気に走り回っている。
「馬がいっぱいいる! ルスフェーの馬はどの子?」
「あそこにいる、黒い馬だよ」
私たちがやってきたのは、皇室直轄の特別区域だった。皇族と限られた許可を得た者だけが入ることを許された、極めて安全な場所なのだという。
夢中で周囲を見回していると、カマエがルスフェーの言っていた黒い子馬と、並んで歩く真っ白な子馬を連れてやってきた。
ルスフェーは手慣れた仕草で黒い子馬の頭を優しく撫でる。私はその様子を、少し後ろからおずおずと見つめていた。
「この子はここで一番おとなしい馬です。お嬢様でも安心してお乗りいただけますよ。『ムース』と呼んであげてください」
「……ムース。かっこいい名前だね。ムース、こんにちは! 私はアイカだよ」
挨拶してみたものの、近くで見ると子馬とはいえ私より大きくて、少し気後れしてしまう。
古代種のエクスは、練習場にいる大きな馬よりもさらに巨体だったのに不思議と怖くなかった。けれど、この子馬たちに万が一でも手を噛まれたらどうしようと思うと、怖くなって少し身をすくませてしまった。
すると、隣にいたバロンおじさんがそっと片膝をついた。
「さあ、お嬢ちゃん。まずはゆっくり挨拶からだ。手をそっと出してごらん」
「こ、こうですか?」
「そうそう。子馬に自分の匂いを覚えてもらうんだ。焦らず、ゆっくり近づいてくるのを待つんだよ」
教わった通り、白い子馬へそっと手を差し出してみる。
子馬は小さく鼻先を揺らし、私の手をツンツンとつついて匂いを嗅ぐと、手の甲をペロリとなめた。
「わぁ、なめられました……!」
「子馬もお嬢ちゃんに会えて嬉しいみたいだね。優しく撫でてごらん。かわいいだろ?」
「はい……!」
私は慎重に、もう片方の手もそっと伸ばした。
(わあ……やわらかい!)
温かく柔らかな毛並みに触れると、先ほどまでの緊張が嘘のように解けていった。
その時だった。
ブルルル……。
ブルルルル……。
ブルンッ!
首にかけたペンダントの中から、エクスが不安そうないななきを上げ始めた。
「なんだか嫌な予感がするんだけど……?」
隣でセレが小さく呟く。
そっと服の中に隠していたペンダントを取り出してみると、眩い光を放つように激しく明滅していた。
(あ……まさか、今すぐ走りたいって催促してるんじゃ……ないよね?)
「あっ、だめ!」
私は慌ててペンダントを服の中へ押し込み、エクスを落ち着かせるように上からギュッと握りしめた。
前に庭へ連れ出した時、突然実体化してどれほど肝を冷やしたことか。もし今、大勢の人がいる前で馬の姿になって暴れ回ったら、大変なことになってしまう。
「アイカ?」
「ひゃい!」
バロンおじさんに名前を呼ばれ、跳ね上がるように振り返った。
(こんなことになるなら、今日は置いてくればよかった……!)
いざという時に逃げられるよう、守りとして身につけてきたはずなのに、まさかそのエクスのせいでピンチに陥るなんて。
ブルルル……。
再びペンダントの中で激しく鳴くエクス。
(うわぁ、お願いだから静かにして……!)
必死でペンダントを押さえつけたが、力を込めれば込めるほど、エクスのいななきは大きくなっていく。馬に乗るどころではなくなった私は、慌ててゼンダのもとへ駆け寄り、服の裾をキュッと掴んだ。
「ゼンダ!」
「お嬢様、どうなさいましたか?」
「あの、その……」
背伸びをして耳を貸してほしいと合図する。ゼンダが身をかがめると、私は赤面しながら「お手洗いに行きたいの」と小声で打ち明けた。
「少々お待ちくださいませ」
ゼンダはすぐにお手洗いの場所を確認すると、私の手を取って案内してくれた。建物の前に着くと、私はくるりと振り返ってゼンダを見上げる。
「うん、ここからは私一人で大丈夫!」
「え? お一人でですか? ここはお屋敷とは違いますから、何かとご不便かと……」
「大丈夫! 私だって、もうお姉さんだもん」
その言葉に、ゼンダは目元を和ませた。
「では、建物の中だけ安全を確認してまいりますね」
中を一巡りして戻ってきたゼンダは、優しく言い添えた。
「お帰りの際は、こちらの印に手を触れていただければ大丈夫です。何かありましたら、すぐに私をお呼びくださいね」
「うん、分かった!」
ゼンダの背中を見送り、建物の扉が閉まったのを確認すると、速やかに首からペンダントを外した。
「もう、本当になんなの……」
まさか聖獣である古代種に振り回されるなんて、夢にも思わなかった。
そっと外の様子をうかがい、ゼンダが離れた位置で待っているのを確認してから急いで奥へ戻る。
「エクス、もう出てきてもいいよ」
しかし、さっきまで暴れていたペンダントは、光も音も消えて静まり返っていた。あんなに出たがっていたのに、呼びかけても反応がない。
「出ておいで。出たくないの?」
「うーん、前に呼び出した時と同じように言わないと出てこないんじゃない?」
隣でセレが首をかしげる。
「前に?」
「ほら、この前やった、すごくかっこいいやつ!」
「あ……」
私は困り果てて顔をしかめた。まさか、こんな場所であの恥ずかしい呪文を口にしなければならないなんて。
私は固く目を閉じ、両手で包み込んだペンダントに囁いた。
「す、すごくかっこよくて、すごく素敵なエクス……出てきていいよ」
その瞬間、ペンダントから溢れ出た眩い光が部屋を満たした。
ブルルル――ヒヒーン!
満足気ないななきと共に、建物いっぱいに広がるほどの半透明な姿が現れる。私はあっけにとられながら、額の冷や汗をぬぐった。
『小さな主人よ。広い野原ではなく、このような狭い場所で私を呼ぶとは、少々酷ではないか?』
「ひ、人がたくさんいるんだもん……!」
声を潜めて抗議する私に、エクスは今にも扉を破って飛び出しそうな勢いで体を向けた。
『走ってもよいか?』
「前みたいな姿じゃダメだよ!」
不満そうに、エクスが前足でトントンと床を叩く。
『む? では走れぬというのか? いつでも駆け回れるよう身を均しておかねば、主の危機に真の速さを見せられぬぞ』
「人が多すぎるの! 今日は我慢して。その姿で走ったら大騒ぎになっちゃう。でも、我慢してくれたら、今度はもっと長く走らせてあげるから」
ブルルン、と不満気な鼻鳴らし。
見た目は完全に神秘的な馬なのに、表情の豊かさはセレに引けを取らない。しばらくの間、私たちは小さな押し問答を続けた。
「お嬢様、ご気分でもお悪いのですか?」
部屋の外からゼンダの心配そうな声が届く。
「ううん! 今出るね!」
私が最後のお願いとばかりに視線を送ると、エクスはしぶしぶといった様子で頭を下げた。
『……相分かった。今日は特別だ』
「ありがとう! じゃあ、今回はその姿のまま走ってきてね」
半透明の巨大な馬が野原を駆ける姿はまるで幽霊のようだが、大騒ぎになるよりは遥かにマシだ。
『では、この姿で往くとする。……さあ、もう一度あの言葉を申してみよ』
「えっ、何を?」
『……さっきの言葉だ』
隣でセレがニヤニヤしながら肘で突っ込んでくる。私は頬を赤く染め、口をもごもごと動かした。
「わかったよ……。すごくかっこよくて……速くて……ハンサムなエクス、好きなだけ走ってきていいよ」
『良し!』
無事にエクスを解き放った後、私は半透明のまま野原を爆走する彼の姿を遠目に見ながら、乗馬の練習を再開した。
「馬の上で急に大きく体を動かすと驚かせてしまうからね。大きな声を出すのも厳禁だ。分かったかい?」
「……はい!」
バロンおじさんの指導のもと、小さな声でしっかりと返事をする。
「よし、うちのかわいい姪っ子は返事も上手だな。さあ、進めてみよう」
歩き出したムースの揺れに最初は身をこわばらせたものの、背の上に収まってみると不思議とおとなしく、すぐに恐怖は薄れていった。
大人のふくらはぎほどの低い背丈の子馬に揺られ、同じコースを何度も往復するうちに少しずつコツが掴めてくる。
練習を終えて馬から降りると、帽子の中がむっと熱くなるのを感じた。
お尻に付いた草を払っていると、ルスフェーが歩み寄ってきた。
「アイカ」
「あ、ルスフェー! 馬に乗るのってすごく楽しいね」
ルスフェーは私と違って筋がいいらしく、カマエに黒い子馬の上に乗せてもらうと、一人で上手に手綱を扱っていた。
「この子にも乗ってみる? 名前はエボニー。生まれた時から一緒に育ってきたんだ」
「本当!? エボニー、きれいな毛並み……! 私も乗っていいの?」
「うん! この子はムースより少し大きいから、二人乗りもできるよ。そうだよね、カマエ?」
「ええ、おふたりなら問題ございませんよ」
エボニーはムースよりも足が長く、ひと回り大きかった。おじさんが乗る大きな軍馬に比べれば小柄だが、私には十分立派に見える。
「うん、一緒に乗りたい!」
カマエの手を借りて、先に私がエボニーの背に跨がった。
「わあ……!」
視界が一気に高くなる。叔父様がこの姿を見たら、きっと驚くついでに褒めてくれるはずだ。私の後ろにルスフェーが器用に乗り込んだ。
「手綱は僕が持つから、アイカは僕の腕にしっかりつかまっていて」
「うん!」
カマエが慎重に手綱を引き、私達を支えながらゆっくりと歩みを進めた。
その時だった。
『アイカ、左!』
セレの金切り声が響く。
反射的に左へ視線を向けた瞬間、遠くで透明な影となって爆走していたエクスが、こちらに向かって猛烈な勢いで突っ込んできた。
ほんの一瞬の出来事だった。
(嘘でしょ、こっちに来ちゃダメ――!)
他の人には見えないが、私にはハッキリと巨大な馬の影が見えている。衝突を避けようと、私は咄嗟に体を大きく捻ってしまった。
「お嬢様!?」
その瞬間、保っていたバランスが完全に崩れた。しかも運悪いことに、カマエが立っている側とは逆方向へ体が傾いていく。
(わっ、落ちる――!)
私はぎゅっと目を瞑った。
「アイカ!」
後ろから強い力が働き、体をぐっと引き寄せられる。
「きゃっ!」
ドスン、と鈍い音が響いた。
(……あれ? なんで痛くないんだろう?)
衝撃はあったものの、体にはどこも痛みがなかった。恐る恐る目を開けると、カマエの悲鳴のような声が聞こえた。
「お嬢様っ!」
急いで上半身を起こすと、私はルスフェーの上に覆いかぶさる格好になっていた。
芝生の上とはいえ、馬の上から落ちたのに無傷だった理由――それは、ルスフェーが私を庇って下敷きになってくれたからだった。後ろから抱きしめるように引っ張ってくれたのは、彼の腕だったのだ。
「ル、ルスフェー……!」
慌てて彼の上から退き、知らぬ顔で遠くへ走り去っていくエクスの後ろ姿をギロリと睨みつけてから、すぐにルスフェーへ向き直った。
「アイカ、大丈夫……?」
ゆっくりと起き上がったルスフェーの髪は乱れ、あちこちに芝生の草がついている。私は膝をついたまま身を乗り出し、彼の両頬を包み込んだ。
「ねえ、ルスフェーこそ大丈夫!? ケガしてない!?」
至近距離で目と目が合った瞬間、ルスフェーの瞳が丸く見開かれた。
「あ、ぼ、僕は大丈夫だよ……っ」
顔を真っ赤にしたルスフェーが、慌てて少し後ろへ下がる。
「私もケガしてないよ! ルスフェーが庇ってくれたおかげだね。本当に痛いところはない?」
「うん、怪我なんてしてないよ。アイカが無事でよかった」
照れくさそうに笑う彼の横で、カマエが青ざめた顔で膝をついた。
「公女様、お嬢様! 申し訳ございません! 私がすぐにお支えすべきでしたのに……!」
「ううん、違うの! 私が急に動いちゃったから……ごめんなさい!」
エクスが突っ込んできたから避けた、なんて言えるはずもなく、私はカマエにも必死で謝った。
(もう、エクスのバカー!)
心の中で叫んでいると、騒ぎを聞きつけたゼンダやバロンおじさんも飛んできた。
「いやあ、一瞬心臓が止まるかと思ったぞ……!」
バロンおじさんは「姪っ子ちゃんに怪我でもさせたら、俺が兄貴に殺される」と呟きながら、私の頭から足先まで念入りに検分した。
「本当にどこも痛くありません! ルスフェーが受け止めてくれたから、平気です」
私は立ち上がって服のほこりを払うと、ルスフェーに手を差し伸べた。ルスフェーも私の手を取って立ち上がる。
「私も怪我はありません。エボニーは大丈夫でしょうか?」
「子馬も無事です。驚いて咄嗟に横へ避けただけでした」
カマエの言葉通り、ルスフェーが手を伸ばすと、エボニーは何事もなかったかのように鼻先をすり寄せてきた。
幸い、誰も怪我をせずに済んだ。
周囲を見回したが、原因を作った暴走馬の姿はどこにもない。またどこかへ消えてしまったらしい。
すると、耳元で『プルルル……』と、満足気ないななきが聞こえた。そっと服の中のペンダントを確かめると、一瞬だけ光がチカッと明滅し、再び静まり返った。
思う存分走り回って、勝手にペンダントの中へ戻ってきたのだ。
(本当にもう……! 私、すごく危なかったんだからね!)
呆れて口ぐもりながらも、おとなしく鼻息を荒立てているエボニーの頭を撫でる。今度召喚した時は、絶対に説教してやると心に決めた。
ルスフェーの髪についた草を払ってあげていると、隣で見ていたバロンおじさんが豪快に吹き出した。
「ルスフェー、お前は将来大物になるぞ!」
「あっ、おじさんやめてください!」
頭をぐしゃぐしゃと撫で回され、ルスフェーはまた顔を赤くしている。
「今日は乗馬はこのくらいにして、おやつでもあげてみましょうか」
カマエの提案に、私たちは深く頷き合った。もう一度馬に乗るのは少し怖かったので、馬たちに干し草をあげることで、私の記念すべき乗馬初体験は無事に幕を閉じた。
ルスフェーと「今度人形劇を見に行こう」と約束を交わし、私たちは途中で別れた。
帰り道、馬車の中には私とバロンおじさんのふたりだけになる。
「姪っ子ちゃん、今日は楽しかったかい?」
「うん! すっごく楽しかったです!」
「そうか、そいつはよかった」
「バロンおじさん、今日はありがとうございました」
お礼を言うと、おじさんは目を丸くしてパチパチさせた。
「えっ? うん??」
「乗馬を教えてくれて嬉しかったです。叔父さんのお仕事が終わったら、今日のこと自慢しますね」
バロンおじさんは表情を緩め、大きな手で優しく私の頭を撫でてくれた。
「そうか。きっとあいつも喜ぶよ。帰ってきたらたくさん話してやりな。……あ、ついでに『またバロンおじさんと遊びたい』って伝えるのも忘れるなよ?」
「はい!」
私は元気にうなずき、馬車の窓枠にぴったりと顔を寄せた。
一人で外出できるようになってから、流れる街並みを眺めるのが大好きな時間になっていた。
道順を覚えたり、可愛らしいお店を見つけたり。見慣れなかった街並みも、今では「もうすぐ家に着く」とわかるくらいに覚えてきた。
帰り道には、必ず屋根の上に雪だるまのような丸い飾りがついた建物がある。
そろそろそこを通る頃だ。
建物の前を通り過ぎる瞬間、私はその雪だるまの形をした飾りをじっと見上げた。
視界から完全に消え去るまで、何度も瞬きを繰り返す。
ふと、頭の中に電撃のような閃きが走った。
(……待って。お母さんが残した手記に書いてあったのは、数字の『80』なんかじゃないのかもしれない……!)
要点を3つにまとめました。
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エクス(古代種)の暴走と小さな事件
練習場へ一緒に連れてきたペンダントの中のエクスが暴れ出したため、アイカは一人でお手洗いに行くフリをして、半透明の状態で解放しました。しかし乗馬中、暴走したエクスを避けようとしてアイカは馬から落ちてしまいます。
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ルスフェーの勇敢な行動
落馬したアイカを庇い、下敷きになって受け止めたのはルスフェーでした。怪我もなく無事だったアイカはルスフェーに感謝し、周囲の大人たちも彼の勇敢さと将来性を称賛しました。
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母の手記に関する新たな閃き
乗馬を終えた帰り道、馬車の窓からいつも見かける「屋根に雪だるまの飾りがついた建物」を目にしたアイカは、亡き母が手記に残していた謎の記号が、数字の「80」ではないかもしれないという重要な事実に気付きます。