こんにちは、ピッコです。
「ロクサナ〜悪女がヒロインの兄を守る方法〜」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
どういう訳か小説の中の悪の一族、アグリチェ一家の娘「ロクサナ」に生まれ変わっていた!
アグリチェは人殺しをものともしない残虐非道な一族で、ロクサナもまたその一族の一人。
そして物語は、ロクサナの父「ラント」がある男を拉致してきた場面から始まる。
その拉致されてきた男は、アグリチェ一族とは対極のぺデリアン一族のプリンス「カシス」だった。
アグリチェ一族の誰もがカシスを殺そうとする中、ロクサナだけは唯一家族を騙してでも必死に救おうとする。
最初はロクサナを警戒していたカシスも徐々に心を開き始め…。
ロクサナ・アグリチェ:本作の主人公。
シルビア・ペデリアン:小説のヒロイン。
カシス・ペデリアン:シルビアの兄。
ラント・アグリチェ:ロクサナの父親。
アシル・アグリチェ:ロクサナの4つ上の兄。故人。
ジェレミー・アグリチェ:ロクサナの腹違いの弟。
シャーロット・アグリチェ:ロクサナの妹。
デオン・アグリチェ:ロクサナの兄。ラントが最も期待を寄せている男。
シエラ・アグリチェ:ロクサナの母親
マリア・アグリチェ:ラントの3番目の妻。デオンの母親。
エミリー:ロクサナの専属メイド。
グリジェルダ・アグリチェ:ロクサナの腹違いの姉。
ポンタイン・アグリチェ:ラントの長男。
リュザーク・ガストロ:ガストロ家の後継者。
ノエル・ベルティウム:ベルティウム家の後継者
46話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 嫉妬と独占の抱擁
回廊の外に出ると、眩い太陽の光が視野に差し込む。
私はしばらく手を上げて目尻を覆った。
これまで主に室内にいたせいか、視力が弱くなったのかもしれない。
カシスの視線を感じる。
おそらく、彼は私が目眩を起こしたのではないかと勘違いしているようだ。
「歩くのが大変なら言ってくれ」
「言ったとしたら?」
この人、私を本当に深刻な病人扱いしている。
もちろん、完全に間違っているわけではない。
それに私が不本意ながら彼に弱腰を見せたのもあったから。
しかし、だからといって、この程度の距離も歩けずに苦労するほどではなかった。
カシスは急いで私の方に近寄ってくる。
「いや、ちょっと待って・・・」
続いて体が上に浮かび、視野が高くなった。
カシスが別館で私を抱き上げたから。
「今歩けないという意味で言ってないわ」
一体全体これは何の仕業だろうか?
慌てて抗議するとカシスがチラッと私を見る。
「そうなのか?意思表現を不明瞭にして誤解したのかな?」
いや、一体何が不明だったのよ・・・。
「分かったなら降ろして」
「さっき見たら、君の歩幅では別館と本館の間に移動する時間が5分ほど遅れていた。このまま行く方が早い」
無感覚な音声の末、カシスが歩き出す。
本当に単純で効率、非効率を計算するような単調なイントネーションなので反論することができなかった。
今回も私が何か言ったところで、彼の耳には何も聞こえない。
「はあ・・・」
そうよね、諦めた方が楽。
カシスの肩にため息をついていると、さっき自然に背を向けて来たパンドラとオルカの姿が正面から見えた。
彼らはさっきよりも大きく口を開けている。
丸く見開いた目が今にも下に転がり落ちそうだった。
「あなた、本当に他人の目を全然気にしていないのね」
「別に認識したことがない部分だが、君が言うと、そんな気もする」
「私がちょっと気にしたとしても仕方がないでしょ?」
「適応すればいい」
カシスの肩に首をもたげ、澄んだ空を見上げる。
気のせいか、さっきこの道を通ったときより、今の天気の方が晴れているみたいだ。
そして、再び視線を落としたとき、ペデリアンの中を行き来していた人々が、それぞれ大きく動転したり、石ころのように固くなってこちらを見ているのが分かった。
ちょうど視界に現れたシルビアも、カシスと私を見てハッとする。
彼女は微笑んですぐに忍び足で姿を消した。
あぁ・・・・・・・・・・・・・。
ちょっと散歩でテラスに出ると、そこで意外な人を見つけた。
紺青色の丸い頭頂部が、まるで保護色のように周りの草や木の葉とよく調和している。
私の人影を感じたのか、テラスの下にいた彼女は頭を下げた。
「あ、おはようございます!」
オリンが礼儀正しい姿勢で私に挨拶する。
何気ないふりをするが、彼女の行動に、私は内心困惑した。
「ええ、おはよう」
ひとまず、オリンに向かって挨拶する。
「どうしてここにいるの?」
「別館の警備を強化しろという命令がありました」
あ、オルカのせいか。
その言葉を聞くと過ぎし日のことを思い出して、私は分かったというように頷いた。
「別館の周囲だけを警戒するだけでは物足りないようなので、これからは奥まで3重に強化するつもりです。それで私がこちらを引き受けることになりました」
オリンはそう説明し、少し表情を曇らせる。
彼女はどうやら責任を感じているようだ。
オルカが別館に忍び込んだ時も、彼らはカシスの命令で警備に当たっていたという。
にもかかわらず、オルカを逃し奥まで潜入することを許したことを、非常に気にしているようだ。
しかし彼らとしては仕方のないことだろう。
なぜならオルカが相手だったのだから。
これまで魔物たちの間で死なずに暮らしてきた相手だけに、オルカの身体能力は尋常ならざるものだ。
特に、彼の素早さと気配を隠す能力は、3人の男主人公の中で最も優れているに違いない。
だからオルカが決心した以上、彼を捕まえるのが難しいのは当然だった。
その時、遠くから小さな騒音が。
何なのかは分からないが、また別館の後方で騒ぎが起きたようだ。
もしかしてオルカ?
さっきも別館に隠れようとしてバレたと聞いたけど。
なぜここに潜り込もうとするのか・・・。
別館の裏側を狙っているのを見ると、どうやら、この前私がいたカシスの部屋を、私の部屋だと勘違いしているような気もする。
ひょっとして、私が毒蝶の主人だということに気づいた?
それで別館に忍び込もうと?
そう思いながら、私は騒音が聞こえる方へ視線を向けた。
「どんなことがあっても私たちがお守りしますので、安心してください」
そんな私を見て何を思ったのか、オリンがそう話す。
彼女の顔には使命感まで滲んでおり、その姿が実に頼もしいものでもあった。
どうやらオリンは、私をオルカやその他の危険要素から身を捧げなければならないと思っているようだ。
ここに来るまで、彼女は私のことを病弱でか弱い存在だと認識したのかもしれない。
微妙な気分のまま、私は彼女に薄笑いを浮かべてありがとうと言い、そしてまた部屋に戻った。
後で分かったことだが、オリンは苗字ではなく名前だった。
もともと彼女の名前はフルネームはオリビアで、苗字は似ている。
そのため、幼い頃から「オリオリ」という略称で呼ばれて揶揄われたりもしたという。
だから姓を離して「オリン」と呼んでもらうようにしたらしい。
今は本人も姓ではなく名前で呼ばれる方が楽だと話した。
これから自分の部屋のテラスの下で警護に当たるオリンに直接聞いた話だ。
役に立つ会話ではなかったが、こんな会話も意外に悪くない。
オリンは私が話しかけるたびにギクシャクしながらも、質問することにちゃんと答えてくれた。
もちろん、彼女によく話しかけるわけではないが、たまにテラスに出る時、下に彼女がいることを知りながら無視するのが少しあれだったので、軽く挨拶したりするだけ。
彼女との会話を気持ちを変えるのに効果的だった。
リセルと会って以来、一人で考え事をすることが多くなったから。
『でもこれは今すぐ言っておくべきだと思う。アグリチェに関する知らせだ』
あの日聞いた言葉が、一日に何度もこだまのように頭の中に響いた。
『カシスは君の望み通りにしてくれと言ったから自分で選択しなさい。聞きたいかな?』
もしあの時、私が他の返事をしていたら、今よりは気持ちが軽くなっていたのだろうか。
けれど、きっと再びあの瞬間に戻っても、私は同じ選択をするだろう。
午後遅く、カシスの部屋に入る。
彼は席を外して別館にいなかった。
カシスは今もなお私を元気にさせてくれていた。
彼が唇を突き合わせて私の中に彼に似た綺麗な気運を流してくれれば、体に徐々に温もりが渡って頭が冴える。
胸にこびりついていた汚物が浄化されるような気も。
「やっぱりいいわね」
留守のカシスの部屋で、私は彼のベッドに横になる。
人の物が大きく見えるのか、自分の部屋のベッドよりも、カシスの部屋のベッドの方がずっとふんわりしていて、いい感じだった。
こんな風に直接横になってみても、やっぱり満足できる。
私は体を動かして横に動く。
カシスから元気を貰うと必ず眠ってしまう。
彼は違うように装ったが、絶対に私の睡眠時間が増えたのはカシスのせいだと思った。
カシスのほのかな香りが彼の布団にもついている。
私は鼻を埋めた。
なぜか彼の匂いを嗅ぐと気が楽になるから。
アグリチェにいたときも、カシスのことを思い出すたびに緊張がほぐれて体が弛むのを感じたものだ。
それは今も同じである。
だけど、どれだけ考えても、それはちょっと変だった。
カシスと私は、3年前にたった1ヶ月の時間を一緒に過ごしただけ。
もちろん、それは強烈な経験だったけど・・・。
それでも彼からこのような気分を感じることが理解できなかった。
しかし元々世の中には私が理解できることだけが起こるのではないから。
・・・だから理解できないことは理解できないまま、そのまま放っておくことも一つの方法だろう。
思案に耽る暇もなく、ゆっくりと目を閉じる。
私は主人が来るまでしばらく微睡むことにして、体をほぐした。
夢を見た。
時間を遡って到着したのはアグリチェ最後の夜。
もしかしたら、リセルに会ってきたため、こんな夢を見ているのかもしれない。
私はラントの執務室にいた。
彼がいつも吸っていた覚醒剤とは種類が違う清涼感と澄んだ香りがする。
あ、そうだ、カシスの服を着ていたんだ。
そして、堅く閉ざされたドアを開けてデオンが中に入ってきた。
闇の中でも鮮やかな輝きを放つ赤い瞳が、すぐに私の視線に合わせてくる。
低い足音とともに彼が私に近づいてきた。
私はあの時、彼と向き合ったのか、それとも目を瞑ったのか。
どうだったかは覚えていないが、今の私は後者の方だった。
不意に頬に冷たい何かが触れる。
なんとなく、遥かな意識の向こうに、誰かの冷たい手が私の頬を掠めるのが感じられた。
肌に染みる冷たい温度を連想させる人がいる。
けれども、彼はこんな風に私を優しく触ったことはなかった。
彼と私はそんな関係ではないから。
私が彼にこんな事を許すはずがないということを知っているから。
その乖離感でじわじわと目が覚める。
いつの間にか日が暮れたのか外は暗い。
ぼんやりとした視界に黒い形体が映った。
あ・・・、ついに来るべきものが来たのか。
その瞬間、思わずそう思った。
だから、ついさっき夢で見た人の名前を声に出して呼んでしまう。
「・・・デオン?」
頬に当たっていた手がピタリと止まった。
ようやく何かおかしいことに気づく。
寝ていた私の目に入ったのはカシスだった。
「デオン?」
低くずれた音声が頭上から重く落ちた。
カシスは外に埋もれてきた冷たい空気に包まれている。
彼の手が私から落ちる。
「私が彼に似ているとは一度も考えたことがないな」
カシスの瞳から涼風が吹いているようだった。
「私の部屋に眠っていた君の口から、なぜその名前が出たのか理由が分からない」
彼は低く囁き、微かに笑う。
けれど、それは愉快で微笑んだ訳ではない。
カシスを見上げながら深呼吸し、その後、ゆっくり息を吐き出し、横になっていた体を起こした。
いつの間にか口の中が乾いている。
「特に意味はな___」
「そういえば、ユグドラシルでもデオンと呼んでいたよね?」
和合会の最終日、まだ夜が明ける前の深い夜の出来事。
確かにカシスが言ったように、あの時は彼をデオンと勘違いした。
しかし、それは「カシス」を3年ぶりに見たため。
それにあの時は彼の顔が暗闇に呑まれていたから、体型と雰囲気を見て誤解しただけ。
「彼が出てくる夢でも見たようだな」
からからに乾いた声。
私はこの状況が酷く重く感じられた。
何を言っても通じないという考えが、私を沈黙させる。
ひとまず、今この席を避けるためベッドから体を起こす。
けれど、私はカシスに手を抑えられた。
その後、彼と私の間の距離が縮まる。
動こうとしても動けない状況。
「もしかして、今までデオン・アグリチェを待っていた?」
凍りついた金色の瞳が、正面から私を貫く。
そっと唇を噛み、カシスに掴まれた手を動かしてみたが、びくともしなかった。
彼がこうした反応を見せるのも当然だろう。
ついさっきデオンの名を呼んだ私の声は、待ちに待った相手を迎えるような感じを漂わせていたから。
けれど、カシスが何を考えていても、それは真実とは違う。
私はアグリチェの最終日に別れたデオンがどうなったのか知らない。
彼が死んだのか、生き延びたのかも。
でも、もし彼がどこかで生きていたなら、きっと私を訪ねてくると思った。
アグリチェを去った私がどこにいても、おそらくデオンなら屈しないと。
目の前の黒い形を見た時、私はそれが今だと思った。
それがデオンの名前を口にした理由。
その瞬間、私は諦める一方で、滑稽にも胸がドキッとするのを感じてしまった。
(私がカシスの隣を終着地だと思わなかった理由。どういうわけか、デオンの手で死ぬ自分が時々見えたから)
「あの人と君の関係はどこか奇妙だ」
どっしりと冷たく、そして鋭い声が鼓膜に突き刺さる。
「アグリチェを出て今まで、君はラント・アグリチェ以外の人については一度も聞いていない。デオン・アグリチェについても」
息を殺した視線が私の目をじっと見つめていた。
まるで私に現れる一寸の隙も逃さないというように。
「だからあの日私は言った。君の望み通りになったと」
そこに込められた意味は、確かに軽くない。
けれど、その言葉を聞いても、私は何一つ決めることができなかった。
なぜなら、あの日デオンがあの場所で死んで欲しかったのか、それとも生きて欲しかったのか、まだ私はそれを知らなかったから。
「アグリチェに戻りたい?」
囁くような低い小さな声が、吐息と共に空中に散らばる。
私の手を握る力が一層強くなり、カシスはすぐにでも唇が触れそうな近い距離で言った。
「だが、行かせない」
その言葉を聞いた瞬間、心臓がグッと締め付けられる。
他のものは全て不透明な中で、カシスが私に求めているたった一つだけは今にも手に取るようにはっきりと目に見えた。
その瞬間、私が感じたのは、もはや否めない喜び。
それと同時に、おそらく私がカシスに望んでいることも、その不慣れな感情に霧のようにちらつくことが分かった。
それで仕方なく私はぼんやりと笑ってしまう。
「うん」
一点の揺れもなく、真っ直ぐな目つきがより近くなる。
「もし君が他の場所に行っても、また連れてくる」
「うん」
不思議だ。
きっと、誰にでもこんな気持ちになるわけではないだろう。
カシスが噛みちぎるように私の唇にキスした。
「ん・・・」
普段は慎重に私に接するくせに・・・、こういう時は遠慮がない。
暴風が吹きつけるように激しく執拗なキス。
(どうしよう・・・。死ぬのが、少し残念になる)
カシスと一緒にいると、私はとても尊い人になったような気がする。
彼は私のような人でも、この世に生きていく価値があり、また誰かに愛される資格があるように感じさせた。
ここで会った皆が、私を追い出すどころか、むしろ歓迎してくれて、本当に私がここにいてもいいのではないかという気がした。
彼の隣にいる?
そんなに長い時間ではなくても、死ぬまでの間だけ彼を独占してもいいのだろうか。
そんな気持ちで、私はカシスの背中に腕を巻いて、彼をもっと近くに引き寄せた。
私はどうせ自分勝手な人間で、生きている間に欲望を持つためなら何でもしてきた女だった。
だから砂粒のように胸の下に敷かれた他の物は、そのまま全部埋めて私の心が動くままにしようと・・・。
今までの悩みを振り切って、結局私はそう決めた。
すると、飛んでいるタンポポ胞子のように、しばらく宙に浮いてどこにも降りることができなかった心が重さを負って徐々に落下し始める。
カシスは後日、自分の選択を後悔するかもしれないが、申し訳ないことに私には知ったことではない。
翌日、これまでの中で一番スッキリした気持ちで目が覚める。
カシスは別館にいなかった。
別に変わったことではないが、今日は少し不満な心が生じる。
自分の部屋のテラスに出ると。
「お嬢様、おはようございます」
「カシスは?」
「旦那様に会いに行くと言いました。1時前までいらっしゃると言ったので、そろそろ帰って来るところですね」
そう聞いて少し悩んだ後、すぐに心を決めて手すりから手を引く。
すると、私からある気配を感じたオリンが尋ねてきた。
「お迎えに行くつもりですか?」
「ちょっと歩きたくて」
「それでは私は後ろから従います」
そうして私は建物を出て、オリンと共に草木の茂った道を歩く。
3重に別館を守っているのが事実なのか、移動中に警備に立っている人を大勢見た。
彼らは私を見て驚き、当惑する。
堂々とした態度を取っているのが印象的だったが、彼らの動揺は私にまで如実に伝わってきた。
それでも彼らは私に丁寧に挨拶をしてくれる。
たとえ、私の顔をまともに見ることが出来なくても・・・。
その後、彼らを通り過ぎて別館の外に出た。
警備を立てておいたのは、やはりオルカを防ぐために過ぎないようだ。
彼らは別館を出る私の足を止めなかったから。
ただし、私の後ろに警備に当たっていた人たちの一部がついてくる。
オルカは普段どれだけ常識外れのことをしてきたのか、ふと気になった。
確かに、私も小説で見たものがあるから、彼を「要注意人物」扱いするのが納得できたりもする。
すぐ帰ってくるといった言葉を守るつもりだったのか、別館を出て間もなくカシスを発見することができた。
ところが、彼は一人ではない。
澄んだ夏の日の空に似た青い髪の毛が、豊満な体つきの上をうねって流れた。
黒曜石のような瞳がカシスに向かって濃艶に微笑んでいる。
カシスはパンドラと一緒にいた。
二人で向かい合って何を話しているのは不思議だった。
まるでとても楽しい会話をしているかのように、パンドラがずっと笑っていたから。
もちろん、カシスの顔はパンドラとは対照的に極めて無味乾燥だったが。
私は目を細くした。
パンドラの巧妙な身振りと眼差しの意図が、あまりにも露骨だったから。
彼女は確かに色っぽい魅力を持った女性だ。
だから、もし私も他の状況で彼女を見かけていたら、何の私的感情もなく綺麗だと思っただろう。
でも、今は・・・。
その時、カシスが私の方へ顔を向ける。
視線が合った瞬間、温もりのなかった金色の瞳が色を変えた。
カシスは、まさか今私に会えるとは思ってもみなかったようだ。
一瞬驚いた様子を見せた彼の瞳が静かな波のように。
その瞳は、まるで幼い感情が溶け出すように柔らかくて甘かった。
そんな彼の様子を見て、私は満足する。
パンドラもカシスの変化に気づいたようだ。
カシスのもとに滑り落ちた黒い瞳には明白な警戒心がこもっていた。
急がずにカシスに近づく。
彼は私を発見した直後、パンドラを見捨てて、真っ直ぐに私の方へ歩いてきた。
パンドラもすぐに帰らずにカシスの後についてきている。
「カシス」
「なぜ出てきた?まだ体調は優れていないと思うが」
ほぼ同時に口を開く。
カシスの顔には、微かに私への心配が広がっていた。
私は答える代わりに、むしろ彼を見て質問を投げかける。
「朝、なんで出ていったの?私を起こさずに」
カシスはいつもより甘く溶かした私の声に一瞬で気づく。
私はそれで止まらず、彼の腕に手を乗せて優しく密着させた。
その密接な接触に腕の筋肉が少し硬くなるのを感じる。
短い空白の末、カシスが閉じていた唇を外した。
「ぐっすり眠っていたから、起こさない方がいいと思って」
私は低い息を吐きながら、少し駄々をこねるように呟く。
「あなたが遅くまで寝かせてくれないからよ」
その瞬間カシスも沈黙し、周囲を取り囲む空気も一層静かに。
私の口から出た言葉は、妙な疑いを受けてもおかしくないだろう。
大きな声ではないので、遠く離れている部下たちの耳には届いていないだろうが、すぐ近くにいたパンドラの耳には届いているはず。
彼女は口を開けたまま、私とカシスを交互に見た。
別に、カシスと私は昨夜赤切符を張るほどのことはしていない。
まあ、雰囲気があのように流れていたから、相当危険なレベルのキスをしていたけど。
そうして節制を失って上半身までは少し解いていたか、そうではなかったか。
ちょっと遠いところを触ったような気もするし、そうじゃないような気もする。
こんなにはっきり言わない理由は、昨夜カシスとずっとそうしているうちに、急に熱が出て意識が朦朧としたから。
それからカシスが私に澄んだ空気を少しずつ吹き込んでくれたことを思い出したのだ。
そんな訳で私はずっとウトウトして、こうして日が中天に昇った時に目を覚ましたのであった。
だから、カシスは今でも私を見るや否や心配そうな口調で話しかけたのだ。
いずれにしても、カシスと私は昨夜、大人の危険な遊びをしていない。
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デオンの夢とカシスの執着
「私」がカシスの部屋のベッドで眠りながら「デオン」の名を呟いたことで、カシスは嫉妬と冷徹な感情を露わにします。「私」を二度とどこへも行かせず自分の手元に置き続けるというカシスの強い独占欲に対し、「私」も彼を独占して側に留まる覚悟を決めます。
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深まる絆と情熱的な密着
迷いを捨てた「私」とカシスは激しく情熱的なキスを交わします。カシスの深い愛情と存在によって、「私」は自らの生や生きている価値を肯定されるような心地よさと満足感を抱きます。
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パンドラへの牽制と愛しさの開示
翌朝、カシスを迎えに出た「私」は、彼にアプローチしていたパンドラの目の前でカシスに甘く密着します。昨夜の甘い時間を匂わせる言葉を口にしてパンドラを牽制し、カシスとの特別な関係を隠さず示します。