メイドになったお姫様

メイドになったお姫様【144話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【メイドになったお姫様】まとめ こんにちは、ピッコです。 「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となって...

 




 

144話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 謀略の法廷

皇宮、皇帝宮。

遮光カーテンの隙間から差し込むわずかな光が、寝台に横たわる皇帝の蒼白な顔を照らし出していた。胸元を走る鋭利な剣創――命に別状はないとはいえ、肉を深く抉り取られた傷口からは未だに痛々しい血が滲んでいる。医師の見立てでは、完全な治癒には数ヶ月の隠遁を要するという。

その病床の傍らで、皇后マリアは感情の失せた冷酷な視線を夫へ向け、低く呪詛のようにつぶやいた。

「いっそ腹を深く裂かれて、内臓ごと掻き出されていればよかったものを」

その陰惨な言葉に、影のように控えていた侍女イヴリンが平然と応じた。

「それでは、どれほど屈強な陛下とて耐えきれず、その場で絶命していたでしょう」

「……分かっているわ。だからこそ、あの男に命じたのだから」

皇后は冷徹に口元を歪めた。すべては彼女が皇帝に与えた綿密な操り人形のシナリオ通りだった。命には関わらないが、確実に凄まじい苦痛と出血を伴う位置を自ら切り裂くようにと。暗黒魔術の糸に縛られた皇帝は、躊躇なく自らの肉体に刃を突き立て、その大逆の罪をすべて皇太子ラシードへと擦り付けたのだ。

(思っていた以上に、扱いやすいだけの肉塊だったわね)

皇后は内心で冷酷にほくそ笑む。これで邪魔者は消え、帝国のすべてが自分の掌中に収まる――はずだった。

「……だが、思いのほか貴族たちが喧しいわね」

皇后は美しくも険しい眉をひそめ、不快感を露わにした。その言葉には、計算狂いに対する確かな苛立ちが滲んでいた。

現在、皇宮の巨大な城門前には、アンゲルス公爵を筆頭としたおびただしい数の貴族たちが押し寄せ、地鳴りのような抗議の声を張り上げていた。

『皇太子殿下は帝国に数々の栄光をもたらした不世出の英雄であり、次代の皇位を約されたお方だ! そのような至高の御方が、突如として陛下を害そうなど――到底信じられるはずがない!』

『これは帝国の根幹を揺るがす重大事件である! 事の真相を究明するため、徹底した独立調査を要求する!』

『正式な公聴の場を設け、全容を明らかにする『裁判』を開廷せよ!』

宮門を激しく揺るがす貴族たちの怒号。それを頭の中で反芻する皇后の顔は、氷結していくように冷え切っていった。

ここ数ヶ月の間、ラシードがどれほど巧みに貴族たちを懐柔し、自らの足元へ引き寄せてきたかを彼女は知っていた。

――だが。

(ここまで強固な繋がりだったとはね……)

皇后は静かに目を細めた。なぜならラシードは、戦場では神の如き武勇を誇りながらも、宮廷政治や社交に関しては驚くほど無関心で、無能であるように育てられてきたからだ。貴族の顔や名前すら覚えようとしない彼の孤高な性格は、他ならぬ皇后自身が「操りやすくするため」に施した精神の歪みだった。

『ラシード、お前はこの帝国を平定する最強の剣であればそれでいいのよ。貴族の扱い方などという雑多な知識は必要ないわ。その手綱は、この母が握っていればいいのだから』

そう信じていたからこそ、皇后はラシードと貴族の繋がりを侮っていた。主が失脚すれば一瞬で霧散する、利益だけの脆い関係だと高を括っていたのだ。

「少しでも保身の危険を感じれば、すぐに泥穴へ身を隠すような臆病な豚どもが、あのラシードのためにここまで一致団結して牙を剥くなんて……」

想定外の事態に皇后は顔を歪める。彼らが声高に求めている「正式な裁判」の裏にある意図は明確だった。公開の裁判が開廷されれば、少なくとも結審するまでは、皇帝の独断によるラシードの即時処刑は不可能になる。罪の有無に関わらず、彼の命の執行を引き延ばすための時間稼ぎだ。

イヴリンが静かに一歩進み出た。

「皇后陛下、貴族たちが騒ぎ立てているのは法廷の要求だけではありません。すでに社交界や市井の隅々にまで不穏な噂が流通しております。『皇太子殿下は、帝位簒奪を狙う邪悪な陰謀に嵌められ、濡れ衣を着せられたのだ』と」

皇后の唇から、ふっと歪んだ笑みが漏れた。民衆が噂するその荒唐無稽な陰謀論こそが、寸分狂わぬ「真実」そのものだったからだ。しかし、彼女はすぐに冷徹な統治者の表情へと戻った。

「貴族たちがこれほど強固な共同戦線を張ってきた以上、このまま彼らの声を無視してラシードを秘密裏に処分すれば、帝国全土で本格的な反乱の狼煙が上がりかねないわね」

傀儡である現皇帝の権力はここ数年で完全に形骸化しており、肉体も精神も限界を迎えている。反発する貴族たちを力でねじ伏せるだけの影響力はもう皇帝には残されていない。

しばらくの沈黙の後、皇后は椅子の背にもたれかかり、冷ややかに告げた。

「……貴族たちの望み通り、正式な裁判を開廷しなさい」

イヴリンは微かに目を細める。

「よろしいのですか?」

「ええ。どうせ裁判を開いたところで、覆る事実など何一つないもの」

あの日、寝室で皇帝が血を流した密室の現場にいたのは、皇帝、皇后、そしてラシードの三人だけだ。被害者である皇帝がラシードを指し示し、唯一の目撃者である皇后がそれを裏付ける。それ以上の絶対的な証拠など存在しない。

「大衆の面前で当時の『真実』を理路整然と突きつけてやれば、烏合の衆たる貴族どもも黙らざるを得ないわ。……それに、裁判を開けば、姿を隠しているあの小娘――シアナが必ず這い出てくるはずよ」

ラシードの命が懸かった公開処刑の場となれば、シアナが潜伏を続けられるはずがない。

「その場でシアナを捕らえれば、ラシードの精神を完全に破壊して私の『犬』にするための最後のピースが揃うわ。皇帝と皇太子、二つの至高の武力を、ついにこの手だけで完璧に御することができるのよ」

皇后の口元に狂気的な笑みが浮かぶ。イヴリンは静かに一礼した。

「では、最高裁判廷の準備を進めます」

「ええ。万全の包囲網を敷きなさい。少しでも不審な動きを見せる者は即座に処刑せよ。――とりわけ、銀色の髪とエメラルドの瞳を持つ女が現れたなら、決して生かして帰すな」

その日の午後、帝都には雷鳴のような衝撃が駆け巡った。皇帝暗殺未遂の罪に問われた皇太子ラシードの、世紀の「公開裁判」が執り行われるという公式発表だった。

地底深く、光を一切拒絶した“罪人の塔”の最上階。

冷酷な鉄格子と魔法の結界に囲まれた暗闇の中、ラシードは重い手枷と鎖に四肢を繋がれ、冷たい石床に座り込んでいた。

かつて戦場を震撼させた彫刻のように美しい容貌は見る影もなくやつれ、唇は極限の渇きによって無惨にひび割れている。ここ数日、まともな食事はおろか、水さえも一滴も与えられていなかった。

ぽたり。

突然、激しい渇きに苦しむラシードの唇に、冷たい水滴が落とされた。

身体がびくりと拒絶反応のように震える。重いまぶたをかろうじて持ち上げた視界の先――暗闇の中に、豪奢なドレスを纏った皇后マリアが立っていた。死に絶えゆく虫を観察するかのような、底冷えのする冷淡な瞳で彼を見下ろしている。

皇后の手には、澄んだ水を湛えた美しいガラス瓶が握られていた。ここ数日、ラシードの意識が完全に途切れかけるたびに、最低限の命を繋ぎ止めるだけの水を滴らせてきたのは、この残虐な母親だった。

乾ききった喉が、本能的な渇望に狂いそうになる。もっと欲しい。溢れるほどの水を浴びるように飲み干したい。それは生物としての、抗いようのない絶対的な本能だった。

その飢飢としたラシードの視線を受け、皇后は満足そうに口元を吊り上げた。

「そうよ……。そうして再び、この母の温かい懐へと戻ってくればいいのよ、ラシード」

頷くだけでよかった。そうすればこの極限の拷問から解放され、母の操り人形として、天国のような安楽と地位を貪ることができる。しかし――ラシードの首の骨が縦に振られることはなかった。

ここで偽りの恭順を示しても、この狡猾な魔女が彼を無罪放免にするはずがない。従った瞬間に待っているのは――。

「……母上があの哀れな皇帝に施したように、私にも自我を奪う『呪縛(魔法)』をかけるつもりだな」

喉を押し潰したような掠れた声で、ラシードは静かに言い放った。

魔法をかけられれば、自分はシアナの存在さえ忘れ、皇后の意のままに動くただの肉の塊と化すだろう。そこまで思考が至った瞬間、ラシードの紫の瞳に、極夜の星のような鋭い殺気が宿った。

皇后はその眼差しに触れた瞬間、激しい嫌悪と恐怖で思わず唇を噛んだ。

(気味が悪い男……)

絶対的な優位に立っているのは自分であり、ラシードの命の灯火などいつでも吹き消せるはずなのに、なぜかこの男を精神的に見下ろしているという実感が微塵も湧かないのだ。

皇后は凍てつく声を放った。

「ここまで追いつめられてなお、母の愛を拒絶するのね。本当に……救いようのない残酷な子」

本来ならこのまま地下で毒殺する予定だったが、皇后は冷酷に笑って計画の変更を告げた。

「お前のために無駄な血を流そうとする愚かな貴族どものおかげで、数日後に公開裁判が開かれることになったわ」

「……」

「喜ぶことはないわよ。人目のない暗闇で安らかに死ねる慈悲が消え失せただけなのだから。お前は帝国中の見物人に囲まれながら、我が身を焼く猛毒を無理やり飲まされるの。喉を掻きむしり、内臓を吐き散らし、涎にまみれて惨めにもがき苦しみながら、ゆっくりと死んでいくのよ」

凄惨な処刑宣告。しかし、ラシードはそれ以上の言葉を交わす価値すらないと断じるように、静かにその美しい瞳を閉じた。

その絶対的な拒絶の態度が、ついに皇后の理性の仮面を叩き割った。

「今まで私があなたを生かして育ててあげたからって、調子に乗るんじゃないわよ!」

皇后は、もはや狂婦のように金切り声を上げて叫んだ。

「私はお前を自分の血を分けた我が子だなんて思ったことは一度もない! お前はただ、あの忌々しい前皇帝が、私の身体に無理やり植え付けていった――忌むべき悪魔の種に過ぎないのよ!」

激情の嵐のような罵倒が響き渡る中、ラシードはその暗闇の中で極めて冷静に思考を研ぎ澄ませていた。

(あれほど怒り狂っていながら……あいつは一度もシアナの名を口にしなかった。――つまり、シアナは捕まっていない。無事だ)

シアナが追手を撒き、完全に身を隠せているという事実だけで、彼の胸には確かな安堵の火が灯った。それだけで十分だった。

とはいえ、自身の肉体が極限状態にあることに変わりはない。指一本動かすことすらままならず、意識の輪郭が白い靄の中に溶けていく。生き延びるための防衛本能として、ラシードの意識は深い昏睡の闇へと沈んでいった。

深い闇の底で、ラシードはいつものように「夢」を見ていた。

夢の中の彼は、まだ幼く、全身傷だらけで暗黒の空間に蹲っていた。なぜ自分がこんなところで傷ついているのかも分からないまま、ただ世界に対する圧倒的な恐怖に震えていた。

コツ、コツ……。

暗闇の向こうから、血に濡れた剣を引きずりながら、自分を殺しにやってくる「何か」の足音が近づいてくる。心臓が恐怖で凍りつく。

『いやだ……死にたくない……誰か……』

その絶望の淵で、世界を一変させるほど澄んだ鈴の音が響いた。

「あなた、大丈夫?」

幼いラシードは弾かれたように目を開いた。いつの間にか周囲の闇は霧散し、小さな窓から暖かな木漏れ日が降り注いでいた。その光の粒子の中に、一人の少女が立っていた。

焼きたてのパンのように柔らかなミルク色の髪。春の訪れを告げる芽吹きのような、美しいエメラルドの瞳。

「……シアナ」

思わずその名を呟いたラシードに、幼い少女は驚いて目を丸くした。

「どうして私の名前を知っているの?」

「だって……君は、俺の婚約者だから」

「変な男の子。そんなに怪我をしているから、頭がおかしくなっちゃったの?」

少女は一瞬だけ心配そうに眉をひそめたが、すぐに花が咲くような優しい笑顔を浮かべると、傷だらけの彼に向かって、そっと小さな掌を差し伸べた。

「詳しいことは分からないけれど……あなた、今すごく辛そうだわ。だから、私の手を取って。――私が、あなたを助けてあげる」

それは石ころ一つ満足に持てそうにない、細くて小さな手だった。それなのに、その掌に触れた瞬間、ラシードを縛り付けていたすべての呪縛と恐怖が、嘘のように融解していった――。

――その瞬間。

「っ……!」

邸宅のベッドの上で、シアナは跳ね起きるように激しく目を開いた。

まだ薄暗い早朝の天井を見つめながら、彼女は激しく脈打つ胸に手を当て、戸惑うように呟いた。

「……あの時の出会いを、どうして今になって夢に見たのかしら」

それは今から8年前、南の保養地でラシードと初めて言葉を交わした、運命の始まりの記憶だった。夢の中のラシードの台詞は現実のものとは少し違っていたけれど、あの時差し伸べた自分の手の温もりだけは、リアルに皮膚に残っていた。

怪我を負った彼に、再び手を差し伸べる夢。これは凶兆か、それとも――。

「――いいえ、間違いなく『吉夢』よ!」

シアナは自らに言い聞かせるように力強く言い放ち、完全にベッドから這い出た。窓の外は、世界が眠りにつく静寂の夜明け。しかし、彼女の瞳には眠気など微塵もなく、ただ鋼のように強固な決意の光だけが燃り立っていた。

あの夢はただの偶然ではない。8年前と同じように、今度こそ最愛の彼を窮地から救い出すための、「運命のやり直し」の合図なのだと直感していた。

シアナは静かに、しかし二度と解けないほど強く拳を握りしめた。

(待っていて、ラシード。今度は私が、地の果てからでもあなたを奪い返してみせるから)

反撃の朝が、静かに幕を開けた。



要点は以下の3点です。

  • 貴族の圧力による「公開裁判」の決定

    ラシードが事前に築いていた貴族との繋がりにより、宮門前に貴族たちが押し寄せ「公開裁判」を強く要求する。皇后は反乱の芽を摘むため、また姿を隠しているシアナを誘い出して捕らえるための罠として、この要求を受け入れ開廷を決める。

  • 皇后の脅迫とラシードの覚悟

    罪人の塔で衰弱するラシードに対し、皇后は「呪縛(魔法)を受け入れて犬に戻るか、裁判の場で惨めに毒殺されるか」と迫る。ラシードは激しい罵倒を受けながらも、皇后がシアナの名を口にしないことから彼女の無事を確信し、裁判という「塔の外へ出る好機」に向けて冷静に思考を研ぎ澄ます。

  • 運命の夢とシアナの完全なる反撃開始

    シアナは8年前のラシードとの出会いを再現した夢を見て目を覚ます。その夢を彼を救い出す「吉夢」かつ「運命のやり直しの合図」だと直感したシアナは、不安を確信へと変え、愛する人を必ず奪い返すという強い決意を胸に夜明けの反撃へと動き出す。

 

 

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