こんにちは、ピッコです。
「悪女の姉を救う勇敢なわんこです」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
54話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 優しい縁
「わあ! すごく不思議!」
「ここが最近、貴族令嬢たちの間で評判になっている喫茶店です。」
店員から手渡されたメニューを受け取り、私は目を丸くした。
「へえ、サツマイモ茶……? 面白いわ、私はこれにする!」
ほどなくして、可愛らしいティーカップに注がれたお茶が運ばれてきた。サツマイモを煮出したお茶だと聞いて、わくわくしながら一口含んでみる。
「えっ」
「……どうしたの?」
「全然甘くない! 本当にサツマイモを食べているみたい!」
ほおばるようにお茶を味わう私の姿を見て、クロエお姉ちゃんやほかのお嬢様たちが思わずくすっと笑い声を漏らした。
(どうして笑うの? サツマイモ茶を飲むのがそんなにおかしいのかな?)
少し首をかしげたものの、私は気を取り直してひと口含み、お嬢様たちの会話に耳を傾けた。
まだ正式な社交界デビュー前の私と、しばらく社交の場から遠ざかっていたお姉ちゃんへ向けて、令嬢たちは今一番流行しているトレンドを親切に教えてくれた。
「最近は、装飾の施された扇子を一本持ち歩くのが嗜みとなっておりますの。ミルお嬢様が流行らせたのですけれど」
「わあ、とってもきれい!」
ミルお嬢様は、自身が愛用する美しい飾り扇子を見せてくださった。扇子に刻まれた繊細な刺繍や模様を眺めながらおしゃべりを重ねるうちに、私の緊張も次第にほぐれていった。
すると、お姉ちゃんが優しく微笑みながらその扇子を広げ、私に向かってそっと仰いでくれた。
「どう? 涼しいかしら?」
「うん!」
何度も大きく頷き、心地よい風を感じていたけれど……ふと、周囲が静まり返っていることに気づいた。
(あっ、そうだったわ! 今日の目的は、お姉ちゃんとみんなが仲良くなれるようにすることだったのに!)
見れば、お嬢様たちは揃って私ばかりを見つめている。私はお姉ちゃんと令嬢たちを交互に見比べた。
けれど、こんな風に視線が集まっている今こそチャンスだ。私は扇子の風からさりげなく話題を変え、何気ない風を装って尋ねてみた。
「ところで……他のお嬢様方は、うちのクロエお姉ちゃんとはあまり親しくしていらっしゃらないのですか?」
お姉ちゃんはあきれたような視線を私に向けてきたけれど、否定はしなかった。
一人の令嬢が、不思議そうに私とお姉ちゃんを見比べながら答える。
「ええ……そうですね」
「うちのお姉ちゃん、一見すると少し冷たそうに見えるでしょう? でも、本当はすごく優しいんですよ!」
今も私に優しく扇子を仰ぎ続けてくれているお姉ちゃんを見つめながら、私は胸を張って宣言した。
お姉ちゃんは「この子ったら、急に何を言い出すの?」という顔をしている。けれど、お姉ちゃんにたくさんのお友達を作ってあげたい私は、ここで引くつもりなんてない。
「本当なんです! 本当は誰よりも優しくて、あたたかい人なんですから!」
手をブンブンと振って力説すると、ミルお嬢様を皮切りに、令嬢たちが口々に打ち明け始めた。
「正直に申し上げますと、クロエ様がこれほどあたたかなお人柄だとは思っておりませんでした……」
「ココお嬢様に、これほど優しく接していらっしゃるお姿を見れば、なおさらですわね」
私は誇らしげに胸を張った。お姉ちゃんの魅力を理解してくれる人は、みんないい人に決まっている。
ミルお嬢様は吹き出しそうになるのを必死にこらえながら、愛おしそうに私を見つめた。
「お嬢様を初めてお見かけした時はわかりませんでしたが……本当に明るくて、可愛らしい方ですのね」
やがて話題は、最近わが家で起きた出来事へと広がっていった。
「そういえば、お屋敷に新しく子犬がやってきたと伺いましたけれど」
「ええ、ココお嬢様が最近子犬を飼い始められたのでしょう?」
クロエお姉ちゃんが、私の代わりにどこか苦々しげなお鉢を回した。
「どこの物好きか知らないけれど、私の了承も得ずに馬車に乗せて、贈り物として送りつけてきたのよ」
それを聞いたミルお嬢様は、痛ましそうに眉をひそめた。
「えっ……本人の同意もなく、勝手に送りつけるなんて……」
「ええ。そう考えると……あの子犬も、さぞ傷ついたでしょうね」
言われてハッとした。それまで私は自分の嫉妬ばかりに気を取られていたけれど、ミルお嬢様と目が合った瞬間、あの子犬の孤独な立場を想って胸がキュッと締めつけられた。
(あの子もまだ幼い子犬なんだもの。きっと寂しかったはずよね……)
かつて子犬だった私なら、あの子の寂しさを一番理解してあげられたはずなのに。私は自分のお姉ちゃんを奪われるのが嫌で、バカみたいに嫉妬ばかりしていたのだ。
(私のほうが年上なんだから、もっと心を開いてあげるべきだったわ……)
ミルお嬢様は何かを深く考え込んでいる様子だったが、やがて小さな声で胸の内を明かした。
「その……新しくやってきた子犬のことなのですが……一度、お屋敷へ伺ってもよろしいでしょうか? 私も、あの子に会ってみたいのです」
その瞳には、純粋な愛おしさと好奇心が宿っていた。
「贈り物として送られてきたというお話も少しかわいそうですし……どんな子なのか気になってしまって」
***
数日後、ミルお嬢様がアルトス公爵邸を訪れた。
お姉ちゃんが自分から他人に屋敷の敷居を跨がせるなんて、めったにないことだったけれど、今日はお姉ちゃんも快く彼女を迎え入れた。
ミールお嬢様は少し緊張した様子で、部屋へと足を踏み入れる。
「この子ですか?」
真っ白な綿毛のような子犬は、床の上でボールと戯れていたが、ミルお嬢様の姿を認めるなりピョコンと立ち上がった。自分を可愛がってくれる人だと直感したのか、一目散に駆け寄っていく。
少しお庭で遊んだ後だったからか、床を転げ回っていたせいか――子犬がミルお嬢様のドレスの裾に体を擦り寄せると、少しだけ土ぼこりの汚れがついてしまった。
けれど、ミルお嬢様は嫌がる素振りひとつ見せなかった。愛おしい宝物を見つめるように柔らかな微笑みを浮かべ、じっと子犬を見つめている。
「……あたたかいわね。この子、何とお名前というのですか?」
「まだ名前は付けていないんだ」
「まあ……こんなに可愛いのに、まだ名前がないなんて残念ですわ」
「勝手に付けるわけにもいかないからね。元の飼い主からも、引き取るのは難しいと連絡が来ているし……」
私とお姉ちゃんは、少しばかりの期待を込めてミルお嬢様を見つめた。
「ワン! ワンワン!」
「まあ! じゃれっこ遊びがしたいの?」
「ワンワン! ガルルル……」
「噛んじゃダメよ? ね?」
一人と一匹の温かなやり取りを見つめながら、私は確信した。
(お姉ちゃん、ミルお嬢様はこの子を引き取りたいんだわ……)
クロエお姉ちゃんも、楽しそうに笑うミルお嬢様と嬉しそうにはしゃぐ子犬を交互に見やり、静かに口を開いた。
「……元の飼い主に、譲渡の手続きについて問い合わせてみようか」
その言葉を聞いたミルお嬢様は、一度目を伏せてから、感極まったように顔を上げた。
「チェリーを見送ってからは、もう二度と犬なんて飼えないと思っていました……。でも、違いましたわ。不思議ですね……目が合った瞬間に分かったのです。『この子とは、きっとずっと一緒に過ごすことになる』って。チェリーと初めて出会った時と同じような予感がしました」
ミルお嬢様は愛おしそうに微笑んだ。その言葉を聞いて私は嬉しい反面、少し不思議な気持ちになった。
(昔のお姉ちゃんも、私と目が合った瞬間にそう思ってくれたのかな……?)
ミルお嬢様は子犬を優しく撫でながら、そっと呟く。
「不思議ですね。つらい時になると、こうして小さな友達が寄り添ってくれるなんて……」
彼女は子犬を抱き上げた。真っ白な毛並みについた土ぼこりも意に介さず、腕の中でそのまま気持ちよさそうに眠りについた小さな命を、いつまでも愛おしそうに見つめている。
そんなミルお嬢様を、お姉ちゃんは過去を追想するような深い眼差しで見つめていた。その瞳には、懐かしさと切なさが宿っている。
私はお姉ちゃんの手をギュッと握りしめ、ニコッと笑いかけた。
お姉ちゃんの過去も私で、お姉ちゃんの今だって私なのだから。
「何があったとしても、今幸せならそれでいいんです!」
私の元気いっぱいの言葉に、お姉ちゃんは愛おしそうに静かに微笑んだ。
***
翌日。
再び屋敷を訪れたミルお嬢様は、溢れんばかりの喜びに表情を輝かせ、子犬を引き取っていった。真っ白な毛並みの子犬はミルお嬢様の馬車に乗り込み、嬉しそうに元気よく吠えていた。
(本当に運がいい子ね。……あんなに純粋な子犬にまで嫉妬していたなんて)
私は去っていく馬車を見送りながら、自分がどれほど愚かだったかを思い知らされた。
(あなたも、新しいおうちで幸せになってね)
心の中でそっと祈りを送った。
その夜、私は夢の中でチェリーに会った。
「ココ、私はもう生まれ変われないから……お姉ちゃんのそばに、素敵な子犬が現れてくれたらいいなって願っていたの」
「えっ、本当? 君って本当に心の広い子犬なんだね……」
「うん。だから、ありがとう。お姉ちゃんを一人ぼっちにしないでくれて……」
「チェリー……」
『うちのお姉ちゃんね、今は前よりもっと一生懸命絵を描いてるし、私のこともたくさん大切にしてくれてるの。だから私、本当に幸せなんだよ!』
『よかった! じゃあ私も、空からもっと一生懸命ミルお嬢様を見守るね!』
『ありがとう、チェリー』
新しい子犬が来ても、ミルお嬢様がチェリーへの愛を忘れることは決してない。
そんな優しい会話を交わしているうちに夢が覚め、朝が訪れた。
その翌日。
ミルお嬢様から手紙が届き、子犬に『ベリー』という名前を付けたことが報告された。手紙には、これからもクロエやお姉ちゃんと仲良く交流を続けていきたいという温かな言葉が添えられていた。
この一連の出来事は、瞬く間に社交界で密かな話題となった。
もともと社交界では、ダリアとミルお嬢様の二大派閥の動きが常に注目を集めていた。それだけに、ミルお嬢様とクロエ公女が懇意になったという噂は驚きをもって受け止められたのだ。
「まあ、あの子犬はクロエ様のお屋敷にいたのですか?」
「ええ。一時的に保護してくださっていたのですが、私の熱意を知って快く譲ってくださいましたの」
「クロエ様が動物を愛していらっしゃるのは有名な話ですけれど……ミルお嬢様とそんなご縁があったなんて」
「クロエ様って、本当はお優しい方なのですね」
ミルお嬢様がきっぱりとそう告げると、周りの令嬢たちは顔を見合わせた。社交界において、積み重ねられた悪名や高慢な態度の印象はそう簡単に消えるものではない。
けれど、それまでの評判が嘘のように、令嬢たちの心は解きほぐされていった。
「正直……思っていたよりもずっと温かい方なのだと印象が変わりましたわ」
一人が呟くと、周りも頷いた。こうしてクロエに向けられる世間の目は、驚くほど好意的なものへと塗り替えられていったのだった。
「ところで、レディ・ダリア。先ほどから黙っていらっしゃいますが、どうなさったの?」
賑やかな輪の中で、ダリアだけが冷めた表情を浮かべていた。
「……レディ・ダリア?」
「あ、いいえ、何でもありませんわ。今、どのようなお話をされていましたの?」
ダリアは無理に笑みを作った。最近、野心を懸けて準備していた事業が失敗に終わり、彼女の陰りは隠しきれなくなっていた。
この一年、勢力を広げるためにさまざまな事業へ進出し、基盤を固めようと必死だった。しかし、一度歯車が狂えば連鎖的に崩壊していくのが事業というものだ。
焦りを隠し、存在感を示すために社交界の集まりへ欠かさず顔を出していたダリアだったが、集まる話題はいつだって「クロエ」のことばかり。
ダリアは胸の奥で渦巻く劣等感を押し殺し、取り繕った笑みを深めた。
「私の婚約者であるギレン様が、本日ご帰還なさる予定ですので……そのことを考えておりましたの」
「あら! ギレン様が今日お帰りになるの!?」
「ええ」
「まあ、ギレン様は本当にロマンチックで素敵な方ですわね!」
ギレン・アマデウス侯爵。
彼女の手の中にあるものの中で、最も美しく、最も価値のあるカード。
彼さえ戻ってくればいい。
そうすれば傾いた事業も持ち直すし、不愉快なクロエも再びあの薄暗い別邸へ閉じ込められるはずだ。
すべてが、元の正しい形に戻る――。
陰っていたダリアの顔に、暗い確信に満ちた笑みが浮かんでいた。
-
子犬を引き取ったミルお嬢様とクロエの交流勝手に送りつけられて放置されていた子犬を可哀想に思ったミルお嬢様がクロエ公爵邸を訪問。かつて愛犬チェリーを亡くした彼女は、子犬と運命的な絆を感じて引き取り、「ベリー」と名付けて大切に育てることを決めた。
-
ココ(語り手)の成長とクロエの評判好転初めは新入りの子犬に嫉妬していたココだが、子犬の寂しさに寄り添い改心。また、お茶会でココがクロエの優しさを熱心に伝えたことや子犬を巡る温かな対応がきっかけとなり、社交界におけるクロエの悪評は好意的なものへと変わり始めた。
-
ライバル・ダリアの焦りと逆転への企み事業の失敗とクロエの評判上昇により焦りと劣等感を募らせるダリアは、優位を取り戻す切り札として婚約者ギレン・アマデウス侯爵の帰還を心待ちにし、クロエを再び追い落とそうと企んでいる。