こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
147話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロポーズ
まばゆい青い光が収まった時、ラシードを包んでいたのは重苦しい法廷の空気ではなかった。
空間そのものがぐにゃりと歪む強烈な浮遊感のあと、ゆっくりと目を開けた彼の視界に飛び込んできたのは、罪人の塔の冷たい石壁でもない。大きな窓からやわらかな陽光が差し込み、落ち着いた木香が漂う、どこか懐かしいぬくもりに満ちた部屋であった。
ラシードは一瞬で理解した。ここは、シアナの隠れ家だと。
安堵の息を漏らし、何か言葉をかけようとしたその瞬間――シアナが彼の手をぎゅっと、壊れ物を包み込むように強く握りしめた。
「ごめんなさい……っ。もっと早く助け出しに行くべきだったのに……遅くなってしまって……!」
その声は途切れ途切れに震えていた。さっきまで皇帝や皇后、そして無数の騎士たちを前に堂々とハッタリをかましていた凛とした姿は、どこにもない。シアナは幼子のように肩を揺らし、ぼろぼろと大粒の涙をこぼしていた。
だが、それこそが彼女の偽りのない本心だった。
法廷で鎖につながれたラシードの姿を目にした瞬間から、彼女の心はとっくに張り裂けそうだったのだ。傷に塗れた蒼白な顔。生気を失い、痛々しいほど痩せ細った肉体。その惨状は、胸を削り取られるほどの苦痛を彼女に与えていた。必死に気丈さを保っていたのは、ただ彼を無事に救い出すための一心からだった。
「どれほど痛かったことか……どれほど恐ろしかったことか……っ」
涙を拭いもせず呟くと、シアナは深く息を吐きだし、急いでドレスのポケットから小さなガラス瓶を取り出した。中には、淡い琥珀色の液体が満ちている。
「これ……まずお傷の手当てをしましょう。神秘草で調合した薬ですの。塗ればすぐに痛みも和らぐはずですわ」
震える手で蓋を開け、ラシードの傷口へと薬をかけようとした――まさにその時。
チャリン、と冷たい鉄の音が鳴った。
ラシードが、なおも両腕にはめられたままの鎖を鳴らし、シアナの細い手首をしっかりと掴み留めたのだ。衰弱しきっているはずの腕だというのに、その握力は決して解けない頑なさを秘めていた。
「殿下……?」
次の瞬間、シアナの視界がぐらりと揺れた。
強い力で腕を引き寄せられ、気づけば彼女の身体はラシードの胸元へと倒れ込んでいた。
伝わってきたのは、激しい震えだった。
シアナ自身の恐怖など比にならないほど、ラシードの肉体は小さく、けれど激しく打ち震えていた。壊れてしまいそうなほど弱り切った身でありながら、彼女を抱きすくめる腕の力だけは、絶対に離さないと言わんばかりに力強かった。
彼の中で、何かがとっくに限界を迎えていたのだ。
法廷にシアナが姿を現したあの瞬間。ラシードの理性の糸は切れかかっていた。自分を庇うことで彼女が傷つくのではないか、捕まって同じような目に遭うのではないか、もう二度と会えなくなってしまうのではないか――そんな絶望的な恐れが脳裏を埋め尽くしていた。それでも声も出せず耐え忍んでいたのは、ただ自分の存在のせいで彼女の命を危険に晒したくなかったから。彼女が命がけで繋いでくれた希望を、無駄にしたくなかったから。
だが、今はもう――我慢する必要などどこにもなかった。
「……とても、怖かったのだ」
薬の影響で未だ擦れた掠れ声だったが、そこには絞り出すような生の感情が宿っていた。シアナは顔を上げ、ラシードと目を合わせる。
「殿下……」
自分を見つめるシアナの頬を、ひどく震える手がそっと撫でた。会えたなら言いたいことは山ほどあったはずだ。無事だったか、一人で怖くはなかったか、どれほど会いたかったか、愛しているか――。
けれど、長い沈黙の末にラシードの口から溢れ出たのは、予想もしない言葉だった。
「私と、結婚してくれ。シアナ」
「……!」
シアナはエメラルド色の瞳を大きく見開いた。そして次の瞬間、こらえきれずに溢れた涙を一粒零しながら、花がほころぶような溢れんばかりの笑みを浮かべた。
「……ええ。お受けいたしますわ」
少しの迷いも含まれない、澄み切った返答だった。
しばしの間、互いの温度を確かめ合うように深く抱き合ったあと、シアナはようやくラシードの胸を優しく押し返した。
「いつまでもこうしていたいですけれど、殿下のお体が先決です。まずは治療をいたしましょう」
ラシードは名残惜しそうに手を開閉させたが、素直にうなずいた。シアナが合図を送ると、控えさせていた秘密組織『ブラックシャドウ』の騎士が速やかに室内へ現れ、ラシードの手首を縛っていた重い鎖を特殊な工具で切断した。
「……ひどい」
鎖が落ちたあとの手首を見て、シアナは顔を歪めた。皮膚が裂け、痛々しい赤黒い痕が残っていたからだ。彼女は手元にある不思議な花の汁を慎重に指先へ取り、傷口へ優しく塗り拡げていく。手首だけでなく、顔や腕、全身に残された痛々しい傷痕へ、慈しむように小さな手が往復した。
くすぐったそうな触感に、ラシードが低く「くすり」と笑いを漏らす。花の汁をひと滴飲んだおかげで、薬毒が抜けて幾分か持ち直した声で、彼は言った。
「その花は、個人的な用途に使ってはならないと……以前言っていなかったか?」
「お気になさらないでください。今使っている花は、もうアシルロンド王国のものではなく、私個人の所有物ですから」
国を出る直前、王国議会との交渉において、シアナは一定量の『神秘の花』を自らの財産として持ち出す権利を勝ち取っていたのだ。
「これから私が手にする花は、すべて殿言のためだけに使い果たす所存です。ですから、どこかを痛めた時は我慢なさらず、すぐに私の元へいらしてくださいね。約束ですよ?」
「……ああ」
傷口がみるみるうちに塞がり、声を完全に取り戻したはずのラシードだったが、返事をするその声はどこかかすれて響いていた。
やがて、彼の皮膚を覆っていた痛々しい傷痕や痣は綺麗さっぱりと消失し、かつての月光のような輝かしい美貌が姿を現した。それでもシアナは彼をベッドへ横たえ、胸元まで手際よく布団をかけ直すと、きっぱりとした口調で宣言した。
「花の力で表面の傷は癒えましたが、長期間の拘束と欠食により、体内の栄養も体力も底をついています。万全の状態に戻るまでは、私が手ずから殿下のお世話をさせていただきます」
ラシードはその言葉を拒むどころか、まるで世界で一番の幸福を掴み取ったような顔で、素直に身を委ねた。
「はい、あーんですね」
ベットの背もたれに寄りかかるラシードは、まるで雛鳥のように素直に口を開けた。あらかじめ用意しておいた滋養スープの器を手に、シアナはふーふーと息を吹きかけながら、温かなスープをスプーンで彼の口元へと運ぶ。
「お味はいかがですか?」
「美味しいよ」
ラシードが柔らかく微笑むのを見て、シアナはほっと安堵の息を漏らした。
「長いこと固形物を口にされていなかったでしょうから、お腹に障らないよう限界まで薄く伸ばして煮込んだのです。塩も具材もほとんど入れておりませんの。明日になれば、もっと美味しいものをお作りしますね」
「楽しみにしている」
食後のひとときには、あたたかな茶が用意された。
「本当は紅茶をお淹れしたいのですが、刺激が強いかもしれませんので……今日は香ばしい麦茶で我慢してくださいね」
ラシードは少し残念そうな顔を見せたが、そんな不満は急須を手にするシアナの仕草を目にした瞬間に吹き飛んでしまった。高級な茶葉であろうと、素朴な穀物茶であろうと関係ない。ただ彼女が自分ために丁寧に淹れてくれる姿そのものが、絵画のように美しかったからだ。
真っ直ぐな視線に頬を染めながら、シアナは洗練された手つきでお茶を注ぐ。トクトクと心地よい音を立てて、湯気の立つ澄んだ麦茶が器を満たした。
両手で器を受け取り、一口含んだラシードの顔に、心からの笑みが広がる。
「冷たい水すら満足に与えられず、喉の乾きに苦しんでいた間……君が淹れてくれるこのお茶の味が、どれほど恋しかったか分からない」
「……殿下」
「やっぱり、あなたが淹れてくれたお茶が一番だ、シアナ」
幼子のように無邪気に笑ってみせるラシードの姿に、シアナの胸がきゅっと締め付けられた。冷酷な皇后の手に落ち、想像を絶する過酷な時を耐え抜いてきた愛しい人。それが今、自分の目の前で穏やかな笑顔を取り戻している――その事実があまりにも愛おしく、溢れ出す愛しさを抑えきれずに手を伸ばそうとした、その瞬間。
バタン!!
盛大な音が室内に響き渡った。
いつの間にかベッド脇の丸テーブルに陣取っていたアリス皇女が、自分の飲んでいた麦茶のカップを勢いよく卓上に叩きつけたのだ。
アリスはジト目になり、自らの兄であるラシードをバシバシとにらみつけながら言い放った。
「お兄様! 傷も治って、ご飯も食べて、お茶まで飲んだんだから、いい加減少しはお休みになったらどう!? まともに眠れてなかったんでしょうし、本当はすごく疲れてるはずじゃない!」
意外にも、ラシードは「確かにそうだな」とばかりに素直にうなずいた。しかし、すぐにシアナへと視線を戻し、長いまつ毛を伏せて見せた。
「シアナ……目を閉じれば、君がまた幻となって消えてしまいそうで怖いんだ。どうしても安心して眠れそうにない」
シアナは優しく微笑む。
「ご安心ください。私がずっと、ベッドの脇でお側に付き添っておりますから」
だがラシードは首を横に振った。
「手も握っていて差し上げますわ」
それでも首を振る。何を望んでいるのかと不思議そうに目を丸くするシアナに向け、ラシードはしれっと告げた。
「ベッドの中で、一緒に横になってくれたら安心して眠れそうなのだが」
「なっ……! 何をバカなこと言ってるのよ! 絶対にダメに決まってるでしょ!!」
アリスが顔を真っ赤にして跳ね起きた。
憤慨する幼い義妹を前に、シアナは至って落ち着いた声音で語りかけた。
「姫様、殿下はこれまで言葉に絶する過酷な恐怖を耐え抜いてこられたのです。花の効能で身体の傷は治せても、心の傷痕はそう簡単に癒えるものではありませんわ。今の殿下には、人肌の温もりと寄り添う存在が必要なのです」
「シ、シアナ! それはあなたの完全な思い込みよ! あの人、今すっごく元気じゃないの!」
アリスの指摘は至極まっとうだった。ラシードの紫の瞳はかつてないほど活力に満ち、声にもしっかりとハリがある。それなのにシアナは、まるで風が吹けば散ってしまう儚い花か、高価な骨董品でも扱うかのようにラシードを過保護に甘やかしているのだ。
(お兄様はただシアナに甘えたいだけで、わざと悲劇のヒロインのフリをしてるのよ!)と叫びたかったアリスだが、今のシアナにそれを言っても「殿下を悪く言わないでください」と庇われるのがオチだと察した。かといって、ここで兄を強く責め立てればシアナを落胆させてしまう。
思案の末、アリスは眉をひそめて妥協案を提示した。
「……どうしても誰かに側にいてほしいなら、私も一緒に寝てあげるわよ! ベッドは無駄に広いんだから、三人で並べば問題ないでしょ!?」
だが、ラシードは実の妹の申し出を一蹴した。
「嫌だ」
「なによそれ! 眠れなくて不安だから誰かにいてほしいだけなら、私が隣にいても同じじゃないの!」
「全く違う」
「どこが違うのよ!」
「全てだ。存在の全てが違う」
「はあ!? 一体私の侍女に何をするつもりなのよ!」
「言葉を慎みなさい、アリス。シアナはもう君の侍女ではない。私の愛する女性だ」
「何言ってるの! シアナはまだ正式な辞表を出してないんだから、書類上は今も私の侍女よ!」
ギャーギャーと不毛な口論(?)が繰り広げられたが、最終的に折れたのはアリスの側だった。ラシードがふてくされた顔のまま、どこか白々しく「うっ……」と額を押さえて頭痛を訴える仕草を見せたため、それ以上強く出られなくなってしまったのだ。
「……分かったわよ! 花の力で治ったとはいえ、まだ病み上がりなのは事実だものね! 私が見張っててあげる!」
その代わりとして、アリスは悔しそうに歯をギリと噛み締め、一つの厳格なルールを言い渡した。
――ラシードが横たわる広いベッドの中央に、布を固く繋ぎ合わせた一本の長い紐が引き直された。まるで領土を分かつ国境線のように。
アリスは険しい顔でその紐を指差し、告げた。
「今日一日だけ、特別に同じベッドで横になるのを許可してあげるわ! でも、私が認めるのはここまでよ! お兄様はあっち、シアナはこっち! 絶対にこの境界線を越えないこと! 手をつなぐのも触れ合うのも厳禁! ただの『石コロ』になったつもりで、何も感じないフリをして寝なさい! いいわね!?」
シアナは「承知いたしました」ときっぱりうなずいた。
なかなか返事をしないラシードに向け、アリスが眉を吊り上げる。
「お兄様、なんで返事しないの!? もしこれ以上ごねるなら、今すぐシアナを連れ出して私の部屋に鍵をかけるからね! お兄様が泣こうが眠れなかろうが知ったこっちゃないんだから!」
……ラシードは、酷く不満そうな顔をしながらも、渋々といった様子で頷いた。
その絶妙なタイミングを見計らったように、控えていた侍女のニニとナナがすっと現れ、アリスの両腕を柔らかく抱え込んだ。
「さあさあ、姫様。私たちもお部屋へ戻りましょうね」
「あたたかいミルクをご用意してございますの。お飲みになれば、心も体もポカポカになりますわ」
「日向でふっくら乾かしたお布団と、綿がたっぷり詰まった大きなぬいぐるみもベッドにセットしておきました! 抱き心地抜群ですよ~」
「それに! 昨日お読みになっていた恋愛小説の続きも届いております! ヒロインが7人のイケメンの中から誰を選ぶのか、気になって眠れなかったでしょう? さあ、一緒に読みましょう姫様!」
ニニとナナの怒涛の誘惑は、あまりにも強力だった。
アリスは「うぐぐ……」と抗いきれず、二人に引きずられるようにして部屋を後にした。もちろん、扉が閉まる間際までラシードを強烈に睨みつけ、「約束を破ったらタダじゃおかないからねー!」という脅し文句を残すのを忘れなかった。
バタン、と重い扉が閉まり、静寂が訪れる。
部屋には、二人きりとなった。
ベッドに横たわっていたラシードが、待ってましたと言わんばかりにシートをめくった。
「……こっちにおいで、シアナ」
「……はい」
つい先ほどまでは、シアナもこの状況をそれほど羞恥と感じてはいなかった。これまで過酷な旅路や事件の中で、抱き合ったり口づけを交わしたりといった肌の触れ合いは経験済みだったからだ。(ただ同じベッドで横になるくらい、大したことありませんわ)――そう高をくくっていたのだ。
けれど、ふかふかのマットレスに足を踏み入れた瞬間、ドクン、と心臓が跳ね上がった。
(どうして……こんなに緊張してしまうの?)
アリスが提示した境界線を踏み越えないよう細心の注意を払い、そっと横たわったシアナ。だが、その視線の先に待っていたのは、想像以上の破壊力を秘めた光景だった。
紐の向こう側から、ラシードが肘をつき、じっと自分を見つめていたのだ。
長期間の監禁により、彼の頬はやや削げ、全体的に肉落ちしていた。普通であれば病み上がりのやつれた印象を与えるはずである。しかし、傷痕が消え、上質な部屋着に身を包んだラシードからは、そんな悲壮感は微塵も感じられなかった。むしろ、シャープになった輪郭が彼の彫刻のような造形美を際立たせ、どこか危険で危うい色香を漂わせていた。
思わず見惚れてしまっていたシアナの耳に、低く甘い声が届く。
「……ありがとう、シアナ」
パチパチと瞬きをして、シアナは首を傾げた。
「何に対するお礼ですの?」
「私をあの地獄から救い出してくれたことも……こうして優しく看病してくれることも。……君がしてくれた、全てのことにだ」
シアナは困惑したように眉を下げた。
「殿下は、私が心の底から愛しているお方です。当然のことをしたまでですわ」
けれどラシードは、「そうではない」と寂しげに首を横に振った。
彼は痛感していたのだ。どれほど血が繋がっていようと、どれほど深い契りを交わそうと、人と人との情愛が永遠に保証されるわけではないという冷酷な現実を。実の親であっても、平気で殺意を向けてくる世界を生きてきたのだから。
だからこそ、彼にとってシアナの存在は奇跡そのものだった。
「君は、私のために笑い、私の痛みに涙を流し、私を傷つける者に怒りを露わにしてくれた。そして幾度も抱きしめ、『愛している』と囁いてくれる……。君が注いでくれる無償の愛の全てが、私にとっては奇跡のように眩しいのだ」
ラシードはゆっくりと、熱を込めて言葉を紡ぐ。
「私はこれから先の生涯全てを、君のために捧げよう。私の持つ全てをもって、君を幸せにしてみせる」
帝国の頂点に君臨する至高の権力。大陸を揺るがす圧倒的な軍勢。百の騎士を一人で薙ぎ払う強靭な肉体と武技――その全ては今、シアナ一人のためだけに存在する。
「だから……これからもずっと、私の隣にいてほしい。君から貰った溢れんばかりの愛を、一生をかけて返させてほしいのだ」
紫の瞳に宿るのは、偽りのない真摯な情熱。そして、「断られたらどうしよう」という僅かな不安。
その健気で一途な姿に、シアナの目頭が再び熱くなった。
彼女もまた、不遇な生い立ちを歩んできた人間だった。生後すぐに母を失い、実父からは冷遇され、継母からは虐げられてきた。それでも自分を不幸だと思ったことはなかった。
(……私よりずっと大きくて、世界で一番強いはずのこのお方が、どうしてこんなにも愛おしく、守ってあげたくなるのでしょう)
シアナは涙をぐっと堪え、太陽のような笑顔を咲かせた。
「ええ……ずっとお側にいさせていただきますわ。ですから、お言葉通りに、私を世界一幸せにしてくださいね?」
その瞬間、ラシードの忍耐は限界を迎えた。
素早い身こなしで身体を躍らせると、彼はアリスが敷いた境界の紐などあっさりと無視し、シアナの身体の上に覆いかぶさるように乗っかったのだ。
「で、殿下……!? 姫様とのお約束が……!」
「君はルールを完璧に守っていた。だから、約束を破った悪者は私だ。君に咎はない」
「~っ……!」
「それに……最初から、あんな理不尽な線引きを守るつもりなど微塵もなかった」
ラシードは身をかがめ、両腕の腕の中に閉じ込めたシアナの唇を、深く奪い去った。
重なり合った唇は、呆れるほど柔らかく、甘かった。
それはまるで、暗く冷たい牢獄で渇き切っていた彼の魂を、一瞬で潤していく至高の恵みのようであった。
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再会と互いの深い愛の再確認、そしてプロポーズ
脱出を果たしたシアナの隠れ家で、疲弊しきっていたラシードは過酷な状況を耐え抜いた末にシアナへの愛と執着を溢れさせ、かすれた声で「私と結婚してくれ」と求婚し、シアナも迷わずそれを受け入れた。
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「神秘の花」による治療と愛おしさゆえの過保護
シアナは所有権を得ていた神秘の花の効能でラシードの身体の傷を完治させ、声を取り戻させたが、長期間の拘束と欠食で弱った彼を痛々しく思い、離れようとせず過保護なまでに手厚く看病した。
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アリスの牽制を軽々と飛び越えた愛の誓いと口づけ
甘えようとするラシードに対し、妹アリスがベッドに境界線を引いて接触を禁じるなど猛反対するも、二人きりになるとラシードは「自分の全てを捧げて君を幸せにする」と誓い、約束の境界線を越えてシアナへ深く口づけた。