もう泣いてもいいですか?

もう泣いてもいいですか?【42話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「もう泣いてもいいですか?」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【もう泣いてもいいですか?】まとめ こんにちは、ピッコです。 「もう泣いてもいいですか?」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介とな...

 




 

42話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 温かいもてなし

「お元気で!」

イビは、いつまでも手を振って見送ってくれるマダム・クレベルに向かい、何度も手を振り返した。

店を出る際、クレベルは「お越しいただいたお礼です」と言って、二人に同じデザイン・同じ色のリボン付きヘアピンをプレゼントしてくれたのだった。アイリンと一緒に髪へ飾ると、リボンの先に付いた小さなガラス細工が陽の光を受けてきらきらと輝いた。

「こんなに素敵なものまでいただいて……」

自分は何も買っていないのに、受け取ってしまってよかったのだろうか。そんな思案が頭をよぎったが、アイリンはすぐさまそれをイビの髪へ挿し、自分の髪にもおそろいの品を付けた。

だからイビは、それ以上何も言わずに口をつぐんだ。申し訳ない気持ちもあったけれど、アイリンとおそろいのものを持てたことが、なにより嬉しかったのだ。

「さて、それじゃあ、ここまで一緒に頑張ってくれたイビを——」
「お祝いに、おいしいものを食べに行こう。」
「おいしいものですか?」
「うん。学園では食べられないものよ。」

そう言うと、アイリンは近くのカフェテリアへ足を進めた。あらかじめ連絡してあったらしく、到着するや否や支配人が出迎え、丁寧な挨拶とともに二階テラスの一番奥にある席へと案内してくれた。通りを見下ろせる、文句なしの特等席だった。

「よかったら、注文は私に任せてもいい? ぜひ食べてもらいたいものがあるの。」
「はい、お願いします。」

とはいえ、メニューに並ぶ品々はイビにとって見慣れない料理ばかりだった。アイリンが店員に注文を伝えている間、イビはパラソルの下を吹き抜ける心地よい風に身を委ねる。注文を終えたアイリンもそっと目を閉じ、風を味わうようにつぶやいた。

「やっぱりいいわね。学園が嫌いなわけじゃないけれど……それでも、こうして遊びに出かけたくなることもあるわ。」
「アイリンは、こういう場所によく来るんですか?」
「うん。私はおいしいものを食べるのも、新しいものを見るのも好きなの。イビは何をするのが好き?」
「私は……」

自分は何が好きのだろう——イビは少し考え込んだ。

「えっと……アイリンやアールセル様、ルースカと一緒に遊ぶこと、でしょうか?」
「そういうのじゃなくて。一人でいるときに何をして過ごすのか、ってことよ。趣味みたいなものね。」
「うーん……」

趣味。好きなこと。

そこでイビは、英才院へ入学するときに書類へ書いた内容を思い出した。

「掃除……とか?」
「……」
「それとも、家庭菜園? 小さい子たちにご飯を食べさせることや、家の仕事を手伝うことでしょうか?」

イビが答えるたびに、アイリンの表情はだんだんと曇っていく。

「それって趣味じゃなくて、やらなきゃいけないことでしょう?」
「でも、楽しいですよ……」

そのとき、店員が大きなグラスを二つ載せたトレーを運び、二人の前に置いた。

ラッパの花のような形をしたガラスの器には、さまざまな具材が幾重にも重なっている。シリアル、ゼリー、アイスクリーム、チョコチップ……そして一番上に飾られていたのは、不思議な形をした果実だった。

「これは何ですか?」
「パイナップルよ。学園には入ってこないでしょう? 南部で採れる果物なの。」

名前は聞いたことがあったし、絵で見たこともあった。けれど、実物を目にするのはまったく違う感覚だった。

「木に実る果物みたいに見えるけれど、実は地面で育つのよ。草の上に生えているものだと思えばいいかしら。実物を見ると、ちょっと不思議な見た目でしょう? とにかく、とても甘酸っぱくておいしいの。」

そう言うと、アイリンはスプーンで一番上のパイナップルシャーベットをたっぷりすくい、生クリームと一緒にイビの口元へ運んだ。

もぐもぐ。

口の中のシャーベットを飲み込んだイビは、一瞬酸っぱそうに目を細めたものの、すぐにぱっと目を見開いた。

「どう? おいしいでしょう?」
「おいしいです!」

不思議な味だった。舌がしびれるような酸味のあとに、爽やかな甘さが口いっぱいに広がっていく。

「はい、もう一口。あーん。」
「あーん。」

本当に気に入ったのか、イビは自分から口を開け、アイリンが差し出すパイナップルシャーベットを次々と口に運んだ。初めて味わうおいしさに夢中になっていた。

目を輝かせて楽しんでいるイビの様子を見て、アイリンは心の中で決意した。

(よし。この夏はイビにも趣味を一つ作ってあげよう。)

どの分野でも最高のものを用意してあげようと心に決めたアイリンは、店員を呼び寄せた。しばらくして店員が持ってきた二通の手紙を受け取ると、それを執事長へ手渡す。執事長は手紙に書かれた宛先へ向けて、すぐさま配達の手配を始めた。

* * *

家へ戻ったルースカは、兄たちとの稽古を何時間もこなした末、ベッドへ倒れ込んでいた。

「もう、死にそうだ……」

学園にいる間に体がなまることを嫌った兄たちは、ルースカを休む暇もなく鍛え続けたのだった。

(これが本当に生きるってことなのか……?)

学園へ帰りたい。帰ってイビと一緒に食堂を巡ったり、おいしいものを食べ歩いたりしたい。

「無理だろうけど……」

ルースカは大きくため息をついた。兄たちの言うことは正しかったのだ。学園であまりにも気楽に過ごしすぎたせいで、体がすっかり鈍ってしまっている。この調子で、本当に騎士の名門ラグセルブ家の息子と言えるのだろうか。

(それでも、あれが私の一番の得意分野なんだけどな。)

アールセルと比べられて落ち込んでいたとき、「彼が自分より優れていることだってたくさんある」と一生懸命に励ましてくれたイビの姿が思い浮かぶ。

「ふっ、あのちびっ子。ああいう時だけ妙に勘が鋭いんだから。」

イビを思い出して、ルースカは思わず吹き出した。

「それはそうと、イビが遊びに来たら何をして遊ぼうかな。」

考えてみても、ラグセルブ侯爵家にはイビが喜びそうなものは特になかった。あの小さな子が気に入りそうなものは何も思い浮かばない。まさかイビに剣を持たせるわけにもいかないだろう。

そんな思考を巡らせていた矢先、使用人が部屋の扉をノックした。

「何だ?」
「坊ちゃま宛てに至急のお手紙が届いております。差出人はアイリン・テリンス様でして……」
「えっ?」

ルースカは思わず間の抜けた声を上げ、目を見開いた。

「急にどうして手紙なんだ?」

まさかイビに何かあったのだろうか。そこまで考えが及んだ瞬間、ルースカは慌てて手紙を受け取り、封を切った。そして最初の一文を目にする。

『私よ。アイリン・テリンス。あなたの家の末っ子を貸して。』

ルースカはあっけに取られた。

「何だこれ……」

頭がおかしくなったのか? そう思いながらも、彼は続きの文章へと目を移した。

『イビが乗るから、ラグセルブ侯爵家自慢の名馬を用意してあげて。』

その一文を読んだルースカは、勢いよく立ち上がると階下へ駆け下りた。

「父上! 兄上! 馬を貸してください!」

* * *

同じ頃、アールセルのもとにもアイリンからの手紙が届いていた。

『ケイレン公爵家の美しい書斎を、イビのために見せていただけませんか。できれば、王都の音楽界を支援しておられるケイレン公爵夫人の音楽教室にも伺ってみたいです。』

「……」

大したことではない、とアールセルは思った。テリンス家の屋敷よりケイレン公爵家の書斎の方が圧倒的に豪華で広く、蔵書もはるかに多いのは事実だ。だが、それならわざわざ訪ねてくる必要もないだろう。それに、母が個人的に開いている音楽教室まで見学したいというのだろうか。自分との結婚話を聞かされるかもしれない場所へ好んで行くようなアイリンではないはずだった。

不可解に思いながら読み進めたアールセルの目が、次の一文で止まる。

『イビに趣味を見つけてあげたいんです。何が好きかわからないので、いろいろ体験させてみようと思います。』

アールセルはすぐに立ち上がった。そして母の部屋へ向かい、扉をノックする。

「誰かしら……あら、アールセル。どうしたの?」
「母上、お願いしたいことがあるんです。」

その言葉に、公爵夫人は思わず口をつぐんで息子を見つめた。アールセルが自分から頼み事をするなんて、幼い頃を除けば初めてのことだった。

* * *

いつの間にか夏の太陽は西へ傾いていた。

「ご覧ください、アイリンお嬢様の馬車が到着します!」
「みんな、準備を!」

朝早く学園を出発した馬車は、空が夕焼け色に染まる頃になって、ようやくテリンス家の屋敷へ到着した。本邸の入口では、久しぶりに帰ってきたアイリンを迎えるため、使用人たちが待ち構えている。

「もっと頻繁にお会いできると思っていましたのに。」
「そうなんです。英才院があんなに忙しい場所だとは思いませんでしたわ。お勉強が忙しくて来られない日も多いですし、来られてもすぐにお友達のところへ戻らなければいけないとおっしゃっていて……」

英才院に入ったばかりの頃は、外出が許されれば真っ先に家へ帰ろうとしていたアイリンだった。それなのに、いつしか英才院へ戻る足取りは軽くなり、まるで宝物でも隠してあるかのように急いで戻っていくようになったのだ。

「お友達もご一緒にこちらへお招きしては、と申し上げたのですが、その方が気を遣われるようで……」
「お嬢様が人に気を遣うなんて……」

そんなこともあるのか、と場にいた誰もが驚いた。アイリンが留守の間、いちばん寂しがっていたのは身の回りの世話をしている侍女たちだった。

「でも、夏休みの間はずっとこちらにいらっしゃるそうですから……ふふふ。」

侍女の一人が意味深に微笑む。

「そうなのよ。本邸に届いた新しい品々でお嬢様を着飾りたくて、うずうずしていたんだから。」
「はあ、お嬢様の銀髪……。私が毎日どれほど心を込めて梳かしていたことか……。」

侍女たちがうっとりとため息をつきながら騒いでいると、本邸の使用人たちは「また始まった」と言わんばかりの視線を向け、そっとその場を離れていった。

「それに今回は、例の『お友達』も一緒にいらっしゃるんでしょう?」
「ええ、とっても小さくて可愛い子なんだとか。」
「どうしよう、もう胸がドキドキしてきたわ!」

彼女たちも南部の出身だった。幼くて小さなものを見ると理性が飛んでしまうと言われる土地柄である。やがて馬車が見えると、全員が姿勢を正して目を輝かせた。

「ついにお着きになったわ!」

馬車が屋敷の前で止まり、御者が扉を開ける。最初に降りてきたのはアイリンだった。馬車を降りるとすぐに振り返り、中へ向かって手を差し伸べる。すると、黄金色の髪をした小さな少女が、ひょいと馬車の中から姿を現した。

道中で疲れてしまったのだろうか。少し乱れたふわふわの髪と、まだ眠たげな目がそのまま残っていた。

「イビ、足元に気をつけて。飛び降りる? それとも私が受け止めようか?」

アイリンへ向かって手を伸ばしたイビは、一瞬ためらったものの、すぐに彼女を信じるように前へ身を預けた。

ぽすん、とアイリンの腕の中へ飛び込む。イビを受け止めたアイリンは少しよろめいたが、すぐに体勢を立て直した。そしてイビをそっと地面へ降ろすと、その手を握って振り返る。

「みんな、久しぶり……って、あれ?」

アイリンは侍女たちの目が怪しく輝いているのを見て、大きくため息をついた。

「やっぱりこうなると思ったわ。イビ、紹介するね。順番にアンバー、ビキ、シンディよ。みんな南部から来て、私と一緒に育った人たちなの。」

紹介を受けたイビは、アイリンの手を離すと両手を前で揃えて丁寧にお辞儀をした。

「はじめまして! 私はイビ・エルデンです。」

その挨拶を聞いた三人の侍女は、思わず口元を押さえて固まったかと思うと、次の瞬間には互いに押し合いを始めた。

「髪を結うのは私がやるわ!」
「服を着せるのは私よ!」
「それ以外は全部私の担当!」
「……?」

何を争っているのか理解できないイビは、不思議そうに首をかしげた。

「やっぱりね。それより、朝からずっと買い物をしていたからイビもだいぶ疲れているの。私が屋敷を案内している間に、お風呂の準備と着替えをお願いね。」
「かしこまりました。あ、それとお嬢様……」

アンバーはアイリンの耳元へ近づき、内緒話をするように小声でささやいた。少し離れた場所にいたイビには二人が何を話しているのか聞こえなかったが、途中でクレベルの名前が聞こえたため、昼間に買ってこちらへ送った服のことだろうと推測した。

侍女たちに細かな指示を終えたアイリンは、にこりと笑ってイビの手を握る。

「さあ、それじゃあ屋敷を案内するね。行こう!」

* * *

テリンス家のタウンハウスは、息をのむほど壮麗な邸宅だった。テリンス家の富を惜しみなく注ぎ込んだ建物で、屋敷のどこを見ても美しく整えられている。さらに色彩豊かな南部特有の装飾が随所に施されており、王都の邸宅でありながら異国情緒が漂っていた。イビは思わず感嘆の声を漏らす。

「わあ……。」
「どう? 素敵でしょ? 気に入った?」

気に入るかどうか以前に、屋敷そのものが一つの芸術作品のようだった。イビが見とれたまま返事もできずにいると、アイリンは少し不安そうに続けた。

「南部にある私たちの本邸は、ここよりもっと大きくて立派なんだよ! もしここが気に入らなかったら、冬休みには本邸へ行こう。南部だから、ずっと暖かいし。」
「ここで遊ぶのも楽しそうだね。」

ここだけでも目が回るほど広いのに、それ以上に大きくて立派な屋敷があるなんて。

「アイリン、本当にお姫様だったんだね……」
「もう、何言ってるの。ほら、それよりこっちへ来て!」

アイリンはイビの手を引き、再び上の階へ向かった。しばらく歩くと、ひときわ大きく豪華な扉が現れる。中に入ると、それまで見てきた部屋とは少し雰囲気の違う空間が広がっていた。家具も調度品も小ぶりで、可愛らしい印象の部屋だ。

部屋へ入った瞬間、イビはここが誰の部屋なのか悟った。

「アイリンのお部屋ですか?」
「どうして分かったの?」
「アイリンと同じ香りがします。」

寮でアイリンの部屋へ入るたびに感じていた、あの心地よい香りと同じものが漂っていた。

「すごく広い……。」

学園の寮で使っているアイリンの部屋と自分の部屋を合わせても、ここより狭いかもしれない。

「さあ、ここがバルコニー。ここからは庭が一望できるの。それから、こっちがお風呂で……」

夢中になって部屋を案内していたアイリンは、壁にある別の扉を開けた。その向こうには、アイリンの部屋と同じくらい広くて立派な部屋があった。

「ここは何をする部屋だろう?」

不思議そうに首をかしげるイビに、アイリンは胸を張って言った。

「そして、じゃーん! ここが、あなたの部屋!」
「えええっ!?」

もともと大きなイビの目が、さらに丸くなった。

「私、私の部屋ですか?」
「そう! もちろん私の部屋とつながっている部屋だよ。ほら見て、あなたのためにみんなが新しく全部用意してくれたの。」

ようやく見せることができたのが嬉しいのか、アイリンは弾んだ声で説明する。イビは信じられないという表情で部屋の中を見回した。

(本当に? 本当に夏休みの間、私はここで過ごしてもいいの?)

ふと見ると、御者が運び込んでくれたイビの荷物もテーブルの横に置かれていた。テーブルの上には美しい花が活けられた花瓶と果物、軽いお菓子、そして『イビのご訪問を歓迎します。どうぞごゆっくりお過ごしください』と書かれた可愛らしいカードまで用意されている。

イビはそれらを見つめたまま、しばらく動けなかった。

「イビ? どうしたの? 気に入らなかった?」

固まったままのイビを見て、アイリンは心配そうに尋ねる。イビは慌てて首を横に振った。

「いいえ! 本当に私がここで過ごしてもいいなんて……嬉しすぎます。私、友達の家に来るの、今回が初めてなんです……。本当は見学だけして帰るだけでも十分だったのに……」

こんなに素敵な部屋を自分のために用意してくれていたなんて。イビはアイリンに駆け寄ると、その腰にぎゅっと抱きついて笑った。

「やっぱりアイリンが一番です!」

その言葉に、アイリンの美しいすみれ色の瞳が満足そうに細められた。

(ふふ、計画通り。私がここまでやったんだから、アールセルやルースカでも、もうイビを驚かせることなんてできないでしょう?)

本当なら腰に手を当てて高笑いしたい気分だった。

そのとき、侍女たちが入浴の準備ができたと知らせに来た。二人は急いで浴室へ向かい、一時間後には昼間の疲れをすっかり洗い流して、少しぶかぶかした姿で出てきた。

「おそろいのパジャマ。」

鏡の前で、アイリンは満足そうにイビと自分の姿を眺めた。

(これがやりたかったの。)

もちろん、英才院のパジャマも同じデザインではある。けれど、そうではなくて——自分たち二人だけのおそろいが欲しかったのだ。そのために、あらかじめ屋敷へ伝えて用意させておいたのだった。

銀色の猫と黄色いひよこが描かれたパジャマは、後ろに控える侍女たちが思わず拍手してしまうほど二人によく似合っていた。

「えへへ。」

何よりも、イビが気に入ったのか鏡の前で何度もくるくる回り、あちこち眺めている姿にアイリンは深く満足した。

「ふふ……。」

しばらくうとうとしていたイビは、大きなあくびをした。朝からずっと動き回り、夕食も外で済ませ、きれいにお風呂にも入ったのであとは寝るだけだった。

「イビ、今日は一緒に寝よう。夜中に目が覚めて、ここがどこか分からなかったら怖でしょう?」
「うん、いいですよ。」

重くなるまぶたを何度も瞬かせながらアイリンについて行こうとしたイビは、何かを思い出したように突然足を止めた。どうしたのかとアイリンが見つめる中、イビは自分のかばんを開け、中に入っていた物を取り出して戻ってきた。

それを見たアイリンが驚いて尋ねる。

「魔石を持ってきたの?」
「はい。大切な物ですから。」

そう言ってイビは、ベッドの横のサイドテーブルに魔石を置いた。いつものように手を載せると、魔石はほのかな光を放つ。

二人がベッドの天蓋のカーテンの中へ入ると、侍女たちは微笑みながら「おやすみなさい」と言って部屋を後にした。

ベッドに横たわった二人は、くすくす笑いながら昼間の出来事を語り合った。そうしているうちに返事はだんだんと途切れ、やがてどちらからともなく静かな寝息を立てて深い眠りについた。

目を閉じたイビの顔には、穏やかな笑みが浮かんでいる。

魔石の光は、一日中幸せそうだったその子を見守るように、いつもと変わらない温かな光を静かに放ち続けていた。



  • イビに趣味を作ってあげたいアイリンの決意
    「一人でいるときの好きなこと」に「掃除や手伝い」と答えるイビを心配したアイリンは、この夏休みにイビに合う趣味を見つけようと決め、ルースカやアールセルに協力を求める手紙を送りました。
  • ルースカとアールセルの戸惑いと行動
    アイリンからの「馬を貸して」「公爵家の書斎や音楽教室を見せて」という突然の手紙に驚きつつも、イビのためと知った二人はすぐに家族へ掛け合い、準備へ動き出しました。
  • テリンス家での温かいもてなしとおそろいの思い出
    屋敷に到着したイビは、自分専用に用意された部屋や侍女たちの熱烈な歓迎に感動し、アイリンとおそろいのヘアピンやパジャマを身につけて、幸せな気持ちで眠りにつきました。

 

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