こんにちは、ピッコです。
「幼い旦那様の黒幕妻です」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
47話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- すべての線が繋がるとき
「公子様!?」
私は持っていた焼きトウモロコシを放り出し、慌ててキブリンのもとへ駆け寄った。
「大丈夫ですか? 痛くありませんか? 触ってもいいですか?」
キブリンが小さく頷くと、私はすぐにその手を自分の両手でそっと包み込んだ。その手は、まるで火傷を負ったかのように赤く腫れ上がっている。
「し、神殿で行う結界の展開みたいなものです……。こ、これをすると、1年くらいは静かになります」
「……私は森が無事かどうかを聞いたんじゃなくて、公子様が大丈夫かどうかを聞いたんです」
「う、うん、大丈夫です」
全然大丈夫そうには見えませんけど!
「以前、火傷をしていたのもこれが原因だったんですか? 公子様がこんなやり方で助けていると知ったら、お義母様はきっと喜びません。それに、私も!」
キブリンは困ったように、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。
「そ、それなら森へ入る前に、チェリア様が怪我をしないようにしてくださいますか?」
「え?」
「私がですか?」
キブリンは丸い黄金色の瞳で、じっと私を見つめた。
「お、お見せするには良い光景じゃないって言ったのに、それでもついて来て……。い、今も逃げずにいてくださいました。だから、ぼ、僕を信じてほしいんです」
言っていることは分かる。だけど、そんな力があるなら、もっと早く使っていたでしょう!
「今は包帯すらないのに、どうやって……」
「へ、蛇の巣から逃げた時、チェリア様は『私にできることなら何でもする』って言ってくださいましたよね」
魔物を追い払い、火傷まで負ったのはキブリンなのに、どうして私のほうが涙が出そうになるんだろう。私はこみ上げる涙をこらえながら、本当のことを言おうとした。
「実は、あれは嘘――」
しかし、キブリンは私の言葉を優しく遮った。
「チェリア様なら、できます。ぼ、僕と一緒に練習すれば、きっとたくさんの人を助けられるようになります」
「……」
「もっと難しくはなるでしょうが……全員殺してしまうより、取り除くほうが……まだ早く済むと思います。変なことを言っているように聞こえるかもしれませんが、どうか覚えておいてください」
うん、本当に変な話だ。キブリンを相手に「善い行いを練習しろ」だなんて。
それでもキブリンの瞳があまりにも真剣だったので、私は何かやってみることにした。キブリンの手にふうふうと息を吹きかけ、慎重に傷口についた砂を払う。
「これで少しは痛くなくなりましたか?」
「同じように痛いです」
そうだろうね……。私は困り果てて、いっそ唾でも塗ってみようかと真剣に悩んだ。
ゴゴゴゴゴ――!
その時だった。まるで地震が起きたかのように、大地が激しく揺れた。遠ざかったはずの轟音が、再び凄まじい勢いでこちらへ近づいてくる。
体が震えるほどの衝撃の中、茂みを分けてローズが飛び込んできた。
「何をしたのかは何となく分かったけど、方向の調整はできないの!? 魔物がみんなこっちへ逃げてきてるじゃない!」
どうやら、ついにローズもキブリンへの敬語をやめることにしたらしい。
ローズは私とキブリンを左右の脇に軽々と抱え、そのまま全力で走り出した。こんな切迫した状況でも、ローズは木の枝が私の体に当たらないよう細心の注意を払ってくれている。私は頭を守ることも忘れたまま、心の中でローズに深く感謝した。
「ローズ、足が速いんだね」
「今それを褒めてる場合じゃないでしょ?」
ローズは呆れた顔をしたが、私が「どうせローズが守ってくれるんだから平気だよ。ローズがいるとすごく心強い」と続けると、その機嫌はあっという間に良くなった。本当に単純で、お人好しな騎士だ。
しばらく走ったローズは、傾斜面からひらりと飛び降り、小川のほとりへ無事に着地した。その瞬間、私たちの頭上を大型犬のような魔物たちが勢いよく駆け抜けていく。
すぐ後ろから追いついてきたセジャルが、落ち着いた声で説明を添えた。
「一度獲物に噛みつくと、仕留めるまで決して離さない厄介な魔物です。聴覚と嗅覚が非常に発達していますが……今は私たちを探している余裕はなさそうですね」
「でも念のためよ。あんた、ちょっと様子を見てきて」
「分かりました」
ローズの指示を受けると、セジャルは素直に立ち上がった。……一国の世子(皇太子)のはずなのに、騎士団では一体どれだけ立場が低いんだろう? ローズにあれこれ命令されても当然のように受け入れているので、今さら驚くこともなかった。
そんなことを考えている間に、ローズは抱えていたキブリンを地面に降ろした。けれど、私だけは降ろそうとせず、むしろキブリンから距離を取る。まるで、キブリンから私を守ろうとしているかのような拒絶の態度だった。
「えっ? ロズ?」
キブリンが、少し疲れたような声で口を開いた。
「私が……誰かに言いましたよね。私の能力が危険だってことは、分かっていると思いますが……」
「不快っていうレベルじゃないけどね」
ローズはそこまで言って、腕の中の私を見つめた。
「お前、本当に何ともないのか?」
「うん」
実はさっき一瞬だけ気分が悪くなったけれど、もう大丈夫だ。ローズは信じられないと言わんばかりに眉をひそめた。
「本当に平気なんだな?」
「大丈夫よ」
もしかして、キブリンの腕が変形したところを見て警戒しているのだろうか。でも、キブリンの前世をローズもよく知っているはずだ。当時使っていた能力と大きく変わるものでもないのに、今さら驚くことなんてあるのだろうか。
ローズは目を細めたまま、私から視線を外さなかった。
私は小さく首をかしげた。
「どうして公子様を警戒しているの? 前世ではあなたの護衛だったのに……それに、公爵様が前世の記憶を取り戻したと知っても、あまり嬉しそうではありませんでしたし……」
考えれば考えるほど、不自然な点ばかりが浮き彫りになっていく。
「それは……!」
ローズは先ほどと同じように、私の顔色をうかがいながら言葉を濁した。
その様子を見て、私は自分なりに導き出した、もっともらしい結論を口にした。
「分かった。二人だけで行動していたら、私が仲間外れにされた気分になると思って気を遣ってくれてたんだね?」
まさかあのローズがそんな優しい気遣いをしてくれるなんて。なんだか少しくすぐったい気分になって微笑む私に、ローズは顔を真っ赤にして叫んだ。
「えっ、違う違う! 全然違うから! 本当に勘違いしてる!」
……私、何か変なこと言った?
慌てたローズが私の襟首をがっしりとつかむ。
キブリンは私のほうへ一歩踏み出しかけたが、途中で足を止め、意を決したように言った。
「そ、その……嘘をついてしまってすみません。実は私は、デル――」
「違います」
突然のキブリンの告白に、私は目を丸くした。キブリンはまるで叱られた子どものように、ぎゅっと目を閉じる。
「前世で私はロズに会ったことはありませんし、知ることもありませんでした。私がデル様と出会った頃には、ロズはすでに別の場所へ行ってしまっていて、もういなかったんです」
……待って。今、何を言ったの? キブリンはデルじゃないの?
「公子様でなければ、デル様は誰なんですか?」
私の問いに、キブリンもローズもそろって口を閉ざした。奇妙な沈黙が流れる。
「デルが生まれ変わったのは、本当なんですか?」
二人は私から目をそらしたまま、無言で、コクコクとうなずいた。デルは確かに転生した。でも、それはキブリンじゃない……?
「じゃあ、デルって誰なんですか?」
今度は示し合わせたように、二人とも固く口を閉ざしてしまった。ローズにいたっては、明後日の方向を向いて口笛を吹くふりをしながら、指で必死に私を指し示してごまかそうとしている。
えっ、まさか。
私は慌てて、その最悪の可能性を否定した。
「今のは聞かなかったことにします」
「あはは、ははは……」
違うよね? そんなはずないよ。あり得ない!
私の体力がこんなにひどいのに、あの絶対的な「デル様」が私なわけがない。それに、もしそうだとしても辻褄が合わないじゃない!
なんだか無性に涙が出そうになった。普通、小説の世界に転生したり憑依したりした主人公って、聖なる回復系の能力を持っているものじゃないの? 瀕死の人を助けたり、暴走する男性主人公候補たちを優しく落ち着かせたり! なのに、どうして私だけが「破壊神(災厄)」の側なの……? 聖女の役割はお姉ちゃんが全部持っていっちゃったから? ねえ!
私は耐えかねて、猛烈な現実逃避を始めた。
「せ、世子殿下が心配なので、探しに行かないと!」
そそくさと歩き出そうとする。
しかし、不意にぞっとするような恐ろしい考えが頭をよぎり、私は再び振り返らずにはいられなかった。私はキブリンのもとへ詰め寄り、その顔に自分の顔をぐっと近づけた。
「神殿は、公爵様がデルの能力を少しでも受け継いでいると予想して苦しめていたんですよね? じゃあ、それって全部、私のせいなんですか!?」
「……途中を何段階も飛ばしてない? 今はまず、君がデルだってこと自体に驚くところじゃない?」
横からローズが何か言っていたが、今の私にはあふれ出す感情を抑えきれなかった。
「うぅ……まさか私のせいで、公爵様が……」
キブリンは慌てて、私の涙で濡れた目元を指でそっと拭った。
「違います……! あ、あの……私をチェリア様の前世だと勘違いしていたから、まだこの程度で済んだんです。ロ、ロズが機嫌を悪くしていたのを見たでしょう?」
「うっ……でも……」
「も、もし私の正体が本当に知られてしまったら、その場から一歩も動く前に殺されていたかもしれません」
キブリンはぞっとするようなことを言って私を慰めようとした。もちろん、まったく慰めにはならなかったけれど。
「そんなの嫌です。ただ……ひっく、ただ私を慰めようとしてくれてるだけですよね?」
「いや、本当だ」
ローズが横からきっぱりと断言した。
「むしろデルは、その圧倒的な力に魅せられて古代神として崇拝する者までいたくらいだ。だけどお前のほうは、自然災害扱いされなければまだマシってレベルで……」
そこでローズは突然言葉を切った。セジャルが足音を隠すこともなく、こちらへ戻ってくる気配が聞こえたのだ。私は慌てて目元をこすった。キブリンは「そんなことをすると傷になります」と言いながら、懐からハンカチを取り出して私の目元をそっと拭いてくれた。
その頃にはセジャルも戻ってきていた。
「近くに魔物の気配はありませんでした。しかし今は、公爵様たちとの合流を試みるよりも、一刻も早く森を抜けることをお勧めします」
ローズもすぐに賛成した。
「灯りは一つしかないし、寒さの問題もある。それにチェリアは子どもだ。……でも、どっちへ行けばいい?」
「わ、私が案内します」
キブリンは先頭に立つ前に、ちらりと私を見た。私の様子を気にしているのがありありと伝わってくる。もしかして、私が怒っていると思っているのかな?
キブリンが化け物扱いされていた理由が、私のせいだったかもしれないと知って動揺しただけで、怒っているわけじゃ全然ないのに。ウィンターの話を聞いた時点で、私自身が最悪の元凶(災厄)だった可能性まで考えていたくらいなのだから。
動揺しながらも、心の準備をしていたおかげだろうか。少しだけ現実逃避と否定を終えると、急速に状況を整理できるようになってきた。そして私は、「恐るべき災厄」と呼ばれている存在は、私でなければキブリンなのだという結論にたどり着いた。
私の唇がへの字に曲がるのを見て、キブリンの黄金色の瞳が不安そうに小さく揺れた。
いや、違う! これはあとで考えよう! 怖くない、怖くない!
私は「災厄」という言葉がもたらす恐怖を必死に振り払い、自分が「デル」だったという事実だけに意識を集中させた。
不思議なことに、自分がデルだったという前提でこれまでの出来事を振り返ってみると、数多くの疑問が一気に解けていった。ローズが私を男性として(前世の性別で)見ていたことも、前世の私の光景が、キブリンの脳裏に焼き付いていた理由も。
前世のキブリンは、封印術が完全ではなかったせいだと言っていた。キブリンの背中に刻まれた封印術は、デルの記憶と能力を封じるためのもの。つまり、本当に警戒すべき相手はキブリンではなく、私のほうだったのだ。
……そういえば、大神殿で姉と対峙している最中に封印術が解けたのも、真実を知った今なら納得できる。あの時、私は姉に心の底から怒りを覚え、理性が吹き飛びそうになっていた。
しかも、それだけではない。姉は未来を見て以来、私を異常なまでに警戒するようになり、最後にはあんな結末を迎えた。私はずっと、ローズのことをどんな姿でも、何をしてもただの子どもだと思っていた。エミルの拙い封印術を見抜いたことも、彼が口にしていた言葉も、私がデルだと考えればすべて筋が通っていた。
――もしかして私には、生命力や魔力を隠すような能力があるんでしょうか? 気配を消すような能力とか?
――そういう能力自体は珍しくありませんが、限界があります。結局、自分より強い相手には見破られてしまいます。
――じゃあ、見破られなかったということは……。
――簡単な話です。相手が自分より弱かったということですよ。
結局、あらゆる状況が、私こそがデルだったことを証明していた。
もしかすると、私の体が異常なまでに丈夫(体力がないのとは裏腹に、致命的なことにならないの)なのも、デルの能力が封印されている影響なのかもしれない。その証拠に、封印が一時的に解けたときは、反動による後遺症が最初のときよりも遅れて現れた。
うーん。私は頭をかきながら、とりあえずキブリンのほうへ歩み寄った。
私がいつも通り隣を歩き始めると、キブリンは目に見えて安心した様子だった。私には深い緑色の迷路のように見えていた道も、キブリンはあっという間に抜け出していく。
しかし、私たちの目の前に広がっていたのは公爵領ではなく、森の終わりが近いことを示す見慣れない標識だった。
セジャルが口を開いた。
「ここから20分ほど進めば、イングラム侯爵家の領地です。助けを求めに向かいましょうか。もはや公爵家の家臣ではありませんが、公爵領の恩恵を受けてきた以上、見過ごすことはできません」
「そうしよう。私よりお前のほうが事情に詳しいだろうし」
ローズは迷いなく賛成した。
イングラム侯爵家なら、私も聞いたことがある。お茶会でマリンがあからさまに見下していた家門だ。
――えっ? もうすぐリントン家がイングラム侯爵家と同じように、公爵家から見捨てられるってこと? 魔物に襲われても守ってもらえず、公爵家の支援で進められていた山間部の薬師育成事業も中止になる、と?
確かに、イングラム侯爵家は原作小説『悪女はお金がないと嫌』でも、ある程度重要な立場の家門だった。しかも、あまり良い意味ではない。他家に爵位を奪われ、滅亡寸前まで追い込まれてしまうという、散々な結末を迎えるのだ。
キブリンは歩いている間中、ずっと私の様子ばかり気にかけていた。
嘘をついていたことも、キブリンの前世に関することだったし、それも私が精神的に耐えられなくなることを心配してのことだったのだ。そのうえ、キブリンはずっと私にヒントを与え続けていた。私を相手に練習すれば、善いことならいくらでもできる、と。皆殺しにしたり消し去ったりするよりは、ずっとましだ、とも付け加えて。
ふふっ。やっぱり、ちゃんと言葉にして伝えないとね。
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キブリンの負傷と「善い行い」の提案
魔物を追い払う代償としてキブリンの手は激しく火傷しており、チェリアは心を痛めます。キブリンはチェリアを信じていると告げ、「僕と一緒に練習すれば、たくさんの人を助けられる(滅ぼさずに取り除ける)ようになる」と意味深な提案をします。
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衝撃の真実:チェリアこそが「デル(蛇)」
魔物の急襲を避けて避難した先で、キブリンが「実は自分はデルではない」と告白します。ローズの態度やこれまでの不自然な出来事(封印術の拒絶や気配隠し)から、チェリアは自分自身が最強の存在である「デル」の転生体だったという真実に気づき、動揺します。
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状況の整理とイングラム侯爵領への移動
自分がデル=キブリンを苦しめる元凶だったかもしれないと涙するチェリアですが、キブリンの優しさに触れて落ち着きを取り戻します。森を抜けた一行は、原作小説で後に没落する運命にある「イングラム侯爵家」の領地へと助けを求めに向かいます。