こんにちは、ピッコです。
「幼い旦那様の黒幕妻です」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
49話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 偽りの歓迎
「一番負担が大きいのはチェリア様です。」
侯爵が指示すると、護衛兵たちは武器の整備を始めた。その隙に、皇太子が口を開いた。
「ここにある武器は、実際に使われた形跡がありません。新品か、古くても飾りとして並べられていただけのようです。イングラム侯爵領がこの一年間、一度も魔物の襲撃を受けていないという噂は、本当のようですね。」
「……そんなことが可能なのですか?」
マリンは、公爵家の領地も神々の加護によって魔物の襲撃から守られていると聞いていた。しかし、皇太子は首を横に振った。
「前例のないことです。ご恩を受けている立場で口を挟むべきではありませんが、慎重に見極める必要があると思います。」
皇太子までもがそこまで言うということは、すでに何か裏があると確信しているようだった。小説では、真っ先に没落する公爵家だったからだろう。なぜ公爵家の家臣だった者たちが追い出されたのか、その理由も分かる気がした。
ともかく私たちは侯爵家の馬車に乗って移動した。空は真っ黒に曇り、今にも降り出しそうな勢いで雨が降り始めた。紆余曲折の末に到着したイングラム侯爵家の城は、超昇月城の半分ほどの大きさだった。
『悪女はお金でなければ嫌』では、イングラム侯爵家は贅沢を好む家として描かれていた。あの城にも相当なお金がかかっているのだろうが、超昇月城と比べると質素にさえ見えてしまった。
馬車を降り、屋敷のメインホールを見渡しても、私の印象は変わらなかった。そのとき、一人の少女が階段を駆け下りてきた。
「お父様!」
私たちに鋭い視線を向けていたイングラム侯爵の表情が、一瞬で和らいだ。
「サブリナ? 部屋で待っているように言ったのに、どうして出てきたんだ?」
暖かな空気に包まれたメインホールの中にいても、娘が寒い思いをしていないか心配しているような表情だった。私はロズにコートを返しながら、その少女を見つめた。サブリナという名前にも聞き覚えがあった。『悪女はお金持ちでなければ嫌』では、姉をいじめた末に手痛い報いを受ける人物だった。
「お父様、お土産は買ってきてくれた?」
「どうして手ぶらなの? 私の星形ルビーのネックレスは? フェアリー宝石店の店主を捕まえてでも買ってきてくれるって言ったじゃない!」
フェアリー宝石店? 私は目をぱちぱちさせた。『悪女はお金でなければ嫌』では、フェアリー宝石店は王都にある店だった。店主のチェシャが営むその店には、姉ですら欲しがるほど珍しい品々が並んでいる。宝石や美術品、そしてアーティファクトまで。
イングラム侯爵は困ったように口を開いた。
「落ち着きなさい、サブリナ。使用人に買いに行かせている。宝石店は近くにあるから、すぐに戻ってくるはずだ。それよりも、公爵様と公……公爵様にもご挨拶しなさい。」
(ふむ……フェアリーの宝石箱は、今は侯爵家にあるということか。別の方法でキブリンの手を治療できるかもしれない。)
ようやくサブリナが私たちの存在に気づいた。サブリナは一瞬、しまったというような表情を浮かべた。とはいえ、キブリンもロズも気に留めていない様子だった。
「初めまして、公爵様。」
いかにも作り笑いだと分かるような、わざとらしい挨拶だった。しかし、キブリンに向ける笑顔だけは、まだ少し自然だった。
「公爵様、ずっと我が家に来てくださるのををお待ちしていました。お手紙もお送りしたのですが……お返事はいただけませんでした。でも、公爵様のお気持ちは理解しています。」
(……何を言っているの?)
「ローズはどうして笑っているの?」
サブリナは、すかさずキブリンの長い手袋をはめた手を握った。
「私は公子様を怪物だなんて思っていません。その証拠に、こうして公子様に触れることもできますよ。」
キブリンは私の手を放すと、イングラム侯爵へ視線を向けた。まるで厄介事を早く終わらせたいと言わんばかりの表情だった。気のせいだろうか。穏やかだったキブリンは、メネリクと接していた時よりもずっと冷たい雰囲気だった。
イングラム侯爵は冷や汗を流しながら、サブリナの肩を抱いた。
「娘はまだ幼く、礼儀作法に慣れておりません。」
「……」
サブリナのほうが私より二歳年上なんだけど。一瞬あきれてしまったが、あえて口には出さなかった。
イングラム侯爵はサブリナの手を取ると、扉の方へ歩き出した。
「さあ、お二人はお疲れだろう。部屋へ案内して差し上げなさい。」
皇太子が一歩前へ出た。
「事情の説明は私がいたします。」
イングラム侯爵が執事長を呼びに向かう間、皇太子はロズに小声で言った。
「ロズ、あのお二人から目を離さないでください。」
「心配するな。階段で転ばせたりはしない。」
ロズはそう言って、私をひょいと抱き上げた。私はロズの肩越しに後ろを振り返った。すると、急に嫌な気分になった。ほかの人には見えていなかったが、ロズに抱かれた私の目にははっきりと映っていたのだ。
サブリナはハンカチを取り出し、先ほどキブリンの手に触れた自分の手を、まるで汚れを拭き取るかのように念入りに拭いていた。
まさか、キブリンに触れたせいでああなったの!?
思わず拳を強く握りしめた。私が小さく歯ぎしりする音を聞いて、ロズは一瞬足を止めたが、すぐにまた歩き出した。
侯爵家の執事長は私たちを来賓室へ案内した。超昇月城のおかげで目が肥えている私から見ても、なかなか立派な部屋だった。ロズは私を降ろすと、窓の鍵を確認した。執事長は丁寧に一礼した。
「夕食をご用意いたします。ほかにご入り用のものがございましたら、いつでもお申し付けください。」
執事長が部屋を出ていくと、私は急いでキブリンへ手を差し出した。
「公子様、その手袋をください。」
キブリンは手袋を外して私に渡した。私はそれをゴミ箱へ捨てると、「サブリナはまだ大丈夫かもしれない」という考えも、一緒に捨て去った。
サブリナはハンカチを捨てた。そして、キブリンの手には私の手袋をはめてあげた。
(私がどれだけ大事に育てていると思っているのに!)
勝手にキブリンの手を握ったうえ、露骨に嫌悪感まで見せるなんて、本当に腹が立った。
「よくあることですよ。」
キブリンが苦笑しながら言った。ロズも「仕方ない」というような表情を浮かべるだけだった。
「そういうものさ。キブリンが蛇の呪いを受ける前は、ああいう子たちが親に連れられて何度も会いに来たんだ。公爵家の後継ぎなら、神殿に嫌われていても、化け物でも構わないから、結婚でも婚約でもしたいってね。『自分だけは他の人とは違う』なんて言いながら。」
「……。」
「もちろん、その中でもあの子は特にひどかった。キブリンが断るより先に『怖い』って叫んで逃げ出したんだ。だから今でも顔を覚えているよ。」
「はあ?」
私はあきれて思わず固まってしまった。さっきまで『キブリンを怪物だとは思っていない』って言っていたじゃない!
キブリンは少し首をかしげた。
「だ、誰も私と長く一緒にはいてくれませんでした。お、お母様もお父様も怖가って、に、逃げてしまって……」
公爵家の権力だけを見て近づいた者たちばかりだったのだから、そうなって当然だった。
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イングラム侯爵に事情を説明して戻ってきた皇太子は、あの黒い霧の森に入った時以上に周囲を警戒していた。侯爵やサブリナの態度とは別に、夕食の準備も行き届き、不自然なほど丁重にもてなされた。
「侯爵領には、気に入らない客でも手厚くもてなす風習でもあるんですか?」
私の問いに、皇太子は首を横に振った。
「いいえ。だからこそ、何か裏があるのかもしれません。」
「……。」
急に食欲がなくなった。皇太子は念のため、毒が入っていないか確かめるように料理を少しずつ口に運びながら、イングラム侯爵家について説明した。
「世間から高く評価されている家門ではありません。公爵家の加護の地位すら維持できず、体面も良くないと聞いています。」
皇太子は少しためらいながら続けた。
「私の父……陛下も、シレンチウム侯爵から『イングラム侯爵家は見込みのない家門だ』と聞かされていました。侯爵家の事業に投資するくらいなら、その金を孤児院へ寄付したほうがましだ、とまで言っていたそうです。」
それほどまでに、「侯爵家は金ばかり受け取り、何の成果も出していない」という冷ややかな評価だった。
私は料理に問題がないことだけを確認すると、食事をほとんど口にしない皇太子へ、焼きたてのパンを差し出した。
「それなら、皇太子殿下もあまり気にせず召し上がってください。しっかり食べてこそ力がつくものですから。」
「……はい、ありがとうございます。」
皇太子は別の話も聞かせてくれた。
「今年の成人祭で、侯爵令嬢が聖女様のドレスを譲るよう要求したという噂もあります。そのドレスを仕立てたデザイナーは王室からも招かれていましたが、現在は公爵領に住んでいるそうです。」
「公爵領で仕立て屋を開いているんですか? それほど有名な人なら王都にいると思っていました。意外ですね。」
「奥様がお支払いになる金額は桁違いですからね。今でも十代前半の少女が着る服だけを仕立てているそうです。」
危うく食べ物を吹き出しそうになった。
「それって、まさか……」
驚きで目を見開く私に、ロズが言った。
「奥様があなたをどれほど可愛がっているか分からないようね。望遠鏡まで持ち出して、お茶会について行こうとしていたんだから。」
「……。」
メネリクの言葉は、大げさではなかった。
「そういえば、お茶会はどうでしたか? メラ様が『お嬢様は礼儀作法も教養も完璧です』と、他のご令嬢たちを安心させていたそうですが。」
「うっ……大丈夫でした! これで七回目に聞かれましたけど、本当に大丈夫です!」
好意的な注目を集めることに慣れていない私は、顔がかっと熱くなった。ロズは面白そうに尋ねた。
「チェリア、照れてるの? 顔がトマトみたいに真っ赤だよ。」
「うぅ……。」
私はロズをじろりと睨みながら、キブリンがバターを塗ってくれたパンを少しずつかじった。
私をここまで気遣ってくれる公爵家の人たちを嫌いになるなんて、私にはできなかった。幸い、皇太子は再び話題をイングラム侯爵家へ戻してくれた。
私は『悪女はお金でなければ嫌』に登場するイングラム侯爵家のことを思い返した。夫人はサブリナを産んですぐに亡くなり、それ以来イングラム侯爵はサブリナを溺愛していた。望むものは何でも与え、欲しいと言えば借金をしてでも買い与えた。その結果、公爵家の家臣としての地位を失い、小説の中のサブリナは「欲しいものは何でも手に入れないと気が済まない」悪役へと成長していった。
特に姉が持っているものを執拗に欲しがっていた。しかし、いくらイングラム侯爵でも買い与えられないものはあった。姉が成人祭で身につけた特別なドレスのように。あの時点で現実を受け入れ、諦めてくれていればよかったのだけれど……。
しかし――『悪女はお金持ちでなければ嫌』でのサブリナは、このあたりからバッドエンドへの道を歩み始める。内容はこうだった。
サブリナは、姉が聖女として保管していた聖遺物を盗み出した。そのせいで神殿の業務は数日間も麻痺し、姉は眠る間も惜しんで犯人を追い続けた。主人公(男性)も積極的に協力したため、犯人はほどなくして突き止められた。
その後、姉の手によってサブリナのこれまでの悪事は、皇室の舞踏会で次々と暴かれた。サブリナにいじめられていた令嬢たちも、姉の味方についた。サブリナが社交界で完全に失脚したのも当然だった。さらに神殿にも責任があるという声が上がった。
追い詰められたサブリナは、道連れにしようと呪術師と結託し、姉を誘拐した。もう後戻りはできなかった。
……まあ、もちろん姉は無事に戻ってきたけれど。そして、ヒーローとの仲をさらに深めて。
食事を終えると、皇太子が立ち上がった。
「私は万一に備え、許可される範囲で城内を見て回ってきます。」
私の隣で、イングラム侯爵の声が聞こえる距離にいたキブリンが口を開いた。
「つ、通信石で公爵家と連絡を取っています。ご両親が、ぼ、僕が本当に王都へ戻らないつもりなのか、もう一度確認しているそうです。」
私は指先でテーブルを軽く叩いた。
「侯爵様って、怪しい行動ばかりしている気がしませんか? 公爵夫妻が公爵領にいると困る事情でもあるんでしょうか?」
「さあ……そこまでは、き、興味がなくて……」
キブリンは、私の疑問に答えてくれるだけで十分だった。
(他人事じゃないけど!)
イングラム侯爵の怪しい言動を「まあ、そんなものか」と受け流していたロズが、急に顔を上げた。
「そうだ、お前は薬を飲まないと。」
「うぅ……。」
私が嫌がっても、ロズは薬を取り出した。私はしぶしぶ薬を飲み込み、キブリンにもたれかかりながら文句を言った。
「でもさ、私はデルなのに、どうしてこんなに病弱なの? 考えてみれば、封印が解けていた間だって、体がものすごく丈夫だったわけじゃなかったよ。ただ胃腸を壊さない程度だっただけで。」
「当たり前だろ? ここへ来る前は、ろくに食事もできていなかったんだから。」
「でも、デルって本来は身体能力が高い種族なのに!」
不満そうに訴える私に、ロズは「世間知らずだな」とでも言いたげな目を向けた。
「デルも、よく食べてよく眠るからそんな力があるんだよ。」
「あり得ない!」
私はじとっとした目でにらんだ。
「じゃあ、よく食べてよく寝る人はみんな世界最強ってこと? そんな話、信じない。」
「信じなくても、ちゃんと食べてちゃんと寝ないとね。」
ロズはくすっと笑った。いったい誰が子ども扱いしてるのよ。
むっとした顔でロズをにらみつけたのも束の間だった。ふと私は、ロズがどんな思いで私に接しているのか気になった。ロズは長い間、デルを待ち続けていた。キブリンから私がデルだと聞かされた時、ローズは失望したのだろうか。薬がなければ生きていくことすら難しい、か弱い子どもだからと――。
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イングラム侯爵領への到着と不穏な気配
イングラム侯爵領を訪れたチェリアたち一行は、手入れされていない武器や不自然に手厚いもてなしなどから、領地の裏に何か隠された事情があるのではないかと警戒を強めます。
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サブリナの二面性と悪役のフラグ
侯爵の娘・サブリナは、キブリンの前では好意的な態度を見せる一方で、陰では触れた手を嫌そうに拭き取るなど、原作小説の「悪役令嬢」らしい選民意識や傲慢さを覗かせます。
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原作の結末とチェリアの不安
チェリアは、やがてバッドエンドへ向かうサブリナの原作での結末や、自身の病弱な体とデル族としての現実へのギャップに思いを馳せながら、周囲の優しさを噛みしめます。