こんにちは、ピッコです。
「ヤンデレを演技していたら本物に執着されました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
47話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- どんな関係
「詳しく話して」
ケリオンとの間に起きた出来事を伝書鳩で知らせた途端、妹のロザリンから即座に通信が入った。
シャビアンを一人残して席を外すのは不安だったが……今後の予定について、彼女とも一度きちんと相談しなければならなかった。
「ケリオンが姉さんの顎を持ち上げたって?」
ロザリンは信じられないという顔で、私の腕をつかんで立たせた。
「やってみて。話だけじゃ全然想像できないの」
――そこまで再現しなきゃいけない?
私は大きくため息をつきながら、ロザリンを壁際へと追い詰めた。この体勢なら、以前ロザリンと何度も練習したから慣れている。
「こうやって――」
彼女を壁際に追い込み、その隣の壁にドンと手をついた。
「『さあな。顔が好みだからか?』」
ケリオンの台詞までそのまま再現してみせる。
するとロザリンは、驚きのあまり自分でつかんでいた自分の髪を頭のてっぺんまで引っ張り上げた。
「正気なの!?」
「ケリオンは元々正気じゃないでしょ……」
「違うって!」
ロザリンは勢いよく首を振った。「ケリオン、姉さんのこと好きなんじゃない!?」
回廊に彼女の大声が響く。
「それ、原作でケリオンがシャビアンにしていた行動そのものじゃない」
ロザリンはそう言いながら言葉を濁し、私の両頬を両手でむにっとつかんだ。
「姉さん、私がシャビアンを落とせって言ったのに、なんでケリオンまで落としてるのよ!?」
ロザリンはしばらく深刻な顔で考え込んでいたが、やがて恐ろしい仮説を口にした。
「もしかして――嫉妬したケリオンが、シャビアンを殺そうとするんじゃない?」
「え?」
ただでさえ『ケリオンが私を好き』という突飛な話で混乱しているのに、その言葉で完全に思考が停止した。
「じゃあ、どうすればいいの?」
頬をつねられたまま、私は情けない声を漏らす。
「どうするって……」
ロザリンは少し困ったように視線をそらした。
「その時は、その時で何とかするしかないんじゃない?」
おい。まさかのノープランなのか。
私は呆れた目でロザリンを見た。彼女は私の耳たぶをいじりながら話題を変えた。
「それにしても、姉さんの片方のイヤリング、まだ見つからないの?」
あの騒ぎの時に外れてしまったもう片方のイヤリングは、いまだに行方不明のままだった。
(ふう……お前、本当に冷宮で剣の練習をするたびにイヤリングをなくしてたよな。またなくしたのか?)
頭の中でそんな小言が響く。だが、今はそれよりも優先すべき問題があった。
「……シャビアンを神殿へ送るのはどうかな?」
「神殿?」
レシウスの話では、近いうちに神官が神殿から皇宮へやって来るらしい。これまでは神殿と接触すること自体が困難だったため考えもしなかったが、今なら可能かもしれない。
(神殿なら、シャビアンは安全なはず)
いくらあのケリオンでも、神々の加護を受ける神殿にまで手を出すことはできないだろう。
だけど……本当にそれが最善の選択なのだろうか?
「ふう……神殿か。神殿ね……」
ロザリンとの対話を終えた後も、私は一人で考え込んでいた。
シャビアンを守らなければならないし、正式に来訪するバハルト使節団の対応もしなければならない。それに、皇宮の外の邸宅にいるケリオンの監視まで。やるべきことが多すぎる。
「殿下」
私はベッドに横たわるシャビアンを見つめながら、そっとその前髪を撫でた。
治癒師が診察を終えて帰った後も、シャビアンは長い間目を閉じたままだった。けれど――。
「起きているのでしょう?」
呼吸の変化で分かった。もう意識は戻っている。
「どうして寝たふりをしているんですか?」
私は軽く、シャビアンの柔らかな頬をつついた。
少し申し訳ない気持ちがあった。私が守れなかったせいで、ケリオンにあんな目に遭わせてしまったのだから。
「……そ、その……」
「その……?」
シャビアンはためらうように唇を動かした。
「は、恥ずかしいんです」
彼は布団を頭まで引き上げ、顔を隠したまま小さな声で言った。
「恥ずかしい?」
「……はい」
くぐもった声が布団の中から聞こえてくる。考えてみれば、シャビアンは見た目こそか弱くても、英雄譚や伝説に憧れるごく普通の少年だ。理想と現実の差に落ち込んでいるのかもしれない。
「ぼ、僕は兄上には勝てないと分かっています。でも……それでも、何もできなかったなんて……」
シャビアンは銀色の頭を少しだけ布団の外へ出した。涙ぐんだ瞳を伏せながら、消え入りそうな声で続ける。
「ぼ、僕は役立たずで……」
「何を言っているんですか」
私は現れた彼の額をそっと撫でた。「殿下は十分頑張りました」
シャビアンはまだ幼い。しかも相手はあの化け物じみたケリオンだ。立ち向かえなかったからといって、自分を責める必要なんてどこにもない。
「誰だって怖いものは怖いんです。むしろ、あんな状況で逃げ出さなかっただけでも立派ですよ」
シャビアンは驚いたように目を瞬かせた。
「殿下は、その存在だけで十分に世界を救っているんですよ」
「違います、公爵様」
シャビアンは再び布団の中へ顔を隠してしまった。
「公爵様だからそう言ってくださるだけで、他の人は皆そうは思いません……。……僕も、強くなりたいです」
か細い声だったが、布団の外に出た白い指先が、ぎゅっと握り締められていた。どうやら本当に悔しかったらしい。
「殿下。それなら、剣を習ってみませんか?」
剣を振るうことは、もともとシャビアンの夢だった。
もしかしたら私は、すでに彼を神殿へ送る決心をしていたのかもしれない。だからこそ、その前に彼が本当に望んでいることを叶えてあげたかった。
「ぼ、僕でもいいんですか?」
「もちろんです」
「本当に……?」
「ええ」
その瞬間、シャビアンの顔がぱっと明るくなった。まるで子どものように嬉しそうな笑顔だった。それを見て、私も思わず微笑む。
(やっぱり、この子には笑っていてほしい)
少なくとも今だけは、ケリオンのことも、神殿のことも、未来の不安も忘れて、彼が夢を語れる時間を守ってあげたかった。
私は冷宮の部屋をゆっくりと見回した。ここでロザリンにも剣を教えたのだ。シャビアンにだけ教えない理由はない。
「私が練習用の木剣を用意して差し上げます」
ケリオンを監視するために皇都を巡回する時、ついでに探してこよう。そう考えながら、私はシャビアンの銀髪を優しく撫でた。
シャビアンは、公爵が出て行った後の静かな部屋でそっと起き上がった。
床に身をかがめ、ベッドの下をのぞき込む。一日前、公爵がバイウドを征服した後、ここには多くの贈り物が届いていた。
「剣だ」
その中には、本物の騎士たちが使っていた剣まであった。
「今度こそ事前に練習して、格好いい姿をお見せしないと!」
兄にあっさり首を絞められて気絶してしまったのが、たまらなく不甲斐なかった。公爵は木剣で自分の剣術を見せてくれると言ったけれど、今度はちゃんと練習して、もっと上手くなった姿を見せたかったのだ。
「重い……」
しかし、シャビアンのか細い腕では、その重たい鉄の剣を支えきれなかった。
ドスン、と鈍い音を立てて、剣はベッドのそばの床に落ちてしまう。
「どうしよう……!」
木の床に傷がついてしまった。大変だ、と慌てて床をこすってみた――その時だった。
床の上で、金色の金属がきらりと光った。
小さなイヤリングだった。それも、皇女殿下がよく身につけているものと、酷くよく似たデザインのイヤリング。
シャビアンはその小さなイヤリングを手に取った。
「これ、見覚えがある気がする」
以前、皇女殿下に会ったときに彼女が身につけていたものにそっくりだった。これも皇女殿下の物だろうか。
『皇女殿下は流行の発信者だと聞いている』
彼女と似たようなイヤリングを着けている人も多いはずだ。別の人の物かもしれない。
それなのに、なぜか彼の直感は「これは皇女殿下の物だ」と告げていた。
「はあ……」
シャビアンは長いまつ毛を震わせながら、辺りを見回した。
ここは冷宮。皇宮の片隅にある、忘れられた場所。
もしこれが本当に皇女殿下の物だとしたら――自分がここへ来る前に、公爵様と皇女殿下がここで密会していたことになる。
初めてこの宮に来た時、寝台から漂っていた夜明けの花の香りと薔薇の香り。
二人は長い間、恋人同士だった。それは今の話ではなく、過去の話だ。だから、この推測が事実だったとしても、公爵様を責める権利など自分にはない。それくらいは、シャビアンにも分かっていた。
「ぼ、僕が何だっていうんだ……」
だが、公爵様は自らを『殿下のもの』だと言った。なら、自分たちは少なくとも恋人に近い関係ではないのだろうか。それなら、このくらいのことを考えてもいいのではないか。
「……公爵様のお気持ちは、いったい何なのだろう」
ここへ来るまでは皇女殿下にも会おうとしなかったのに、今回は一緒に戻って来た。
『……私を弄んでいるのかな』
でも、公爵様はそんな人ではない。
「違う。違うはずだ」
公爵様は決してそんな不実な方ではない。シャビアンは必死に首を振った。
その時――。
「何が違うんです?」
背後から公爵の声がした。
驚いて振り返ると、いつの間にか入口に立っていた公爵がこちらへ歩いて来るところだった。
「まだお休みになっていなかったんですね」
「そ、それは……」
シャビアンは言葉を失い、慌ててイヤリングを握りしめた。
床に落ちていた剣を見た公爵は、小さくため息をつく。
「まだお休みになっていないのですか……。このままでは剣術を教えるという約束を撤回しますよ。私が寝台までお連れしたら、お休みになりますか?」
公爵はわざと腰をかがめ、からかうように言った。
普段なら恥ずかしくなって慌てて寝台へ向かうシャビアンだったが、今回は違った。決意したように拳をぎゅっと握り締める。
「こ、公爵様」
「はい」
「ぼ、僕たちは……僕たちは、どんな関係なんですか?」
――え?
私は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。どんな関係だと?
目の前では、シャビアンが真っ赤になりながらも、必死にこちらを見上げている。
「急にどうしたのです?」
「そ、それは……」
シャビアンの視線が泳ぎ、握り締めた手をさらに強く閉じた。その不自然な仕草に、私の赤い瞳が細められる。
「何かあったのですね」
「違います!」
即座に否定したものの、あまりにも分かりやすい反応だった。私は静かに一歩近づく。
「では、なぜそんなことを聞くのです?」
「だ、だって……!」
シャビアンは唇を噛んだ。皇女のイヤリング、寝室に残っていた香り、そして『殿下のもの』だと言った公爵。いろいろな考えが彼の頭の中をぐるぐる回っていたのだろう。
「僕は、公爵様のお気持ちが分からなくて……。僕は、公爵様にとって何なんですか」
部屋の空気が静まり返った。今度は私が言葉を失う番だった。しかし、彼のあまりに真剣な様子に、私はなんとか場を取り繕おうと頷いた。
「うん。まず私がシャビアンを好きになって告白したんだから、今の関係は恋人同士ってことになるけど……。それをわざわざ聞く必要があるの?」
私はシャビアンの腰に腕を回した。こんな予想外の状況についても、実はロザリンとあらかじめ練習していたのだ。
「はい」
――だめだ、通じていない。
シャビアンの妙に真剣な眼差しに圧され、私は思わず以前告げた言葉を口にした。
「殿下のものですよ」
「私の……私のもの、というのは……」
シャビアンは私の手を握り、ぎこちなく顔を上げた。
「わ、私たちは恋人なんですか? ほ、他の人と付き合ってはいけない、そういう恋人なんですよね?」
「……そうでしょうね?」
「ではお聞きしますが、じ、真実をお話しください、公爵様」
シャビアンが私の拳をそっと広げた。その手のひらには、一つの耳飾りがあった。見た目は、まるでロザリンが身につけているものとそっくりだった。
「こ、この耳飾りの持ち主をご存じですか?」
「……知りません」
嘘だ。あれは絶対にロザリンのものだ。まさか私と一緒にいる時に、この部屋に落としていったのだろうか。
「で、では、私が来る前に冷宮へいらしたことはありますか?」
「……ありません」
もちろん、実際には何度も来ていた。だが、その事実は隠さなければならなかった。私はロザリンの剣術を見てやるため、冷宮へ来るたびに皇室の秘密通路を使っていたのだから。秘密通路の存在そのものが国の機密事項なのだ。
「で、では、今回北部へ行かれた時も、皇女殿下とはなにも、なにもなかったのですよね?」
「……はい」
違う。ロザリンとは、髪にリボンをつけて一緒に遊んだことがあった。
「……信じます」
シャビアンはじっと私を見つめた。私の言葉を一つも聞き漏らすまいとするように、ゆっくりと、はっきりと、自分の本心を伝えてくる。
「……はい」
私はそのあまりに純粋な視線から逃れるため、ただシャビアンを強く抱きしめるしかなかった。
そして、その結果――。
カチッ、と時計の音が響く。
私は真昼を告げる暖かな陽射しを浴びながら、眠りから目を覚ました。
「ああ、気分がいい……って、ちょっと待って。また気分がいいの!?」
嫌な予感に駆られて窓を見ると、すでに太陽は真上に昇っていた。つまり――予定に完全に遅れる時間だ!
うわあああ!
私の隣にはシャビアンがいた。いつもと違ってベッドの端ではなく、私のすぐそばにぴったりとくっついている。だから寝坊したのか!
『私と一緒にいてください』
昨夜、そんなことを言って、シャビアンは私を寝かせておこうと一生懸命に髪を撫でていたのだ。もう、大事な予定がある日に寝坊だなんて!
「……公爵様?」
私が身じろぎすると、シャビアンが私の胸元へと潜り込んってきた。明らかに以前とは違う反応だった。なんというか……ずいぶんと積極的になった気がする。
「殿下、申し訳ありません。急ぎの用事がありまして」
急ぎの用事ではなくただの遅刻なのだが、さすがにそうは言えなかった。昨日、着替えだけして眠ってしまったので、机の上にきちんと置いてあった上着を急いで手に取る。
「こ、公爵様!」
シャビアンは、私が慌てて出た拍子に落としてしまった勲章を拾って手渡してくれた。私はその勲章を揺らしながら身につけ、階段を猛スピードで駆け下りた。
「ふぅ……」
息を整えながらも足早に皇宮の中央へ向かう。
「殿下、お越しでしたか?」
「うむ。少し用事があって遅くなった」
皇宮の来賓を迎える中央宮では、すでにレシウスが使節団と歓談していた。よかった、人が多くて私の遅刻が目立たない!
「用事とは何です? これまでずっと皇子殿下とご一緒だったのではありませんか?」
近くにいたヨゼフが不満そうに言った。何だよ、朝から文句か?
その声に、使節団の中に座っていたケリオンがこちらへ顔を向けた。私を見つけて嬉しそうに挨拶しようとした彼だったが、私の身なりを見るなり目をぱちぱちと瞬かせた。何だ? どうした?
「ボタンが外れています」
おや、本当だ。
ヨゼフに指摘され、私はボタンを留めながら周囲の様子をうかがった。長いテーブルに着いている者たちは、実務的な話し合いに夢中になっていた。私も参加しなければならないが、様子を見る限り、レシウスがうまく場を回しているようだ。
「ところで、あの方をご存じですか?」
ヨゼフがケリオンのほうを顎で示した。居並ぶ人々の中でも、レシウスとケリオンはひときわ目を引く容姿をしており、広間にいる者たちは皆、その二人の美貌に見惚れていた。
ヨゼフが小声で続けた。
「ロテア公爵家の一員だそうです。ロテア家は皇帝陛下の外戚ですから、似ているのも納得できますね。……ところが、使節団の団長であるロテア公爵本人は、あまり目立たないそうでして」
どうやら人々は、ケリオンをロテア公爵家の人間だと思っているらしい。まあ、ロテア公爵家はケリオンの母方の一族なのだから、似ていると言われても不思議ではない。それにケリオンは戦場を転戦していたおかげで、社交界よりも軍関係者の間で顔が知られていた。そのケリオンが、本物のロテア公爵を隣に座らせて平然と歓談している。
「皇帝陛下は今回、バハルトの採鉱権の拡大を認めない方針だと伺っております」
「そうなのですか?」
私が来たことに気づいたのか、ケリオンは私を見てわずかに目を細めた。レシウスも私に気づくと、椅子の背もたれから身を起こした。
「そのようにしよう」
机に肘をつき、指を組んでいたレシウスが落ち着いた口調で告げると、ハイレンの使節たちが反論した。
「ですが、バハルトの鉱石を採掘するための採掘機の大半は、我がハイレン製ではありませんか。……バハルトの民は、賢明なる皇帝陛下のおかげで、自らの手で鉱石を掘ることになるでしょうな」
レシウスは口元をわずかに吊り上げた。だがその直後、まるでバハルトの民を気の毒に思うかのように目を伏せ、憂いを帯びた表情を浮かべる。
うわぁ、見てよあれ。根が善良だから、人々への同情が自然と滲み出ちゃってるんだよね。
私は思わず、そのレシウスとは対照的な男へ視線を向けた。
「はっ」
ケリオンは私の表情を見るなり、呆れたように鼻で笑った。何を笑ってるのよ、少しはレシウスを見習いなさい!
「ロテア公爵」
ケリオンは私をひと睨みした後、隣にいたロテア公爵に何かを耳打ちした。ケリオンの指示を受けたロテア公爵は、これみよがしに咳払いをして口を開いた。
「ところで、ハイレン皇帝陛下はご結婚にご興味はございませんか?」
その瞬間、レシウスの整った額にピキッと青筋が浮かんだ。
「……私はまだ結婚について考えていない」
レシウスは表情を瞬時に凍りつかせ、ぶっきらぼうに言い放って遠回しに断った。ああもう、彼は結婚の話が本当に嫌いなんだから。
ほら見て。ハイレンの使節たちは結婚の話が出た途端、「誰がふさわしい」だの「次期皇后候補だ」だのと大騒ぎを始めている。
その騒がしさを耳にしたレシウスは、冷たい視線をまっすぐケリオンへと向けた。
「騒がしいな」
その一言で官僚たちは手を止め、息を呑んでケリオンを見つめた。レシウスの放つ威圧感は、まるで北方の寒気のように冷たかった。
(ケリオンも原作では敵役だったからかな?)
私はどこか荒々しく冷えた雰囲気をまとったレシウスを見て首を傾げた。前にシャビアンと揉めた時もこんな感じだった。やっぱりケリオンと一緒にいると、原作通りのトゲトゲした性格が表に出るのかもしれない。もう、二人とも喧嘩は禁止だからね!
『ケリオンさえいなければ、こんなに素直で優しいのに』
使節たちも帰り、レシウスは私と一緒に皇帝宮へ戻る道を歩いていた。
「ルウィン、今日は寝坊したのか?」
「うん」
穏やかに尋ねたレシウスは、遠くにいる補佐官や侍従たちへちらりと視線を向けた。そして彼らから見えない角度に入った瞬間、跳ねていた私の髪をそっと優しく撫でる。
「よかった。無事に起きられて」
レシウスは太陽を背に受けながら、陽射しのように明るく微笑んだ。
(ケリオンは、私が寝ていたって聞いてずいぶん文句を言ってたけどね)
どう考えても、このレシウスが原作で狂気の執着系主人公になるなんて想像できない。だって虫一匹だって殺せなさそうなほど清らかなのだから。
「レシウス」
「うん?」
こんな素直な子が、どうやってケリオンみたいな危険人物を相手にするんだろう。私はレシウスに「私だけを信じていればいい」と言わんばかりに、力強く自分の胸を叩いた。
「もしバハト皇帝があなたをいじめたら言ってね。私が仇を取ってあげるから!」
シャビアンの命はケリオンに握られているから本気で仕返しはできないけれど、うっかり足を踏みつけたり、ぶつかったふりをして殴ったりくらいならできるかもしれない。
「ははっ、そうか」
何かを愛おしいと思ったように唇をきゅっと結んでいたレシウスは、とうとう堪えきれずに笑い出した。その場を清めるような、どこまでも澄んだ笑い声だった。