こんにちは、ピッコです。
「ヤンデレを演技していたら本物に執着されました」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
57話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 始まりの約束を、あなたと
「本当にレシウスが……?」
レシウスはわざわざ休暇まで取って、私を看病するためにこの孤児院に滞在していた。
そう。彼は根が優しい人なのだ。友人の姉が病気だと聞けば、見舞うだけでなく力になろうと考えることもあるかもしれない。
……それに。
(ベルウェン家で、私は完全に放置されていたようなものだから)
かつて私が家で不遇をかこっていたことを知るレシウスは、その罪悪感から、友人であるベルウェン公爵の代わりにその「姉(異母妹)」である私によくしてくれているだけなのかもしれない。
「でも!」
廊下の北側の窓から吹き込む夜風を浴びながら、私は中庭を見下ろした。
あの人からすれば、私は初めて出会う女性のはずだ。いくらなんでも、一目惚れなんてするだろうか。
「……それは、さすがに自意識過剰だよね?」
小さな庭で楽しそうに子どもたちと遊んでいる彼の姿が見える。
どうしてレシウスが私を好きだなんて考えてしまったのか、自分でも何だか気恥ずかしくなってきた。もしかして彼は、初めて会った女性なら誰にでもこうして優しくしてしまうタチなのだろうか。
「ふふっ、あの人ったら」
陽だまりのように輝く彼の姿があまりにも眩しくて、私は知らず知らずのうちに微笑んでいた。
「……いや」
その時、廊下をトコトコと歩いてきた一人の子どもが、私の前でピタリと足を止めた。そして、まだ見知らぬ私のことを怖がりもせず、私の足にぎゅっと抱きついてきた。
「あなた、誰?」
「サロ」
「サロ?」
「サアルロス」
目の前で私の足にしがみついている痩せた女の子は、一生懸命に私の偽名を正確に発音しようとしていた。
「サルト?」
「うん!」
コアラのようにしがみついたまま、女の子は顔を上げた。潤んだ大きな瞳で、もう一度口を開く。
「お姉ちゃん。お姉ちゃんの好きなものって何?」
「私の好きなもの?」
突然の質問に、私は困って頬をかいた。
そんなの、レシウスも好きだし、ロザリンも好きだけれど……さすがにそれを子どもに口にするわけにはいかない。私は一番無難な答えを返すことにした。
「イチゴケーキかな」
その日の夕方。私は両手いっぱいに大きな箱を抱えて帰ってきたレシウスと、廊下でばったり鉢合わせした。
「殿下、これは何ですか?」
「私からの贈り物です」
見れば、帝都で有名な洋菓子店のイチゴケーキをすべて買い占めてきたらしかった。レシウスはリボンで結ばれた箱を、嬉しそうに食堂の机へと並べていく。
その日、孤児院の子どもたちはイチゴケーキをお腹いっぱい食べて大はしゃぎした。
そして、これは一度きりでは終わらなかった。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんの好きなものって何?」
「ケーキ、チョコレート、アイスクリーム……甘いものなら何でも好きだよ」
それ以来、孤児院でのレシウスの人気はうなぎ登りに高まり、子どもたちからの無邪気な質問攻めも毎日のように続いた。
最初は微笑ましく思っていたが、この頃になると私もさすがに気づいていた。
(子どもたちに怪しまれないように、間接的に聞いてるんだわ……)
この質問は、レシウスが子どもたちにお菓子を握らせて、私の好みを巧みに聞き出させていたのだ。
「私が好きなのは、森よ」
だから今回は、あえてそんな抽象的な答えを返してみた。
数日後の昼下がり。黒魔法が解けたとはいえ、まだ体調は万全ではなかった私は、自室で昼寝をしてから一階へと降りた。すると、居間の光景に言葉を失った。
「……みんな、これ一体どうしたの?」
静かだった居間は、無数の小さな苗木や色鮮やかな花の鉢植えで埋め尽くされ、まるで室内の温室庭園のようになっていたのだ。
「先生が持ってきてくれたんです!」
「そうなんです! ここには小さな実もなるんですよ!」
子どもたちは新しくなった緑豊かな居間で嬉しそうに跳ね回っている。
私は鉢植えの苗木の瑞々しい葉にそっと触れながら、苦笑まじりに確信した。
レシウスは私を惑わせようとしているのではない。
彼は間違いなく、本気で私に恋をしているのだ。
『こちらへ。手をどうぞ』
『お顔に汚れが付いています。拭きますね』
それからのレシウスは驚くほど積極的だった。
まるで後ろを振り返ることなく前だけを見て走る競走馬のように、ひたすら真っ直ぐに私へと好意を示してくる。
だけど――。
(ああ、もう本当に……)
私は指先でつまんでいた草の葉を、寂しげに手放した。
よりにもよって、彼が狂おしいほど好きになった相手が、この世界には「存在しない女性」だなんて。
私はすでに黒魔法使いのバロンへ連絡を取っている。彼が戻ってきたら、私は再び男性の「ベルウェン公爵」へと戻らなければならないのだ。今の女性の姿は、この世界で身を隠すための仮初めの幻にすぎない。
「みんな! これを持って、お庭に植えに行こうか?」
「え? どうして? なんで植えるの?」
「そうすれば、木や花がずっと長生きできるでしょう?」
私は子どもたちを口実にして、レシウスの想いを遠回しに断ろうとした。彼の気持ちを受け入れることは絶対にできない。今の私は、いずれ消えてしまう蜃気楼のような存在なのだから。
だから私は、その後も彼を徹底的に避け続けた。
「どうぞ、こちらへ」
「いえ、私は手すりにつかまる方が楽ですので」
レシウスが視界に入らないよう、彼の手を拒む。
「顔が汚れています」
「わ、私が自分でやりますっ」
ここまで露骨に距離を取れば、いくら鈍感な人間でも気づくだろう。私が彼を拒み、必死に避けていることに。
「みんな。他の子はもう寝てるから、しーっ!」
「しーっ」
夜になり、最後の子どもたちを寝かしつけたあと、私は静まり返った居間へと降りていった。
『はぁ、本当にもう……』
月明かりが青白く差し込む居間。
子どもたちの去った静かな空間で、長いモップを手にせっせと床を掃除しているレシウスの姿があった。
「お帰りになりましたか?」
長い手すりに手を添えたまま階段を下りてくる私に気づき、レシウスは振り返って優しく微笑んだ。
「そのままお休みください。ここは私が片づけますから」
急いで近づいてきた彼は、私の額にかかった前髪をそっと指先で耳へとかき上げた。
かつて男同士の友人だった頃、私に気負いなくしてくれていた懐かしい仕草。けれど――。
(私にそんなことしちゃダメなんだよ……)
貴族の礼儀作法は非常に厳しい。特に男女の間においてはなおさらだ。好意の度合いによって守るべき手順や作法が決まっており、立ち入っていい距離まで細かく定められている。
「お顔が熱いようですが、どこか具合でも悪いのですか?」
彼は私の頬にそっと掌をあて、心配そうに覗き込んできた。その行動は、貴族の礼儀など完全に無視しているも同然だった。
「殿下。そのようなことをなさってはいけません」
私はレシウスの手を拒み、大きく一歩後ろへ下がった。
そうだ、冷たく突き放さなければならない。どうせ女の姿をした私はやがて消える。私が男であれ女であれ、私たちに未来などないのだから。
「……どうしてですか?」
急によそよそしくなった私を見て、レシウスは整った眉をわずかにひそめた。焦った様子の彼が、さらに私に近づこうとする。
「今、殿下が立っておられる距離が、私たちにはちょうど良い距離です」
「……どういう意味ですか?」
「私と殿下は恋人ではありませんよね。この関係で、先ほどのような距離感はふさわしくありません」
彼の想いをやんわりと拒絶しつつ、私は貴族の礼儀にふさわしい男女の距離感を教えるつもりだった。実際、貴族の作法には、関係性に応じて許容される厳密な「距離」が存在する。
他人、互いに好意を抱いている相手、そして恋人。関係が深まるほど、その物理的な距離は近くなる。
「このくらいが、適切な距離です」
私は彼と二歩ほど距離を取ったまま、毅然と言い放った。
レシウスは一歩下がった私をじっと見つめ、乾いた唇を指先で軽くなぞった。そして、何かを決意したように美しい表情を引き締めると、手にしていたモップを壁に立てかけた。
コツ、コツ、と静かな足音が響く。
彼は迷いのない大股で、私のほうへ歩み寄ってきた。
「では、私たちの間では、このくらいの距離ならどうでしょう?」
彼が踏み込んできた距離を見て、私は息を呑んだ。
「……礼儀作法では、その距離は“好意を持っている相手”との距離です。ですから、いけません」
彼はさらに一歩、私のパーソナルスペースを侵すように近づいた。
「このくらいなら?」
「いけません!」
当然、さらに距離が縮まったのだから駄目に決まっている。彼の熱い呼吸が直接肌に触れるほど近くで、レシウスは私の目の前に立ちはだかった。
「では、恋人同士ならこの距離はどうですか?」
「……それは、問題ありませんが……」
言いかけるや否や、レシウスは私の腰にそっと強固な手を回し、その大きな体で私を深く抱き寄せた。
拒絶するなら拒絶しろ――そう訴えるような、剥き出しの切実な視線が私に向けられる。
けれど、私は彼を突き放すことができなかった。
目の前の瞳に映る彼の純粋で切実な想いに、胸の奥が張り裂けそうになり、心臓が激しく高鳴ってしまったからだ。
「このくらい……」
レシウスは少し顔を伏せ、耳元で囁いた。「……なら、大丈夫ですね」
互いの吐息が完全に触れ合うほどの至近距離で、彼は動きを止める。
「もし私たちが恋人だったら、このくらいの距離でも構いませんか?」
「っ……構いません、けど……」
「それなら――」
彼の熱い掌が、私の腰を隙間なく引き寄せ、密着させる。
「私があなたの恋人になればいいのですね」
深い緑色の瞳に秘められていた激情があふれ出す。その美しいエメラルドの瞳に、私は光を失うように飲み込まれてしまいそうだった。
「私のものになってはいただけませんか?」
それは、夜の静寂を切り裂くような、あまりにも真っ直ぐな告白だった。
真剣な彼の眼差しに、心臓が壊れたように大きく高鳴った。
この鼓動の音が彼に聞こえてしまいそうで、私はたまらず一歩後ろへ下がろうとした。けれど、私の腰をがっちりと抱くレシウスのたくましい腕に阻まれ、身動きが取れない。
「だ、駄目です!」
我に返った私は、彼の胸を押し戻し、腕の中から慌てて抜け出した。激しく鳴る心臓の音を隠すように、わざと大きな歩幅で距離を取る。
(私は絶対に、こんな感情を抱いてはいけない……!)
期待してしまったら、後戻りができなくなる。私は一生、ベルウェン公爵として生きなければならない。男として国を支えなければならないのだから。
「それに、それも間違っています!」
「何がですか?」
「き、貴族社会では、礼儀作法として好意を持っている相手には、まずはデートの申し込みから順を追うものです!」
私はレシウスのあまりにも一直線で破格な告白の仕方に、動揺しつつも驚いていた。
(この人、本当に何も順序を知らないから私にこんなことを言ってるの……?)
そういえば、レシウスは今まで浮いた話が一つもない堅物だった。恋愛への関心が極端に薄く、女性との交際経験もほとんどないはずだ。
考えてみれば不思議だった。成長するにつれて、同性の友人同士であれば、くだらない恋愛話や性の話の一つくらいするものである。レシウスにとってベルウェン公爵(私)は気心の知れた「男友達」だったのだから、そういう話題が出てもおかしくなかったのに、彼は一度たりとも「性」に関する話を私にしたことがなかった。
「まさか……」
私は月明かりに照らされた彼の見事な長身と、彫刻のように端正な顔立ちを見上げた。
そうなのだ。あの容姿と身分で今まで恋人がいなかったということ自体が、本来なら不自然極まりない。
「殿下は、その……習っておられないのですか?」
「何をですか?」
「だ、男女の交わりのことです。そういう、大人の教育は受けていらっしゃらないのですか?」
レシウスは意外そうに首をかしげたが、やがて何かを思い出すように静かに目を伏せた。
「……ご存じのとおり、私が皇太子だった頃、皇后陛下は早くに亡くなられましたから」
彼が口にしたのは、静かなその一言だけだった。
だが私は、その言葉の背景にある事情を察して、すべてが繋がった。
そうだった。本来、皇太子へのそうした秘められた性の教育は、実母である皇后の役目、あるいは信頼できる高位貴族の婦人が担うものだ。皇后の次に序列が高い公爵夫人が担うこともあるが、私の母も早くに亡くなっていた。
(確か、マルトス公爵夫人は堅物で礼儀作法に疎く、ほとんど皇宮へ出入りしていなかったはず……)
ということは、レシウスは男女の機微や夜の作法について、本当に何一つ教育を受けずに大人になってしまったのではないだろうか!
「えっ……私、何か失礼なことをしてしまいましたか?」
レシウスはしゅんと肩を落とし、申し訳なさそうに私の鎖骨のあたりへそっと長い手を添えた。
「申し訳ありません。私が未熟なもので……不快にさせてしまったのなら許してください」
うなだれるように頭を下げると、月明かりを受けた美しい金髪がさらりと揺れた。
『やっぱり! そういうことだったんだ!』
だから、出会って数日しか経っていない(と彼が思っている)女性の姿をした私に、あんな野良犬のように真っ直ぐで無防備なアプローチをしてきたのだ。彼は、親愛の情と恋愛感情の区別すらついていないに違いない。
『ルーイン、もし私たちのどちらかが女性だったら、私たちは結婚していたんじゃないか?』
かつてレシウスが私にそう言って笑ったことがあるくらい、私たちは唯一無二の親友だった。彼からすれば、長年の親友に生き写しの女性が現れたのだから、強烈な好感を抱くのも無理はない。それを恋愛だと錯覚しているだけなのだ。
「……殿下」
「はい」
私は深くため息をつくと、久しぶりに友人だった頃の「ルーイン」に戻ったような気持ちで、レシウスの整った頬を軽くつねった。
『まったくもう。私がこの男装(仮の姿)をやめるまでの間、恋愛について基本からしっかり叩き込んであげるからね』
「私がお手伝いします」
「え……何をですか?」
「だ、男女の正しい交わりの順序についてです!」
レシウスは私の言葉を聞いた瞬間、口元に浮かびそうになる笑みを必死でこらえるように、一瞬だけ天井を見上げた。
(そうか。君も今まで誰にも相談できずに一人で悩んでいたんだね。私の手で解決できるなら良かった)
「そうですか」
震えそうになる口元を隠すように、レシウスは少しだけ顔を横へ向けた。
「学ぶことに遅すぎるということはありませんからね」
「……ええ」
「一生懸命、勉強します」
少し潤んだ長いまつ毛を揺らしながら、彼はまっすぐ私を見つめた。
「では、今ここで教えていただけますか? 初めてのデートは、一体どうやって申し込めばいいのでしょうか」
私はレシウスと適切な距離を保ちながら対峙し、手の取り方や、貴族としての正しい初対面の挨拶、お辞儀の仕方を言葉で細かく説明してあげた。
「こうすればいいのですね」
レシウスは、さっそく私の教えを実践に移した。
(……いや、覚えが良すぎるな?)
口で数回説明しただけだというのに、レシウスは礼儀作法どおりの完璧な距離感を保ち、私の右手をそっと掬い上げた。まるで、最初からその作法を身体が知っていたかのように流麗な動きだった。
月明かりがほのかに差し込む静寂の中、彼は私の白い指先を大きな掌でゆっくりと包み込み、
「私との初めての出会いを、許していただけますか?」
そう言って、非の打ち所がない優雅さで丁寧に頭を下げた。
月光を映したガラス玉のようなエメラルドの瞳がきらめき、柔らかく細められた目元は、どこか恐ろしいほど妖艶で――。
「……はい」
私は、まだ教えていないはずの「正しい誘いの文句」を彼が完璧に口にしていることにも、その時は気づかなかった。
それほどまでに、目を合わせて悪戯っぽく微笑む彼の姿があまりにも美しくて。
私はただ、吸い込まれるように見とれてしまっていたのだった。
-
レシウスの熱烈な告白と主人公の拒絶
主人公を女性として愛し、距離を縮めて真っ直ぐに求愛するレシウスに対し、主人公はいずれ「男性の公爵」に戻らなければならない運命から、彼の想いを受け入れられず必死に距離を置こうとする。
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「無知な皇子」という勘違いの発生
あまりにも一直線で強引なレシウスの態度を見た主人公は、彼が幼くして母を亡くし「男女の交わりの教育」を受けていないため、友情と恋愛の区別がついていないのだと大きな勘違いをする。
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すれ違ったまま始まる「恋愛レッスン」
主人公は彼に正しい恋愛の順序を教えようと提案するが、レシウスは内心でほくそ笑みながらそれに応じる。教えられた作法を完璧にこなし、妖艶な魅力で主人公を魅了していくレシウスに、主人公は翻弄され始める。