こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
168話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 幸福な日常
100メートルほど離れた場所で、「さあ、叔父さんのところにおいで!」「こっちだよ、みんな!」と声を張り上げているのは三人の男たち――グリフィス、カーリクス、そしてロミオだった。
(そもそも、この『叔父さん人気投票』に一体何の意味があるのかしら……)
レリアは呆れ半分で力なく瞬きをした。確かに育児には日々体力を削られていたが、手伝ってくれる人物があまりに多いため、客観的に見れば他の親よりもずっと楽をさせてもらっているのは事実だった。
特にロミオ、カーリクス、グリフィスの三人は、もはや実の親である自分たち以上に情熱を傾けて双子の面倒を見てくれていた。時折見せるその過剰すぎる言動さえ目をつぶれば、レリアとしても彼らには感謝の言葉しかなかった。
オスカーが抱きかかえていたリアンとヘルナをそっと地面に降ろすと、双子は待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに駆け出した。
二人が一直線に向かった先は、グリフィスだった。
双子が同時に飛びついてくると、グリフィスはパッと表情を和らげ、温かな笑顔で両腕を広げて二人をしっかりと受け止めた。
子どもたちの誕生によってレリアやオスカーの心境にも大きな変化があったが、それは友人たちにとっても同様だった。中でも常に冷徹だったグリフィスは、最近明らかに笑う回数が増えていた。レリアはそんな彼の穏やかな横顔を、どこか満足げに見つめた。
「もう! 本当に不公平すぎるって!」
「はあ……あんな風に魔法みたいにあやされたら、僕たちじゃ勝ち目がないよ……」
床にごろりと寝そべったカーリクスとロミオが不満の声をあげた。オスカーは呆れた様子で二人を見下ろしていたが、当のグリフィスはすました顔で我関せずを決め込んでいる。
「ねえ、リアン、ヘルナ。さっき叔父さんたちとすっごく楽しく遊んだよね? ね?」
カーリクスがガバッと体を起こし、グリフィスの腕の中で満足そうに収まっている双子を恨めしそうに見つめた。
「そもそも、グリフィスのどこがいいんだよ? この中で誰叔父さんが一番好き?」
カーリクスの真剣な質問に、双子は首を傾げてうーんと悩み始めた。
「うーん……叔父さんといると涼しい! あ、いや、あったかい!」
「そうだ! おじちゃんに抱きつくなら……ここがいい!」
リアンはそう言うと、自分のお腹や胸のあたりをぽんぽんと叩いてみせた。
その小さな動作と独特な表現が面白くも不思議で、レリアは思わず吹き出してしまった。グリフィスが持つ独特の安心感や魔力の心地よさを、幼い子どもなりに感じ取っているのだろう。
中腰のまま固まっていたカーリクスは、ガックリと肩を落とした。
「なんてこった……」
それを聞いていたロミオも、納得がいかない様子で跳ね起きるように立ち上がった。
「どういうこと!? 魔法で見せてってねだられるたび、僕、正確に100回以上は見せてあげたと思うんだけど!?」
「君もかい? 僕なんて飛行機ごっこで200回は空に飛ばしてあげた気がするけど!?」
あまりに必死すぎる二人のやり取りに、レリアは必死で笑いをこらえた。
「おい、レリア! 笑ってるだろ!」
「人の惨状を見て笑うなよ、まったく……」
二人はさらにキーキーと騒ぎ立てたが、最終的には自分たちの必死さが可笑しくなったのか、一緒になって爆笑してしまった。
その時、コンコンと部屋の扉をノックする音が響いた。ドアが開くと、そこに立っていたのはシュペリオン公爵だった。
「おじいちゃん!」
「おお、みんなここにいたのか」
祖父の姿を見つけるなり、子どもたちは嬉しそうに手を振った。公爵は目元を細め、目に入れても痛くないといった風に微笑んだ。
「まあまあ、元気なことだ。……ところでグリフィス、君が忙しくないなら、少し付き合ってくれないか?」
最近、公爵がグリフィスを頻繁に呼び出しに来る理由はただ一つ――チェスだった。友人たちとの対局にすっかり夢中になっている公爵だったが、館にいる人物の中で群を抜いてチェスが強いのがグリフィスだったのだ。今や祖父が館の中で最も気に入っている人物がグリフィスだと言われても、誰も疑わないだろう。
グリフィスがそっと二人を床に降ろすと、リアンとヘルナは名残惜しそうに彼の脚にしがみついた。
「ごめんね。後でまた叔父さんが遊んであげるから」
「じゃあ、今日おじさんと一緒に寝る!」
「ぼくも! わたしも!」
「ああ、約束しよう」
「わーい! 楽しみ!」
ヘルナとリアンはお互いに抱き合って大喜びした。公爵はその様子を微笑ましく見つめていたが、グリフィスが歩み寄るとその手を取るようにして意気揚々と連れ立っていってしまった。
「……」
「……」
残された部屋の中には、何とも言えない静寂が漂った。
特にロミオとカーリクスは、全く同じような虚無の表情で呆然と立ち尽くしていた。子どもたちの愛情だけでなく、公爵の絶大な信頼までも独り占めにしていくグリフィスが、羨ましくて仕方がないのだ。
さらに拍車をかけるように、グリフィスがいなくなった途端、双子は当たり前のような顔をしてロミオとカーリクスの腕の中にすぽりと収まった。
「……」
「……」
二人は虚ろな目のまま、言葉を失っていた。
「……大丈夫。アティアスおばさまは、僕のことが一番好きだから」
「そう? 最近カーリウスおじさんも、僕のこと可愛いって言ってくれたけど……」
互いに対抗心を燃やして強がるロミオとカーリクスを見て、レリアとオスカーは視線を合わせてクスッと笑い合った。
人気投票を行えば必ずグリフィスに一票を投じる双子だったが、実際のところロミオやカーリクスにも同じくらい深く懐いていた。
特にヘルナは魔法に対して強い興味と才能を示しており、レリアはヘルナが初めて魔法を使った日のことを、今でも鮮明に覚えていた。
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その日、オスカーは公務の予定があり、フレスベルグ帝国へと一時的に出かけていた。
レリアは書斎で溜まっていた書類仕事を片付けると、ゆっくりと席を立った。窓の外へ目を向けると、吸い込まれそうなほどの快晴が広がっている。魔法道具を作動させて風を通すと、爽やかな空気が部屋に満ち、それだけで心が弾むようだった。
(リアンはグリフィスやカーリクスとお出かけしたと言っていたわね……)
ヘルナはロミオと一緒に城内で遊んでいるはずだった。レリアは二人を探しに部屋を出た。
城の裏手にある小さな庭園へと向かって歩いていくと、木々の隙間からひときわ大きな光のシャボン玉がふわふわと空へ舞い上がっていくのが見えた。
(ふふ、あそこにいたのね)
ロミオは子どもたちの相手をする際、その高度な魔法技術を惜しげもなく披露する。あんなにも巨大で幻想的なシャボン玉は、彼の魔法でなければ作れない代物だった。
近づくにつれて、ヘルナの鈴を転がすような澄んだ笑い声が聞こえてきた。レリアは笑みを深め、そっと足音を殺した。
「わあぁ……!」
「どう? きれいでしょ?」
ロミオは大きな木の下に座り、膝の上にヘルナを乗せてあやしていた。ロミオが指先をひらひらと振ると、空中にキラキラと輝く光の泡が現れる。ヘルナは目を輝かせ、パチパチと小さな手を叩いて喜んでいた。
「すごくきれい! わたしも! わたしもやるー!」
「はいはい、手を差し出してごらん?」
ヘルナがちっちゃな手のひらを差し出すと、ロミオはその上で光の泡が弾けるような仕掛けを作ってみせた。ヘルナはきゃははと声をあげて大はしゃぎしている。
そんな二人を驚かせてやろうと、レリアは背後の木陰からこっそり近づき、タイミングを見計らってパッと飛び出した。
「じゃーん!」
「きゃああっ!?」
思った以上に驚いたヘルナが甲高い悲鳴を上げた瞬間――レリアの顔面に向かって、何かが勢いよく飛び散った!
「……っ!」
それは数十個もの小さな水泡だった。まるで矢のような勢いで顔面に弾け飛び、レリアの顔は一瞬でびしょ濡れになってしまった。
意図せぬ事態に、ヘルナとロミオは凍りついたように固まった。レリアは顔から滴り落ちる水滴を感じながら、深いため息をついた。
「……ロミオ。死にたいの?」
「……えっ!? ぼ、僕じゃないよ!?」
「えっ?」
レリアが眉間にシワを寄せながらハンカチで顔を拭うと、ロミオは心底濡れ衣だと言わんばかりにきょとんとしていた。
「本当に僕じゃないってば! 誓ってもいい!」
「……じゃあ誰がやったのよ。ヘルナがやったとでも言うの?」
「ヘルナがやったの!」
「「……」」
あまりに堂々としたヘルナの自己申告に、レリアとロミオは言葉を失った。
(えっ……今、何て言ったの……?)
「ヘルナがやったの! ママをびっくりさせようと思って、シャボン玉を全部吹きかけたの!」
「……ヘルナがやったの? 本当に?」
ロミオは驚愕に目を見開いたまま、恐る恐るヘルナの小さな手に自分の手を重ね、魔力の測定を始めた。ヘルナの手の甲にそっと手を触れ、じっと集中していたロミオだったが、やがてその瞳が大きく見開かれた。
「……嘘だろ……」
「ロミオ? どうしたの?」
状況が掴めず首を傾げるレリアに向かい、ロミオは確信に満ちた熱い口調で叫んだ。
「天才だ……!」
「はい?」
「うちのヘルナは天才だよ! わずか三歳で自発的に魔法を発動させる赤ちゃん見たことある!? 僕は自分以外で初めて見たよ!」
「……本当にヘルナがやったの? あなたが怒られるのが怖くて子どもに罪をなすりつけてるんじゃなくて?」
疑いの視線を向けるレリアに、ロミオはぶんぶんと激しく首を振った。
「違うってば! うちのヘルナは僕と同じくらい優秀な魔法使いになる! 歴史に名を残す天才だ! これは……歴史的な瞬間だよ!」
感極まったロミオはガバッと立ち上がると、ヘルナを高く抱き上げてぐるぐる回り始めた。意味のわからない歓喜の叫びや、古代魔法の呪文のような言葉を叫び散らしながら、彼は全身で喜びを爆発させていた。
「うちのヘルナは、世界最高の魔法使いになるぞ――!」
誇張表現が過ぎるきらいはあるものの、その日を境にロミオはすっかり上機嫌になり、ヘルナに魔法の基礎を教え始めた。
ヘルナには間違いなく桁外れの魔法の才能があった。それはきっと、実の父親であるオスカーの強大な魔力を受け継いだ証だろう。
後日その話を聞いたオスカーもいたく喜び、「将来、自分が皇位を譲った後も、彼女の大きな力となるだろう」と誇らしげに語っていた。
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ヘルナがロミオにべったりならば、リアンはかなりの領域でグリフィスを慕っていた。
グリフィス特有の圧倒的な忍耐力と包容力によるものなのか、それとも他に理由があるのかは分からなかったが、とにかく都合が悪くなるとリアンは決まってグリフィスの元へ逃げ込んだ。
「リアンはグリフィスおじさんが一番好き! パパもママも大嫌い!」
しかもタチが悪いことに、グリフィスはその言葉をそのまま本人たちに報告してくるのだ。
「リアンがさっきこう言っていたぞ。私の耳元で、はっきりとね」
「「……」」
あまりにつれない無表情で報告するグリフィスに、レリアとオスカーは引きつった笑いを浮かべるしかなかった。
「今日はリアンを私が預かろう」
グリフィスがつんとすました顔でリアンを抱き上げると、リアンはレリアたちに向かって嬉しそうに手を振った。二人は不満たらたらな表情でその背中を見送るしかなかった。
「一体何が秘密なの? なんであんなにグリピスばかり好きなのかしら……」
レリアが腕を組んでぶつぶつと愚痴をこぼしていると、背後からオスカーがそっと彼女を抱き寄せた。
「オスカー、あなた本当は理由を知っているでしょう?」
「……」
無言を貫く彼の反応を見て、レリアは確信した。
「ちょっと、早く教えて! 一体何なのよ?」
「……その、だな……」
その日、レリアはグリフィスの部屋の隠し棚に、とんでもない量の高級ゼリーとチョコレートが隠されているという衝撃の事実を知ることとなったのだった。
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そして、二人の子どもたちは体を使って全力で遊んでくれるカーリクスのことも大好きだった。
カーリクスと全力で駆け回った日は、双子は夜になると泥のように深く眠ってくれるため、レリアとしても「どんどんカーリクスと遊んでほしい」というのが本音だった。
そんなある日のこと。
一日の仕事を終えたレリアが窓の外を眺めていると、庭園の様子に目を留めた。
「今日はあそこで遊んでいるのね」
その日は久しぶりの快晴で、カーリクスが外で子どもたちの相手をしてくれていた。彼らが遊んでいたのは、庭園の隅に佇む『あの木』の前だった。
子どもたちが生まれる前、カーリクスがわざわざ自身の故郷から移植してきた思い出の木だ。土地の相性が良かったのか、木は双子の成長に合わせるかのように、当時よりもずっと大きく立派に枝葉を伸ばしていた。
レリアは窓辺に寄りかかって微笑ましく眺めていたが、もっと近くで見ようとオスカーを誘って庭へと降りて行った。
「おじさん、あれなぁに?」
カーリクスの肩の上にちょこんと乗っていたヘルナが、木の根元を指差した。
「ん?」
ヘルナが指した場所には、深く刺さったままの古い短剣の鞘があった。
「あ……」
すっかりその存在を忘れていたカーリクスは、懐かしそうにそれを見つめた。専門的かつ慎重な取り扱いが必要なはずの短剣だが、悪戯っぽくヘルナに囁いた。
「ヘルナ! あれをつかんで引き抜いてみるか?」
「いいよ! ヘルナできるもん!」
カーリクスはヘルナが短剣の柄を握りやすいよう、優しく抱きかかえて近づけた。
「よいしょーっ!」
ヘルナは小さな手で柄を固く握り締め、顔を真っ赤にして引っ張った。しかし、短剣はピクリとも動かない。
「やーめた!」
抜けないと悟るやいなや、ヘルナはあっさりと諦めてカーリクスの腕の中で足をばたつかせた。カーリクスは苦笑しながらヘルナを地面に降ろし、今度はリアンに視線を向けた。
「リアン、やってみるか?」
「うん!」
リアンは自信満々に腕を伸ばし、カーリクスにしがみついた。同じように短剣に挑んだものの、やはり短剣はびくともしなかった。
カーリクスはリアンを降ろすと、困ったように頭を掻いた。
「抜けないなぁ……やっぱり子どもには無理なのか?」
3歳という年齢を考えれば当然のことだ。カーリクスが納得し、再び鞘の位置を整えて身をかがめた時だった。リアンが不満そうに短剣を見つめながら、ハッと何かを思い出したように声をあげた。
「そうだ! リアンが一人でやったからだ! ヘルナと一緒なら絶対にできるよ!」
「え?」
「ママとパパが言ってたもん! リアンとヘルナが力を合わせれば何だってできるって! 怪物だってやっつけられるんだから!」
純粋で愛らしいその言葉に、カーリクスの目元がふっと柔らかく緩んだ。
「可愛すぎるだろ……よし、やってみるか!」
カーリクスはたくましい両腕で双子を一人ずつ抱き上げた。リアンとヘルナは二人で一つの柄をしっかりと握り締め、息を合わせた。
「「いーやぁぁっ!!」」
掛け声とともに力を込めた、その瞬間だった。
ポンッ!
まるで最初から固定されていなかったかのように、あまりにもあっけなく、スポンと短剣が鞘から抜け落ちたのだ。
「「わぁぁっ! 抜けたぁぁ!」」
双子は歓声をあげて大喜びした。
長年鞘の中に眠っていた刃はすっかりくすんでいたが、抜けた瞬間に放たれた光は驚くほど幻想的だった。地面に着地した子どもたちは、抜けた短剣のことなど一瞬で忘れ、興奮した様子で木の周りをグルグルと走り回り始めた。
「……」
カーリクスは、子どもたちから手渡された短剣を茫然と見つめていた。その姿を、階段を降りてきたレリアとオスカーが遠くから見つけた。
「ねえ……彼、泣いてる?」
オスカーの呟きに、レリアは目を丸くしてカーリクスを注視した。
彼は本当に泣いていた。短剣を握りしめたまま顔を背け、反対の手の甲で何度も何度も目元をぬぐっていた。その無骨で不器用な涙は、見ているこちらの胸まで締めつけるほどにあたたかかった。
「わあ! おじさん泣いてるー!」
「おじさん、泣かないでー!」
足元にしがみついてくる双子を抱き締めながら、カーリクスはついに声を漏らして泣き出した。
レリアは木の幹から短剣が消えた痕跡を見つめ、静かに口角を上げた。
二人は涙を流し続けるカーリクスを急かすことなく、暖かな午後の光の中で優しく見守り続けた。
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双子が三歳になるまでの間、世界は激動の渦中にあった。
最も大きな変化は、かつて異端と弾圧されていた「錬金術」が、正式な一つの学問として社会に認知され始めたことだ。何と、神殿自らが錬金術の正当性を公式に認めたのだった。
当初は戸惑っていた人々も、錬金術がもたらす圧倒的な便利さと恩恵に素早く順応していった。
レリアは、この神殿の劇的な翻意の裏にグリフィスの暗躍があることを確信していた。新たに着任した大神官は、おそらくグリフィスの息がかかった人物なのだろう。彼が頻繁に領地を離れて中央へ向かっていたことから考えても、間違いなかった。大神官の座には就かずとも、彼は依然として神殿の影の権力者として君臨しているのだ。
神殿は、レリアの祖母の認知症を完治させたのが彼女の精製した錬金術の薬であると認め、さらに「神病」とされてきた病が単なる一般的な疾患であったことを公表して過去の過ちを深く謝罪した。
過去の隠蔽に激怒する者もいたが、逃げずに謝罪した神殿の姿勢を評価する声も多かった。人々の意識は加速度的に変化し、今や神殿自らが錬金術の普及に努めるまでになったのだ。
そして何より人々を驚かせたのは、シュペリオン領が「錬金術の聖地」として全土にその名をとどろかせたことだった。
時代の変化に最も敏感だったシュペリオン領の中心街には、立派な「錬金術アカデミー」が設立された。学問を志す人々が大陸全土から押し寄せ、街は連日溢れんばかりの活気に包まれた。
各帝国の皇族や大貴族から、才能を秘めた平民に至るまで――。
レリアの祖父、叔父たち、叔母、そして記憶を取り戻した実の母親もまた、アカデミーの運営や新事業の立ち上げで多忙を極めていた。特に知識の豊富な母親はアカデミーの中心人物として縦横無尽の活躍を見せていた。
テラ・シュペリオン城は連日活気に満ち溢れ、レリアもまたフレスベルグ皇城とを行き来しながら、錬金術を用いたさまざまな薬品の開発に打ち込んでいた。
すでに商品化された高級薬も多かったが、それ以上に人気を博したのは、領民たちの生活を支える福祉目的の安価な日常薬だった。傷薬や鎮痛剤など、レリアが実際に試して効果を実感した試作品は飛ぶように売れ、その薬を求めてシュペリオン領へと移住してくる人々が後を絶たなかった。
祖父はそんなレリアのために、城内に最新設備を整えた広大な研究室をプレゼントしてくれた。
「よし……しばらくは事業に全力を注ぐわ!」
子どもたちの世話は信頼できる友人たちが買って出てくれているため、何の心配もなかった。新しい研究室のふかふかな椅子にどっかりと腰掛けたレリアは、気合を込めて宣言した。
「錬金よ、私たちの時代が来たわ!」
『✧.٩(ˊ伝ˋ)و✧ 充電完了! 充電完了!(ง •̀_•́)ง』
(今この波に乗らなきゃ嘘だわ。大金を稼いで、システムにもたっぷり充電させてあげないと!)
レシピ一覧を開いたレリアの瞳に、強い意志が宿る。
「まずは基本の『体力回復薬』から着手しましょう」
それは単なる金儲けの野心だけではなかった。自分が作った薬によって苦しみから解放される人々を見るうち、レリアの心にはある種の温かな責任感が芽生えていたのだ。
自分自身がシステムや友人、家族に救われたように――世界は決して一人で生きるものではない。暗闇の中で一人苦しんでいる誰かに、薬を通して「大丈夫、一緒に生きていこう」と手を差し伸べたかったのだ。
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レリアが研究室で事業計画に没頭していた頃、オスカーは彼女に知られないよう、静かに単身で動いていた。
向かった先は、アウラリア帝国の首都ペルセウス。
かつてレリアを追い詰めたペルセウス皇帝は、今や過去の過ちを深く悔いるかのように、皇帝の権力を用いてひたすら慈善事業に没頭していた。国境地帯へ追放されたセドリックとデミアン皇子について、世間は「数年もすれば戻ってきて皇位を継ぐだろう」と噂していたが、皇帝自身に彼らを呼び戻す気は毛頭なかった。
一方、密資金の横領と不貞が発覚して離婚されたマリアンヌ前皇后は、身分と財産をすべて剥奪され、極貧の中で親戚の家をたらい回しにされる惨めな生活を送っていた。
そしてユリアナもまた皇女の身分を失い、罪人の娘へと落としめられていた。ルートの強い意向により結婚こそ果たしたものの、その生活が幸福とは程遠いものであることは火を見るより明らかだった。
ユリアナは今なお自分が特別な「皇女」であるという錯覚から抜け出せず、贅沢な暮らしを要求し続けた。しかし、没落した伯爵家にそんな余裕はなく、間に挟まれたルートもまた、二人の間の不和を収めるほどの器量も繊細さも持ち合わせていなかった。
商売は傾き、社交界からも冷遇される中、ルートがユリアナのために分不相応な高価な宝石を購入したことが決定打となった。怒り心頭に発した伯爵は二人を屋敷から叩き出し、完全に絶縁を宣言したのだ。
ルートはわずかな退職金をはたいて小さな借家を購入したが、かつて宮殿で育ったユリアナにとって、そこはまともな人間の住む場所に見えなかった。
「こんな惨めな生活、耐えられないわ! 今すぐ国境にいるお兄様たちのところへ行くわよ!」
「でも……お二人は自粛のために国境へ行かれているんだ。僕たちが押しかけたら迷惑に……」
「うるさいわね! あなたは黙ってついてくればいいのよ!」
自分を無条件で甘やかしてくれる者しかいなかった環境から放り出され、ユリアナの性格は日に日にトゲトゲしく歪んでいった。
その変化を最も間近で感じていたルートの心には、日増しに深い疲弊と苛立ちが募っていった。厳しい現実の中でも健気に生きる人々がごく普通に存在する中で、いつまでも過去の栄光にしがみついて怒り散らすだけの妻に、もはや愛情を感じることはできなかった。
(こんなことになるなら……結婚なんてするんじゃなかった……)
後悔していたのはユリアナも同じだった。ルートの瞳からかつての熱い情熱が消え、冷ややかな蔑みが混じるのを見るたび、胸が締めつけられた。ルートが愛していたのは自分自身ではなく、「皇女」という肩書だったのだと痛感せざるを得なかった。
ユリアナは荷物をまとめ始めた。ルートはただ冷めた目でそれを見送るだけだった。
自由を夢見たかつての二人だったが、互いに愛を失い、冷めきった破局の足音だけが部屋に響いていた。
そして――物陰からその惨めな一部始終を冷徹な瞳で見つめていたのは、オスカーだった。
彼らは自業自得の報いを受け、急速に破滅へと向かっていた。
(もしレリアがこの事実を知れば、彼女の優しさゆえに心を痛めてしまうかもしれない……)
だからこそ、オスカーはこの事実を徹底的に隠蔽し、一部の者しか立ち入れない情報として封印していた。レリアの耳に彼らの惨状が届くことは決してない。
たとえ彼らがこの先、誰にも取られず遠く離れた地で冷たく惨めに野たれ死ぬことになろうとも――レリアがそれを知る必要は、万に一つもないのだから。
それで、よかった。
物語の要点を3つにまとめました。
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双子の成長と愛される日常
レリアとオスカーの双子(リアンとヘルナ)は3歳になり、ロミオ・カーリクス・グリフィスら叔父たちに溺愛されながらすくすくと成長。ヘルナの魔法の才能発揮や、カーリクスの思い出の短剣を二人で抜くなど、温かい日々を送っている。
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錬金術の発展とレリアの躍進
神殿が錬金術を正式に認めたことでシュペリオン領は「錬金術の聖地」となり、アカデミーが開設。レリアも家族や仲間に支えられながら、人々を救うための薬品開発事業に情熱を注いでいる。
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過去の宿敵たちの没落
レリアを追い詰めたペルセウス帝国の元皇族やユリアナたちは、自業自得の果てに極貧と破局を迎えて没落。オスカーは優しいレリアの心を痛めさせないよう、その惨状を彼女から完全に隠蔽している。