剣を持った花

剣を持った花【56話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「剣を持った花」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。

又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【剣を持った花】まとめ こんにちは、ピッコです。 「剣を持った花」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...

 




 

56話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 調査指示

翌日、ユリエンは午前中ずっと仕事に集中できずにいた。

朝の訓練で剣を振っている間はまだよかった。だが、ひとたび執務机に向かって書類仕事を始めると、気がつけばエキネシア・ロアーズとヴァラハ・イスラフのことが頭をよぎってしまう。二人は今も一緒にいるのではないか――そんな考えが雑音のようにまとわりつき、午後になっても確認すべき書類の半分すら終わらない。普段なら午前中に事務作業を片付け、午後は騎士たちの訓練に立ち会うか、他の実務に取りかかっている時間だった。

どうにか書類に集中しようとしたユリエンだったが、結局は羽ペンを放り出して席を立った。

――なぜ過去の自分は、ヴァラハを彼女の担当(スクワイア)にしたのだ。

思わず過去の自分に向かって手袋でも投げつけたくなる気分だった。

【まさか、また魔剣の主のところへ行くつもりじゃないだろうな?】

団長室を出た彼に、聖剣バルデルギオーサが呆れたように脳内で声をかけた。ユリエンは言い訳するように心の中で答える。

「集中できないから、少し気分転換に散歩へ行くだけだ」

【今のそれを言い訳と言うんだぞ?】

「少し様子を見てくるだけだ」

【本当に重症だな。頼むから――このまま突っ走って取り返しのつかないことになるなよ】

「取り返しのつかないこととは、何のことだ?」

【犯罪はするな、という意味だ。私はできるだけ長くお前の主でいてほしいからな】

「くだらない」

【私も、そんな冗談のような心配で済めばいいと思っている】

バルデルギオーサは不満げにぶつぶつと言った。ユリエンはその声を聞き流し、そのまま足早に馬小屋へ向かった。今日も馬の世話をすると聞いていたのだから、二人はそこにいるはずだった。

だが、馬小屋の中には誰の姿もなかった。人の気配すらしない。

ユリエンは馬小屋の入口が見える場所で立ち止まり、眉をひそめた。エキネシアもヴァラハも見当たらない。

(どこへ行ったんだ?)

近くにいるかもしれないと思い、感覚を研ぎ澄ませて周囲へ意識を向ける。すると、ほどなくしてエキネシアの気配を捉えた。少し離れた水場のそばで、誰かと話をしている。ユリエンは無意識のうちに、その方へ足を向けた。

【だから、頼むから行き過ぎるなよ】

「行き過ぎるとは何のことだ?」

【犯罪だけはするな、という意味だ】

「馬鹿馬鹿しい」

聖剣の忠告を再び聞き流しながら、ユリエンは声のする方へと近づき、その会話に耳を傾けた。

「会って謝りたいと言っているんですか? 私にですか、ブレド先輩が?」

「そうだ。もちろん、お前に許す気がないなら断って構わない。あいつが謝りたいからといって、お前に受け入れる義務はないんだからな」

――彼女は誰かに謝罪されるようなことをされたのか?

ユリエンは密かに眉をひそめた。会話の内容も気に障ったが、何よりも彼女と話している相手が気に入らなかった。

イアン・ペレット。

魂を覗かずとも、どこか胡散臭さと悪意を感じさせる男だった。ユリエンは自然と歩調を速めた。

「いつお会いしたいとおっしゃっているんですか?」

「できれば今日の夕方にでも……」

その時、イアンが近づいてくるユリエンの姿に気づき、言葉を止めて慌てて礼をした。

「アル・セバティエム。団長、お疲れさまです」

エキネシアもようやく振り返った。

その顔色を見て、ユリエンは微かな違和感を覚える。どこか少し疲れているようだ。見た目には平然を装っているが、いつもより目元に力がない。

(体調でも悪いのか?)

達人ともなれば、長年見てきた相手の些細な変化にも敏感になるものだ。ユリエンは回帰前、彼女が負傷した時も、毒に侵された時も、眠れずに疲弊した時も、無理に動いている姿を何度も見てきた。だからこそ分かった。彼女は今、どこか無理をしている。

ユリエンはひとまず、イアンへ冷たい視線を向けた。

「謝罪とは、どういう話だ?」

「……生徒同士の揉め事がありまして」

その返答を聞きながら、ユリエンはイアンの内面に漂う黒い感情を感じ取った。薄くではあるが、確かに滲む嫉妬と敵意。悪意が行動へ変わる直前、人はしばしばこんな気配をまとっている。その悪意が誰へ向けられているのかは明白だった。

――今すぐこの場で始末してしまいたい。

そんな危険な衝動が胸をよぎる。ユリエンが冷徹にイアンを見下ろすと、その殺気を察したのかバルデルギオーサが慌てて制止した。

【落ち着け! 証拠はない。あいつが何を企んでいるのかも、まだ分からないだろう。現行犯でもない相手を手続きもなく裁くのは正義ではない】

聖剣に言われるまでもなく、分かっていた。ただ、一瞬だけ怒りを抑えきれなかっただけだ。

ユリエンはイアンから目を逸らし、エキネシアへ視線を向けた。濁った悪意を見た後だったからか、彼女を見つめているだけで心が洗われるような気がした。

「どんな揉め事だったんだ、エキネシア候補生」

「個人的なことです、団長」

彼女は淡々と答えた。拒絶ではないが、これ以上は踏み込ませないという明確な一線。

エキネシアが自分に助けを求めるはずがない。ユリエンは内心で苦笑しながら、さりげなく彼女の様子を観察した。怪我はないようだが、なぜこれほど疲れて見えるのか。

その時、士官学校に潜り込ませている情報員からの報告を思い出した。

『エキネシアが汗だくのままルームメイト(エリス)と寮へ戻ってきた。過酷な対戦をしていたようだ』と。

ユリエンは彼女の細い手へ目を向けた。回帰前と違い、今の彼女はまだ鍛え上げられた騎士ではない。貴族令嬢の身体なのだ。そう考えて改めて観察すると、体の動きにわずかな硬さが見えた。

やはり筋肉痛、それも微熱を伴うほどの酷いものだろう。明日は新入生順位戦だというのに、この状態で無理をして歩き回っているのだ。彼女はきっと、この程度の疲労など大したことではないと思って耐えている。誰かに相談するという発想自体がないのだ、いつも一人で乗り越えてきたから。

ユリエンは再びイアンへ視線を戻した。

「生徒代表。エキネシア候補生に、まだ何か用件があるのか?」

「え? あ、いや……その……」

イアンが言い淀むと、エキネシアが遮るように口を開いた。

「謝りたいのなら、本人が直接来るようお伝えください、先輩」

「……分かった。そう伝えておく」

ユリエンが告げる。

「話が終わったのなら、もう行っても構いません。エキネシア候補生と話したいことがあります」

イアンは一瞬ためらったが、やがて頭を下げて去っていった。ユリエンはその背中を見送りながら、『謝罪』の件を調べる必要があると確信した。あの男の悪意からして、何かを企んでいる可能性が高い。

イアンの姿が見えなくなると、エキネシアは視線を落としたまま、目を合わせようとしなかった。ユリエンは揺れる桃色の髪を見つめながら、口を開いた。

「何か……」

そこまで言って、言葉が止まった。

彼女は自分を見るたびに緊張し、距離を取ろうとする。そんな相手が、自分に助けを求めるだろうか。

「……私が、君の力になれることは……」

イアンの件でも、体調のことでもいい。今の自分には、ただ見守るだけだった過去とは違い、手を差し伸べることができる。ほんの少しでも頼ってくれたら――そう願わずにはいられなかった。

「申し訳ありません。よく聞き取れませんでした、団長」

「……いや、何でもない」

ユリエンは首を振った。結局、それは自分自身の願望に過ぎない。彼女が一番望んでいるのは、自分が目の前に現れないことなのかもしれない。自嘲の笑みが漏れそうになり、ユリエンは慌てて口元を押さえた。

このまま去るべきだ。そう思いながらも、足は動かなかった。せめて薬だけでも渡したい。彼女は「これくらい平気だ」と言って休むことすら後回しにするはずだ。

「ついて来い、エキネシア候補生」

ユリエンは彼女を連れて騎士団本部へ向かった。彼女を入口で待たせ、自分だけ団長室へ駆け上がる。普段は落ち着き払っている団長が階段を二段飛ばしで駆け上がる姿に、本部の騎士や事務官たちは唖然としたが、ユリエンは気に留めもしなかった。

団長室へ飛び込むと、救急箱から筋肉痛用の軟膏、外傷用の赤い軟膏、解熱剤や抗生剤の小瓶を取り出した。それらを紙袋へ詰め込みながら、どれが今の彼女に必要だろうかと真剣に考える。まるで重傷患者の治療準備でもするかのような慌てぶりだった。

さらに室内を見回すと、ティーセットの横にあるガラス瓶が目に留まる。妻のバロンが手作りして置いていった、風邪や疲労に効く薬草茶だ。ユリエンは迷った末、それも紙袋へ入れた。

本音を言えば、彼女のそばにいて看病したかった。だが、それは許されない。

「医師か神官を呼ぶべきだろうか……」

【やめておけ】

バルデルギオーサに呆れられながら、ユリエンは紙袋を手に階下へ向かった。

エキネシアは本部の階段の近くで、大人しく待っていた。

午後の柔らかな日差しの中で佇む彼女を見た瞬間、ユリエンは思わず足を止めた。

熱のせいか少しぼんやりとした瞳、疲労の影が落ちた白い顔。

気配に気づいたのか、エキネシアが顔を上げた。伏せられていた長いまつ毛が大きく震え、その下の瞳が彼を映す。

――来たんだ。

そんなかすかな安堵と喜びが、彼女の表情に一瞬だけ浮かんだ。

本人すら気づかないほど小さな、待っていた相手を見つけた時に自然とこぼれる安堵。

だが、ユリエンにはそれで十分だった。

胸の奥が、どくんと重く鳴る。

彼が知るエキネシアは、いつも恐怖や罪悪感、悪夢、そして自分自身と戦っていた。歯を食いしばって進む姿しか見たことがなかったからこそ、その小さな喜びの表情が信じられなかった。

慌てて表情を整え、手に持っていた紙袋を握り直す。

「待たせたな、エキネシア候補生」

近づく声は、本人が思う以上に柔らかかった。

彼女の後ろから、ぱたぱたと小さな足音が追いかけてくる。その音を聞いた瞬間、ユリエンは無意識に歩幅を緩め、彼女に合わせて歩いていた。

やがて女子寮の前へ到着すると、ユリエンは足を止め、紙袋を差し出した。受け取ったエキネシアは、不思議そうに目を丸くして彼を見上げる。その仕草さえ愛おしく、ユリエンの表情は自然と和らいだ。

「無理はするな」

これ以上話すと余計なことまで口走りそうだったため、短くそう告げ、励ますようにそっと彼女の肩へ手を置いた。

軽く触れただけだったが、離れてからも細く華奢な肩の感触と、思った以上に高い熱の熱さが手のひらに残り続けた。

――やはり無理をしている。

その確信が、冷めない熱のように一日中ユリエンの心を浮き立たせ、そして焦らせた。

翌日、新入生順位戦の日。

前日までは朝の訓練中だけは何とか集中できていたユリエンだったが、この日は剣を握ってもまったく集中できなかった。体調が万全ではないまま順位戦に臨む彼女のことが心配でたまらない。ユリエンは朝の訓練を切り上げ、団長専用の執務室へ向かった。

「アール・セバスティエム様。昨日おっしゃっていた件の調査が終わりました」

執務室の外で待っていた白衣姿の情報員が、タオルを差し出しながら小声で言った。

「ご苦労だった。内容は?」

「書面にまとめてあります」

タオルの中に隠されていた紙を、ユリエンは周囲を確認してから広げた。

【調査報告】

対象: ブレド・フォン・フォム(3年生 / 生徒順位68位 / ノブレスクラブ所属)

出自: キリエ帝国フォム侯爵家の次男。

性格・評判: 傲慢であり、士官学校内での評判は良くない。生徒代表(イアン)の依頼でエキネシア・ロアーズのスクワイア教育を担当した際、足を引きずりながら戻り、悪態をついていたとの証言あり。エキネシアに対してかなりの悪感情を抱いていると見られる。

こんな男が「事故だ何だ」と騒ぎ、それをイアン・ペレットに伝えた直後のあの悪意。どう見ても怪しい。

「ブレド・フォン・フォムの最近の行動について調べてこい。何か企んでいるようだ」

「かしこまりました、アール・セバスティエム様」

情報員が立ち去った後、ユリエンは本部へ戻り、副団長室でバロンと顔を合わせた。

「士官学校のクラブ事情を少し調べたいんだが、詳しい生徒を紹介してくれないか?」

「急にクラブですか。どこのクラブの話でしょう?」

「ノブレスだ」

「そこは家柄が低い者は受け入れない、かなり閉鎖的なクラブですよ。何かあったんですか?」

「ノブレス所属の生徒の中に、不審な動きをしている者がいる。調査するには、まずクラブについて把握しておく必要がある」

「ふむ……。士官学校内の事情なら、ヴァラハがよく知っています。彼を呼びましょう」

バロンは使用人を呼び、ヴァラハを連れてくるよう命じた。そして、ソファにもたれたユリエンを不思議そうに見つめる。

「団長が士官学校のことに直接関わるのは初めてですね」

蒼天騎士団長たるもの、アジェカの統治、外交、騎士団全体の管理で多忙を極める。士官学校の問題は通常、行政室の担当官たちで処理されるものであり、事件の発端から団長自らが動くなど極めて異例だった。

「もしかして、エキネシア・ロアーズ生徒と関係があるのですか?」

「……その可能性は高い」

「承知しました」

長年ユリエンに仕えてきたバロンは、それ以上は何も尋ねなかった。

しばらくして、ヴァラハ・イスラフが到着した。ユリエンは彼に、ノブレスクラブについて詳しい生徒がいるか尋ねた。

「はい、おります」

「今日の夕方までに、その生徒を通じてノブレスクラブの構造を調べてこい。クラブ内の派閥やグループの形態、クラブ長の支配力、権力がどこに集中しているのか――そういったことをだ」

生徒同士の権力関係は、その中にいる生徒たちが最もよく知っている。ヴァラハは慌てて内容を書き留めると、少しためらいながら尋ねた。

「今日中に、ですか?」

「時間が足りないか?」

「……いえ、大丈夫です」

この命令のせいで、ヴァラハはエキネシアの順位戦を見に行けなくなってしまった。彼は少ししょんぼりした様子で部屋を後にした。

ユリエンはその後の急ぎの仕事を片付けると、すぐに士官学校へ向かった。騎士団長が新入生順位戦を堂々と観戦すれば大騒ぎになるため、フードを深くかぶり、二階観覧席の外階段付近の窓から、密かにエキネシアの試合を見守った。

(やはり、まだ体調が万全ではないのか)

彼女が体調不良のせいで、体力を温存するために「一撃で試合を終わらせている」ことに気づいたのは、彼女を凝視し続けているユリエンだけだった。

そして、その後のアリスとエキネシアの試合を、快く思っていないのもユリエンただ一人だった。

(また無理をしているな)

アリスという生徒のために、疲労を押してまで相手をしてやっている様子を見て、心配と同時に嫉妬にも似た感情が湧き上がる。彼女の本来の実力を知るユリエンにとっては、実にもどかしい試合だった。

だからこそ、なおさら彼女と純粋に剣を交えたいと強く願う。

いつか彼女と対戦する日が来るのだろうか。自分も彼女と、剣で語り合えるだろうか。

焦がれるような熱い思いに、窓枠を握るユリエンの手へ自然と力がこもった。

彼は最後まで彼女の剣を見届けると、胸に残る名残惜しさを振り切るように、静かにその場を後にした。

 



  • エキネシアの体調不良とユリエンの懸念: 新入生順位戦の前日、激しい疲労と微熱を抱えながら無理をするエキネシアの様子を察知したユリエンは、彼女に軟膏や薬草茶などの入った紙袋をそっと差し入れ、その体調を深く案じた。

  • ブレドの企みに対する調査指示: イアンの背後でエキネシアに対する悪意を抱く3年生のブレド・フォン・フォムについて、ユリエンは情報員に調査を命じ、さらにバロンやヴァラハを通じて「ノブレスクラブ」の内部構造や権力関係の把握に動き出した。

  • 新入生順位戦の密かな観戦: ユリエンは士官学校の新入生順位戦をフードをかぶって二階観覧席から密かに観戦し、体力を温存しながら戦うエキネシアの姿やアリスとの試合を見守りながら、複雑な思いを募らせた。

剣を持った花【57話】ネタバレ こんにちは、ピッコです。 「剣を持った花」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...
【剣を持った花】まとめ こんにちは、ピッコです。 「剣を持った花」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介となっております...