こんにちは、ピッコです。
「ニセモノ皇女の居場所はない」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

9話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- プロローグ⑨
「やっぱりここにして正解だった!」
満開の花が咲く庭園を見て、フィローメルは満足げに微笑んだ。
彼女は皇帝宮の裏庭にある庭園を見て回っているところだった。
手入れをする庭園師たちが丹精込めた花々が満開だった。
『そして、美しい景色は気分を和らげるもの。』
少し大げさに言えば、互いに対立する者同士でも、この美しい庭園ではつい警戒を解き、散歩を楽しむかもしれない。
「私と一緒に散歩していただけますか?」
フィローメルがユースティスに願ったのは、散歩だった。
彼女はこれまで一度も彼と一緒に散歩したことがなかった。
『散歩しながら、私がどれほど優れた後継者になりうるのかを示さなきゃ。』
しかし、フィローメルの前に現れたのはユースティスではなく、まったく別の人物だった。
フィローメルよりも少し年下に見える少年が、険しい表情で彼女を見つめていた。
「おい!」
少年は鋭く叫んだ。
「ここは皇族しか入れない場所だぞ!」
「……?」
フィローメルは静かに少年の正体を推測した。
ここは皇族だけが出入りできる庭園なのだ。
つまり、この庭園に入ってきたということは、彼が王族であることを意味している。
そして、鮮やかな金髪と薄い金色の瞳の色を見たとき……
「まさか、俺の言葉を無視するのか?お前、どの家門の者だ?ここに無断で入っただけでも重大な罪だと知らないのか?」
フィローメルが自分を無視したと感じたのか、少年は少し怒気を含んで声を荒げた。
『ああ、うるさい。考えをまとめられない。というか、この子はバカなの?なんで私が王族だとは思わないの?』
フィローメルは冷静になろうと努力しながら、やや優しく言った。
「えっと、もう少し静かに話してください。それと、礼儀を守ることを――」
「黙れ!」
フィローメルの心の中で、忍耐の糸が切れた。
これまで彼女を暗に無視する者は多かったが、これほどまでに無礼で侮辱的な態度を取られたのは初めてだ。
自然と、冷たく乾いた声が口から漏れた。
「お前、黙れ。」
「な、何?今なんて……?」
「口を閉じろって言ったのよ。リアム・エルロス。」
「お、お前、俺が誰か知っててそんな……」
「じゃあお前は?お前、私が誰か知っているの?」
「俺がなんでお前なんかの身分を知る必要があるんだ?」
風を切る音とともに、リアムの背後に二人の人物が現れた。
「リアム!どうしたの?どこか怪我でもしたの?」
「うるさいな。一体何事だ?」
最初に目に入ったのは、羊飼いの杖を持った女性だった。
明るい金髪と煌めく瞳が特徴的だった。
その隣にいたのは、フィローメルよりも少し年上に見える少年。
少年の髪の色はリアム・エルロスと同じように鮮やかな金色だった。
二人はエルロス侯爵夫人とその長男、ローガン・エルロスだった。
エルロス侯爵夫人、シルビア・エルロスの旧姓はベルレロフ。
つまり、彼女は先代皇帝の娘であり、現皇帝の異母姉だった。
姉であるシルビアは元皇女だった。
先帝の子供たちは現皇帝と親しいユースティス側についたエルロス侯爵夫人を除いて、すべて亡くなるか国外に亡命したため、傍系の皇族と呼べるのは彼女たちだけだった。
『エルロス侯爵夫人には息子が二人いると聞いたけど……』
長男の顔は知っていたが、次男とはこれが初対面だった。
ベルロフ皇族が特に栄えていた家門ではなかったため、公の場で会う機会は少なかった。
さらに、次男であるリアム・エルロスはまだ幼く、公の席に出ることはなかった。
フィローメルを見つけたエルロス侯爵夫人が驚いたようだった。
「まあ、フィローメル。久しぶりね。その間元気だった?」
いくら親しい間柄とはいえ、皇女に対してタメ口を使うのは礼儀に反することだった。
普通、同じ皇族の血を引く者でも、直系の皇族にはある程度礼儀を払うのが当然だった。
くだけた話し方をすることもあったが、それは親しい間柄や許可がある場合、または周囲の目がないときに限られるのが普通だった。
隣でリアムが小さく驚き、母親に尋ねた。
「え? フィローメルって皇女ですか? でも母上が言うには、皇女は品のある見た目をしていないと…… うっ!」
侯爵夫人が急いで息子の口をふさいだ。
「この子が何を言っているのか…… きっと勘違いしたのでしょう。」
「……私についてそんなふうに言いふらしていたのね。」
フィローメルの視線が徐々に冷たくなった。
フィローメルの注意をそらすため、ローガンが口を開いた。
「皇女殿下にお目通りいたします。弟の無礼は、広いお心でお許しください。」
ローガンは母親や弟よりも礼儀正しかった。
しかし、それも上辺だけのもので、内心では傷を隠しているようだった。
彼は、多くの者が次の皇帝になるのではと噂する少年だった。
フィローメルには神聖な力がなく、それ以外の資質も不足していたためである。
護衛たちは、皇帝がいずれ賢明だと評判のローガンを後継者にするのではないかと噂していた。
『どうせエレンシアが来たら、まるで犬のように尻尾を振るのは目に見えているけどね。』
フィローメルは内心で鼻で笑いながら、適当に挨拶を返した。
「皇女殿下が許してくださるなら、私たちはこれで失礼いたします。今日はちょっとした散策に来ただけですので。」
しかし、その瞬間だった。
母親の手を振り払ったリアムが、兄のローガンにしがみついて言った。
「兄さん!兄さん!あとで兄さんが皇帝になったら、この庭を取り壊して遊び場にして!友達と戦争ごっこをしたいんだ!」
「……ちっ!そんなことを軽々しく言うもんじゃない!」
「……ああ。」
全部聞こえた。
まるで皇帝にでもなった気分ね。
フィローメルは、空を突くように立っている三人を見ながら考え込んだ。
この三人を敵に回すのは、将来のことを考えた時に危険だった。
今は皇女の権威で押さえつけることができても、後日フィローメルが偽物であることが明るみに出れば、真っ先に牙をむいてくる連中だ。
今はただ笑って流すのが賢明かもしれない。
『……でも。』
辺境貴族たちにこんな侮辱をされても何も言い返せない皇位継承者なんて、どこにいる?
ある程度は、警告を与える必要がありそうだった。
『皇帝の耳に入れば、また私を失望の種として見なすかもしれない。』
そして何より、そんな生き方はしたくなかった。
追い出される前までは、自分は皇女だったのだから。
決意を固めたフィローメルは口を開いた。
「ちょっと待ってください。三人とも行く前に、きちんと挨拶をしていってください。」
困惑した表情を浮かべた三人が、フィローメルを見つめた。
「挨拶ならさっきしましたが?」
「エルロス侯爵夫人は、皇女だった時、辺境の皇族たちにそのような挨拶を受けていましたか?」
「そ、それは……」
「それに、さっきからなぜため口なんですか? ちゃんと敬語を使ってください。」
侯爵夫人の口から「はっ」と感嘆詞のような声が漏れた。
しかし言葉はなかった。
無理もないことだ。
「はい、お望み通りにご挨拶いたします。シルビア・エルロスがフィルローメル皇女に正式にご挨拶申し上げます。これでよろしいでしょうか?」
大きな鰐の口を隠して鋭い牙を剥き出しにするようなシルビアの態度に、フィローメルは一言、力を込めて言った。
「仰ってください。」
「な、何ですって!」
「仰ってください。それが第一継承者に対する正式な挨拶方法ではありませんか?」
実際、平民や下級貴族でもない限り、正式な場でそのような礼儀を欠くことはほとんどなかった。
羞恥心からシルビアの顔が赤く染まった。
当然だ。
結婚後、地位は侯爵夫人になったものの、もともと平民だった彼女は貴族の中で最も格下の扱いを受けていた。
皇后も公式の場では彼女を認めることはなく、社交界では侯爵夫人の存在など無きに等しいものであった。
しかし、怒りは別のところで爆発した。
「兄が皇帝になるというのに、お前が何の後継者だって?」
母親の代わりのようにリアムが鋭い声で叫んだ。
そして、その瞬間。
「何の騒ぎだ?」
皇帝が登場した。
エルロス侯爵夫人とローガンの顔は青ざめた。
まだ幼いリアムは、自分が発した言葉がどれほど危険であるか理解していないようだ。
「皇帝の実子でない傍系の皇族が次の皇帝になるとは。十分に反逆の素地となる発言だった。」
『リアムの言葉を聞かれていたかもしれない!』
フィローメルは急いで皇帝に近づき口を開いた。
「陛下!リアム・エルロスがこんなことを言いました。『自分の兄が次の皇帝になる』と。それが本当なのでしょうか?皇位第一継承者である私を差し置いて、ローガン・エルロスが皇帝になるなどということが可能なのでしょうか?」
慌てたエルロス侯爵夫人は言葉を失った。
「陛下、違います!私の息子はそんなことを言ったことはありません!」
「……」
皇帝は何も言わなかった。
皇帝が自分たちを見捨てるつもりではないと思ったのか、ローガンも驚きながら毅然とした態度を見せた。
「その通りです。皇女殿下が聞き間違えられたのだと思います。」
皇帝が言った。
「……では、皇女が嘘をついていると言うのか?」
侯爵夫人は少し震えた後、薄笑いを浮かべた。
「恐れ多いことですが、その通りです。元々、子供たちは注目を集めたがるもので、嘘をつくことなどありません。だからと言って、皇女殿下をあまり叱らないでください。子供とはそういうものですから。」
「母上の言う通りです。ただ、些細な嘘をついただけです。」
侯爵夫人とローガンは一体となってフィローメルを嘘つきとして追い詰めた。
信頼される後継者であれば、論理的に反論すべきところだが、予期しない状況に言い返す言葉がすぐには浮かばなかった。
こんなとき、自分が弱い子どもであることが一層悔しかった。
「あ、違うんです……。私は本当に聞いたんです、陛下。」
その瞬間、フィローメルの目にじわりと涙が浮かんだ。
しかし、その瞬間。
ユースティスが身をかがめ、フィローメルと視線を合わせた。
彼は小さな頬を伝う涙を手でそっと拭った。
「お前は嘘つきじゃない。」
「……!」
「お前が嘘つきなら、私も嘘つきだ。私も聞いたんだから。」
「へ、陛下!」
瞬間、侯爵夫人の整った顔が真っ青に染まった。
そのまま状況を理解したローガンが静かに目を伏せた。
「……大罪を犯しました!未熟な弟が心配で、つい過ちを犯してしまいました!」
「兄さん?」
リアムが後ずさりした。
「どうしたの?みんなそうだったじゃないか。陛下も兄さんを後継者として密かに考えているって……」
「うるさい!」
バシッ!
ローガンが弟の頭を叩いた。
「兄さんが何で僕を叩くんだよ! ううっ……!」
リアムはすすり泣きを始めた。その場は混乱状態に陥った。
「陛下、弟が言ったことは嘘です。私と両親は弟にそのような話をしたことはありません。」
「そ、そうです!私の息子は想像力が豊かすぎて、その空想を現実と思い込んでしまったようです。」
フィローメルを嘘つきだと責め立てていた二人は、今度はリアムを嘘つきに仕立て上げた。
信じていた家族に裏切られたリアムの顔は、大きなショックを受けた様子だった。
「そこまでだ。」
氷のように冷たい声に場が静まり返った。
「私があまりに目を離していたようだ。まさか目の前で陰謀を企む者たちがいるとはな。」
暖かい風が吹いていたはずなのに、一瞬で空気が凍りついたようだった。
彼ら自身もこれほど恐ろしい雰囲気を作り出せるとは思っていなかった。
「そ、そうですね、だから……。」
エルロス侯爵夫人は言葉が詰まり、まともに話すことができなかった。
賢そうに振る舞っていたローガンも、顔が青ざめ、口が開かないほど怯えていた。
「シルビア、お前をそのまま放置しておいた理由は、手を汚すほどの価値もないからだ。」
「ユ、ユースティス……。」
エルロス侯爵夫人は完全に萎縮し、かつて裏切りをはたらいたシルビアの様子は見る影もなかった。
「ここで首をはねられたくなければ、子どもたちを連れて消え失せろ。今日はもう、お前たちの血を見る気はない。」
こうして三人は姿を消した。
後に聞いた話では、エルロス侯爵の爵位と財産はすべて没収され、シルビアと二人の息子は皇籍から名前を抹消されたという。
皇籍を剥奪された者たちは神聖な力を封じられたまま、一生監視下に置かれ、平民として生きなければならなかった。
謀反の罪にしては軽い罰だったが、誰もがエルロス一家が本当に謀反を企てたわけではなく、ただ息子たちが皇室の一員として認められなかったために追放されたと知っていた。
後日、フィローメルが知ったところによると、彼らはそこでさえ貴族ぶり、傲慢な態度を取り続けたため、周囲に裏切られ、乏しい暮らしを強いられていたという。
まあ、それもどこまでが真実であるかは分からない。単なる噂話に過ぎないのだが。









