もう泣いてもいいですか?

もう泣いてもいいですか?【39話】ネタバレ




 

こんにちは、ピッコです。

「もう泣いてもいいですか?」を紹介させていただきます。

ネタバレ満載の紹介となっております。

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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

【もう泣いてもいいですか?】まとめ こんにちは、ピッコです。 「もう泣いてもいいですか?」を紹介させていただきます。 ネタバレ満載の紹介とな...

 




 

39話 ネタバレ

登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。

  • 落ちた華

眩しい夏の日差しが降り注ぐ屋外とは対照的に、イズリエラの部屋は厚いカーテンで閉ざされ、深い闇に沈んでいた。唯一灯るろうそくの微かな炎がなければ、目の前すら見通せないほどだった。

「……うぅ……」

イズリエラは泣き腫らした目を両手で押さえたが、溢れ出る涙は止まらなかった。

これからどうすればいいのだろう。退学処分となったあの日、実家から迎えに寄こされたのは、使用人さえ敬遠するような粗末な馬車だった。その薄汚れた馬車を目にした瞬間、彼女の目の前は真っ暗になった。これから家でどんな扱いを受けるか、容易に想像がついたからだ。

案の定、邸に戻っても父は一度も視線を合わせてくれず、母は泣き叫びながら「顔も見たくない」と彼女をこの部屋へ閉じ込めた。

態度を変えたのは両親だけではない。あれほど嬉しそうに「シアン教授の正体を探れ」と騒ぎ、手紙で指図を寄こしていた兄は、一転して「お前のせいで俺の人生まで台無しだ!」と罵り、掴みかかろうとさえした。使用人たちが必死に止めなければ、本当に殴られていただろう。

家族ですらこの有り様なのだ。他人はどれほど自分を見下し、嘲笑うだろうか。

「会ったとしても、きっと笑いものにされるだけ……」

今まで親しくしていた令嬢たちも、街で会えば気づかないふりをして陰でこそこそ噂するに違いない。もしかしたら、目の前であからさまにせせら笑われるかもしれない。

「どうしてこんなことになってしまったの……?」

数ヶ月前までの栄光が嘘のようだった。当時はどんな催しでも彼女が主役であり、「首都の夜会にイズリエラがいないなんて物足りない」とまで称賛されていたのだ。正式な社交界デビュー前であるにもかかわらず、誰もが彼女を「未来の社交界の華」と疑わなかった。英才院に合格した時はその声名も絶頂に達し、同年代の少女たちは彼女が築くであろう人脈を羨望の眼差しで見つめていたものだ。

『将来、英才院のサロンに招待してね』とすり寄ってきた手代理の友人たちの顔が浮かぶ。

未来は薔薇色の花道だと信じて疑わなかった。だが、それはすべて儚い幻想だった。英才院を退学になったばかりか、皇帝の逆鱗に触れてしまったのだ。一族の恥晒しとして、一生を暗闇で過ごすしかないのだろうか。

押し寄せる絶望に身を震わせながら、イズリエラは自分をこの地獄へ叩き落とした元凶の名を呪うように呟いた。

「イビ・エルデン……!」

自分はこんな結末を迎えたというのに、あの小娘は今頃さぞ楽しい日々を送っているのだろう。奥歯を激しく噛み締めると、ギリッと嫌な音が響いた。

周囲の貴族たちは口を揃えて言っていた。――『あれはただの一時的な同情だ』『皇帝陛下が亡くした皇女の面影を重ねて可愛がっているだけだ』『本物の皇女が生きてさえいれば、あんな孤児に陛下が関心を示すはずがない』と。

その時、廊下に人の気配がして、重々しい音を立てて扉が開いた。

食事を運ぶ侍女以外に訪れる者などいないはずの部屋だ。驚いて振り向くと、そこに立っていたのは冷徹な眼差しをした父、伯爵だった。

「お父様……」

「身なりを整えて出てきなさい」

「……はい?」

「早くしろ!」

怒気を孕んだ厳命に、イズリエラは慌てて衣装部屋へ駆け込んだ。以前なら毎日のように新しいドレスが仕立てられていたのに、英才院から戻ってからは部屋の管理すら放棄されていた。クローゼットに残された質素な服に着替え、恐る恐る父の前に立つ。父は彼女を頭の先から足元まで値踏みするように眺めると、無言で身を翻した。

イズリエラは必死でその後を追った。冷酷に突き放していた父が、わざわざ自分を呼びに来たのだ。何が起きたのかは分からないが、この機会を逃すわけにはいかない。

「お父様、私は……」

「今、応接室に貴いお方がお見えだ」

父は娘の言葉を遮り、声を潜めて言った。

「貴いお方……ですか? どなたなのでしょう」

「いずれ分かる。その方は、お前の隣に置く『貴族の友人』を求めておられる。だからお前を連れていくのだ」

話の意図が全く掴めなかった。由緒ある名門の当主である父が「貴いお方」と呼び、ここまで恭しく遇する人物など、この帝国には皇帝陛下くらいしか思い当たらない。そんな人物が、なぜ自分のような泥に落ちた令嬢を友人に望むというのか。

伯爵は足を止め、鋭い視線を娘に突き刺した。

「イズリエラ、お前がどれほど大きな過ちを犯し、我が一族を笑いものにしたかは分かっているな? だが、今回お前がうまく立ち回れば、すべてを帳消しにできる」

「えっ? どうやって……?」

「その方のお気に入りとなり、お側で誠心誠意お仕えするのだ。そうすれば、これまでの不始末など些細な出来事として忘れ去られ、一族は大いなる栄誉を授かることになる」

皇帝の冷え切った視線が脳裏をよぎり身体がすくんだが、それ以上に「元に戻れる」という甘美な響きがイズリエラの理性を支配した。

「はい、やります! 何でもします! 私は何をすればいいのですか?」

「中にいらっしゃる方と友達になるのだ。そして、その方に貴族の礼儀作法をすべて叩き込め。侍女のように影となり、あのお方が何一つ不自由しないよう尽くすのだ」

その時、応接室の豪華な扉が静かに開き、一人の少女が姿を現した。

年齢は七、八歳ほどだろうか。身なりは一応整えられているものの、着ている服は明らかに古びており、流行遅れのものだった。

少女が近づいてくると、伯爵は信じられないほど深く、恭しく頭を下げた。イズリエラはその光景に目を見張った。あのプライドの高い父が、これほど平伏する相手など見たことがない。

「この子が、伯爵の言っていた私の新しいお友達?」

少女は鈴を転がすような声で、傲然と伯爵に話しかけた。状況が全く理解できず、イズリエラはただ唖然とその姿を見つめるしかなかった。

金色の髪に、深い緑の瞳――その少女の顔立ちを凝視した瞬間、イズリエラの背筋に強烈な戦慄が走った。

(この子……イビ・エルデンにそっくりだ……!)

「夏休みだ――!」

「ばんざーい!!」

英才院の一学期終了を告げる鐘の音が響き渡ると同時に、教室のあちこちから割れんばかりの歓声が上がった。

当然、イビたちの机の周りも例外ではない。

「やっと終わったぞ!」

ルスカーは勢いよく椅子の上に飛び乗ると、両腕を突き上げ、まるで長年の牢獄から解き放たれた囚人のように狂喜乱舞した。イビは隣で嬉しそうにパチパチと拍手を送っていたが、アイリーンとアルセル、そしてマレス教授の三人は「また始まった……」と言いたげな呆れ顔を隠そうともしなかった。

「学生という罪で学校という名の檻に監禁され、勉強という名の刑罰を受け……うわあっ! 教授、痛いですって!」

調子に乗って演説をぶっていたルスカーの耳を、いつの間にか背後に迫っていたマレス教授が容赦なく引っ掴んだ。

「何が監禁だ、この馬鹿者が! 勉強のどこが刑罰だ? 学生の本分だろうが!」

「うわっ、いたたた! 先生、マジで千切れますって!」

涙目になって騒ぐルスカーを見ながら、アイリーンはエレガントに耳を塞いだ。

(このバカ、長期休み前だからって輪をかけてバカになってるわね……)

「ともかく、これで一学期も無事に終わりだな」

ようやくルスカーの耳を放したマレス教授は、どこか名残惜しそうに呟いた。机を囲む四人の子どもたちを見つめる彼の瞳には、かつてないほどの満ち足りた誇らしさが宿っていた。

元々は誰かを教える気など毛頭なかったのだ。名誉教授の席に名前だけを置き、適当に給料を貰いながら個人研究に没頭し、引退後は手厚い年金で余生を送る――それがマレスの描いていた完璧な人生設計だった。

しかし、その平穏な隠居生活は、一人の少女の登場によって劇的に塗り替えられた。

(これも全部、イビのおかげだな……)

自分の講義への申込者がたった一人だと知った時は、難解な課題を出して初日で追い返してやろうと企んでいたのだ。それが蓋を開けてみれば、とんでもない福の神が転がり込んできた。一つを教えれば十を理解し、毎日目を輝かせて飛んでくる質問はどれも専門家顔負けの鋭さ。気づけば老体に鞭打ち、全力で知識を注ぎ込む日々が始まっていた。

しかも、その福の神は一人ではなかった。アイリーンを連れてきたかと思えば、次にはアルセルやルスカーまで巻き込み、気づけば賑やかな私塾のようになっていた。四人の瑞々しい才能と向き合ううちに、マレスは忘却の彼方にあった若き日の記憶を思い出していた。まだ自分が若く、純粋に学問への情熱を燃やし、熱心な学生たちと議論を交わしていたあの頃の輝きを。

ちょうどその頃、かつての優秀な教え子であるルシから近況を知らせる手紙が届いた。マレスは本当に久しぶりに、温かい返書を認めた。手紙を受け取ったルシは大喜びし、イビを自分たちの学術的な集まりへ招待したいと言ってきたのだ。

『みんなが待っていますから、先生もぜひ来てください』という言葉を見た時、マレスの胸には熱いものが込み上げた。年齢を重ねるにつれ、中央の派閥争いや俗世の人間関係が嫌になり、自分を慕ってくれる大切な教え子たちまで遠ざけてしまっていたことを今更ながら後悔した。だが、幸いにもまだ遅すぎはしなかったのだ。

(二学期が始まれば、秋の社交シーズンだ。その時はイビを連れて、弟子たちの集まりへ行こう)

誇らしい我が愛弟子を皆に紹介できる日が今から待ち遠しかった。だが、同時にマレスの脳裏には、少し気の重いイベントも浮かんでいた。

秋の祝祭――四季の祭りの中でも最大の規模を誇る、収穫と栄光を祝う大晩餐会だ。その期間は皇宮をはじめ、帝国のあらゆる大貴族たちが豪華絢爛な宴を開催する。当然、英才院も例外ではない。

普段は厳格な制服で統一されている学生たちも、その日だけは最高級の礼装を身に纏うことを許され、会場は絢爛豪華に彩られる。

(あのシアン・ロセンの奴め、『私がうちの子の手を引いてエスコートできるじゃないか!』と息巻いていたな……)

現在、英才院の主任教授であり、イビを正式な弟子に迎えたシアン教授は、隙あらば自分が彼女の公式な後見人になれないかと画策していた。そうすれば、イビの生活をより完璧にサポートできるだけでなく、秋の宮廷晩餐会にも堂々とエスコートできるからだ。

地方の孤児院で育ったイビが、突然そんな大夜会に参加すればどれほど気圧されるか分からない。しかも英才院の秋の宴は、実質的に「後見人たちの戦場」でもある。互いに自分の弟子や我が子の優秀さを競い合い、人脈を広げるための苛烈な社交の場なのだ。

「教授! それで、夏休みの宿題は何ですか!?」

突然響いたルスカーの大声に、マレス教授は思考を引き戻された。今にも教室を飛び出していきそうなほど身体をウズウズさせている少年を見据え、教授は意地悪く口元を歪めた。

「ルスカー、お前は上級数学の問題集を一冊丸ごと終わらせてこい。アイリーンは私が厳選した応用問題を三十問だ。イビとアルセルは宿題なし」

「えええっ!? なんで俺だけ一冊丸ごと大盛りなんですか!?」

「当然だ、この怠け者め! 隙あらばサボることしか考えていないお前への特効薬だ。アイリーン、お前はこれくらいすぐに解けるだろう。イビとアルセルは……まあ、これ以上課題を出す必要もないからな」

「ひどいです、先生! 差別だ!」

「自分の普段の行いを呪うんだな!」

ひとしきり賑やかな押し問答が響いた後、マレス教授は優しい眼差しで子どもたちを見つめた。

「じゃあ、休暇中も気をつけて過ごすんだぞ。私は夏休み中も大抵この研究室にいるから、分からないことがあったり、暇になったらいつでも遊びに来なさい」

「はい! ありがとうございます、教授!」

イビの元気いっぱいの返事に、マレス教授は満面の笑みで手を振った。「先生、俺が分からなくて泣きつきに来たら優しくしてくださいね……」とブツブツ呟くルスカーの頭を軽く小突きながら、四人の背中を見送る。

遠ざかっていく子どもたちの背中、特にアイリーンの手をぎゅっと握って楽しそうに笑っているイビの姿を見つめながら、マレスは温かい安堵の息を漏らした。

夏休みの間はアイリーンの邸に滞在するのだと聞いている。あの様子なら、この長い休暇の間も、あの子が寂しい思いをすることは決してないだろう。



要点は、以下の3点です。

  • イズリエラの没落と謎の少女との出会い

    英才院を退学となり、家族からも冷遇されて絶望していたイズリエラですが、復権を狙う父親の命令である「貴いお方」の部屋へ連れて行かれます。そこにいたのは、父親が平伏するほどの身分でありながら、なぜか宿敵イビ・エルデンに酷似した容姿を持つ謎の少女でした。

  • マレス教授の心境の変化とイビへの感謝

    最初は隠居生活を送るつもりだったマレス教授ですが、一学期を通じてイビたちの才能と情熱に触れたことで、忘れていた教育者としての喜びを取り戻し、秋には自慢の愛弟子として自分のコミュニティへイビを招待しようと計画しています。

  • 英才院の夏休み突入とそれぞれの課題

    一学期が終了し、子どもたちが歓声を上げる中で夏休みの宿題が言い渡されました。優秀なイビとアルセルは宿題免除、アイリーンは応用30問、そして日頃の怠け癖をとがめられたルスカーは問題集一冊丸ごとという対照的な休暇の幕開けとなり、イビは寂しさを感じることなくアイリーンの家へと旅立ちます。

 

 

 

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