こんにちは、ピッコです。
「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
55話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 記憶のピースと秘密の薬
「後継者が完全に油断している状態とのことです。扉が開けば合図を送る魔道具を渡してありますので、確認でき次第、直ちに突入いたします」
「よし、引き続き報告を続けろ。あの子は――」
チェサレは、暗闇に停めてある馬車を顎でしゃくった。
「少しでも計画に狂いが生じれば、すぐに始末しなければなりません。監視を続けておけ」
「はい、承知いたしました」
「いや……」
背を向けていたジェミエルは足を止め、再び馬車の方へ向き直った。チェサレが一瞬、身構える。
「やはり確認しておこう」
ジェミエルが馬車へ歩み寄ると、後ろについていたチェサレが勢いよく扉を開け放った。
座席の上には、子どもがひとり入りそうなほど大きくて分厚い麻袋がぽんと置かれていた。
「これがバリエルトの娘か? 何歳だったか……七歳と言っていたな。この大きさならちょうどいい」
そのまま連れて来いと命じてあったのだから、中で動いているはずなのに何の反応もない。ジェミエルが怪しんで手を伸ばした、その時――。
ガタッと、麻袋が一回だけ小さく揺れた。かすかに物音も聞こえる。
「息だけはできるようにして、口は塞いであります」
ジェミエルは満足そうに手を振った。
「よし。私が合図したらすぐに連れて来られるようにしておけ。レギアを見つけ次第、まずは子どもの話を切り出すんだ。身動きひとつ取れないようにな」
「承知いたしました、ご主人様」
子どもの準備は整った。
後継者を襲う準備も、すべて完了している。
今日を無事に乗り切れば、当然その後始末や責任追及はあるだろう。だが、どうせカッセル・デ・レギアさえ殺してしまえば、あとは罪を軽く見せかけて「正当防衛だった」と言い逃れすれば済む話だ。
(……あの狂犬を始末し忘れるところだったがな)
あの狂犬さえ消してしまえば、すべては思い通りに進む。
バリエルトの老いぼれなど、レギアさえいなくなれば牙を失った虎も同然だ。孫娘を人質に取られて、果たしてまともに剣を振るえるだろうか?
「ははっ! はははは!」
ジェミエルは耐えきれず、高らかに笑い声を上げた。
これでセリア・デ・バリエルトに続き、カッセル・デ・レギアまでもこの手で葬ることができる。
前の人生では時間がかかったが、今回は絶好の機会を掴んだ。呆気ないほど簡単に始末できそうだ。
ふと思い出した過去の記憶。皇位が移り変わり、勢力図が塗り替えられていく中で起きた数々の出来事。
どれほど長い歳月を、耐え忍んでいただろう。眠っていても飛び起き、歯を食いしばるような苦しい日々だった。
(よく耐えた、私よ……)
ようやく、再び圧倒的な権力を手にする時が来たのだ。
今回の件さえ片付けば、デスリン公爵が残りはすべて引き受けると約束してくれている。あとは高みの見物を決め込み、良い地位が巡ってくるのを待つだけでいい。
ジェミエルはチェサレに襲撃準備を命じ、決行の時を待った。
人質の少女を乗せた馬車は、追跡を逃れるため、さらに安全な場所へと移動させた。
それから、しばらくして――。
チェサレから決行の合図が届いた。
「始めろ!」
ジェミエルは冷酷に命令を下すと、自らも人質を隠してある場所へと急いだ。
「お祖父様!」
お祖父様の屋敷へ着くと、窓の外で私を待っているお祖父様の姿が見えた。
馬車の扉が開き、ジェラードに抱えて降ろしてもらうと、私は一直線にお祖父様のもとへ駆け寄った。そして、そのまま大きな胸に飛び込む。
「おお、私のかわいい子。うちのお姫様! 今日は人形劇を見てきたそうだな」
私はパッと顔を上げた。
「えっ、どうして知ってるの?」
「このお祖父様に知らないことなどないさ。楽しかったかい?」
「はい! ルスフェーに会ってきました。それに、そこで新しいお友達もできたんです。コービン・ローレルっていう子で、すごく礼儀正しいんですよ」
「お友達もできたのか。それは良かった」
「あれ……? お祖父様、髪がまた黒くなっています」
少し前までは元通りの綺麗な赤色になっていたのに、また黒髪に戻っていた。
「魔法の粉を振りかけたんだよ。……ところで私のかわいい子、お腹は空いていないかい?」
「さっきおやつを食べました!」
「それでも、こんなにお腹がペコペコじゃないか。さあ、中へ入って美味しいものを食べよう。……ジェラード」
「はい、閣下」
「ちょうど魔法の粉が切れてしまってね。ひとつ買ってきてくれるか? ゆっくり行ってきても構わんよ」
ジェラードは深く静かに頭を下げた。
「かしこまりました。行ってまいります」
「もう夜なのに……」
私がもじもじしていると、ジェラードはニコリと優しく笑った。
「大丈夫ですよ、お嬢様。すぐに戻ってまいります!」
「うん! 気をつけてね、ジェラード」
「お嬢様も、お体を大切になさってください」
ゼンダもそう言って丁寧に挨拶をした。私は離れていくジェラードに向かって、両手をぶんぶん振った。
レギア侯爵邸は、一見するといつもと変わらない静けさに包まれていた。
だが、合図が送られると同時に、計画通り侯爵邸の重々しい門が開かれた。
「まずはレギア侯爵を探せ!」
仮面をつけた刺客たちが、一斉に敷地内へと雪崩れ込む。
しかし、内部へ突入した騎士たちは、違和感を覚えてすぐに足を止めた。
「待て……」
「どうしてこんなに静かなんだ?」
周囲を見回しても、人影ひとつ見当たらない。まだ屋敷の奥まで進んでいないとはいえ、使用人のひとりすら居ないのは明らかに異常だった。
仮面の騎士たちが困惑し、不穏な気配に身を硬くしたその時――。
一人の騎士が、暗闇の一点を見つめて叫んだ。
「しまっ……罠だ!!」
叫び声と同時に、今まで気配すら殺していた黒い影たちが一瞬で現れ、彼らを完全に包囲した。
それが幻覚なのか実体なのかすら判別できない。どこからともなく、冷ややかな忍び笑いまで聞こえてくる。まるで悪魔の巣窟に自ら足を踏み入れてしまったかのようだった。
『お客様をお迎えしろ』
主人の命が、余裕たっぷりに響き渡る。
その頃、ジェミエルは馬から降りると、一人で悦に入った笑みを浮かべていた。
どうすればバリエルト家を、より惨烈に崩壊させられるか。
それを考えるだけで、愉快でたまらなかった。
「そろそろ動くか」
領地戦でもない首都で、貴族の屋敷を襲撃するなど極めて異例の暴挙だ。下手をすれば皇宮が近いため大問題に発展する。
だが、ジェミエルはこの千載一遇の好機を逃すつもりはなかった。
正当防衛を装うため、彼は自らの屋敷の裏門をわざと破壊させ、近くの森の一部にも火を放たせておいたのだ。
どうせ死人に口なし。あとは自分に都合よく口裏を合わせればいい。
本来ならその場でカッセルを殺すよう命じていたが、万が一に備えて生け捕りにするよう指示も追加してある。
今日、レギオ家の後継者は跡形もなく焼け死ぬことになるのだ。
(しょせん歴史の浅い一族。今日、その歴史に終止符を打ってやる。皇位争いに乗じて手に入れた権力も、すべて我が手に……)
「美しい演奏でも聴きたい気分だな」
ジェミエルは満足げに鼻歌を混じえながら、人質を乗せた馬車へと向かった。
ガタンッ!
乱暴に扉を開けると、そこには相変わらず小さな麻袋が転がっていた。暗くてはっきりとは見えないが、袋はかすかに揺れている。
(眠り薬でも飲ませたのか? 静かに連れ去るためとはいえ、扱いが雑だな。まあ、自業自得だ)
ジェミエルが薄笑いを浮かべながら手を伸ばした、その瞬間――。
袋の中身が、突然暴れ出した。
「おとなしくしろ!」
少女とは思えないほどの猛烈な暴れようで、まるで捕まえられた野性の小動物が袋の中で暴れ狂っているかのようだ。
ドタバタという大きな音に一瞬気押されたが、ジェミエルはすぐに苛立ちを募らせた。
「チッ、バリエルトの血筋のくせに、忌々しい……」
だからこそ、血統というものは恐ろしい。
ジェミエルは舌打ちをしながら、麻袋を縛っている硬い縄に手をかけた。
その時――。
「ご、ご主人様――っ!!」
切迫した叫び声とともに、激しい馬の蹄の音が近づいてきた。
ダカッ、ダカッ、ダカッ!
馬車のすぐそばで無理やり馬を止め、一人の男が転がるように飛び降りてくる。
チェサレと同じく彼の補佐役を務めるイルレクだった。
麻袋から手を離したジェミエルは、露骨に不快感を露わにした。
「何事だ! 騒々しい!」
「そ、それが……あ、あの屋敷が! 侯爵邸が燃えています!」
ジェミエルの苛立ちは頂点に達した。
「当たり前だ! レギア侯爵邸に火を放てと命じたのは私だぞ! 何を今さら狼狽えている!」
「違います! 違いますご主人様!」
馬車から降りたジェミエルに向かって、イルレクは青ざめた顔で絶叫した。
「侯爵邸ではありません! 燃えているのは……ご主人様のお屋敷です!!」
「……なっ!?」
ジェミエルは目を見開いた。
――同時刻、ジェミエルの屋敷は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
レギア侯爵邸へ侵入した刺客たちは、誰一人として逃げることを許されず、全員が生け捕りにされていた。死なない程度に徹底的に打ちのめされ、頑丈な鎖で縛り上げられている。
そして、同じ頃。
「一人たりとも逃がすな!」
「逃がしたら、己の首を差し出せ!」
あらかじめ潜伏していたレギア家の精鋭部隊が、ロンド侯爵邸へと一斉に突入していた。
水を得た魚のように暴れ回り、目につく敵を容赦なく叩き伏せていく。
「た、助けてくれーっ!」
「火事だ! 火事だーっ!」
悲鳴を上げて逃げ惑うロンド家の兵士や使用人、さらには運悪く居合わせていた悪徳貴族たちまで次々と制圧され、ジェミエル・デ・ロンド侯爵邸が落ちるまで、二時間もかからなかった。
無駄のない、完璧に計算された電撃戦だった。
一方、屋敷が燃えているという報告を聞いたジェミエルは、顔色を変えて馬車へ駆け戻り、人質の麻袋の縄を強引に解いた。
「な、何だこれはーっ!?」
袋が開いた瞬間、飛び退くように驚いたジェミエルは、そのまま無様に尻もちをついた。
「ピーッ!!」
甲高い鳴き声とともに袋から飛び出してきたのは――一頭の小さなノロジカだった。
ノロジカは馬車から躍り出ると、あっという間に夜の森の奥へと走り去っていった。
地面に尻もちをついたまま、ジェミエルは信じられないという表情で、空っぽになった麻袋を呆然と見つめることしかできなかった。
「チェ……チェサレを呼べ!! チェサレはどこだぁっ!!」
狂ったような叫び声が、暗い森に虚しく響き渡った。
お祖父様の屋敷で過ごす夜。
叔父さんも家におらず、今夜は帰ってこられそうにないとのことで、私はそのままお祖父様の屋敷に泊まることになった。
「このお祖父ちゃんが子守唄を歌ってあげようねぇ」
「本当ですか!?」
「もちろんとも!」
お祖父様が歌ってくれる子守唄を聞きながら、私はぬくぬくとベッドに入った。お祖父様は、叔父さんが家に帰ってきたらすぐにここへ来るように伝えておくとも約束してくれた。
やっぱり、お祖父様は最高だ。
けれど……翌日になっても叔父さんは現れなかった。
その代わり、ゼンダが「『ペンディベル』について知っている人がここにいます!」と急いで知らせに来てくれた。
「本当!?」
お絵描きをしていた私は、あまりの嬉しさに勢いよく立ち上がり、手中のクレヨンをバキッと半分に折ってしまった。
「はい。念のためベラ様にお尋ねしたところ、ご存知でした」
ベラ先生は、お祖父様の主治医で、このお屋敷に住んでいるお医者様だ。
どうして今まで気づかなかったんだろう! お医者様なら、薬のことなんて一番詳しいに決まっているのに!
やっぱりゼンダは物知りだし、本当に天才だ。
「うん、うん!」
「薬草の本もお借りしてきました、お嬢様。それによると、本当に実在する薬草のようです。ペンディベルの根は、非常に珍しい病気の治療に使われるとか」
「珍しい病気?」
ゼンダは手際よく分厚い本を開いた。あらかじめ栞を挟んでいたのか、すぐに目的のページが表示される。
「『妖精の呪い』とも呼ばれる病気で、眠り続けるうちにだんだんと体力が衰えていくそうです。ええと……このように申し上げてもよろしいでしょうか」
「眠り続けて、そのまま死んじゃうの……?」
ゼンダに説明してもらうまでもなく、私には分かっていた。本に、はっきりとそう書かれていたからだ。
「はい、その通りです。そのお薬がなければ生きられないなんて、本当にお気の毒な病気ですね……」
何年もの間、自分の意思とは関係なく眠り続け、そのままひっそりと命を落としてしまう恐ろしい病気。その病を治す唯一の薬が『ペンディベル』なのだ。
コンコン。
ゼンダと一緒に本を読み込んでいると、部屋の扉が優しくノックされた。
「ベラです。入ってもよろしいでしょうか?」
「はい! どうぞ!」
お祖父様の主治医の先生だ!
濃い紫色の髪に片眼鏡をかけたベラ先生が、部屋の中へ入ってきた。
膝まで届く真っ白な衣を纏ったベラ先生は、切れ長の目を細めて微笑むと、右頬に可愛らしいえくぼと小さなほくろが浮かび上がる。
「ベラ先生、おはようございます!」
「おや、お嬢様。朝食はもう召し上がりましたか?」
「はい! さっきいっぱい食べました!」
「それは何よりです。先ほどペンディベルについてお尋ねでしたね。まだお伝えしていないことがありましたので参りました」
「あ、呼んでくだされば私から先生のところへ行きましたのに……」
「いいえ。お嬢様がお帰りになる前に、一度お顔を見ておこうと思いまして。それに、お嬢様も少し成長されたと伺いましたので、順調に育っておられるか診せていただこうかと」
私は慌てて両手で口をギュッと押さえた。
(叔父さんがいないから、「あー」って口を開けさせる人がいないんだ! ベラ先生は私の歯を確認しに来たんだ……ここも危険だぞ!)
もう少しで犬歯みたいな歯が生え揃うのに! あと少し我慢すれば、もう恥ずかしくなくなるんだから!
私の必死な様子に苦笑しながら、ベラ先生は本題を切り出した。
「それから……ペンディベルは希少な薬草なのですが、現在はある商団が独占的に販売しているのです」
「独占ですか?」
私が尋ねる前に、ゼンダが乗り出した。私は目を丸くしてベラ先生の言葉を待つ。
(独占……?)
「ええ。もし本当に必要なのだとしたら……あまり良い方法ではありませんが、裏で人を雇って手に入れるしかないとお伝えしたくて」
「人を雇って手に入れる……とは、どういう意味でしょうか?」
「よりによって、それはロンド侯爵が管理している商団でしか流通していない薬なんだよ。バリエルト家やレギオ家なら大抵の薬は手に入るが、それだけが入手できないのはそれが理由だ」
「……」
「ただ気になって聞いたとお伺いしましたが、もし本当に必要なら前もって言っておこうと思いましてね。ロンド側は、バリエルト家の人人間には絶対にその薬を売ってくれませんから」
ゼンダは少し困ったように微笑んだ。
「あ、それは違います。実はお嬢様が気になさっていただけなのです。昨日、人形劇をご覧になった際に、その名前をお耳にされたそうで」
ベラ先生は驚いて目を丸くした。
「えっ? お嬢様がお知りになりたかったのですか?」
私は何度も力強く首を振った。
「そうです!」
「お嬢様が薬草に興味をお持ちだなんて……驚きましたが、実に頼もしいですね。お嬢様くらいのお年でこんなことに興味を持つお子様は初めて見ましたよ」
「新しいことを知るのは、全部楽しいんです!」
「ふふ、それなら安心いたしました。もしやお嬢様がその薬を必要とするご病気なのかと、心配してお伺いしたものですから」
ベラ先生に何度も頷いて見せたけれど、私の頭の中では別の考えがグルグルと駆け巡っていた。
(ロンド……!)
お母さんが手記に残していた、「蛇のような目をした亀に気をつけろ」という言葉。
そして何より、私自身の失われた記憶の中にあった言葉。
やっぱり、すべてが繋がった!
『独占』という意味なら、私だってよく知っている。昔、お母さんがたくさん教えてくれたから。
ロンド……。
ジェミエル・デ・ロンド。
(これだけ分かれば、叔父さんに絶対に伝えられる……!)
私は勢いよく顔を上げた。
「ゼンダ! 私、手紙を書きたくなった!」
要点を3つにまとめました。
-
ジェミエルの逆襲失敗とレギア家の裏をかく電撃戦
ジェミエルはアイカを人質に取り、レギア侯爵邸を襲撃してカッセルを罠にはめようと画策しました。しかし、すでに看破していたレギア側の返り討ちに遭い、人質だと思っていた麻袋の中身も野生のノロジカにすり替えられており、逆にジェミエルの自邸が焼き払われて壊滅しました。
-
『ペンディベル』の正体とロンド侯爵の関与
お祖父様の屋敷に滞在していたアイカは、主治医のベラから「ペンディベル」が眠り病の薬であり、敵対するロンド侯爵(ジェミエル)の商団が独占販売している事実を知らされます。
-
記憶の繋がりと叔父カッセルへの手紙
「ペンディベル」と「ロンド」の名から、母の手記の警告や自身の記憶の欠片がすべて繋がっていると確信したアイカは、この重大な手がかりを叔父のカッセルに伝えるため、急いで手紙を書くことを決めます。