こんにちは、ピッコです。
「悪党おじさんと暮らしています!」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
50話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 闇夜の宣戦布告
「子ども一人いるだけで、こんなにも変わるものなんですね?」
レギア伯爵邸の廊下をカッセルの後ろについて歩きながら、ケルポディア伯爵リカルドはしみじみと呟いた。
屋敷に足を踏み入れた瞬間から、弾むようなにぎやかな話し声と楽しげな笑い声が聞こえていた。先ほどまで笑顔ではしゃいでいた侍女たちは、二人の姿を認めるや否や、表情を正して一礼し、まるで稲妻のような速さできちんとその場から姿を消した。
その後ろでは、子どもたちが楽しそうに二階へ駆け上がっていく姿が見える。途中で立ち止まって何やらひそひそと話している様子は、いかにも微笑ましい。リカルドの息子ルスフェーが、アイカの手を引かれてちょこちょこと後ろをついて行く姿は、見ているこちらまで心が和むものだった。
「用事がある場所へ行く。お前も一緒に来なさい」
少し前まで見せていた堅苦しい父親の口調とは裏腹に、リカルドの声音はどこか柔らかい。
「どちらへ行かれるのですか?」
「ついて来れば分かる」
「父上、ですが今日は授業があります」
「先生には私から話しておく」
リカルドがこの邸宅を訪れるのは初めてではない。頻繁ではないものの、四半期に一、二度は足を運んでいた。だが、これほどまでに邸内が穏やかで、明るい空気に満ちているのを見るのは、今日が初めてだった。ちょうどこちらへ来る用事があったため、ついでに息子を連れてきて正解だったとリカルドは内心で頷いた。
「気を遣うことが増えましたね」
カッセルが「まったく面倒ですよ」とでも言いたげな顔で肩をすくめると、リカルドは小さく笑った。文句を口にしながらも、カッセルは子どもたちが二階へ無事に上がりきるのをじっと見届け、それからようやく再び歩き始めたのだから。
応接室に入って席に着くと、間もなく芳醇な香りの紅茶が運ばれてきた。
「この前はありがとうございました。あなたが受け入れてくださったおかげで、多少の損失は出ましたが、品物を傷めることなくすべて納品することができました」
リカルドが先に切り出した。もともとカッセルは社交辞令を嫌う性格で、二人が話すときはたいていリカルドから話を切り出すのが常だった。何より、リカルドは少し前にカッセルから大きな恩を受けていた。新事業が本格始動する直前、商団の事故によって頓挫しかけた際、手を差し伸べてくれたのがカッセルだったのだ。
『一週間以内に運べればいいのですか?』
『一週間は……欲張りすぎですね。十日以内であれば十分です』
『ラルフ商団主を一度訪ねてみてください。解決できるでしょう』
カッセルが紹介してくれたラルフ商団と再契約を結んだおかげで、商品は無事に期限内に流通した。危うく莫大な損失を被るところを、カッセルは報酬も受け取らずに解決してくれたのだ。だが、リカルドは知っている。カッセル・デ・レギアという男は、誰かに恩を施したなら、必ず別の形で見返りを受け取る人物だということを。だからこそリカルドは、今日どんな協力を求められても、快く力を貸すつもりでここへ来ていた。
「それなら、ラルフ商団に直接お話しにならず、私を通してくださったのですね」
「商団主がレギア(※レギス)でなければ、今でも依頼を引き受けてもらえなかったでしょう。ですから、お礼も兼ねてもう一度ご挨拶したくて伺いました」
リカルドは返事を待ちながらティーカップを手に取った。紅茶の香りが口いっぱいに広がる中、カッセルが静かに口を開いた。
「では今回は、私の頼みも聞いていただきたい」
リカルドは小さく微笑み、再びティーカップを口元へ運んだ。
「お聞かせください」
「ロンドとラホードに潜り込ませている間者を、少し貸してください」
ゴホッ、ゲホッ!
飲み込みきれなかったお茶が喉につかえ、リカルドは慌ててカップを置いて喉を押さえた。
「また……どうやってそれを知ったんです?」
動じる様子のないカッセルがくすりと笑う。
「おかげで、私も少しは手間が省けそうです。せっかくですし、目障りなゴミは片づけておこうと思いまして」
「難しい相手ではありませんが……本当にロンドに手を出すおつもりですか?」
自由な「ええ」
その揺るぎない返事を聞いて、リカルドはしばらく考え込んだ。自信を深めた彼は、静かに腹をくくった。
ヴァリエルト家(※バリエット家)だけでなく、自身のケルポディアにとっても、何かにつけて邪魔をしてくるジェミエル・デ・ロンドは目の上のたんこぶだった。それを直接始末してくれるというのなら、正直なところ両手を挙げて歓迎したい話だ。
「まあ……好きに利用してくださって構いません。ただ、どこまでお考えなのかだけは聞いておきたいですね」
ロンドはデスリン家とかなり深い繋がりがある。排除した際の後々の反動は計り知れない。名門同士の争いである以上、確かな大義名分がなければかえって自分たちが危うくなる。
「土台ごと叩き潰すつもりです」
「ぶっ――!」
今度は紅茶を飲んでもいないのに、リカルドは思わず激しくむせてしまった。
ロンドの中枢を叩く。それは、一つの公爵家(※侯爵家)を丸ごと歴史から吹き飛ばすと言っているようなものだった。もともと情け容赦のない男だとは知っていたが、一体ロンドがこれほど「狂犬」の逆鱗に触れる何を仕出かしたというのか。
だが、リカルドにとっては願ってもない絶好の機会だ。
「確実な証拠は?」
「ほとんど準備は整っています。あとは餌が必要なだけです」
「うーん……確かな証拠があるのならともかく、まずは小さいところから手を付けたほうがいいのではありませんか? いくらなんでも、これ以上レギア侯爵の評判が悪くなってしまい……」
そこでリカルドは言葉を切った。
そうだった、この男のあだ名は「狂犬」だ。これ以上悪くなる評判など、この世に存在するはずもなかった。
カッセルはその思考を見透かしたように、冷ややかに笑った。
「これ以上、下がる評判でもありますか?」
「……っ。い、いえ、その……。ですが、思った以上に大きな争いになるかもしれません。本当に決意は固いのですか?」
「ええ」
カッセルは一切ためらうことなく答えた。そんな程度のリスクを恐れるくらいなら、最初から始めてなどいない。
(私の子に手を出した代償は、必ず払わせる)
カッセルの頭の中は、その冷徹な怒りと決意だけで満たされていた。
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ケルポディア伯爵が帰り、夕方遅くには幼いルスフェーも帰っていった。
夜も更けて――。
カッセルはもう何時間も仕事に手がつかず、邸宅の庭にある椅子にぼんやりと腰掛けていた。
『未来が見えるの。だから分かったの。叔父さんとおじい様が危険な目に遭う気がして……。二人を助けたかったの』
空気を読んで恐る恐るその言葉を打ち明けた姪、アイカの怯えた姿を思い返すたび、カッセルの胸の奥はずきずきと痛んだ。
これほどまでに打ちのめされるような気分になったのは初めてだった。惨憺たる思い、という言葉がこれほど似合う夜はない。
『未来に起こることが見えるの。これはお母さんと私だけが知っている特別な力なの。お母さんと秘密にする約束だったから、おじさんには言えなかったの。嘘じゃないよ。本当にごめんね、おじさん……』
これまで姪を疑い続けてきたすべての答えが、あの小さな口から語られた瞬間、カッセルは完全に言葉を失った。あの小さな頭で、これまでどれほど悩み、一人で恐怖に震えてきたのだろう。少し突いただけで倒れてしまいそうなほどか弱き子どもが。
(セリアが七年間、自分の命まで懸けてあの子を隠し育ててきた理由は、これだったのか……)
ただ魔法を使うだけなら、「天才だ」と言って見守ることもできただろう。だが、未来の予知など、聞いたこともない異能だ。普通なら詐欺師の戯言だと笑い飛ばすような話だが、これまでアイカが見せてきた奇妙な言動のすべてを思えば、もう信じないわけにはいかなかった。
『叔父様! 行っちゃダメ!』
『叔父様、今日は出かけないって約束したじゃない。うそつき!』
あのか弱い子が、自分の身を挺して私を守ろうとしていた。私をかばおうと全身に力を込め、必死に手を引いたあの時、あの子がどれほど恐ろしい未来を見ていたのか――想像することすら悍ましかった。
「はぁ……ちくしょう」
カッセルは深くため息をつき、もどかしさに頭を乱暴にかきむしった。
その時だった。背後から衣擦れのような小さな物音が聞こえた。反射的に鋭い視線を振り返るが、そこにはただ一本の太い柱があるだけで、誰もいない。
いや、一見何もないように見えるが、ちょうど七歳の子どもの手が届くほどの低い位置から――どこか間の抜けた顔をした人形が、ひょこっと顔をのぞかせていた。
「ふっ……」
あまりに真剣な苦悩の最中だったというのに、カッセルは耐えきれずふっと吹き出してしまった。
「ピーナッツ」
声をかけると、人形はすっと柱の裏へ消えた。カッセルは少しうつむきながら、軽く首を振った。
「アイカ、おいで」
優しく静かな声で呼びかけ、その場で待つ。
しばらくすると、柱の陰からアイカがそっと顔をのぞかせ、おずおずと出てきた。片手にはあのはぐれ人形をぶら下げている。あの妙な人形を買い与えてからというもの、アイカは他の豪華な人形には目もくれず、それだけを肌身離さず持ち歩いていた。どこがそんなに気に入ったのかは、大人のカッセルにはさっぱり分からない。
最初の頃のアイカは、周囲を警戒しているようでいて、実際は悪戯の隙を狙っているだけだった。だが今は、本当にこちらの顔色をうかがうように縮こまっている。カッセルは思わず苦笑し、手を差し出して「おいで」と指先で合図した。
アイカは身を隠すようにしながらも、一歩、また一歩と近づいてくる。
完全に目の前まで来たところで、カッセルはアイカの細い両腕をそっと掴んだ。ずいぶん大きくなったと思っていたが、こうして触れてみると、まだ本当に小さい。あれほどの予知の負荷に耐える力が、一体この体のどこに隠されているのか不思議になるほどだった。
(この小さな体で、私を助けると言ったのか……)
「なんでまだ寝てないの?」
低く問いかけると、アイカは気まずそうに視線をそらし、丸い瞳がきょろきょろと泳かった。
「……おじさんに挨拶してから寝ようと思って」
「柱の後ろに隠れてか?」
「わ、私、出てこようとしてたの。でも、おじさんが呼んだから」
「そうだったの?」
アイカは一生懸命に首を縦に振った。カッセルは愛おしさを隠すように、アイカの額を軽く指ではじいた。
「もう遅い時間だ。挨拶はもう済んだことにして寝なさい。ゼンダには?」
「ゼンダには言ってきた」
「じゃあ、もう寝なさい」
体の向きを変え、背中を軽く押して送り出そうとした。だが、アイカはその場に踏みとどまり、振り返った。
「おじさん、つらいの?」
幼い声が、静かな夜の空気を切なく切り裂いた。
「そんな言葉、どこで覚えた?」
「昔、覚えたの」
カッセルは思わずまた吹き出してしまった。
「そうですか?」
「本当だ」
唇を尖らせるアイカの頬を、カッセルはぎゅっとつまんで引っ張った。
「本当に生意気だな」
「あっ、ひどい!」
アイカはカッセルの腕にしがみつき、大げさに顔をしかめて見せた。そんな風に大人の機嫌を取ろうとする健気さが、余計に胸を締め付ける。
「おじさん、それじゃ私のこと嫌いなの?」
「おい、誰が嫌いだなんて言った?」
「じゃあ、好き?」
その真っ直ぐな言葉に、カッセルは静かに手を差し出した。アイカは人形を持っていない方の小さな手を、カッセルの大きな手のひらにそっと重ねた。大人の手の半分にも満たない、驚くほど柔らかくて温かい手。
その手の甲を優しくなでながら、カッセルは姪の瞳をじっと見つめ、静かに、けれど重く告げた。
「ピーナッツ」
「うん?」
「もしお前に何かあったら……おじさんは死んでしまう。だから、そんなもの(未来)は見るな」
「でも、見えちゃうんだもん……」
アイカの表情が真剣になり、小さく眉をひそめた。
「ピーナッツ、おじさまと約束を一つしよう。危ないものを見たら、すぐにおじさんに話すこと。一人で何とかしようとするな。何一つ隠さず、全部すぐに話すんだ。分かったな?」
「全部?」
「そうだ。隠したら、その時は本当におじさんは怒る。もし私がいなかったら、レトやジェラードに話せ。それも無理なら、ゼンダにでも話すんだ。ほかの人には絶対に言わず、私にだけ話せばいい。心配しないで何でも話しなさい。おじさんが全部何とかしてやるから」
しばらく考え込んでいたアイカが、意を決したように顔を上げた。
「本当に?」
「ああ。おじさんが嘘をつくところを見たことがあるか?」
「……ううん」
アイカは唇をきゅっと結び、カッセルをじっと見つめた。
「どうした。なんで返事しない」
「……分かった、おじさん。何一つ隠さない」
アイカは抱きしめていた人形をさらにぎゅっと腕に力を込めると、大きく息を吸い込み、堰を切ったように胸の内を吐き出し始めた。
「実はね、おじさん。私、とっても怖かったの。おじさんが怪我するところを見たし、おじいちゃんの護衛のおじさんも怪我して、レトも怪我して……すごく怖かった。それに……お花屋さんのお姉さんのことも、本当はすごく嫌いだった。お母さんのお友達だと思ってたのに違ったから、裏切られた気がして腹が立ったの……!」
小さな“ピーナッツ”は、ずっと胸に溜め込んでいたドロドロとした恐怖や怒りを、すべて吐き出していく。話しているうちに涙が込み上げてきたのか、「おじさんが私を信じてくれなくて、帰れって言ったから寂しかった!」と、小さな拳でカッセルの手のひらをぽかぽかと叩いた。
カッセルは拒むことなく、その小さな拳の痛みをすべて受け止めていた。叩く力が次第に弱まり、アイカの胸の寂しさがようやく消え去るまで、静かに待ち続けた。
アイカは何度か小さく深呼吸をした。
「ピーナッツ、全部話したか?」
「……うん」
「これで少しはすっきりしたか?」
問いかけると、アイカは今日一番の、屈託のない笑顔を咲かせた。その顔からは、先ほどまでの怯えも寂しさも、完全に消え去っていた。
「うん! おじさん」
「約束したんだから、もう中に入って寝なさい。おじさんは明日から忙しくなるから、しばらく会えなくても我慢するんだぞ」
「どうして?」
「いろいろあるんだ」
「どうして?」
「どうしても何もない。忙しいから忙しいんだ。ほら、早く行って寝なさい」
カッセルはもう一度、アイカの背中を愛おしそうにぽんと押し、温かい光が漏れる部屋へと送り出した。明日から始まる戦いがどれほど血生臭いものになろうとも、この小さな笑顔だけは、何に代えても守り抜くと誓いながら。
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カッセルとリカルドの密談と「ロンド家」壊滅への決意
カッセルは、過去に恩を売っていたケルポディア伯爵リカルドから間者を借り受け、アイカを脅かす敵である名門「ロンド家」を土台ごと叩き潰す冷徹な決意を固める。
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アイカの異能を知ったカッセルの葛藤と誓い
夜、庭で一人悩むカッセルは、アイカが「未来予知」の恐怖に一人で耐えながら自分を守ろうとしていた事実に打ちのめされ、何があってもこの小さな命を守り抜くと心に誓う。
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叔父と姪の約束と、胸に溜めた想いの解放
様子をうかがっていたアイカに対し、カッセルは「危ない未来を見たら一人で抱え込まずにすぐ話す」という約束を交わす。アイカは信じてもらえなかった寂しさや恐怖を全て吐き出し、笑顔を取り戻して眠りにつく。