こんにちは、ピッコです。
「抱かれるたびに泣くくせに」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
29話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 還ってきた忠義の剣
「もう、日が暮れてしまうわね」
深い森の小道を歩きながら、クレセンティアは小さくため息をつき、木々の隙間から覗く空を見上げた。
彼女は今、ヒルダとともにシュライの墓地を探していた。
エーリッヒの執務室で盗み見た報告書には、大まかな地域名しか記されておらず、具体的な場所までは分からなかったのだ。地元の人々に尋ねることも考えたが、余計な詮索や疑いを招くわけにはいかない。万が一、エーリッヒや現王朝の国王ジグの放った追手に察知される事態も防がねばならなかった。
情報を得る手段が皆無である以上、こうして自らの足で歩き回るのが最善の道だった。
クレセンティアは冷え込んできた両手をこすり合わせた。
「ティア、明日また出直しましょうか?」
「ええ、そうしましょう」
答えたヒルダの口元から、白い息が頼りなくこぼれ落ちる。
彼女もクレセンティアと同じように、目立たないようスカーフを頭に深く巻いていた。帝国に比べれば温暖な土地とはいえ、やはり冬の寒さは容赦ない。
とりわけレギナの冬は、朝晩の寒暖差が激しかった。昼間はうららかな春のように暖かくとも、日が落ちれば一気に極寒の闇へと変わる。
そのため、クレセンティアはかつて毎年のように冬になると風邪をひいていた。
帝国にいた頃は不思議と一度も崩さなかった体調が、ここへ来てにわかに崩れそうになっている。やはり体質ではなく、故郷の気候が体に染みついているのだろう。早くも体がぶるりと小さく震え始めていた。
「急に冷え込んできたわ。急いで戻りましょう」
クレセンティアはヒルダの手を握り、歩調を速めた。
仮の住まいとして借りている宿は街中にある。手がかりを求めて森の奥深くへ入り込んでしまったため、完全に闇に包まれる前に戻らねばならなかった。
――その時だった。
ヒュッ、と空気を切り裂く鋭い音が響いた。
直後、何かがヒルダの頬をかすめて背後の大木に突き刺さる。
クレセンティアがハッとして視線を走らせると、そこには深く射込まれた一本の矢が小刻みに震えていた。
風の音などではない。紛れもない、殺意を乗せた矢の音だった。
(誰……? 一体、誰なの……!?)
動揺を押し殺しながら周囲の暗闇を見回したが、暮れなずむ森はただ不気味に静まり返り、射手の姿を捉えることはできない。
クレセンティアはヒルダの手を強く握りしめ、耳元で低く囁いた。
「走って!」
二人は整備された土の道を飛び出し、鬱蒼とした茂みの中へと駆け込んだ。開けた道の上に突っ立っているのは、格好の標的になるだけで自殺行為に等しい。
できるだけ身を隠せる場所を探さなければならなかった。
クレセンティアは幹の太い大木を見つけると、その影に滑り込むように身を寄せ、ヒルダをきつく抱き寄せた。ヒルダも状況の異常さを察し、息を殺して彼女を抱き返す。
今の二人に、頼れる味方はお互いしかいなかった。ただ恐怖に震えながら、気配を消して潜むことしかできなかった。
「……」
クレセンティアはヒルダと視線を交わした。
人通りの途絶えた夜の森。矢を射かけてくるなど、普通の山賊である可能性が高かった。神殿の預かり所に預けた最小限の指輪を除き、大半の貴重品は今も身につけている。それらを奪われるわけにはいかない。
「くそっ、逃げられたぞ!」
しばらくの沈黙の後、枯れ葉を踏み荒らす足音とともに、男の苛立った怒鳴り声が静寂を破った。
「王女を生け捕りにしろ! 探せ!」
頭目らしき男の鋭い指示が飛ぶ。
木の葉をかき分ける音が四方に広がり、複数の足音が確実に自分たちの潜む場所へと近づいてきた。
クレセンティアは心臓が口から飛び出しそうなほどの緊張感の中で、固唾をのんだ。
リーダーらしき男が放った言葉に、脳裏が真っ白になる。
盗賊ではない。
相手は、自分の正体を知っている。最初から、クレセンティアという存在だけを明確に狙って追ってきたのだ。
(どうしよう……)
焦燥に駆られ、ヒルダを見つめる。
いくら貴族のたしなみとして護身術を学んできたとはいえ、実戦経験のない令嬢が、武装した男たちを相手に生き延びられる保証などどこにもない。
唯一の救いは、まだ居場所を特定されていないことだけだった。見つかれば、その瞬間にすべてが終わる。
(お願い……このまま通り過ぎて。お願いだから……)
冷え切った空気の中、全身から冷や汗が吹き出す。
恐怖のあまり、じわりと涙が滲み、その一滴が頬を伝い落ちた――まさにその瞬間だった。
「いたぞ!」
荒々しい声が頭上から響き、同時に、冷酷な剣先がクレセンティアの首筋へ突きつけられた。
彼女は乾いた喉を鳴らし、自分を取り囲む影を見上げた。
「王女を見つけました!」
男は闇に溶け込むような黒い夜襲服に身を包み、その顔には不気味な仮面を貼り付けていた。
男の叫びに応じるように、四方の茂みから同様の黒装束の男たちが次々と姿を現す。
「二人のうち、どちらが王女だ?」
しゃがれた声の男が歩み出てきた。先ほど命令を下していた頭目だ。
頭目は、同じように頭にスカーフを巻いた二人の女性を値踏みするように見比べ、陰鬱な声を響かせた。
「ロドビニ王女はどっちだ。大人しく王女さえ差し出せば、もう一人の命は助けてやる」
一見、慈悲深い提案のようにも聞こえた。
クレセンティアは頭目の瞳をじっと見つめ、やがてヒルダを抱きしめていた手を静かに離した。そして、ゆっくりと立ち上がろうとした。
「私が――」
「私が王女です!」
遮るように叫んだのはヒルダだった。ヒルダはクレセンティアを強引に自分の背後にかばい、頭目に向かって必死に叫んだ。
「私を連れて行きなさい!」
「やめて、ヒルダ」
クレセンティアは穏やかだが、毅然とした声で遮り、親友の手をぎゅっと握りしめた。
振り返ったヒルダへ優しく微笑みかけると、彼女は一歩前へと踏み出した。
「私が王女です」
「本当か? 嘘ならただでは済まないぞ」
仮面の隙間から覗くリーダーの目が、疑わしげに細められる。
クレセンティアは悲壮な、しかしどこか覚悟を決めた表情で男をまっすぐに見つめ返した。そして、頭を覆っていた二枚のスカーフへと手を伸ばした。
結び目が解かれ、布地が滑り落ちる。
隠されていたプラチナブロンドの銀髪が、美しい滝のようにさらりと流れ落ちた。月明かりを浴びて神聖な輝きを放つその髪は、雪のように白い肌をさらに際立たせる。
「私が、クレセンティア・ド・ロドビニです」
真正面から見据える彼女の放った凛とした気迫に、武装した男たちの間に一瞬の沈黙が流れた。
しかし、それも一瞬のことだった。
リーダーは嘲るように剣を構え直した。
「ご同行願います、王女殿下」
「その前に、私の連れを解放して。彼女は無関係よ」
「それはできかねるな」
リーダーの口元が醜く歪んだ。
その冷酷な言葉を合図に、二人の黒装束がヒルダの両肩を背後から力任せに押さえつけた。
「この女も連れて行け!」
「嫌! 離して!」
ヒルダは必死にもがいたが、武装した荒くれ者の力に対抗できるはずもなかった。
クレセンティアは取り乱し、声を荒らげた。
「侍女を放しなさい! 必要なのは私だけでしょう!?」
「王女様にお行儀よくついてきてもらうための、人質は多い方がいいんでね」
「抵抗なんてしないわ! だから――!」
「黙れ」
必死に叫ぶ彼女の首筋に、頭目が剣先を押し当てた。
薄い刃が肌に食い込み、鋭い痛みが走る。白い首筋に一本の赤い線が浮かび上がり、鮮血が伝う。
頭目は、ぞっとするほど低い声で脅しをかけた。
「静かにしろ。俺たちは、お前の手足が数本なくなろうが生きてさえいれば構わないんだ」
男はそう言うと、威嚇のために剣を高く振り上げた。その冷たい刃が、クレセンティアの腕を目がけて容赦なく振り下ろされる。
「王女様!」
ヒルダの悲痛な悲鳴が響き渡る。
クレセンティアは覚悟を決め、ぎゅっと目を閉じた。
――しかし、いつまで待っても痛みは訪れなかった。
ガキィン!
金属同士が激しく衝突する、耳を劈くような鋭い音が静夜に響き渡った。
身をすくめていたクレセンティアがおそるおそる目を開けると、そこには、いつの間にか現れた一人の騎士が立っていた。
黒いマントを翻し、騎士服をまとったその人物は、深くうつむいているため顔は定かではない。しかし、その騎士は風のような速さで剣を振るい、仮面の男たちを瞬く間に圧倒していった。
その剣技はまさに圧巻だった。
無駄な動きが一切なく、剣を振るう姿はまるで月夜に舞う優雅な舞踏のようでもある。
ヒュッ、と一陣の風が吹いたかと思うと、ヒルダを押さえつけていた男たちが一瞬で大地に沈んだ。
月明かりに照らされたその影、その髪を視界に捉えた瞬間、クレセンティアの胸がドクンと跳ね上がった。
夜空のように、深い漆黒の髪。
(まさか……)
その名が脳裏をよぎった瞬間、抑えきれない鼓動が全身を支配する。
(エーリッヒ……?)
違う、そんなはずはない。
自分は彼から逃げ出してきたのだ。だが、心臓は裏腹に激しく高鳴っていた。違うと思おうとすればするほど、その人を求めてしまう自分に、彼女は息が詰まりそうになる。
ドサッ。
最後に頭目をも一撃で斬り伏せた騎士は、美しい半円を描くようにして剣の血を払い、静かに鞘へと収めた。
仮面の男たちを一人残らず沈めた騎士は、月光を背に負ったまま佇んでいた。そして迷いのない足取りで、クレセンティアの方へと歩み寄ってくる。
クレセンティアはゆっくりと近づいてくるその影を見つめながら、思わず縋るように手を伸ばした。
距離が縮まるにつれ、月明かりが騎士の素顔を照らし出す。
「あなたは……」
その顔をはっきりと捉えた瞬間、彼女の瞳が大きく揺れ動いた。
「お久しぶりです、王女殿下」
黒衣の騎士はクレセンティアの前に滑らかに片膝をつき、恭しく頭を下げた。
彼女が片腕を膝に添えると、大きなマントが滑り落ち、その下からしなやかで女性らしい体つきが露わになる。
騎士は穏やかな微笑みを湛え、絶対的な忠誠を誓う眼差しで、かつての主を見上げた。
「私のことを、覚えていらっしゃいますか?」
「……もちろんよ。イゾルデ」
クレセンティアは両手を胸に当て、ほっと息を漏らした。
忘れかけていた過去の恩義が、今こうして自分を救ってくれた。その奇跡に胸が熱くなる一方で、一瞬でもエーリッヒの姿を重ね、期待してしまった己の愚かさが酷く気恥ずかしかった。
長身のイゾルデは、以前よりも髪を短く切り揃えていた。その佇まいは凛々しく、だからこそエーリッヒと見間違えてしまったのだろう。
イゾルデ・オスバルト。
かつて無慈悲な貴族アルビンによって、不当に王室騎士団を追放された騎士。当時は処刑されかけた彼女を、偶然居合わせたクレセンティアが毅然と庇い、命を救い出した経緯があった。
イゾルデは立ち上がると、まっすぐにクレセンティアを見つめた。
「助けてくださって、本当にありがとう。あなたのおかげで命拾いしたわ」
「王女殿下こそ、かつて私の命を救ってくださったではありませんか。こうして少しでも恩返しができたのなら、これ以上の光栄はありません」
イゾルデは騎士らしくきびきびとした口調で答えた。
クレセンティアは思わず笑みをこぼし、傍らにいる親友を紹介した。
「こちらは私の友人、ヒルダ・ブレニケよ。ヒルダ、彼女はイゾルデ・オスバルト騎士。私の大切な恩人よ」
紹介を受け、二人は互いに安堵の挨拶を交わした。
聞けば、イゾルデはコレニオンへ追放された後、傭兵として生計を立てていたという。
「……各地を転々とした末、ようやく少し前に故郷へ戻ることができたのです。実は私、このチェカレルの出身なんですよ」
「どうして今になって故郷へ……あっ」
問いかけようとしたヒルダは、クレセンティアのふと曇った表情を見て、慌てて口を噤んだ。
アルビンの命令で追放された人間が、こうして平然と故郷へ戻って来られた理由。それは他でもない、彼らを虐げていたロドビニ王朝が滅び去ったからに他ならなかった。
だが、それを王女である本人の前で口にすることは憚られ、ヒルダはぎこちなく話題を変えた。
「ええと、私たちは今、市内の宿に泊まっているの。宿へ戻る途中だったんだけど、イゾルデはどこへ向かっていたの?」
「家へ帰る途中でした。私の家はこの近くなんです」
イゾルデはヒルダに答えた後、再びクレセンティアに視線を戻した。
男たちから逃げ惑い、森に隠れていたせいで、クレセンティアの衣服には土汚れや枯れ葉が点々と付着している。その視線に気づいたクレセンティアは、照れくさそうに笑いながらドレスを軽く払った。
「酷い格好ね」
「ご無事で何よりです。私がもう少し遅れていればと思うと、ゾッとします……」
イゾルデはそこで一度言葉を切り、深く考え込むようにクレセンティアを見つめた。
「失礼ながら、王女殿下。もしかして……何者かに追われていらっしゃるのですか?」
「あ、それは……」
あまりにも率直な問いに、クレセンティアは言葉を詰まらせた。ヒルダもまた、どう説明すべきか戸惑うように唇を噛む。
気まずそうな空気を察したイゾルデは、申し訳なさそうに言葉を続けた。
「無礼な質問でしたらお許しください。ただ、本来なら帝国にいらっしゃるはずの殿下が、護衛もつけずに侍女と二人きりでこのような場所におられること自体、不自然極まりありません。それに、先ほどの者たちの様子を見るに……」
イゾルデは、地面に転がっている黒装束たちへと視線を向けた。
クレセンティアは小さく息を吐き、赤らんだ顔を上げた。かつての栄光を知る人物に、このような逃亡者としての惨めな姿を見られるのは恥ずかしくもあったが、今さら見栄を張る局面でもない。
「……その通りよ」
クレセンティアはまっすぐにイゾルデを見据えた。
「私は逃亡中なの。大公家を密かに抜け出してきたわ。これからは王女でも大公妃でもなく、ただの一人の普通の人間として、静かに生きていく覚悟よ」
その告白を聞いたイゾルデの表情が、一気に引き締まる。
「大公家からの逃亡」という事実が持つ重さに、ヒルダも緊張した面持ちで二人を見つめていた。
一瞬、イゾルデがこのことを大公や現王朝へ密告するのではないかという不安が、クレセンティアの胸をよぎった。だが、彼女に嘘だけはつきたくなかった。イゾルデは誇り高き誠実な騎士であり、何より命の恩人なのだ。
「だから……どうか、私を見なかったことにしてほしいの。こんな我儘なお願いをして、本当にごめんなさい」
「……」
イゾルデはすぐには答えず、じっと沈黙を守った。剣の柄にそっと手を添え、深く思考を巡らせる。
夜はすっかり更け、周囲の森には虫たちの細い羽音だけが響いていた。
「……今、お泊まりの宿は安全なのですか?」
イゾルデの真剣な問いに、クレセンティアはかすかに微笑んで答えた。
「ひとまずは、市内の一般的な宿に潜んでいるわ」
「チェカレルはひどく小さな町です。『隣の家にあるスプーンの数まで筒抜けだ』と言われるほど、噂の回りが早い。見慣れない余所者がいれば、明日にも尾鰭がついて噂が広まるでしょう」
「それじゃあ……」
「私の家へ来てください」
イゾルデの毅然とした提案に、クレセンティアとヒルダは驚いて顔を見合わせた。
「先週戻ったばかりで、新しく家を構えたばかりなのです。近所の人々には、いとこの姉たちが訪ねてきたと紹介すれば、怪しまれることはありません」
「お気持ちは本当に嬉しいわ。でも、そんな危険なことにあなたを巻き込むわけにはいかない」
辞退しようとするクレセンティアの手を、ヒルダが心配そうに、しかし何かを期待するようにそっと握った。
イゾルデはそんな彼女たちを見て、悪戯っぽく肩をすくめた。
「あの家は、かつて王女殿下から退職の際にいただいた、エメラルドの耳飾りを売って購入した家なのです。ですから厳密に言えば、私の家ではなく、殿下の家なのですよ」
照れくさそうに微笑む彼女を見て、クレセンティアの胸の奥に、かつてのエーリッヒの冷ややかな問いかけが蘇った。
――『どうして名もなき騎士にそこまで高価な宝石を贈ったのだ?』
あの時のエーリッヒの顔は、どうだっただろう。
「一緒に暮らそう」と、心を殺したような冷たい声で契約を告げてきた時と同じ、あの無機質な表情。
『恩返しでも、同情でも、憐れみでも構いません。あなたはただ、借りを返したかったのでしょう。受ける側の気持ちなど、どうでもよかったのだから』
エーリッヒはそう言った。
けれど、クレセンティアは誰かを憐れんだり、自己満足で施しを与えたりしたわけではなかった。イゾルデの気持ちを軽んじたことも、ただの一度もない。
ただ純粋に、彼女の未来を救いたかっただけなのだ。
そして今、そのささやかな善意は長い時を経て、温かな「情」という形で自分のもとへ返ってきた。
善意は、決して裏切らない。
たとえ、エーリッヒがそれを信じられなくとも。
「……ありがとう。それじゃあ、これからよろしくね、イゾルデ」
「どうか敬語はおやめください。これからは家族のように暮らすのですから」
クレセンティアはイゾルデの差し出された手をそっと握りしめた。
そして、これまでの不安をすべて吹き飛ばすかのような、まばゆい笑顔を浮かべた。
それは、かつて華やかな王宮の王女だった頃よりも、ずっと晴れやかで、美しい微笑みだった。
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暗い夜の森での襲撃と、王女を狙う仮面の男たち
シュライの墓地を捜索していたクレセンティアとヒルダは、日没の森で突如として矢を射かけられる。襲撃者は単なる山賊ではなく、最初から王女であるクレセンティアを狙って生け捕りにしようとする仮面の暗殺者集団だった。
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絶体絶命の危機と、エーリッヒの幻影を打ち消す「元騎士イゾルデ」の救出
人質にされたヒルダを救うため、クレセンティアは銀髪を晒して正体を明かすが、冷酷に剣を振り下ろされる。その窮地を救ったのは、かつてクレセンティアに命を救われ、一瞬エーリッヒと見紛うほどの卓越した剣技を持つ元王室騎士イゾルデだった。
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明かされた逃亡の決意と、善意が繋いだ新たな共同生活
大公家を抜け出し一人の人間として生きる決意を伝えたクレセンティアに対し、イゾルデはかつて王女から賜った耳飾りを売って建てた自宅へ二人を招待する。エーリッヒの「自己満足の施し」という冷たい言葉とは裏腹に、彼女の純粋な善意は巡り巡って、温かな隠れ家という形で返ってくるのだった。