こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
165話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 幼き日の初恋
双子たちが生まれて数ヶ月が過ぎた頃。
レリアは、「産後の身体を休めるべきだ」と頑なに彼女を束縛していたオスカーから、ようやく自由を取り戻した。
その間、やりたいことをずっと我慢していたレリアは、取り戻した自由を謳歌するように忙しなく動き回った。新聞や本を隅々まで読み漁り、祖父のペルセウスとは新しい事業に関する具体的な対話を交わした。また、母のエリザベスや叔母のアティアス、叔父のカリウスと一緒にシュペリオンの賑やかな繁華街を見て回り、買い物を楽しむこともあった。
夜になると、レリアはオスカーの腕の中で、その日にあった出来事を一つ一つ楽しそうに話して聞かせた。そのたびに、オスカーは優しい眼差しで耳を傾け、穏やかに微笑んでくれた。
(オスカーも、ようやく少しは気持ちが落ち着いたみたいね)
以前の彼ならば、レリアが自分から少しでも離れようとすれば、火のついたような執着で目を光らせ、どこまでも後を追ってきたに違いない。けれど今では、レリアが他の家族と外出する日であっても、大人しく赤ん坊たちを両腕に抱いて見送るほどには落ち着いた様子を見せていた。
(子どもたちが生まれてくれたおかげかしら?)
いずれにせよ、レリアはそれを幸運なことだと思っていた。それだけオスカーが根源的な不安から解放され、心に平穏を取り戻してきた証拠なのだから。
「本当に幸せ……」
レリアは何も知らず、ただそんな風に思いながら安堵していた。
オスカーがその強大な魔力の力を用いて、いつでも彼女の動向を完全に把握し、守ることができ、本人が望めば一瞬にしてその傍らに現れることができるという恐ろしい事実に、夢にも気づいていなかった。
今日は、珍しく公爵家に大切なお客様たちが訪ねてくる日だった。
レリアは爽やかな雰囲気をまとった淡い黄色のドレスに身を包み、鏡の前に立っていた。
「オスカー、どうかしら?」
ドレスの着用を手伝ってくれたオスカーは、レリアの背後に立ち、鏡越しにその姿をじっと見つめていた。
「……着せたことを後悔するくらい、綺麗だ」
「それってどういう意味?」
レリアが意味を測りかねて振り返ると、オスカーは無言のまま、たった今留めたばかりのドレスの背中の留め具を再び外し始めた。
「あ、待って、わかったわ! ごめんなさい、冗談よ!」
ようやく彼の意図を理解したレリアは苦笑し、オスカーの肩を軽く叩いた。オスカーは悪戯っぽくレリアの頬にキスを落としてから、再び甲斐甲斐しく彼女のドレスを整え、自分のネクタイを直した。
すべての準備を終えた後、レリアはオスカーと名残惜しげにキスを交わし、赤ちゃん用のベッドで規則的な寝息を立てている子どもたちには、愛おしげな投げキスを送った。
そして、彼女が向かったのは建物の裏手に位置する広大な温室だった。
叔母のアティアスと母のエリザベスが丹精込めて管理しているこの温室では、今日、盛大なティーパーティーが開かれる予定だった。パーティーの主役はアティアスで、招待されたのは彼女と親しくしているシュペリオン領地の有力な貴婦人たちだった。
レリアは特に今日、叔母の友人たちに自らが手がけた新しい香水を紹介するつもりでいた。
レリアは妊娠と出産という大仕事を経験したことで、女性の身体について多くのことを考えるようになっていた。
そのため、彼女は「錬金」の技術を利用して、いくつかの新しいレシピを研究していたのだ。主に、未婚・既婚を問わず、すべての女性の健康と美を支えるための「錬金」の薬だった。
これらの薬を単なる商業的な事業として売るのではなく、まずは福祉の一環としてシュペリオン領地の人々に無償で分け与えたいと考えていた。そのためには、どうしても地元の有力な女性たちの人手と協力が必要だったのだ。
その話を事前に聞いたアティアスが、姪の力になろうと、すぐさま親しい貴婦人たちを招待する場を設けてくれたのだった。
「第一印象が何より大事よね」
温室の重厚な扉の前で、レリアは緊張を隠せないまま、インベントリから手鏡を取り出してもう一度自分の身だしなみを確認した。それでもまだ不安が拭いきれなかったため、念のために「錬金」のシステムに尋ねてみることにした。
(香水ちゃん、私の今の第一印象はどうかしら?)
【完全好感度100% :-D】
香水の精霊が浮き上がらせた絵文字を見て、レリアは思わず笑みをこぼした。心の中で感動しつつも、表面上は照れくさそうに浮かぶメッセージを確認し、レリアは「よし」と気を引き締め、勇気を出して室内へと足を踏み入れた。
「レリア、いらっしゃい!」
中へ入るや否や、アティアスが弾むような明るい表情で彼女を迎え入れた。そして、約束の時間よりもずっと早く到着して歓談していた叔母の友人たちも、若き公爵夫人の登場に一斉に立ち上がり、洗練された挨拶を交わした。
貴婦人たちとの福祉事業についての話し合いは、驚くほど短時間で、かつ円滑に済んだ。領民のための慈善活動とあって、一同は快くレリアの活動を手伝うと申し出てくれたのだ。
こうして本題があっさりと片付いた後、ふと我に返ると、レリアは貴婦人たちとの他愛のない会話にすっかり引き込まれていた。
叔母のアティアスがなぜ毎日のように友人の家へ遊びに行くのか、その理由が今なら分かる気がした。同じ境遇や関心を持つ女性同士で言葉を交わすことは、想像以上に心を弾ませるものだった。
話したいことは山ほどあり、時間が経つのも忘れるほどだった。夫や子どもをはじめとした家族の微笑ましい愚痴、帝都で流行している最新のファッションやデザートの話題、時には真剣な政治や経済の動向、哲学的な議論や芸術の評価に至るまで、話題は尽きなかった。ユーモアを交えた会話のたびに、温室には華やかな笑いの花が咲き乱れた。
そんな中、無邪気に笑っていたレリアの顔に、一瞬だけ緊張が走った。
「ところで……レリア様の旦那様のことで、ずっとお聞きしたかったのですけれど」
「えっ、オスカーのことですか?」
「ええ! 結婚式で拝見した時、本当に、本当に……言葉を失うほどハンサムでいらっしゃいましたわ!」
「そうなのよ! 私も最初、あまりの美貌にひっくり返りそうになったんだから!」
貴婦人たちが一斉にオスカーの外見を褒めちぎると、アティアスは待っていましたとばかりに誇らしげな表情を浮かべ、自慢の甥の婿が顔立ちだけでなく性格もいかに素晴らしいかを語り始めた。
「うちの甥の婿がどれほど優しいか、貴女方には想像もつかないわ。あの子の目には、本当にレリア一人しか映っていないのよ」
「まあ……! 羨ましい。私もあんな美男子と結婚すればよかったですわ」
「今からでも遅くありませんわよ、奥様?」
「まあ、なんてことを言うの。本当に? 今からでもしっかり男を選び直して、もう一度結婚してみようかしら?」
皆がクスクスと上品に笑いながら、オスカーへの称賛の言葉を続けた。
レリアはそんな周囲の熱狂を前に、少し気恥ずかしいような、けれど誇らしいような妙な気分に包まれていた。
(絶世の美男子を夫に持つって、こういう気分なのね……)
今になって、ようやくその事実を客観的に実感できた気がした。
「ねえ、レリア様。お二人の恋愛中のお話を聞かせてくれませんこと? いつ最初に、彼に胸をときめかせたのですか?」
「ファーストキスのシチュエーションは!?」
「さあ、早く早く、聞かせてくださいな!」
「ええっと……それは……」
次々と浴びせられる熱い質問に、レリアは戸惑って唇をもごもごさせながら、古い記憶の糸を必死に手繰り寄せた。貴婦人たちは彼女のその様子を「恥ずかしがっているのだわ」と好意的に解釈し、すぐに次の新しい話題で盛り上がり始めた。
その賑やかな喧騒をBGMに、レリアは自らの深い思考の海へと沈んでいった。
(私が最初に、オスカーにときめいた瞬間……?)
そう自問した瞬間に脳裏に蘇ったのは、思った以上に古く、幼い頃の記憶だった。
まだシュペリオン公爵家に戻る前、あの孤独な神殿で過ごしていた頃のことだ。
当時のレリアは、温かい家族を持つ周囲の友人たちを、いつもどこかで羨ましく思っていた。
そんなある日、彼女は凄惨な悪夢を見て、冷や汗をかいて目を覚ました。
「ライディオス皇帝が、ここまで私を殺しにやってくる夢だった……」
幼いレリアはベッドの上で膝を抱え込み、ガタガタと震え出した。一度火がついた恐怖は、暗闇の中で膨れ上がるばかりだった。夜が明けるまでの長い間、彼女は「あの残忍な皇帝が今すぐにでも自分を切り裂きに来るのではないか」という恐怖に怯え続けた。
そしてその日の朝、追い打ちをかけるように、一本の手紙が彼女の元に届けられた。
それは、レオ皇太子の代理という名目で流刑地に送られたライディオス皇帝からのものだった。
彼はある時期から、宗女であるレリアを監視・威嚇するために定期的に手紙を送りつけてきていたのだ。初めてその手紙を受け取った時、あまりの恐怖にレリアは友人たちの前で本気で気絶してみせたほどだった。
その後、何度か手紙を受け取ったものの、レリアはどうしてもその恐怖に慣れることができなかった。その日は悪夢を見た直後だったため、恐怖はひとしおだった。
手紙には、「もし私の秘密が外部に漏れた場合、貴様がどこに隠れようと必ず探し出し、五体満足ではいられないようずたずたに切り裂いて殺してやる」という、血生臭い脅迫が書き連ねられていた。悪夢の余韻も手伝って、その言葉の恐ろしさは何倍にも増幅されてレリアの幼い心に突き刺さった。
レリアは震える手でその手紙を火に投じて焼き尽くすと、一人で静かに部屋の外へと出た。
部屋に閉じこもっていると、心配した友人たちが訪ねてきてしまう。今は、大好きな友人たちとさえ顔を合わせる心の余裕がなかった。
彼女が向かったのは、神殿の片隅にある、人通りの少ない小さな庭の池のほとりだった。
休憩室からこっそり持ってきた厚手の毛布を頭からすっぽりと被り、レリアはその場に小さくうずくまって、声を殺して泣き続けた。なぜか、こうして五感を遮断して隠れていれば、恐ろしいライディオス皇帝の目からも逃れられるような気がしたのだ。
安心感と、拭いきれない不安が入り混じった混沌とした感情のまま、彼女は長い間涙を流し続けていた。
そんな時だった。不意に頭上から、低く冷ややかな声が降ってきた。
「そこにいたのか」
「……っ」
レリアはその場に硬直したまま、身動きを取ることができなくなった。泣くことに集中しすぎていたせいで、誰かがここまで近づいてくる足音に全く気づかなかったのだ。
「もしかして、レオを見かけなかったか? アウラリアの皇太子だ」
「……」
涙で濡れた毛布の隙間から耳を澄ますと、その声の主はオスカーだった。
いつも以上に冷淡で刺々しい口調ではあったが、聞き間違うはずのない彼の声だった。おそらく、いつも一緒にいるレオが部屋に見当たらないため、探し回っているのだろう。
レリアは、自分がこんな場所でみっともなく泣きじゃくっていることを、彼にだけは絶対に知られたくなかった。必死に気配を消そうと身体を縮め、普段よりもさらに細くか細い声で答えた。
「……見ていません」
微かに空気を出しただけのような消え入りそうな声だったが、自分の耳にも、まるで年端もいかない哀れな少女の泣き声のように響いた。
「そうですか。わかりました」
幸いなことに、オスカーは声の主がレリアであることには気づいていない様子で、そのまま水辺の小道を通り過ぎようと足を動かした。
レリアは安堵し、もう一度身をすくめて背後の石塀に顔を埋め、こっそりと涙を拭った。
その時だった。
すでに去ったと思っていたオスカーの声が、再びすぐ頭上から聞こえてきた。
「おい」
レリアはびくりと身体を強張らせ、毛布の中でじっと息を潜めた。
隣の草むらから、カサカサと小さな衣擦れの音が聞こえる。
そっと首を回して毛布の隙間から覗き込むと、自分が座っていたすぐ隣の平らな石の上に、綺麗に折りたたまれた一枚のハンカチが置かれていた。
――オスカーのハンカチだった。
茫然とその純白の布地を見つめていると、去り際のオスカーが、小さな声で何かを囁くように呟いた。声が小さすぎた上に、池の水音にかき消されて何を言ったのかまでは聞き取れなかった。けれど、その響きは不思議と温かく、おそらく不器用な彼なりの慰めの言葉だったのだろう。
オスカーはそれ以上何も言わず、再び池の向こうへと歩み去っていった。
レリアは彼が残していったハンカチを、壊れ物を扱うように大切に拾い上げた。
すると、きれいに折りたたまれたその布の隙間から、小さな砂糖菓子が転がり出てきた。それは、レリアが普段から好んで食べていた、神殿のささやかな甘いお菓子だった。
「……」
いつも冷徹で、他人に興味などなさそうに振る舞っている男の子なのに、こんな風に隠れて泣いている誰かを、そっと慰める優しさを持っているなんて。
その日、レリアはオスカーの胸の奥にある、誰も知らない意外な一面を知ったのだ。
静まり返った庭園で、泣きながらその砂糖菓子を口に含むと、それまで彼女の心を支配していたライディオス皇帝への恐怖が、嘘のようにすっと消え去っていくのを感じた。まるで立ち込めていた深い霧が晴れ、温かな太陽の光が差し込むように。
レリアはそうして涙を綺麗に拭うと、友人たちの待つ部屋へと元気に戻ることができたのだった。
(――ああ、そうか)
意識を現代の温室へと戻したレリアは、当時の切ない感覚を思い出しながら、そっと愛おしげに微笑んだ。
もしかすると、自分はあの瞬間に、すでにオスカーのことに恋に落ちていたのかもしれない。
もちろん今になって思えば、「あの時のオスカーが、私の知らないどこかの女の子を優しく慰めた」という事実に対して、ほんの少しの嫉妬心が湧かないでもないけれど。
(だけど……)
同時に、一つの純粋な疑問が彼女の頭をよぎった。
(あの時、去り際にオスカーが呟いた言葉。一体何て言っていたのかしら?)
その日の午後、ティーパーティーが閉会すると同時に、レリアは急ぎ足で自室へと戻り、待っていたオスカーの元へと詰め寄った。
「ねえ、オスカー! 昔、中立区域の神殿にいた時、庭園の池のほとりで毛布を被って泣いていた女の子のこと、覚えている? ……あれ、実は私だったの。あの時、貴方が最後に去り際、何て言ったのか教えて? ね?」
「……」
突飛な質問を投げかけられたオスカーは、酷く困惑した表情を浮かべ、ただじっとレリアを見つめ返した。そして、静かに口を開いた。
「……あの後、君の友人たちには、『レリアは祈祷室に向かった』と伝えておいたのだが」
「……え?」
レリアは数回、目をぱちぱちと点滅させた後、驚きのあまり大声を上げた。
「貴方、じゃあ、あの時毛布の中にいたのが私だって知っていたの!?」
そのあまりの驚きように、オスカーはついに堪えきれず、ふっと優しく目を細めて微笑んだ。
「いや、あの瞬間は、まさか君が『女の子』だなんて思いもしなかったよ。ただの泣き虫な男の子だとばかり」
「……」
「もっと早く、君の本当の姿に気づいていれば良かった」
オスカーは依然として驚きで硬直しているレリアを愛おしげに見つめると、その柔らかい頬に、幾度も幾度も優しいキスを落とすのだった。
時が経ち、よちよち歩きを始めた双子のリアンとヘルナは、今やシュペリオン城の広大な敷地内を所狭しと歩き回るようになっていた。
そのおかげで、かつては静寂に包まれていたシュペリオン城はますます活気に満ち溢れ、廊下の角から突然赤ちゃんたちが突進してくるたびに、威厳ある騎士たちやベテランの使用人たちが慌てて作業を止め、うろたえながら道を譲る光景が日常茶飯事となっていた。
家族たちも同様だった。孫たちがもたらしてくれる無上の癒やしと楽しさのおかげか、祖父のペルセウスと祖母のユリアナは、以前に比べて確実に10歳は若返ったかのように元気いっぱいに過ごしていた。
ところが最近、その過保護な環境が災いしてか、ちょっとした「事件」が起きた。
ヘルナが、祖父のペルセウスが何よりも大切にしていた極上のガラス工芸品を、誤って床に叩きつけて粉々に壊してしまったのだ。
ガチャン! という鋭い破壊音に驚き、その場にうずくまって火がついたように泣き出したヘルナの姿を見るや否や、祖母のユリアナが凄まじい剣幕で怒鳴り声を上げた。
「貴方! なんであんな危険なガラス物を、子供の手の届くような場所に置いておいたのですか!」
「そ、それは……私が、どうしてそんな責められ方を……」
長年大切に収集していた一級の装飾品だったため、ペルセウスは内心大いに困惑し、ショックを受けていた。しかし、目の前で泣きじゃくるヘルナを叱ることなど彼には到底できなかった。
最初から叱るつもりなど微塵もなかったが、周囲の家族たちが一斉に目を丸くし、鬼の首を取ったような顔で自分を睨みつけてくるものだから、弁明の言葉すら喉に詰まってしまう。
「お父様! ヘルナに対して一度でも大声を出すような真似は絶対に許しませんからね!」
カリウス叔父が厳しく言い放つと、ペルセウスは流石に釈然としない様子で息子の顔を睨み返した。
「……実の父親に対してそんな大声を出すお前の態度は構わないと言うのか?」
「正直、今回ばかりは父さんの完全な落ち度ですよ」
そこへ、叔母のアティアスまでが冷酷な追い打ちをかけるように会話に割って入った。
「赤ちゃんたちが最近、元気いっぱいに走り回っているのは知っているでしょう? 割れたら危ないものを、あんな無防備な場所に飾っておく方がどうかしています。大人なのですから、何よりもまず赤ちゃんたちの安全を最優先に考えるべきでしょう?」
「う、うむ……」
娘にまで理路整然と説教をされ、百戦錬磨のシュペリオン公爵たるペルセウスは、だんだんとしょんぼりと肩を落として小さくなっていった。そのあまりにも哀れな姿を見て、レリアは申し訳なさと気まずさから、手をもじもじと動かした。
ペルセウスはわずかに救いを求めるような、期待に満ちた眼差しで、隣にいた実の娘でありレリアの母であるエリザベスを見つめた。しかし、エリザベスの関心はひたすら、ショックで泣いているヘルナの容態にしか向いていなかった。
この救いようのない気まずい空気の中で、唯一、レリアだけがそっと祖父の元へ歩み寄り、その大きな手を握って慰めた。
「おじい様……本当にごめんなさい。あの装飾品、とても大切にされていましたよね。すぐにロミオに頼んで、魔法と錬金で元通りに修理させますから」
「いや、そんなことはどうでもよいのだ、レリア。それよりもヘルナの身が心配だ。あんな凄まじい破壊音を間近で聞いて、幼い精神に深刻なショックが残ってしまったらどうする!? 今すぐグリフィスを呼んで、精神の安定を計らねばならん!」
周囲の家族たちが止める間もなく、大袈裟に大騒ぎし始める祖父の後ろ姿を見ながら、レリアは「困ったものね」と苦笑するしかなかった。
(このままだと、二人とも将来、もの凄く我儘な子供に育ってしまうかもしれないわ……)
それでも、まだ物心もつかないほど小さいのだから、今のうちは大丈夫だろう。
レリアは、自分とオスカーが幼少期に決して受けることのできなかった溢んばかりの愛情を、この子たちにはこれでもかと過剰なまでに受け取って育ってほしいと願っていた。だが、それはそれとして――。
彼女は、泣き止んだヘルナの手を引いて、やってはいけない事について毅然と叱ることも忘れなかった。
レリアが子供を諭している間、まるで自分たちが叱られているかのように後ろでソワソワと落ち着かない様子で気をもんでいた家族たちだったが……それでも、教育のためのその厳格な時間を、力ずくで止めようとする者は誰一人としていなかった。
子どもたちが生まれてから、初めて迎える「1歳の誕生日」が目前に迫っていた。
双子の記念すべき最初の誕生日を盛大に祝うため、シュペリオン公爵家は一丸となって空前絶後の豪華なパーティーの準備を進めていた。
その影響で屋敷中が朝から晩まで慌ただしく喧騒に包まれており、レリアもどこか気が休まらない日々を過ごしていた。
ある日の遅い午後、レリアはリビングのソファの前に置かれたテーブルの上に、見慣れない数枚の公的な書類が置かれているのを見つけた。
(……フレスベルグ帝国から届いたものかしら?)
ソファに深く腰掛け、詳しく内容を調べてみると、やはり本国であるフレスベルグ帝国に関する機密書類だった。本国の政務に関して、オスカーが時折夜間に忙しく動いていることを知っていたため、レリアは何気ない気持ちで書類のページをめくった。その途中、書類の厚みの間から、小さな紙が一枚、ハラリと床へ滑り落ちた。
(何かしら、これ?)
レリアは重い書類をテーブルに置き、その小さな紙を拾い上げて広げてみた。それは、誰かが丁寧で均整の取れた筆跡で、心を込めて認めた個人的な手紙だった。
『大公閣下へ。
大公閣下……その後、お変わりなくお元気でお過ごしでしょうか?
最近は、決済すべき書類だけが私の机の上に静かに置いていかれるばかりで、閣下のご尊顔を拝見する機会が全くございません。そのため、不躾ながら一同大変心配しております。
こちらの手続きや業務は滞りなく回っており、私も元気に過ごしております。とはいえ、依然として皇城の空気は殺伐としており、私を含め全職員が多忙を極め、ほとんど休む時間もございませんが……。
ああ、そういえば、閣下の元にお生まれになったお子様方の高貴なるお誕生日が、もうすぐだと伺いました。
心よりお祝い申し上げます、大公閣下。
閣下が素晴らしい、幸せなご家庭を築かれていることを、遠い本国の地より本当に嬉しく思っております。
追伸。不躾なお願いではございますが、私たちはいつか、その愛らしいお子様方にお目にかかり、直接ご挨拶を申し上げる栄誉に授かれるでしょうか……?
――アンセン伯爵より』
フレスベルグ帝国において、オスカーの絶対的な命令を受け、本国の膨大な政務を完璧にこなしているという、若くて有能な秘書官がまさにこの人物のようだった。以前、オスカーの口からその優秀さを多少聞いたことがあったのは事実だ。
だが、まさかこれほどまでに切実に、健気にオスカーの帰還を待っていたとは。
(フレスベルグ帝国の皇城は、今とても雰囲気が……)
「殺伐としているようね」
レリアは小さく呟いた。まあ、それも当然のことだった。
現在、フレスベルグ帝国の最高権力者である皇帝の座に座っている存在が、オスカーの魔力によって作られた精密な「人形」であるという事実は、帝国の主要な臣下たち全員が周知している公然の秘密だった。そして、その背後ですべての糸を引いている真の支配者が、まさに目の前の夫・オスカーであるという事実も。
あまりにも常軌を逸した恐ろしい政変が起こったのだから、本国の人間たちがオスカーを神のように恐れているのも無理はなかった。実の父親である先王を弑し、その玉座に偽物の人形を据え置き、影から帝国全土を完全に掌握する若き大公。
(この事実だけで、皆が震え上がるしかないわけで……)
レリアは小さくため息をつきながら、複雑な心境で首を振った。
その時だった。
赤ちゃんたちを浴室できれいに洗ったのか、湯気と共に浴室の扉を開けて出てくるオスカーの姿が見えた。軽やかな部屋着を身にまとい――。
その強大な魔力や冷徹な噂を全て削ぎ落としたかのように、両腕に二人の赤ん坊を大切そうに抱きかかえている彼の姿は、レリアの目にはただただ愛おしく、微笑ましい父親にしか見えなかった。
レリアはその光景をじっと見つめていたが、ふと決意したように立ち上がった。
「オスカー」
「ん? どうした、レリア」
オスカーは手慣れた様子でベッドの上に子供たちを寝かせると、身体を拭いてベビーローションを丁寧に塗り始めた。本来ならば乳母や多くの侍女たちが競ってやるべき仕事だったが、オスカーは子供が生まれて以来、常に自分の手で進んで世話を焼いていたのだ。
それだけでなく、彼はレリアの入浴の際にも当然のように手伝いに入ってくる男なので、レリアにとっては今更見慣れた、日常の光景だった。レリアは自然な動作で彼の作業を手伝いながら、先ほどの手紙について切り出した。
「フレスベルグ帝国から、至急の書類が届いていたわよ」
「ああ、知っている。子どもたちを風呂に入れてから、後で確認しようと思っていたんだ」
「その書類を私が先に少し預かったのだけれど……アンセン伯爵から、貴方宛てに私信の手紙が添えられていたわ」
その言葉を聞いた瞬間、オスカーの端正な眉間がわずかに不機嫌そうに寄った。
「レリア……それは、その男が勝手に――」
「私たち、次の双子の誕生日の記念に、フレスベルグ帝国へ正式に赴こうと思うの」
二人の言葉が同時に重なった。オスカーは、レリアが自分のためにその提案をしてくれたのだと瞬時に理解し、申し訳なさそうに深いため息をついた。
「……君がそう言うなら、行こう。本来なら、俺が直接定期的に本国へ赴き、政務を見るべきだったのだ。これまであまりにも無関心に放り出しすぎていた。それに、君が俺たちのためにわざわざ手配してくれた、本国の素晴らしい別荘にもまだ一度も行けていなかったからな」
「ええ……!」
レリアの顔がパッと明るくなった。
「行きましょう、ね? 私たち、いつも夜遅くに、こっそりベランダから遠くの星の宮殿ばかりを眺めていたでしょう?」
「それは……君がフレスベルグの星空を見たいと言っていたからで……」
「リアンとヘルナにも、あの息をのむほど美しい本国の星空を見せてあげたいの。ねえ、いいでしょう?」
レリアが子供のように袖を引いてせがみ始めると、無敵の大公閣下も形無しで、結局オスカーは「わかった、君の言う通りにしよう」と言って全面的に折れるしかなかった。
こうして、愛らしい双子たちの初めての誕生日を記念する、フレスベルグ帝国への盛大な家族旅行の計画が、華々しく立てられることとなった。
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レリアの自由と変わらぬオスカーの執着
産後の制限から解放されたレリアは慈善活動や家族との時間を謳歌するが、オスカーは落ち着いたように見せかけつつも魔力で彼女の動向を完全に把握し守り続けていた。
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幼少期の「ときめき」の真相と家族の賑やかな日常
神殿で泣いていたレリアを慰めた人物がオスカーであり、彼もまた彼女だと知っていたことが明かされる一方、屋根裏で元気に育つ双子のイタズラや過保護な家族に囲まれ、温かな日常が続いていた。
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秘書官からの切実な手紙と本国(帝国)への家族旅行決定
帝国の秘書官(アンセン伯爵)からの手紙をきっかけに、双子の1歳の誕生日を記念して、オスカーの政務処理と美しい星空鑑賞を兼ねたフレスベルグ帝国への家族旅行が決まった。