こんにちは、ピッコです。
「メイドになったお姫様」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
142話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 薔薇の来訪と反撃の萌芽
コンコン――。
静まり返った部屋に、控えめながらも執拗な扉を叩く音が響いた。続いて聞こえてきたのは、侍女ガネットとリナの悲痛に満ちた声だった。
「お嬢様、お昼のご用意ができました」
部屋の奥、カーテンを閉め切った薄暗がりの中で、シアナは力のない声で短く答えた。
「下げてください。食欲がありません」
「ですが、朝もお召し上がりになっていません……。このままではお体が……」
それは今日に限ったことではなかった。この秘密の邸宅に身を寄せて以来、シアナはほとんど食事を喉に通していない。心配そうに呼びかける二人の声にも、もはや応じる気力が湧かなかった。本当に、何も喉を通りそうになかったのだ。
ガネットとリナは扉の向こうで互いに顔を見合わせ、深くため息をついた。けれど、いつも通りシアナの意思を最優先し、静かに廊下を下がっていった――シアナはそう思い込んでいた。
しかし、違った。
ギィ……と、予期せぬ扉の軋む音が響いた。
「許可もしていないのに部屋に入ってくるなんて……」
焦燥と絶望で神経が尖っていたシアナは、思わず眉をひそめて顔を上げた。そして次の瞬間――信じられないものを見たかのように目を見開いた。無断で足を踏み入れてきたその人物の姿を、見間違えるはずがなかったからだ。
「あ……アリス様?」
薔薇のように鮮やかで瑞々しい赤い髪に、夜空の宝石のようなくっきりとした紫の瞳。間違いなく、彼女の愛すべき公女、アリスだった。
「そうよ、シアナ! あなたの公主、アリスよ!」
花がほころぶような、まばゆいばかりの明るい笑顔を浮かべたアリスは、そのまま部屋を駆け抜け、勢いよくシアナの体に飛びついて抱きしめた。
「……っ!」
あまりに突然の出来事に、シアナは何が起きているのか理解できず、完全に言葉を失ってしまった。
「こ、公女様が……どうしてここに……」
アリスがいる東部は、王都から遥か遠く離れた地だ。馬車を急がせても何日もかかる距離のはずだった。そのアリスが今、自分の目の前に存在していることが、シアナには到底信じられなかった。
アリスは小さく鼻を鳴らし、ふんっと腕を組んで胸を張った。
「あなたとあの男の婚約式をぶち壊しに来たのよ!」
「あ……」
その一言で、シアナははっと我に返った。そうだ、自分はあと数日で、ラシードとの婚約式を迎えるはずだったのだ。だが、あの不条理な大逆事件によって、約束された輝かしい未来はすべて粉々に崩れ去ってしまった。
アリスはむっとした顔で、少し怒ったように口を尖らせる。
「こっちは準備万端で来たのよ?」
シアナを力ずくでも連れ戻すため、アリスは東部の貴重な宝石を大量に用意し、さらに腕利きの傭兵たちまで引き連れて王都へ進軍していたのだ。だが、王都に到着する直前――アリスはあまりにも衝撃的な報せを耳にすることになった。皇太子ラシードが皇帝暗殺未遂の罪で拘束され、婚約者であるシアナが姿を消した、という最悪の凶報を。
幸いにも、アリスはそれほど苦労せずシアナの居場所を突き止めることができた。ラシードが万が一に備えて残していった後ろ盾の手配が、水面下でブラックシャドウ騎士団へと確実に繋がっていたからだ。
アリスはそっと小さな手を伸ばし、やつれ果てたシアナの頬を優しく撫でた。
「本当はね、婚約式の日にそのままあなたを連れて東部へ帰るつもりだったの。……なのに、どうしてこんなことに……」
「……」
「でもね、シアナ。どう考えても、あいつがそんな愚かなことをするわけないじゃない」
シアナの目の下には濃い隈ができ、肌も痛々しいほど荒れていた。いつも澄んだ輝きを放っていたエメラルドの瞳は、今や生きる光を失っている。そんな愛する侍女の無惨な姿を見て、アリスは思わず胸を痛めて唇を噛んだ。
そして、幼いながらも震える声で、きっぱりと告げた。
「ちゃんと食べなさい。ちゃんと休みなさい。……そうしないと、力が出ないでしょ? 大切な人を守るためにも。……全部、あなたが私に教えてくれたことじゃない、シアナ」
「……っ」
シアナのエメラルドの瞳が、かすかに、しかし確実に揺れ動いた。アリスはもう一度、その小さな体でシアナを強く、温かく抱きしめる。
「大丈夫よ。今度は私があなたを支える番だから」
幼いはずのその声音は、驚くほどしっかりとした強さを持っていた。
シアナはしばらく呆然とアリスの温もりに包まれていたが、やがてゆっくりと目を閉じ――その瞬間、胸の奥で堰き止められていた感情が一気にあふれ出した。
ぽろぽろと大粒の涙が頬を伝い、やがてそれは抑えきれない嗚咽へと変わった。ラシードが囚われ、孤立無援の絶望に突き落とされてから、張り詰めた心の中で必死に押し殺してきた涙だった。
アリスは何も言わず、ただシアナの背中を小さな手で優しく撫で続けた。シアナの流す涙が枯れ、激しい身体の震えが静まるまで、いつまでも、ずっと。
しばらくして、アリスはまるで厳しい家庭教師のようにつんと顎を上げ、きっぱりと言い放った。
「まずは食べなさい!」
「……はい」
泣いたせいで両目を真っ赤に腫らしたシアナは、子供のように素直に頷き、運ばれてきた食事を口にし始めた。温かいスープが胃に染み渡り、ちぎったパンや細かく切られた肉を咀嚼して飲み込むうちに、凍りついていた身体へ徐々に温かい活力が戻ってくるのを感じた。
「食べたら、次は寝るのよ」
「はい」
今回もシアナは逆らわずに従った。ベッドに横になり、ふかふかの布団をかぶる。すると、その横にアリスも当然のように潜り込んできて、ぴったりと身体を寄り添わせてきた。
「私が寝かしつけてあげるわ」
思わぬ公女様からの申し出にシアナは目を丸くし、それからくすっと悪戯っぽく微笑んだ。
「これを陛下が知ったら、きっと驚かれるでしょうね」
その声は、さっきまでより少しだけ柔らかく、人間らしい温かみを取り戻していた。
「ふふん、あのおじ様のことなんてどうでもいいわよ。それより、誰があなたをあんな暗い場所に閉じ込めさせておくもんですか」
アリスはそっけなく言いながらも、シアナの身体をぎゅっと抱きしめ返した。アリスからは、ふんわりと甘く懐かしい香りが漂ってきた。それはかつてルビー宮で、シアナがアリスの髪を洗ってあげるときに使っていた、あの特製の石けんの香りだった。
「まだ、その石けんを使ってくださっているのですね」
「当然よ。ニニとナナが東部からたくさん持ってきてくれたんだから」
「そうですか……」
シアナは、先ほど屋敷の廊下で見かけたニニとナナの姿を思い出した。二人はアリスと共に、危険を顧みずここまでついてきてくれたのだ。抱き合うアリスとシアナの姿を見て、二人は陰で熱い涙を流し合っていた。
『ううっ、うちの姫様はどうしてあんなにお優しいの……。もし私がシアナ様みたいに辛い目に遭ったら、姫様もあんなふうに優しく慰めてくれるのかしら?』
『無理に決まってるでしょ、ニニ。シアナ様だから特別なのよ』
『なによそれ! あんたこそ、そのぺたんこなお尻を蹴り飛ばして東部に送り返してあげようか?』
『やれるもんならやってみなさいよ! 私だって、その粉だらけのだらしないお尻を西の果てまで蹴り飛ばしてやるんだから! 二度と姫様のそばに近づけないようにね!』
いつもと変わらない騒がしい二人のやり取りを思い出し、シアナの唇からようやく自然な笑みがこぼれた。その目元に、そっとアリスの小さな指先が触れる。
「余計なことはもう考えないの。ほら、目を閉じて、もう寝なさい」
ここ数日、シアナは恐怖と不安のあまり、まともに眠れていなかった。少しでも眠りに落ちようとすれば、わずかな風の音や物音で心臓を跳ね上がらせて飛び起きる日々だった。
――けれど、今は違った。
鼻腔をくすぐる懐かしい石けんの香りと、すぐそばに感じる確かな血の通った温もりが、頑なだった彼女の警戒心を少しずつ解きほぐしていく。その温もりに身を委ねるように、波にさらわれるように、意識がゆっくりと深い眠りへと沈んでいった。
そして――シアナは久しぶりに、穏やかな夢を見た。
陽光が優しく降り注ぐ、かつてのルビー宮の庭園。丸い白のテーブルを囲んで、賑やかに人々が集まっている。眉をひそめて生意気そうに何かを主張しているアリス。それを微笑ましそうに見守るニニとナナ。大きな身体をすくめて困ったように笑っている護衛のソル。
そして――シアナが心を込めて淹れたお茶を愛おしそうに飲みながら、楽しそうに笑うラシードの姿。
現実のベッドの中で、シアナは目を閉じたまま、かすかにその唇を動かした。
「……もう少しだけ、待っていてください。必ず、あなたを助け出しますから」
それは、幼いながらも鋼のような強い決意を秘めた、静かな寝言だった。
翌朝、シアナは驚くほどすっきりとした心地で目を覚ました。隣では、アリスが小さな寝息を立ててまだぐっすりと眠っている。その無防備な寝顔を見て、シアナの口元が自然とほころんだ。
(昨日はまるで大人のように私を諭してくれたけれど……やっぱり、まだこんなに小さくて愛らしい子供のままなのだわ)
シアナはそっと身を乗り出し、アリスのふっくらとした柔らかい頬にそっと口づけを落とした。アリスはくすぐったそうに身じろぎし、小さく笑みをこぼす。
ベッドから音を立てずに起き上がったシアナは、すぐさま身支度を始めた。しばらくしてアリスがようやく目を覚ました頃には、すべての準備は完璧に整っていた。
ゆるやかに波打つ美しい亜麻色の髪をきれいにまとめ上げ、仕立ての良い上品な最高級のドレスに身を包んだシアナ。その凛とした姿を見たアリスは、思わず寝ぼけ眼を大きく見開いた。こんなふうに完璧に“貴婦人”として装ったシアナの姿を、アリスはほとんど見たことがなかった。思い出せるのは、数年前の薔薇祭の夜、伝説の美女「ロズアンナ」として現れた、あの一度きりだ。
アリスは「わあっ!」と目を輝かせてベッドから飛び起きた。
「きれい……! 本当にお姫様だったんだね、シアナ!」
その無邪気な賞賛に、シアナはやわらかく、しかしどこか大人の品格を滲ませて微笑んだ。
「ええ、公女です。……まあ、今は新アシルロンドの総理でもありますけれど」
「総理って……つまり、国のトップってことよね?」
“トップ”という表現は民主制の観点から少しニュアンスが違う気もしたが、民の代表として国権を預かる立場であることは確かだ。シアナは少し困ったように笑いながら、曖昧に頷いた。
すると、アリスの紫の瞳がさらにきらきらと輝きを増す。
「私の侍女が、実は本物のお姫様で、しかも一国のリーダーだなんて……すごい! かっこよすぎるわ!」
子供のように感嘆するアリスを見て、シアナは思わず苦笑した。そして、表情を引き締め、まっすぐにアリスを見つめて付け加えた。
「それに――私は皇太子殿下の正式な婚約者でもあります」
「……それはちょっと嫌だな」
即答だった。アリスはむっとした顔で鼻を鳴らし、眉をひそめる。そんな彼女の独占欲の強さが可笑しくて、シアナはくすりと笑った。だが、その声にはもう迷いはなかった。きっぱりと言い切る。
「ええ。私は殿下の婚約者です。だからこそ、安全な場所に隠れてただ彼の無事を祈るだけなんて、そんな無意味なことはいたしません。……私が動いて、彼を助け出します」
昨日まで絶望の重圧で石のように固まっていた彼女の思考が、アリスのおかげでようやく激しく転がり始めていた。シアナは毅然とした態度で続ける。
「最優先すべきは、殿下をあの“罪人の塔”から救い出すことです」
今、ラシードは完全に皇帝と皇后の手中にあり、しかも“皇帝暗殺未遂”という濡れ衣を着せられた最悪の状況だ。最高権力者がその気になれば、法も無視していつでも彼の首を刎ねることができる――そんな危うい刃物の上のような立場だった。だからこそ、まずは彼らの絶対的な支配からラシードを引き離す必要がある。
だが、アリスは現実的な疑問を投げかけて眉をひそめた。
「でも、一体どうやって? 罪人の塔に入るには皇帝の直接の許可が必要なんでしょ? 力ずくじゃ出られないの?」
罪人の塔には帝国の最高峰の魔術師たちによる特殊な結界が幾重にもかけられており、さらに精鋭の騎士たちが昼夜を問わず厳重に監視している。力ずくでの脱獄など、たとえ“血の皇太子”であっても不可能なのは明白だった。
シアナは静かに美しい眉を寄せ、冷徹な光を瞳に宿した。
「分かっています。だから――まずは動かない貴族たちの力を強制的に借ります」
アリスが息を呑んでじっと見つめる中、シアナははっきりと言い放った。
「貴族たちが揃って声を上げ、今回の暗殺未遂事件に明確な疑義を唱えて正式な『公開裁判』を求めれば……いかに絶対的な皇帝陛下といえども、帝国の法と世論を完全に無視することはできません」
もし裁判の開催が決定すれば、ラシードは審理のために一時的にでも罪人の塔から白日の下に連れ出される。
――その瞬間こそが、唯一にして最大のチャンスだった。
「その裁判の場で完璧に無実を証明するか……それが万が一無理だとしても、警備の手が緩む裁判の場から、殿下を連れ出して国外へ逃がすことは可能です」
アリスは腕を組み、難しい顔をして首を振った。
「でも、あの臆病な貴族たちがそんな簡単に動くかしら? あなたの手紙も無視したんでしょ?」
アリスの不安はもっともだった。実際、シアナは数日前に主要な貴族たちに助けを求める嘆願書を送ったが、皇帝の恐怖政治の前に徹底的に黙殺されている。
「ええ。ですが、今回はやり方を変えます」
シアナは静かに、しかし冷酷な確信を込めて言った。
以前のように、一通の手紙で哀れっぽく協力を懇願するような真似は二度としない。今回は、まったく別の、血も涙もない手段を取るつもりだった。そのあまりに冷徹な横顔を見つめていたアリスは、思わず背筋を凍らせて息を呑んだ。
「シアナ……あなた、今すごく怖い顔をしてるわ。まさか……貴族たちを『脅迫』するつもり?」
シアナはふっと妖艶に笑った。だが、その問いを肯定も否定もせず、ただ静かに話題をすり替える。
「私が都に出て貴族たちと直接“交渉”している間、公女様にお願いしたい大切な任務があります」
正直なところ、アリスにとってラシードの生死などどうでもよかった。極端に言えば、あの怪物のような男が罪人の塔の奥底で静かに息絶えたとしても、シアナさえ無事ならそれで構わないとすら思っている。アリスはかつてこう断言していたのだ。
『お兄様は、シアナを置いて絶対に死なないわ。たとえ毒を飲まされて心臓が止まったとしても、地獄から這い上がってでもシアナに会いに来るはずよ』と。
それでもアリスがラシードを助けるために全力を尽くすのは、ただひたすらに、シアナの笑顔を取り戻したいからだった。
アリスは真っ直ぐにシアナを見据えた。
「何でも言って。あなたの頼みなら、私はどんなことだって叶えてあげるわ」
頼もしい輝きを宿すその瞳を見つめ、シアナは静かに口を開いた。
「お願いする前に、公女様に先にお話ししておかなければならない真実があります」
「真実? 何よ?」
アリスは不思議そうに首をかしげた。
シアナは慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと語り始めた。それは――現皇后マリアに関する、底知れない闇の話だった。
すべてを聞き終えたアリスは、顔を真っ青に染め、信じられないという表情で叫んだ。
「そんな……! あれほどお兄様を完璧に育て、大切にされているように見えた皇后陛下が――」
「その愛情のすべてが、我が子を縛るための偽りだったということです……!」
「……」
「少なくとも、あの母親が子供に向ける感情は、一般的な『愛情』などではありません。己の権力欲を満たすための道具への執着です」
アリスは大きな衝撃を隠せなかったが、それでもシアナの言葉を一言も疑いはしなかった。むしろ、宮廷のドロドロとした人間関係を知る者として、どこか納得したように小さく頷く。そして、大人のように興味深そうに目を細めた。
「やっぱりね。一番優しそうで完璧に見える人が、実は最後の黒幕ってわけね。物語の悪役のお約束だわ」
そんなアリスの聡明さを確認し、シアナはついに本題の計画を切り出した。
「公女様にお願いしたいのは、その“黒幕”――いえ、皇后陛下の過去の調査です」
ラシードが皇帝暗殺未遂の罪を着せられたあの密室には、皇帝と皇后が同席していた。つまり、ラシードに大逆の濡れ衣を着せた主犯は、狂気に取り憑かれた皇帝一人ではない。皇后もまた、完璧な共犯者としてその場にいたのだ。
「皇后陛下は東部のご出身ですよね。東部を掌握するメディチアン公爵家の力を借りれば、皇后陛下の皇宮入り前の詳細な情報が集められるはずです。……そうすれば、表舞台には決して出てこない、思いがけない致命的な事実が見つかるかもしれません。たとえば――皇后陛下がかつて心から愛した、昔の恋人の存在、とか」
それは単なる些細な噂話で終わる可能性もあったが、逆に皇后の政治生命を終わらせる巨大な切り札になる可能性を秘めていた。もし後者であれば、ラシードを人質に取る皇后を根底から揺るがす決定打になる。
アリスの紫の瞳が、獲物を見つけた猛獣のようできりと鋭く光った。
「なるほどね。つまり私に、東部の力を使ってあの女の最大の弱み(スキャンダル)を暴いてこいってことね?」
やはり察しが極めて早かった。アリスの背後には、東部全域を支配するメディチアン公爵家と、未だ強い影響力を持つ皇太后がついている。その絶対的な権力を稼働させれば、東部のいかなる秘密も暴き出すことができるだろう。
アリスは力強く胸を叩いた。
「任せなさい! 東部はこのアリスのテリトリーよ! あんな偽物の母親、私が徹底的に引き裂いてあげるわ!」
幼さを感じさせない、圧倒的な王者の風格を纏った頼もしい宣言だった。シアナは思わず「素晴らしいわ、公女様」と小さく拍手を送った。アリスが皇太后に協力を求め、東部の情報網が動き出せば――ラシード救出のための包囲網は一気に完成へと向かうはずだ。
貴族たちへの「脅迫状」とも言える最後の手紙を書き終えると、シアナはペンを置き、冷酷な決意を宿した瞳で立ち上がった。
夜の帳が降りる頃、シアナはブラックシャドウ騎士団の精鋭たちを従え、ラシードを救い出すための反撃の戦場へと、静かに屋敷を後にした。
要点は以下の3点です。
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アリスの来訪とシアナの再起
絶望から食事も喉を通らずやつれ果てていたシアナのもとに、東部から公女アリスが駆けつける。アリスの温かい叱咤激励と抱擁によってシアナは涙を流して心を救われ、ラシードを救うために「食べ、眠り、戦う」という本来の理性と活力を取り戻す。
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「公開裁判」を利用した救出計画
美しく毅然とした姿に着替えたシアナは、ラシードを“罪人の塔”から引き離すため、貴族たちを強制的に動かす新たな手段(脅迫)を決意する。貴族たちに一斉に事件への疑義を唱えさせて「公開裁判」を開廷させ、ラシードが塔外へ連れ出される一瞬の隙を狙って無実の証明か逃亡を図るという作戦を立てる。
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皇后の闇と東部での弱み調査の依頼
事件の共犯者が皇后マリアであると確信したシアナは、アリスに「皇后の過去の弱み(昔の恋人などのスキャンダル)」を調べるよう依頼する。東部の支配者であるメディチアン公爵家と皇太后の力を背景に持つアリスはこれを快諾し、シアナは貴族との交渉(反撃)のため隠れ家を後にした。