こんにちは、ピッコです。
「幼い旦那様の黒幕妻です」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
52話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 帰るべき場所
屋敷へ戻った時も、メネリクはまだ到着していなかった。私は廊下で出会った侍女に、変装用の道具一式を用意してもらうよう頼む。
「私は公爵様がお戻りになるまで、ここで待っています。」
すると皇太子は使用人たちを見回しながら、不思議そうに尋ねた。
「皇太子である私も少し休んだほうがいいですか? ですが、今日は普段と比べても特別活動したわけではありません。それでも休まなければいけませんか?」
「……」
私は静かに口を閉ざした。私の規格外の体力を基準に考えてはいけない。
私は貴賓室へ戻った。キブリンとロズがにらみ合っていたせいで、室内の空気はひんやりと冷え切っている。キブリンは雨に濡れてしっとりした私の髪を見ると、慌ててタオルを探し始めた。
ロズは腕を組む。
「どうして何も言わずに城の外へ行ったんだ? それに、なんで酒臭いんだ?」
まだ酒の匂いが残ってるなんて! 私は服の袖に鼻を近づけて匂いを嗅いだ。その間にタオルを見つけたキブリンが、私の髪を優しく拭いてくれる。
「お金じゃなくて情報を代価にする宝石商がいるって聞いたから行ってきたの。その店主がお酒をものすごく飲む人で……」
「お前の目の前で酒を飲んでたって?」
ロズが険しい表情で言った。今にもフェアリー宝石商へ殴り込みに行きそうな勢いだ。私は急いで話を続ける。
「そういえば、あの人、自分はデルの腹心だって言ってたの。」
「……」
私の言葉を聞いて、ロズの瞳に複雑な感情がよぎった。私は首をかしげる。
「ローズ?」
「いや……なんとなく、ある聖騎士のことを思い出しただけだ。デルに一度助けられただけで熱狂的な信奉者になった奴がいたんだ。……まあ、とにかく、だったら私も連れて行くべきだったな!」
「……」
また一通り文句を言い始めそうだったので、私は話題を変えた。
「私がいない間、公子様とは一言も話してないの?」
ロズは眉をひそめながらも、素直に答える。
「一言だけは話したよ。」
本当に、一言だけだったけど……。
「これからも公爵様と仲良く暮らすつもりじゃないの? あなた、公爵様こと好きだったでしょう?」
「それは、相手がデルだと思っていた時の話。」
ロズがぼそりとつぶやいた。それでも、私を以前よりずっと大切に思ってくれている気持ちは変わっていなかった。
「でも、そのデルが大切に思っていた相手なんだろ? あなたも知ってるように、デルの記憶も能力も私にはない。公爵様が持っているんだ。デルだって、そんな簡単に見放したりはしなかったはず。」
「…………」
前世のキブリンは、「デルを保管している」と表現していた。チェシャも、私が彼をとても好きだったと言っていた。
――「私が忘れても、ジェヘ様だけは忘れちゃだめですよ!」
「本当にあんなに好きだったんですよ! 会ってまだ一日しか経っていないのに、結婚まで考えているなんて言い出した時は、本気で正気を疑いました!」
……今度会ったら、わざと足でも踏んでやろうかな。私はチェシャのことを頭から追い払い、ロズに意識を向けた。
「それでも公子様は嫌いなの? 前世の公子様とは会ったこともないのに。能力はちょっと厄介だけど、今の公子様はこんなに可愛いじゃない。」
「可愛い奴はみんな死んだ……あっ、分かった! 元気に過ごしてくれればそれでいい!」
私はくすっと笑う。
「うちのローズは偉いね。お酒も飲まないし。」
「……」
ロズが何か言おうとしたが、私は気にせずチェシャが掛けてくれたネックレスの一つを外した。それはサブリナが欲しがっていたネックレスだった。裏側を何度か押すと、宝石が淡い光を放ち始める。サブリナは知らないが、このネックレスは最高級の防御魔法がかけられたアーティファクトだった。小説の中でもサブリナの手には渡らず、結局は姉が手に入れた品だ。
「少しかがんで。」
私が言うと、ロズは半信半疑の表情で身をかがめた。私はロズの首にネックレスをかけてあげる。
「防御系のアーティファクトだから、外さないで。」
「私じゃなくて、お前が身につけるべきじゃないか?」
ロズはあきれたように言った。何を言ってるの。
「封印さえ解けば、私はすごく強くなるから大丈夫。」
ロズは苦笑した。
「だから今、その封印術が掛かってるんでしょう? そんな状態なのに、誰にでも会って『私がデルです』なんて名乗って歩いて。チェリア、少しは人の忠告を聞くふりくらいしない?」
ふふ。私はシクラメンを手に取り、キブリンの前へ立った。そして、真冬でも美しく咲いている花をキブリンへ差し出す。チェシャが渡してほしいと言っていたからだ。
「これは公子様へのプレゼントです!」
「ぼ、僕にですか?」
キブリンは花を受け取った。
「ここへ来る途中で摘んだんですが、とてもいい香りだったんです。どうですか?」
「ぼ、僕も好きです。」
キブリンは嬉しそうに笑う。
「じゃあ、もうこれは僕のものだから、好きにしてもいいですか?」
「もちろんです。」
すると、キブリンが花の茎をポキポキと折り始めた。
「ちょっと?!」
私はキブリンの行動に衝撃を受け、思わず固まった。その時、扉の前から侍女が声をかける。
「公爵様、ご注文のお品をお持ちしました。」
ロズが私の代わりに、装身具の手入れ用品を受け取ってくれた。私は、キブリンが花を捨てるのではなく、一本ずつ生け直しているのを見て、ようやく安心する。
私は緑青の浮いた指輪を取り出した。このまま使えば火傷は治る代わりに、破損してしまいそうだった。できる限り磨いてみるつもりだったが、ロズが興味深そうに近づいてくる。
「手伝おうか?」
「指輪の手入れなんてできるの?」
ロズが眉をひそめた。
「私を何だと思ってるんだ?」
その瞬間、指輪に火が灯った。黒ずんで変色していた部分が、炎によって少しずつ焼き払われていく。私は目を丸くした。私がロズの本体に触れても平気だったように、指輪を置いたテーブルもまったく焦げていない。わあ、本当に不思議!
「ローズって、どうして準備もなしに異能を自由自在に使えるの?」
「準備なんて必要か? ただ思えばいいだけだ。」
くっ……。初めてロズがすごい人に見えた。私は唇を尖らせる。
「私はどれだけ念じてもできないよ。私も公子様を治してあげたいのに。」
「……治療? あなたが? 本当にできるの?」
ロズは私の顔色をうかがいながら、キブリンに尋ねた。キブリンはうなずく。
「ええ。練習すればできるようになります。デルも、ロズも治療しましたから。」
そう言いながらキブリンは花の茎を一本一本折って形を整え、完成した花冠を私の頭にそっと載せた。真っ白な花だったので、鏡を見なくても私によく似合っているとわかる。
「いや、それは種族まで変わってしまうレベルだったから、『治療した』と言っていいのかどうか……」
小声でぼやいていたロズが、不思議そうな顔をした。
「ん? この指輪もアーティファクトだね。使い切りだけど、人間が作ったものにしては出来がいい。」
私はあっさりと言った。
「そう。生きてさえいれば、どんなものでも治せるんだって。これで公子様の手を治すの。」
「それを受け取る代わりに、自分の正体を明かしたのか?」
ロズは呆れたような顔で尋ねる。
「えへへ……。チェシャはデルのことが好きだから、大丈夫じゃないかな?」
「大丈夫なわけあるか! だったらお前のために明かせよ! あいつが一体お前に何をしてくれたっていうんだ!」
その“あいつ”なら、今まさに私の隣にいるんだけど。しかも、すごくいろいろ助けてもらってるし。キブリンは私に微笑むだけで、ロズの文句には何も反応しなかった。私は指をもじもじさせる。
「これも結局、私のためなんだよね……。それに、私だってローズにも公子様にも、たくさん助けてもらってるし。」
「……気を遣わなくていい。」
しまった、気持ちを見抜かれたみたい。それでもロズは、それ以上は何も言わなかった。
「ところで、“チェシャ”って名前、どこで聞いたんだ?」
見覚えがある気がする。やっぱりあの追っかけの人かな?
「誰だったか覚えてる? チェシャもあなたのことを知ってるって言ってたよ。」
ロズは大きく目を見開いた。
「期待しないで。人の名前は覚えないから。でも、そんな高性能なアーティファクトなら、火傷だけじゃなくて他のものも治せるんじゃない? 公爵の腕を再生してあげて、その代わりに白紙の小切手を山ほどもらうとか。」
キブリンは花びらを指でいじりながら言った。
「そ、それくらいなら私にもできます。」
いや、もう白紙小切手はいらないけど……。
私たちが話している間に、指輪についていた錆はすっかり消えていた。私は新品のようにきれいになった指輪を、キブリンの手のひらに載せる。
「お姉さんが、公爵様の腕は大戦の前にはちゃんとあったって言ってた。きっと後で取り戻せる機会があるよ。」
機会がなければ、自分たちで作ればいい。
指輪を発動させると、火傷の跡はみるみるうちに薄くなっていった。やがて指輪にひびが入り始める頃には、キブリンの手はすっかり治っていた。
「触ってもいいですか?」
「はい。」
私は白玉のようにきれいなキブリンの手を取り、裏返して眺めたり、自分の手でそっとなでたりした。キブリンは痛そうな様子をまったく見せない。チェシャが「宝石商で一番のアーティファクト」だと自慢していたのも納得だ。私はついでにキブリンの指先まで触ってみた。昔も今も、そして未来も期待される、きれいな手だった。
うーん……チェシャがくれた「幸運の指輪」も、今つけてあげようかな?
「……チェリア様?」
私はなおもキブリンの手をいじりながら、考え込んでいた。
「あ、指輪がもったいないなんて全然思ってませんよ! むしろチェシャがその婚約指輪をはめて、婚約式の真似をしたらどうかなって考えてたんです!」
「婚約式、ですか?」
私は冗談めかして聞き返す。
「婚約式みたいなことをして、その場で正式にロズの父親代わりになってほしいってお願いするんです、えへへ。」
さっきまで黙って見ていたロズが、突然私の口をふさいだ。
「お前、頭おかしいのか!? 誰が誰の父親になるって!?」
「むぐっ!」
「誰が誰の父親になるって言ってるんだ? 答えろ!」
口をふさがれてたら答えられないでしょ! しかも鼻まで塞がれてる! 私はみるみる顔が熱くなっていった。
結局、キブリンはロズの手を振りほどいた。それでもロズは、ぶつぶつ文句を言うのをやめない。
「指輪を外してみなさいよ! 本当にかじるからね!」
子どもじみた脅しだった。
しかし、私たちが騒いでいる間に、外も何やら慌ただしくなっていた。ロズが文句を言おうと、私の唇が三つに裂けようと、キブリンは外の物音に意識を向けていた。
「あ、お父様がいらっしゃいました。降りましょう。」
ロズはキブリンとうなずき合う。
「ほら、あなたも早く『嫌だ』って言いなさいよ。」
キブリンは私が渡した手袋をはめながら、落ち着いた口調で答えた。
「嫌ではありませんけど……? だから今も、こうして見ているんでしょう。」
「…………」
呆然として言葉を失ったロズをよそに、キブリンは私を連れてその場を離れた。
メインホールの中央には、禍々しい気配を放すメネリクが立っていた。さっき神官たちと対峙した時よりは幾分ましだったが、イングラム侯爵は今にも倒れそうな顔色をしている。まるで黒月の森に入って、魔物を一匹でも狩ってきたのではないかと思うほどの疲れぶりだ。
現実を受け入れたくないのか、彼はメネリクに向かって皮肉を飛ばした。
「おや、どうしてわざわざここまでお越しになったのです? オーランド公は、そんなに子煩悩なお父上ではなかったはずですが?」
「…………」
私の後ろから階段を下りてきた皇太子が、わざとらしく足音を立てた。軽く咳払いをすると、メネリクの視線が侯爵から皇太子へと移る。息を切らして駆けつけたのか、イングラム公爵は顔面蒼白だった。
「はぁっ……!」
「公爵様!」
今にも後ろへ倒れそうなイングラム公爵を執事長が支えた。
メネリクは舌打ちする。
「目障りだ。どけ。」
そして私たちの方へ顔を向ける。
「何をしている。早く来い。」
私は慌てて駆け寄ったが、彼の上着には魔物の血が付いていた。森で知らせを聞くなり、急いで戻ってきたのだろう。
「公爵様、こちらです!」
急いでハンカチを取り出すと、一緒にチェシャからもらった幸運の指輪が転がり落ちた。メネリクは余裕のある動きで、その指輪をさっと拾い上げる。
彼は驚いたような顔で尋ねた。
「指輪? 何のことだ?」
うーん……。ロズが本当に家出したら困るので、この話はしばらく秘密にしておこう。
私はハンカチを差し出す。
「はい、これと交換してください。」
メネリクは小さく笑った。
「割に合わない取引だが、私が来るまで無事に待っていてくれた礼として受け取っておこう。」
「公爵様、お怪我はありませんでしたか?」
「呼び方。」
「お父様は!」
「私は無事だ。それから、これからはそう呼ばないなら返事はしない。」
なんでですか……。
メネリクはハンカチを大切そうにたたみ、胸元へしまった。そのあまりに自然な行動に、私は思わず目を丸くする。
「服の血を拭いてくださいと思って渡したんですけど……。」
「もったいないだろ、なんで拭くんだ?」
急に節約家になったのかな。私にハンカチがたくさんあることくらい、ご存じのはずなのに。
メネリクは手を差し出した。
「それが壊れて面倒なことになる前に返してくれるか? どうせ礼はウィンターが別に用意するだろうし。」
「…………」
イングラム公爵って、人を物みたいに扱われてるんだ……。私はメネリクをじっと見つめた。
「どうした?」
「公爵様……いえ、お父様はご無事そうですね。お母様もご無事なんですよね?」
その瞬間、メネリクの表情がわずかに曇った。
「……そうだな。だが、たとえウィンターが無事でなかったとしても、私はお前を迎えに来ていただろう。」
「…………」
「まさかね。」
「今、全然信じてないって顔してるけど。」
私はごまかすように笑いながら、メネリクの手を取った。すると彼はキブリンの様子を見る。森でキブリンが何をしてきたのか、おおよそ察しているような表情だった。
「手は?」
「大丈夫です。」
メネリクの目が細くなった。
「魔物を追い払ってくれたことには感謝する。だが、今後はまた黙って森へ入ったら外出禁止だ。」
もちろん、キブリンは少しもひるまない。メネリクもそう来ることを予想していたのだろう。条件を付け加えた。
「チェリアも一緒だ。」
「えっ!?」
私は思わず勢いよく顔を上げた。
キブリンはため息をつきながら約束する。
「……はい、行きません。」
「よし。」
メネリクは満足そうにうなずいた。
彼について公爵家の馬車へ乗り込むと、ようやく気持ちが落ち着いた。私はローズと皇太子も別の馬車に乗ったことを確認し、楽な姿勢に座り直す。メネリクが口を開いた。
「公爵家はどうだった?」
「微妙でした。」
私は即答する。メネリクは眉をひそめた。
「なのに、どうして笑っている?」
「だって、もう家に帰れますから。」
メラも心配しているだろうし、早く帰って安心させてあげないと。何気なくそう答えると、メネリクは私の顎に手を添えた。メネリクは一瞬あっけに取られたような顔をしたが、すぐに笑みを浮かべる。
「そうだな。ここはお前の家だからな。」
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キブリンの手の治療と賑やかなやり取り
チェシャから貰ったアーティファクトの指輪を使ってロズが錆を落とし、チェリアがキブリンの火傷を綺麗に治す。その後もキブリンを交えた和やかな(あるいは少し騒がしい)やり取りが続く。
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メネリクの帰還とイングラム公爵の疲弊
魔物の血を浴びたメネリクが屋敷に到着し、疲れ切ったイングラム公爵や皇太子たちと合流する。チェシャから貰った幸運の指輪をメネリクに回収されつつ、無事に合流を果たす。
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「家」への帰路と温かな結末
メネリクから今後の森への無断立ち入りを禁じられつつも、馬車の中で「もう家に帰れますから」と微笑むチェリアに対し、メネリクが優しく「ここはお前の家だからな」と返す。