こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
153話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 扉の向こうの宿敵
不毛な皇城へと向かって、ただ静かに突き進む帰路の馬車の中。
セドリックとデミアンの二人は、お互いに一言の会話も交わさず、ただ死んだような目で窓の外の景色を見つめ続けていた。
奇跡的に生きていたはずの母が、自分たちの顔を見ても何一つ認識できなかったという事実も凄まじい衝撃だったが、幼い頃から常に自分たちを誰よりも穏やかに、優しく包み込んでくれていたあの祖父が、あそこまで般若のような顔をして自分たちを力尽くで追い出したという現実もまた、彼らの心に計り知れないほど大きな衝撃を与えていた。
(……だが、それ以上に……)
二人の頭の中には、先ほどホールの中心で、か弱く、狂ったように泣き叫んでいたあのレリアの痛々しい姿が、鮮明に張り付いて離れなかった。
すべての苦しみにたった一人で耐え、怯える幼い子鹿のように必死に許しを乞うていた、あの絶望に満ちた目を、どうしても忘れることができなかったのだ。
まさか……あの幼い頃の、ほんの子供の悪ふざけの出来事が、彼女の心にあれほどまでに深く、消えない致命的な傷を刻みつけていたとは、夢にも思いもしなかった。
自分たちにとっては、とっくに忘れていたはずの過去の記憶だった。ただの子供の頃の、他愛のない悪ふざけだったのに。……いや、本当に、あれはただの無邪気な「いたずら」だったのだろうか?
あの時、幼かった二人に、レリアをあそこまで精神的に執拗に苦しめようという明確な悪意の意図はなかったはずだ。
ただ……ただ当時の自分たちは、彼女の存在を目の前から綺麗に消し去りたかっただけなのだ。自分たちの最愛の母を苦しめ、死に追いやったあの悪女の娘が、何事もなかったかのようにのうのうと幸せに生きることなど、子供心にどうしても許せなかった。だから、ほんの少し驚かせて、分からせてやろうとしただけ……本当に、それだけだったはずなのに。
だが、その自分たちの身勝手な一連の行動こそが――。
あの時のレリアは、すでに自らの出自のすべての真実を知った上で、あの仕打ちを受けていたというのだ。
「……兄さん。本当に……本当にあの子、あの時から、自分の本当の親が誰なのかを知っていたのかな?」
「……ああ。間違いない。以前、父上も私にそのようにおっしゃっていたからね」
「でも……じゃあ、なんであの時に何も言わなかったんだよ!? なんでさ! あの子が何も言わずに黙ってたなら、俺たちがどうやってその事実に気づけるって言うんだよ!」
「……仮に、あの時のあの子が真実を叫んだとしても――当時の私たちは、どうせ一言も信じなかっただろうからね」
セドリックのその血を吐くような冷徹な答えに、デミアンは言葉を失い、大きく息を吸い込んだ。
そうだ。もしあの時、泥にまみれた彼女が真実を口にしたとしても、自分たちは「悪女の娘が嘘をついている」と一蹴し、さらに激しく彼女を痛めつけていただろう。けれど……。
セドリックは、押し寄せる後悔の念に、ぎゅっと両目を強く閉じた。
幼く、残酷だったあの頃の自分の行動をどれほど激しく後悔したところで、もう、すべてが遅すぎたのだ。
昔のことも、そして、今日ここで犯してしまった最悪な出来事も、結局のところ、自分たちは何一つ変わっていないのだから。
人生において、あそこまで人目を気にせず激しく泣き叫んだのは、これが本当に初めてのことだった。
レリアは生まれて初めて、自らの心の中にひた隠しにしてきた暗い本音のすべてを、外部へと吐き出したのだ。
最愛の母の温かい腕の中にしっかりと抱かれ、子供のように泣きじゃくりながら、今まで誰にも言えずに一人で抱え込んできた過去の苦しみを、全部全部、打ち明けた。
母や祖父、叔父たち、そして叔母は、誰一人として彼女の言葉を遮ることなく、ただ黙ってその血の滲むような話をすべて優しく聞いてくれた。
自分という存在のせいで、新しく取り戻した家族たちに対して、再び重い過去の罪(罪悪感)を背負わせてしまうようで、申し訳なさが胸の奥から激しく込み上げてきたが、一度溢れ出した涙と感情の奔流を止めることなど、今の彼女にはどうしてもできなかった。
まだ幼い子供が、この世界で起きた理不尽な出来事のすべてを、大好きな両親に向かって告げ口して泣きじゃくるかのように――。
彼女はそうやって、幼く、自らのすべてを家族の前で打ち明けたのだ。
母は、未だに過去の記憶を何一つ覚えていないにもかかわらず、ただ慈愛に満ちた優しい手つきで、レリアの震える背中を何度も、何度も静かにさすり続けてくれた。そうして、まるで今日初めてこの世界に産み落とされた赤子のように、レリアは母の胸の中で、すべての涙を流し尽くしながら、深い眠りへと落ちていった。
次にパチッと目を覚ました時は、窓の外はすでに夜も更けた、深い夜遅くだった。
レリアは、自分が今横たわっている場所が、見慣れたシュペリオン城の自らの部屋であることに気づいた。そして同時に、暗闇の中、ベッドのすぐ端に静かに腰掛けている、ある誰かの温かい気配に気づいた。
「……オスカー」
美しい月明かりをその背に浴びながら、オスカーが心配そうな目で、彼女の寝顔をずっと静かに見守っていたのだ。
「あなた……一体どこに行っていたのよ。こんな夜遅くになって、ようやく戻ってくるなんて……」
いざ彼の顔を見て言葉を交わしてみると、先ほどあれほど泣いて消えたと思っていたはずの激しい感情の波が、再び胸の奥から抑えきれずに込み上げてきた。
さっき母の胸の中で、一生分の涙をすべて流し尽くしたとばかり思っていたのに、彼女の心の中には、未だに彼に向けた温かい涙が残されていたようだった。
「……ずっと、君のすぐ近くにいたよ」
「……本当に?」
「うん。……約束する。私はもう、二度と君のそばを離れる気はないからね」
「……私は、てっきり昨夜のことがあって、あなたには一人きりで考える時間が必要なのだろうと思って、探さなかったのよ」
「うん。分かっているよ」
オスカーはそう優しく答えると、静かな動作でベッドの上へと上がってきた。
そしてレリアのすぐ隣に横たわり、狂おしいほどの愛おしさを込めて、じっと彼女の顔を見つめた。
彼の冷たい指先が、彼女の頬を伝う新たな涙を、優しく、丁寧に拭い去っていく。
涙を拭ってくれる、その世界の誰よりも優しい彼の手のひらのぬくもりが、今のレリアにとっては、ただただ嬉しくて仕方がなかった。
「……レリア。もし、この私が……将来、また君を不幸にしてしまったら、一体どうしようか」
彼は、地鳴りのような低い声で、今にも震え出すかのように弱気な言葉を口にした。その一言から、彼が今どれほどの恐怖と、絶望的な恐れをその魂に感じているのかが、痛いほどに伝わってくるようだった。
「私は……今、これっぽっちも不幸なんかじゃないわよ、オスカー」
レリアは、両目に溢れんばかりの涙をいっぱいに溜めたまま、その美しい口元を、ほんの少しだけ嬉しそうにほころばせてみせた。
それは、彼女の偽りのない、100%の本心だった。
今、自分の周りには、命を懸けて守ってくれるおじいちゃんがいて、おばあちゃんがいて、大好きな記憶のないお母さんがいて、有能な叔父さんたちや叔母さんがいてくれる。さらに今では、自分のそばには、どんな時でも味方でいてくれる大切な友達(ロミオたち)までたくさんいるのだ。
あの冷酷な父親(皇帝)や、自分を見捨てた最低な兄たちなんて、これからの自分の人生に一寸もいなくたって、何の問題もなかった。初めから、そんなものはこの世界にいなかったのだと割り切って生きるのは、今の彼女にとっては決して難しいことではなかった。なぜなら、事実として、最初からそんなものは無かったのだから。
レリアは、隣にいるオスカーが、一体何をそこまで絶望的に恐れているのかを完全に理解していた。
けれど、彼のそんな悲しい心配とは裏腹に、レリアはこれからの人生、どんな絶望に直面しようとも、決して自ら進んで命を絶とうなどとは絶対にしないと固く心に誓っていた。しかし、人間の命には必ず、いつか絶対の『終わり(寿命)』というものが訪れる。どんなに幸せであっても、いつかはオスカーをこの世界にたった一人だけ残して、先に旅立つ日が来てしまうのだ。
(……ああ、そうか。オスカーが今、狂うほど恐れているのは、きっと『その未来』なのだわ)
自分が寿命で死んでも、周りの人間が全員老いていなくなってしまっても、不老不死の呪いを持つオスカーだけは、この先も永遠に生き続けなければならない。自分がいなくなった後の世界で、彼が一人きりで味わうことになるその残された無限の苦しみを想像するだけで、レリアの胸は張り裂けそうに締め付けられた。
オスカーが最も恐れている地獄――それは、レリアの後を追って死ぬことすら許されず、ただ一人、彼女のいない世界で永遠に孤独に苦しみ続けることだった。どれほど絶望し、何度も何度も自らの身体を刃で傷つけて死のうと試みたとしても、永遠に続く再生の苦痛の中を生き続けなければならない運命。――それこそが、彼に与えられた本当の地獄(呪い)だったのだ。
その瞬間、レリアの脳裏に、電撃が走るかのように『ある重要な記憶』が突如としてよみがえった。
そして、いざ思い出してみると、なぜ今までそんな大切なことを綺麗に忘れていたのかと、自分自身に驚くほどの盲点だった。
あの夜、母を神殿の闇から助け出す直前、レリアは錬金術の神から、システムを通じて『最後の秘密のレシピ』を確かに手に入れていたはずだった。
それは――まさに、このオスカーの呪いを解くための薬だったのだ。
たった一滴であっても、神をも死に至らしめるという絶対の毒薬。
あのレシピを手に入れた時は、なぜそんな恐ろしい一撃必殺の毒薬が「オスカーのための救いの薬」なのだと言われたのか、その真意が全く理解できなかったが……すべての真実を知った今になって、ようやく、神の意図が完璧に分かった。
「……オスカー……っ!」
遅れてやってきたその決定的な気づきに、抑えきれない激しい感情が爆発し、レリアは思わず彼の首元に狂ったようにしがみついた。その強固で逞しい首元に自らの顔を深く埋め、涙を流した。
良かった。本当に、神様ありがとう。
これで将来、オスカーをこの世界にたった一人きりにして寂しく置いていかずに済むのだと分かって、本当の意味で、心の底から救われた。
「約束するわ、オスカー。……私は絶対に、あなたをこの世界に一人きりで置いていったりなんかしない。最期の時は、必ずあなたと一緒よ」
「……レリア」
オスカーは何も言わず、ただ愛おしそうにレリアの小さな身体を、壊れんばかりの力で強く、強く抱きしめ返した。その腕の中に伝わってくる、彼女の小さな身体の確かな温もりに、彼は魂の底からの真の安らぎを感じていた。
レリアがただそう言ってくれるだけで、彼女がこれからも自分のそばにいてくれるだけで、彼にとっては、この先の人生に他には何も必要なかった。そのただ一言の救いだけで、彼はもう二度と、永遠に続く孤独の闇に怯える必要はなくなったのだから。
いつもと変わらない、光に満ちた美しい朝がやってきた。
明け方にようやく深い眠りへと再びつくことができたレリアは、小鳥の声に誘われるようにして、ゆっくりと両目を開けた。
朝が来れば、夢のようにその姿が忽然と消えていたこれまでの切ない夜とは違い、今日のベッドの隣には――。
本物のオスカーが、昨日と変わらず確かにそこに横たわっていた。
だからこそ、目を覚ましたレリアは、至近距離にある彼の気配に、妙な恥ずかしさと戸惑いを隠せなかった。
「な、……な、何してるのよ……っ!?」
昨夜は確かに、お互いの傷を慰め合うようにただ強く抱き合って静かに眠っただけだった……はずなのに。目の前にいるオスカーは、あろうことか上着をすべて脱ぎ捨てた上半身裸の姿のまま、彼女のすぐ隣で平然と横たわっていたのだ。朝の明るい太陽の光の下で、彼の無駄のない引き締まった逞しい裸体を間近で見るのは、年頃の令嬢である彼女にとっては、なんだか目のやり場に困るほどに気まずくて仕方がなかった。
オスカーはゆっくりと美しい目を閉じたまま、まるで何が問題でもあるのかといった様子で、低い声で尋ねてきた。
「……何がそんなに不満なんだ、レリア?」
「……不満とかそういうことじゃなくて、なんであなた、部屋の中で服を脱いでるのよ!」
「お前が昨夜、俺の胸の中で子供みたいにワンワン泣き続けるから……俺の上着が、お前の涙で全部びしょ濡れになってしまったんだよ。だから脱いだんだ」
その、どこか艶っぽい妙なニュアンスの言い回しに、レリアの顔は一瞬にしてカッと林檎のように真っ赤に染まった。
確かに、過去に二人だけで身体を寄せ合って過ごした、あの秘密の二日間の夜。
オスカーはあの時も、今と全く同じような甘い言葉を、自らの耳元で優しく囁いてくれたことがあった。
きっと、彼は今もこうして意地悪な軽口を叩くことで、昨夜のショックから自分を少しでも安心させようと、彼なりの不器用な優しさで気遣ってくれているのだろう。
レリアのその分かりやすい真っ赤な反応を見て、オスカーの端正な口元が、愛おしそうにわずかに緩んだ。
「大丈夫だよ、レリア。君のせいで私の服が濡れるのも、君のためにこの胸を貸して泣かせるのも……私にとっては、いつだって最高に名誉なことだからね」
「……もう、そんな恥ずかしいこと言わないで!」
「何がだ? つまり、私の前なら、これからいつでも好きなだけ泣いていいっていう意味だよ?」
レリアは恥ずかしさをごまかすように、わざとらしく眉間にきゅっとシワを寄せてみせた。
ふと気づけば、窓の外はすでにかなり明るくなっており、室内に眩しい光が差し込んでいる。壁の時計で現在の時間を確認すると、普段の起床時間よりも遥かに遅い時間になっていた。
ということは……すなわち、まもなく身の回りの世話をしてくれる専属侍女のベッキーが、朝の挨拶と共にこの部屋へと入ってくる時間だということだった。
「――大変、ベッキーがもうすぐここへ来ちゃうわ! あなた、お願いだから早くその服を着て、ここから出て行って!」
「……」
昨夜、暗闇の中で見せてくれたあの底なしの優しさに満ちた様子とは一転して、今のレリアの口調は、恥ずかしさから酷く冷淡でツンとしていた。
オスカーは、その彼女の急な態度の変化に妙な寂しさを感じながらも、仕方がないといった様子でその逞しい身体を起こした。床に脱ぎ捨てられていた自らの衣服を一枚ずつ拾い集めていると――その時、彼の鋭い五感が、部屋の外の廊下から近づいてくる『ある特定の気配』を瞬時に捉えた。
レリアは彼のその変化に気づかず、「もう分かったから、早く出て行って!」と急かすように言って、自らは恥ずかしさを隠すように足早に浴室の奥へと姿を消してしまった。
そんな、自らの羞恥心を必死に隠そうとして、わざと冷たい言葉で自らを飾る彼女の子供っぽい様子が、オスカーにとってはたまらなく愛らしくて仕方がなかった。
しかし、浴室に消えたレリアの命令とは裏腹に、オスカーはそれから、部屋の出口へ向かって逃げるような行動は一切取らなかった。
(トントン――)
少しして、予想通り、部屋の扉を静かにノックする音が室内に響いた。
オスカーは、未だにいくつかのボタンすら留めていない、はだけたシャツをだらしなく羽織っただけの姿のまま、堂々とした足取りでドアの方へと向かった。
(今度こそ……誰が本当の勝者(主)なのかを、あの男に賢く見せつけてやらなければな)
彼は、胸の奥で静かにそんな冷徹な計算を巡らせていた。
レリアが最終的に自らの意志で選んだ本当の男が、一体誰なのかを。
ガチャ――。
オスカーが、内側から静かに鍵を開けてドアを大きく開くと、そこには、やはり少し前に奇跡のように部屋の前で立ち尽くしていた『あの人物』が、凍りついた様子で立ち尽くしていた。
「……」
そこに立っていたのは、他ならぬグリフィスだった。
はだけたシャツを着たオスカーと、扉の向こうに佇むグリフィス。
二人の宿敵の視線が、至近距離の空気の中で火花を散らして真っ正面から交錯したその瞬間――オスカーは、勝利を確信したかのように、その美しい口元をわずかに吊り上げ、冷ややかに、そして不敵に微笑んでみせた。