こんにちは、ピッコです。
「幼馴染が私を殺そうとしてきます」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
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又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
167話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 君が変えてくれた世界
アンセン伯爵が、オスカーの処理すべき膨大な書類の束を手に訪ねてきたため、オスカーは家事室へと足止めされることになった。
幸いにも双子たちは家事室へ持ち込んだ簡易ベッドでぐっすりと眠っていたため、レリアはその隙を見て散歩に出かけることにした。
「私が、我が皇城の誇る素晴らしい庭園をご案内いたします!」
オスカーはレリアを一人で出すのを少し渋る様子を見せたが、レリアが「ちょっと出かけてくるね」と優しく微笑むと、どうしようもなく頷くしかなかった。こうしてレリアは、アンセン伯爵を供に連れて皇城の散策へと出発した。
「こちらの方向でございます。大公妃様、どうぞ」
「ありがとう」
後ろから丁寧に道を案内してくれるおかげで、レリアは気兼ねなく自由に異国の風景を眺めながら歩くことができた。
階段を降りて角を曲がったときのことだ。向かい側から歩いてきた一人の少女と、ばっちりと目が合った。
少女はレリアと視線が交わった瞬間、まるで幽霊でも目撃したかのように顔を蒼白にさせ、素早く深く腰をかがめた。
「こ、これほど厳しく言い含めておいたというのに……!」
背後からアンセン伯爵の怒りに満ちた声が響き渡った。
「す、すみません! 申し訳ありません!」
少女は今にも泣き出しそうな表情で必死に謝罪を始めた。レリアは戸惑いながらも振り返り、説明を求めるようにアンセン伯爵を見つめた。
「ええと……その、大公殿下はご自身に他人が気安くまとわりつくのを大変嫌がられますので、私が城の使用人たちに『絶対に目につく場所へ出ないように』ときつく指示を出していたのです。それで――」
「こ、この者が不手際を……!」
「そんなに怒らないでください」
激高して少女を叱り飛ばそうとするアンセン伯爵を、レリアは慌てて制した。ほんの少し目が合ったからといって、そこまで激怒するようなことではない。
「オスカーはそうかもしれないけれど、私はまったく気にしませんよ。目が合うくらい、なんてことありません。ただ普通に挨拶を交わせばいいだけです」
そう言いながら、レリアは少女の腕を優しく取ってお辞儀の体勢を正してあげた。
「え……」
少女は驚いたウサギのような丸い目でレリアを見上げた。
「はじめまして」
レリアが心地よく微笑むと、少女の顔は一瞬で真っ赤に染まり、深々とお辞儀をすると逃げるようにその場を立ち去っていった。
「ちょ、ちょっと待ちなさい……!」
うろたえるアンセン伯爵に向かい、レリアは納得したように頷いた。
「なるほど。だから昨日も今日も、ここまで来る途中に誰ともすれ違わなかったのですね?」
「……は、はい。左様でございます」
レリアは再び歩を進め、庭園へと続く扉を開けた。
「美しいけれど、どこか少し冷たい感じがしていた理由がわかりました」
「……確かに強引な措置ではございましたが、それでも……それでも!」
アンセン伯爵は何とか弁明しようと言葉を探したが、上手い言い訳が見つからなかったのか悔しそうに口をつぐみ、涙ぐんでしまった。
レリアはなんだか彼が少し気の毒に思えた。そして、ふと先日見たあの夢のことを思い出した。もしも将来、本当にヘルナがフレスベルグ帝国の皇帝になるのだとしたら――。
(今のうちに、城の雰囲気を少し柔らかく変えておくのも悪くないかもしれないわね)
明るく活発なヘルナが、大人になってもそのまま明るく過ごせる場所であってほしかった。今の皇城はあまりにも重苦しく、冷気すら漂っている。それは単なる建築様式の問題だけではないはずだ。
「これからは、無理にオスカーや私を避けて隠れる必要はないと城の皆に伝えてください」
「ですが……」
「オスカーには私から言っておきますから、気にしないで。それと……室内の照明が少し暗すぎる気がするわ」
「あっ! すぐに変えましょうか!?」
アンセン伯爵はもともと変えたかったのか、パッと表情を明るくして弾んだ声をあげた。レリアが手にしていた扇子をそっと閉じると、彼は慌てて懐からメモ帳を取り出し、サラサラとペンを走らせ始めた。
「今のままだと、なんだか少し魔王の城みたいでしょう?」
「はっ! 大公妃殿下もそうお思いでしたか!? 実は私もずっとそう思っていたのです!」
「とても暗いですものね」
「左様です……本当にその通りで……!」
アンセン伯爵は深く首を縦に振った。
正直なところ、皇城内の取り決めをアンセン伯爵の一存で変えることなど到底できなかった。大公の機嫌を損ねることを恐れるあまり、照明を掛け替えるといった些細なことすら許可を仰げずにいたのだ。これまでは現状維持で城を回しているだけでも精一杯だったのだろう。
そんな八方塞がりの状況の中に現れた救世主のようなレリアの言葉に、アンセン伯爵は胸がいっぱいになった。彼はメモを取る手を止め、その場に立ち尽くすと、感極まって腕で顔を覆い泣き出してしまった。
「ふっ……ふぅ……」
レリアは戸惑いながらも、彼が落ち着くまで優しくその場に寄り添った。
しばらくして涙を拭ったアンセン伯爵は、小鳥のさえずりのように晴れやかな声で尋ねてきた。
「あの……ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「大公妃殿下は、どのようなお花がお好きですか? 花壇をすべて植え替えようと思うのです。もちろん……またこちらにお越しいただければのお話ですが……」
最後のほうはだんだんと声が小さくなっていった。きっと彼らは、レリアたちがもう二度とこの忌まわしい記憶の残る皇城には来てくれないのではないかと不安なのだろう。
レリアは含み笑いを注ぎ込んだ温かな声で答えた。
「また度々来られるように努力しますね」
「えっ、本当ですか!?」
「ええ。それに私、フリージアの花が好きなんです」
その言葉にアンセン伯爵はパッと目を輝かせ、再び猛烈な勢いでメモを取り始めた。
レリアの言葉に嘘はなかった。彼女はこれから先も、何度でもこの場所を訪れるつもりだった。
オスカーにとって辛い記憶しかないこの恐怖の城を、温かく幸せな思い出でいっぱいに満たしてあげたかったからだ。
メモを取りながら再び目頭を熱くさせるアンセン伯爵を見て、レリアは微笑みながら話題を変えた。
「私も気になっていることがあるのですが、聞いてもいいかしら?」
「もちろんです! 何なりとお尋ねください!」
「ええと……皇帝が偽物の人形だと知っていながら、貴族たちは黙っているのですか? 皇帝を挿げ替えようとか、そういう動きはないのでしょうか?」
「……は、はあ……!」
その問いを聞いた瞬間、アンセン伯爵は恐ろしさに背筋を凍らせ、ガタガタと身を震わせた。
「ま、まさか……そんなこと誰一人として想像すらできません! 皆、薄々察してはおりますが……誰一人として迂闊な動きなど……」
「みんな、オスカーをそれほどまでに恐れているのですね?」
「はい。以前、ある貴族が中立区域でこの事実を露呈させようとしたと聞いたことがありますが……本来なら他国が干渉する権利はありません。それに何より、神聖なる教団が一切の干渉をしてこないため、貴族たちは余計に大公殿下を恐れているのです」
「なるほど……」
レリアは納得した。なぜなら、その教団の頂点に立っているのは他ならぬグリピスだからだ。フレスベルグの貴族たちが「うちの皇帝は偽物だ、助けてくれ」と訴えたところで、グリピスがオスカーのためにすべてを揉み消し、口をつぐんでいるのに違いない。
「……ですが当初、貴族たちは大公殿下に心から感謝していたのです。正直に申し上げますと、先代皇帝の治世は惨劇そのものでした。数日おきに貴族の誰かが首を撥ねられて命を落とすような惨状でしたから……」
「では、オスカーのおかげで助かったのですね」
貴族たちのオスカーに対する恐怖の底にあるのは、単純な嫌悪や憎悪ではなく、むしろ生き延びられたことへの深い安堵と感謝だったのだ。
「もしオスカーが正式に皇位に就くことになったら、今よりずっと忙しくなると思いますか?」
「うーん、そうですね。大公殿下は非常に仕事の処理が早いお方ですので、今とさほど変わらないかと存じます。なぜなら……この優秀な私が補佐いたしますので!」
アンセン伯爵は照れくさそうに胸を張った。平民に対しては少し高圧的なところもあるが、根は決して悪い人物ではないのだろう。オスカーが重用していることからも、彼の優秀さと忠誠心は確かだった。
そうして会話を交わしながら辿り着いたのは、皇城の裏手に広がる庭園だった。
独特な形状で区切られた広大な蓮池は、まるでおとぎ話に登場する妖精の庭園のように幻想的だった。
「本当に美しいですね……」
池の周囲には立派なシラカシの木々が立ち並び、色とりどりの花々が咲き誇っている。
「そうでしょう? 照らし出す照明がございますので、夜になるとさらに幻想的で美しく見えるのですよ」
アンセン伯爵が誇らしげに微笑んだ。池の端を眺めていたレリアは、片側に架かるアーチ状の円形橋へと足を向けた。少し高い位置から景色を一望できる絶景のスポットのようだった。
階段を登りきると、心地よい爽やかな風が頬を撫でた。確かにここに立つと、美しい風景がより一際映えて見えた。
その時、どこからか賑やかな声が聞こえ、レリアはふと首を巡らせた。
少し離れた城の外庭では、若い少女たちが楽しそうにくすくす笑い合いながら腕を組んで歩いていた。さらにその奥では、整然と隊列を組んだ騎士たちが威勢よく声を掛け合いながら訓練に励んでいる。
かつての重苦しい空気とはまるで違う、生き生きとした活気がそこにはあった。暖かな日差し、爽やかな風、聞こえてくる人々の明るく穏やかな声――おそらく、これこそがこの場所本来の姿なのだろう。
(この穏やかで温かい風景を、オスカーに見せてあげたい……)
幼い頃からずっと怯え、守り抜かなければならなかったこの温もりを、これからはオスカー自身に存分に感じてほしかった。
***
それからあっという間に数日が過ぎ、シュペリオン領地へと戻る予定の前日がやってきた。
「なんだか少し名残惜しいわね。明後日には戻らなきゃいけないと思うと……」
ベッドに横たわったレリアがぽつりと呟くと、隣に腰掛けたオスカーが穏やかな微笑みを返した。レリアは愛おしそうに腕を伸ばし、オスカーを引き寄せてぎゅっと抱きしめた。
「本当に、心からたっぷり休めた気がするわ。やっぱりここへ来てよかった」
「君がそう思ってくれたなら、僕も嬉しいよ」
「私ばかり休んじゃったかしら……? オスカーは色々とお仕事で忙しかったでしょう?」
「全然。君と一緒なら、疲れることなんてないさ」
「ねえ、オスカー」
「うん?」
「私たち、領地に戻った後もまたここへ来ましょうよ。私は頻繁に来たいわ」
「……ああ、いいよ」
レリアは少し思案するように目線を彷徨わせた後、意を決したように切り出した。
「ねえ、オスカー」
「うん」
「いつかヘルナが皇帝になる可能性があるのなら、あなたが先に皇位を継いでおくのはどうかしら? その方が形も綺麗だし……何より正統性というものがあるでしょう?」
軽やかに発せられた言葉ではあったが、その秘めた意味は決して軽くはなかった。けれどオスカーは否定も拒絶もせず、ただ穏やかに微笑んでいた。
「レリア、でも皇位に就けば、今のようにずっとシュペリオン領地に滞在することは難しくなるかもしれないよ。君にも皇城でこなさなければならない役割ができる」
「うーん……基本的にはあっちで過ごして、用事がある時だけここに来ればいいんじゃないかしら? いつでも自由に行き来できる拠点みたいにすれば……」
「ふふ、それもそうだけど……」
「一度、前向きにちゃんと考えてみて」
「……わかったよ」
オスカーの誠実な返答に、レリアは愛おしさを込めて再び彼を強く抱きしめた。幼い頃と変わらず、オスカーは彼女の願いを何でも叶えてくれる優しい少年のままだった。
「あ、そうだわ。思い出した!」
しばらくベッドでゴロゴロと戯れていたレリアは体を起こし、窓の外を確かめた。いつの間にか陽は落ち、外はすっかり濃い闇に包まれていた。
「オスカー、夜の散歩に行きましょう」
「こんな時間にかい?」
「ええ、早く行きましょう!」
数日前に訪れた、あの蓮池のほとりへ行きたかったのだ。アンセン伯爵が「夜の景色のほうが素晴らしい」と絶賛していたあの場所を、どうしてもオスカーと一緒に見たかった。
レリアはオスカーの手をしっかりと取り、夜更けの静かな城内へと繰り出した。
庭園へと向かう道中、二人は遅くまで働く使用人や巡回中の騎士たちとたびたびすれ違った。レリアはその都度ごく自然に「お疲れ様」と声をかけ、声をかけられた者たちは戸惑いながらも嬉しそうに深々とお辞儀を返した。レリアがアンセン伯爵に指示を出したことを知っていても、オスカーは何も言わず、ただ優しくレリアの横顔を見つめているだけだった。
「わあ……!」
蓮池に到着した瞬間、レリアの口から感嘆の声が漏れた。
あちこちに配置された柔らかな灯りが、水面と周囲の木々を幻想的に照らし出している。息をのむほど美しい光景だった。
レリアはオスカーの手を引いて橋の上へと登った。円形の橋の頂点に立つと、どこからか涼やかな夜風が吹き抜けていく。
「すごく気持ちいいわ……」
レリアはオスカーの腕にしがみついたまま、目を閉じて夜風を肌で感じた。
その時、ふと柔らかいものが唇に触れ、すぐに離れた。レリアが目を開けると、オスカーが少しいたずらっぽい笑みを浮かべて明後日の方向を向いていた。レリアは思わず吹き出してしまう。
この皇城に初めて足を踏み入れた時、オスカーの瞳には暗い影が差し、レリアに不安を見せまいと必死に感情を隠していた。
けれど、時が経つにつれて彼の表情からは角が取れ、穏やかな温もりが宿るようになっていた。
城内を照らす灯りは温かな色へと変わり、使用人たちも怯えることなく伸び伸びと行き交うようになっている。まだオスカーに対して恐怖心を抱く者もいるが、時間をかけて少しずつ解きほぐされていくはずだ。オスカーの傷ついた心と同じように。
ふと、二人の視線が交差した。どちらからともなく自然に引き寄せられ、優しく唇が重なり合う。触れ合った唇からあたたかな情愛が溢れ出し、胸の奥が熱く震えた。
唇を重ねたまま、オスカーが愛おしそうに小さく囁いた。
「君が僕を変えてくれたんだ」
「……」
「君が僕を救ってくれた。何度も、何度も」
「……オスカー」
「君のおかげで、僕はこうして生きていられる。君が与えてくれたこの人生がどれほど輝かしいか……君が背負ってくれたすべてが僕を救ってくれたんだ。愛しているよ、レリア」
「私も愛してるわ、オスカー」
やがて訪れるであろう輝かしい未来と変化を、二人は静かに、そして確かな絆で受け入れる準備を整えていた。
***
それから瞬く間に数年の月日が流れ、双子たちはすくすくと育ち、三歳になっていた。
その間、レリアとオスカーの置かれた環境にも大きな変化があった。
オスカーは正式にフレスベルグ帝国の皇位を継承し、それに伴ってレリアも皇后としての多忙な日々を送るようになった。豪華絢爛な即位式と祝賀会が連日催されていた時期は、週末であってもシュペリオン城へ戻ることすらできなかった。代わりに、シュペリオン城で暮らす家族や親しい友人たちがフレスベルグ帝国へと招待された。
感動に包まれた会場で、アンセン伯爵は一日中「感無量でございます……!」と感涙を流し続けていたものだ。
そうして怒涛の行事ラッシュが落ち着いた現在は――
二人はフレスベルグ皇城とシュペリオン城を頻繁に行き来しながら生活していた。そのため、フレスベルグ帝国の貴族たちの間では「姿を滅多に見せない神秘主義の皇后様」という異名までついているらしい。狙ったわけではないため、レリアとしては少し気まずい思いを抱いていた。
星がうっすらと輝き始める穏やかな夕刻。シュペリオン工作城にて、レリアはアンセン伯爵へ送る決裁書類の確認を終え、パタンと書類を閉じた。これから、最近いたずら盛りの双子たちの様子を見に行くところだった。
「オスカーがちゃんと見ていてくれるといいけれど……」
三歳になった双子たちは語彙力が一気に増え、片時もじっとしていなかった。特に最近はかくれんぼにドハマりしており、屋敷の中で出会う人全員に「かくれんぼしよう!」とねだり倒しているのだ。
レリアは部屋を出て、子どもたちの遊び部屋へと向かった。
扉の前に立つと、中からすでに賑やかな大騒ぎが漏れ聞こえてくる。
ところが、レリアがドアノブに手をかけた瞬間――「わああん!」と引きつけを起こしそうな泣き声が響き渡った。声の主は息子のリアンだ。
驚いたレリアが慌てて扉を開けると、部屋の中央に敷かれたふかふかマットの上に、困り果てた様子で座り込むオスカーの後ろ姿があった。
そしてその両脇には、ぷんぷんと怒り狂う双子の姿があった。随分大きくなったと思っていたが、オスカーの広い背中の隣に並ぶと、まるでウサギのぬいぐるみのように小さく可愛らしかった。
「うわーん! ヘルナなんか大嫌い!」
「私だってリアンなんて大嫌い!」
オスカーは困惑した顔で双子を見つめていたが、レリアの気配に気づいて助けを求めるように視線を向けた。レリアは彼と目が合うと苦笑いを浮かべ、優しく歩み寄った。
「リアン、ヘルナ。どうして喧嘩をしているの?」
レリアが穏やかな声で尋ねると、リアンはボロボロと涙をこぼしながら「抱っこして!」と両手を伸ばしてきた。
「ヘルナが! ヘルナが意地悪するの!」
「こっちにおいで、二人とも」
レリアがオスカーの隣に腰を下ろすと、リアンとヘルナは泣きじゃくりながら膝元へとすり寄ってきた。
「二人とも、何か嫌なことがあったのね。ほら、お話ししてごらん?」
「ヘルナが悪いんだよ!」
「違うもん! リアンが悪いんだもん!」
二人は一歩も譲らない様子でお互いをうるうるした目でにらみ合っている。レリアはその様子に脱力してため息をつきつつも、あまりの愛おしさにオスカーへ視線を送った。するとオスカーは、口元にスプーンをくわえたまま必死に笑いをこらえていた。
「どうしたの?」
「いや……この光景に見覚えがあってね」
その時だった。
ポクッ! ポクッ!
ヘルナとリアンが小さな拳を握り締め、お互いの頭をぽかぽかと叩き始めたのだ!
「こら! おやめちなさい!」
レリアが少し強い声で咎め、二人を引き離すと、子どもたちは一斉に爆発したように大泣きし始めた。
(もう……! 最近、二人とも自己主張が強くなってケンカが増えたと思ったけれど、まさか手まで出すなんて……)
今回は少し厳しく言わなければとレリアは眉をひそめた。もちろん、普段はすぐに仲直りして「だいすき!」と言いながらほっぺにキスをし合う仲良し双子なのだが……。
「うわああん!」
「あーん!」
「泣けば済むと思ったら大間違いですよ! ほら、泣かないの!」
「やーだー! やめてー!」
レリアは子どもたち以上に叫んで泣き出したい気持ちをぐっと堪え、必死に仲裁に入った。幸いにも、レリアの真剣な表情を察した子どもたちはすぐに涙を引っ込めた。
「ほら、お互いに『ごめんね』は?」
「……ごめん」
「……ごめん」
全く誠意の感じられない生返事ではあったが……とにかく二人はぎゅっと抱き合い、仲直りの儀式を済ませた。
すると次の瞬間には、さっきまでの大喧嘩が嘘だったかのように、おもちゃを手に取ってケラケラと楽しそうに笑い転げていた。
(一体何が原因で喧嘩になったのかしら……)
レリアは呆れ半分、安堵半分で口元を引き結んだ。子育てとは本当に、毎日が予測不能の戦争である。
しかし、ふと隣を見ると、オスカーが妙に静かなことに気づいた。子どもたちのパワフルさに圧倒されて疲れてしまったのだろうか。
「オスカー、どうしたの?」
「……さっきの場面だよ。以前、夢で見たんだ」
「どんな夢?」
「昔、お祖父様が『不思議な夢を見た』と話していた時のことを思い出してね」
「ああ……」
レリアはその言葉にハッと何かを思い出したように目を大きく見開いた。そして、不意に一つの記憶が脳裏をよぎる。
「……実はね、私も少し前に変な夢を見たの」
「どんな夢だったんだい?」
「幼い子どもたちが二人出てきたんだけど……」
「それで?」
「私たちが初めて出会った頃よりも、もっと小さくて……三歳か四歳くらいの子たち。その男の子と女の子が仲良く遊んでいたと思ったら、突然喧嘩を始めてね」
「その子たちが?」
「ええ。泣きながら、小さなこぶしでお互いの頭をぽかぽか叩き合っていたの」
その夢の情景と、たった今目の前で繰り広げられた双子の喧嘩が寸分違わず重なり合い、レリアは思わずクスッと笑みをこぼした。
オスカーもまた愛おしそうに目を細め、優しい手つきでレリアの肩を引き寄せて強く抱きしめた。
「ん? ママとパパがキスしてる!」
「ぼくも! ぼくもキスするー!」
オスカーがレリアの頬に優しく kisses を贈ると、それを見ていた双子が目を輝かせていっせいに飛びついてきた。
「だいすき!」「ママだいすき!」
小さな二人から顔中に雨あられのようなキスを浴びせられ、レリアは心からの幸福感に包まれながら、楽しそうに声をあげて笑い転げるのだった。
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皇城の雰囲気改革とアンセン伯爵の救い
暗く使用人が怯えて隠れていた皇城で、レリアは使用人への配慮や照明の変更、好きなフリージアの花を飾る提案をする。オスカーの過去のトラウマの象徴だった城を、二人の温かい思い出の場所に変える一歩を踏み出した。
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オスカーの即位と新たな生活の始まり
貴族たちの恐怖と感謝の念、そして教団の背景を理解した二人は、フレスベルグ帝国の皇位継承を決意。数年後、オスカーは皇帝となり、二人はふたつの城を行き来しながら穏やかで多忙な日々を送るようになる。
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夢の答え合わせと温かな家族の日常
3歳に成長した双子(ヘルナとリアン)の微笑ましい喧嘩を目にしたレリアとオスカーは、かつて見つめていた不思議な夢の情景がまさにこの瞬間だったと気づく。家族みんなで愛を確かめ合い、幸せな時間に包まれるのだった。