こんにちは、ピッコです。
「剣を持った花」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
62話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 隠された真実の刃
「エキネシア。あの子がエルギオサの所有者だろう。私は人々を食い止める。だから、あの子を頼んでもいいか?」
「はい、ロード」
彼女は迷うことなく答えた。
ユリエンはすぐそばまで来ていた彼女を振り返ることなく、そのまま階下へと駆け下りた。振り返ることはできなかった。
人々を制止し、事情を聞き出すこと自体は難しくなかった。彼らがどこの村から来たのか、何があったのかを一つひとつ聞き出す。しかし、その理由はあまりにも幼稚で身勝手なもので、思わず眉をひそめずにはいられなかった。まさか聖女が、そんな理由で命を奪われることになるなんて。
「エルギオサの所有者は、その性質上、災難に巻き込まれやすい。ああいう理不尽な出来事にも関わることになるからな。法に従って裁くべきことではあるが……」
ランギオサがぼそりと言った。
ユリエンは返事の代わりに、小さく頷く。
村を治める領主へ事情を説明し、まず犯人を拘束する。その後、前聖女に関する証言書を添えて帝国へ事件の概要を報告し、処罰について協議したうえで正式に告知・執行する。
時間はかかるが、法に則った正当な手続きを踏む予定だった。
代表格の首謀者へ尋問しようとしたその時――どこの領地の村なのかも知らなかった彼は、背筋を焼くような嫌な予感に襲われ、会話を突然中断した。
マスターとしての鋭い感覚が、空間の揺らぎを捉えたのだ。
ユリエンは素早く小屋へ駆け込み、壊れた窓から中を覗き込んだ。
「エキネシア? どうした……!?」
――気絶? いや、この前気絶したばかりだろう……。いったい何が……?
彼女に問いかける必要も、聖剣の慌てた声を聞く必要もなかった。
気絶しそうになりながら立ち尽くすエキネシアと、姿を消した聖女を見た瞬間、状況はすべて理解できた。
……そうして騒ぎが起こり、聖女はそのすべてを一人で背負い込んでしまったのだ。
ユリエンは窓枠を飛び越えた。
「そして、あなたはまた、あの中へ入ろうとしたんだろう」
バラハラを救うためだったのか、それとも聖女を救うためだったのか。
中に何が待っているかも分からない、あの裂け目の中へ。いくらジェニスだからといって、自分の命を軽く考えすぎではないか。
たとえ経験があるから生きて帰れる自信があったとしても、無傷で済むわけでも、痛みを感じないわけでもない。しかも前回は、裂け目から戻ったあともしばらく寝込んでいたというのに。
彼女と視線が合った。
ユリエンは、エキネシアが戸惑っていることに気づいた。自分の目の前で裂け目へ入ろうとしているのだから、説明もできず困っているのだろう。彼女は彼にすべてを隠したいと思っている。まだ彼を信じ切れていないのだから。
「主……まさか今……」
ユリエンは苦く笑った。
そして、裂け目へ足を踏み入れた。まるで水面を通り抜けるような奇妙な感覚が全身を包み込んだ。
強烈な感覚が全身を駆け巡った直後、彼は現実とは思えない空間に立っていた。
【……死ぬつもりだったのか?】
「私が入ってきた以上、彼女は気絶を避けるはずだ。私の前で正体を明かしたくはないだろうから。聖女は私が助け出せばいい」
【確かに、お前は私が見てきた主人の中でも指折りの優れたマスターだ。だが、気絶は別だ。理が違う。もしここが空気のない空間だったらどうする? ジェニスの魔剣の主ですら保証できない場所だったら、本当に……!】
聖剣は言葉を続けるうちに感情が高ぶり、声を荒げた。
ユリエンは周囲を見回しながら、落ち着いて答えた。
「気絶とは、その場にあるすべてを飲み込み、切り離すものだ。空気まで飲み込まれるのだから、空気がないはずはない」
【今はそんな細かいことを議論している場合か!?】
「すでに入ってしまった以上、なぜ入ってしまったのかを――死んでしまっては意味がない。次からは、こんな無茶はしないと約束しろ」
「……」
ユリエンは答えず、剣精霊を持ち上げ、焼け焦げた木のような植物にそっと触れた。
「その木には触るな。私の体から漏れた熱だけで煮えてしまうほど高温だ。それと、約束はしないのか?」
「努力はする」
「……まあいい。努力するだけでもな」
呆れたな。剣精霊はあっさりと諦めた。
「聖女を救う」という使命感だけで裂け目へ飛び込んだのなら、まだ理解できた。だが実際には、それ以上に魔剣の主が裂け目へ入ってくることを心配している気持ちのほうが大きいのは明らかだった。
剣精霊は深いため息をついた。
その溜め息を気にも留めず、ユリエンは慎重に奥へ進み、内部の構造を確認しながら人の気配を探った。
やがて奥で人の姿を見つけ、避難小屋の近くへと向かう。
最初に周囲に散らばっていた油と火を利用して焚き火を作り、そのあと見つけた人々をそこへ避難させた。聖女の痕跡が見当たらず焦ること以外には、大きな問題はなかった。
【地形が特殊だからか、思っていたほど危険な場所ではなさそうだな。以前、魔剣の主が入り込んだ結界と比べれば、という話だが。あとはエルギオサの主を早く見つければいい】
危険が少ないと判断し、ランギオサもようやく緊張を解いた。
ユリエンは聖剣の意見に同意し、気を失った男を小屋へ運ぼうと歩き出した。
やがて小屋が視界に入る。
彼は足を止めた。
エキネシア・ロアズが、そこに立っていた。
(なぜ……?)
なぜ彼女が結界の中にいるのか。自分が入った結界に、彼女が入ってくるはずはないと思っていた。正体が露見する危険まで冒して、一体なぜ。
ユリエンは慌てて彼女のもとへ駆け寄った。担いでいた青年をそっと地面へ降ろし、彼女の前に立つ。
エキネシアは彼が無事かどうか確かめるように彼を見つめたが、ユリエンはそれに気づかなかった。
彼の視線は、彼女の左手に釘付けになっていた。
彼はそっと彼女の手をつかんだ。
まるで火傷を負ったようだった。手を巻いている布には、滲み出た体液が染み込んでいる。ひと目でかなり痛々しい傷だと分かるのに、彼女は平然とした表情をしていた。
ただ少し戸惑った様子で、彼の手をそっと振りほどいただけだった。
「大したことではありません、ロード」
噴水の前で初めて彼女の手を握ったあの日、彼は何を願ったのだろう。時間を巻き戻されたその小さな手が、もう二度と傷つくことのないようにと願った。
それは、ほんの一か月半ほど前のことだったのに。なのに、もう彼女は手を負傷している。
火傷でただれた手を何でもないように隠し、ためらいなく裂け目へ足を踏み入れる。それもまた、誰かを助けるために。まだ二か月も経っていないというのに、これでもう二度目だった。
「……あなたは、どうしていつもそんなふうに……」
なぜ自分の身を大切にしないのですか。
なぜ危険へ自ら飛び込むのですか。
あなたは確かに強い。ですが、無敵ではないでしょう。
幸せになりたいと願っているのなら、時には見て見ぬふりをして生きてもいいはずです。少しくらい目を背けたからといって、あなたが責められることはありません。
あなたを心配している人たちのことを、どうして考えてくれないのですか。
込み上げる感情に、思わず声が大きくなった。エキネシアが驚いたように目を見開くのを見て、彼は深呼吸をした。
それでも、気持ちはなかなか落ち着かなかった。
「どうして結界の中へ入ってきたのですか?」
「え?」
「なぜ結界へ入ったのかと聞いているのです。避難する時間は十分にあったはずでしょう」
「申し訳ありません。逃げようとはしたのですが、気づいたら……」
嘘だ。
どうせ彼女は、自分の前では本当のことを話せない。聞くこと自体に意味はなかった。
ユリエンは目を閉じ、深く息をついた。
エキネシアは彼の様子をうかがいながら、おそるおそる口を開く。
「ロード、エルギオサの所有者を見つけました。安全な場所へ避難させています。それから、この裂け目から脱出する方法について、一つ心当たりがあって……」
ずっと探し続けていた聖女が見つかったという報告を聞いても、素直に喜ぶことはできなかった。裂け目から脱出する方法について新たな手掛かりがあると聞いても、不思議と心は動かなかった。
「……ロード?」
「……分かった。その“始点”が、この中にあるということだな。試してみる価値はありそうだ」
そう言うと、ユリエンは踵を返して避難小屋のほうへ向かい、勢いよく扉を開け放った。その動作はどこか荒々しかった。
そんな彼を見つめながら、エキネシアは静かに尋ねた。
「ロード……私に怒っていらっしゃるんですか?」
その一言で、ユリエンは我に返った。
彼女に腹を立てている?
違う。
彼が怒っていたのは、彼女をこんな状況に追い込んでしまう現実と、彼女を守り支えることのできない自分自身だった。
彼女にとって、頼れる存在でありたかった。
彼女が信じられる人になりたかった。
それなのに、自分は彼女が助けを求められる相手ではない。その事実が胸に刺さった。だからといって、彼女に気づかれるほど露骨に態度に出すなんて、自分でも何をしているのか分からなかった。そのうえ、彼女に怒りまでぶつけてしまった。情けなくて、自己嫌悪に襲われた。
「あなたに腹を立てているわけではありません。……すみません」
彼は彼女の方を振り返ることもなく謝ると、そのまま小屋の中へ入っていった。
感情に振り回されながらも、彼女が口にした説明は聞き逃していなかった。空中に浮かぶ黒い穴のようなものが、始点なのだとすぐに分かった。
「あれですか?」
「ええ、おそらく」
ランギオサを抜いてそれを突いた瞬間、背筋を冷たいものが駆け抜けるような不吉な予感がした。その予感は、的中した。
黒い巨人に関する調査のため、裂け目の中にいたすべての侵食怪物が集まってきたのだ。
効率だけを考えれば、エキネシアに黒い巨人を任せ、自分が侵食怪物を相手にしたほうがよかった。しかし、彼女は実力を隠したがっている。そのためユリエンは、侵食怪物の相手を彼女に任せ、自分は黒い巨人へと向かった。
黒い巨人は体こそ大きいものの、再生能力以外に特別な力は持っていなかったため、相手にすること自体は難しくない。問題は、全身を切り刻みながら核を探し出さなければならないことだけだった。
ユリエンは再生型の魔物と戦うときの定石どおり、少しずつ斬り進めていった。
少し余裕ができたところで、剣精霊が慎重な口調で話しかけてきた。
「主よ、あの裂け目のことだ」
「何か気づいたことがあるのか?」
「おそらく、消えた過去とは異なる大きな変化を起こそうとすると、その反動で裂け目が生じるのではないか」
「……やはりそうか。恐ろしいことに、どちらも神剣による現象なんだ」
【時間を巻き戻したのはカイロスの神剣、結界を作るのはラキアの神剣だ。何か関係があるのかもしれないな】
「そう考えると、一番大きく変わったのは『魔剣の悪魔』だった彼女に関する出来事だろう。ロアズ領の近くに結界が現れたという話は聞いていない」
【魔剣の主が密かに処理して、表に出なかっただけじゃないのか? それとも彼女が結界に慣れているのは、そのせいかもしれない】
「……何だ?」
【おい、前を見ろ!】
彼女がこれまでに何度も結界へ入っていた可能性が頭をよぎり、一瞬注意が逸れた。
その隙に、巨大な手が目の前へと迫っていた。
気づいていたので致命的ではなかったが、避けるのがわずかに遅れた。腕が深く切り裂かれ、血が飛び散る。
その瞬間――。
「ユリエン!」
エキネシアが切羽詰まった声で彼の名を呼んだ。
その声に引き止められるように、ユリエンはその場で足を止めた。
彼女は空へ舞い上がった。
白い剣を足場にして飛び、白銀の炎のような光が閃く。黒い巨人の頭部を貫く一筋の軌跡が、彼の目に鮮明に焼きついた。
崩れ落ちる黒い巨人よりも先に、彼女は炎の中へと着地した。
血に染まった顔と潤んだ瞳が、必死に彼を探している。
「ユ……」
彼を見つけた彼女は、もう一度その名を呼ぼうとした。
しかし、言葉を飲み込んだ。
ゆっくりと瞬きをすると、顔からすっと血の気が引いていく。彼女はその場で、まるで石像のように固まってしまった。
ユリエンもまた、動けなかった。
彼女が本気で剣を振るう姿を、この目で見るのは初めてだった。無駄がなく、力強く、そして美しい。マスター級と呼ばれる者なら誰もが感嘆するほど、卓越した魔力操作だった。
だが、その圧倒的な剣技以上に、彼の胸を強く打ったのは――
自分の名を呼ぶ彼女の、震える声だった。
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結界内での再会と隠し切れない動揺
ユリエンは裂け目(結界)の中でエキネシアと遭遇し、彼女が負った痛々しい火傷の傷や、自身の身を顧みずに危険へ飛び込む姿に強い焦りと自己嫌悪を抱く。
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黒い巨人との戦いと動揺
侵食怪物を退けたユリエンは黒い巨人との戦闘に突入するが、過去の改変や結界の発生原因に関する会話に気を取られて負傷してしまう。
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エキネシアの本気の剣技と名前の呼び捨て
ユリエンのピンチに駆けつけたエキネシアが圧倒的な剣技で巨人を討ち取り、その過程で思わず彼の名を呼び捨てにしたことで、二人の間に新たな緊張と動揺が走る。