こんにちは、ピッコです。
「悪女の姉を救う勇敢なわんこです」を紹介させていただきます。
ネタバレ満載の紹介となっております。
漫画のネタバレを読みたくない方は、ブラウザバックを推奨しております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
52話 ネタバレ
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 解けない誤解の糸
「いったい、どうしてあの中へ入ったの?」
すべての事情を聴き終えたクロエの表情は、冬の湖面のように険しく凍りついていた。
最初は単なる不運な事故だと思っていた。しかし、もしあれがココ自身の意志によるものだったとしたら――。あの子をそこまで追い詰めた理由が、必ずどこかにあるはずだった。
カリゴには正確な理由など分からず、ただ焦燥感だけが胸を焼き尽くしそうになっていた。
「中にずっといるわけにはいきません。あそこは暗すぎて、子供が一人でいるにはあまりに不安な場所です」
クロエは荒れ狂う感情を抑え込むように、何度も深く呼吸を繰り返した。その静かな呼吸に同調するように、壁の奥から響いていた切ないすすり泣きが、心なしか小さくなったように感じられた。
意を決したクロエは、再び秘密の通路の結界を開放した。そして、中へ入って我が子のように愛しいココを連れ戻そうと、暗闇へ一歩踏み出した――その瞬間だった。
「お、お姉ちゃんは来ないで……っ」
「……え?」
小さな、しかし明確な拒絶の拒絶の声が響く。「……お姉ちゃんじゃなくて。か、カリゴが来て……」
暗闇に慣れたクロエの鋭い双眸には、膝を抱えるココの姿がはっきりと見えていた。踏み込んだ瞬間、確かに二人の視線は交わったのだ。だが、ココは怯えたように泳ぐ瞳で、クロエから視線を逸らした。
いつも自分の後ろを「お姉ちゃん、お姉ちゃん」とちょこちょこと追いかけてきたあの子が、生まれて初めて見せた他人行儀な表情。
クロエの顔が深い戸惑いに染まる。その様子を後ろで見守っていたカリゴは、彼女の傷ついた横顔を気にかけながら、低くつぶやいた。
「では……私が入ります」
呆然と立ち尽くすクロエをその場に残し、カリゴは再び、仄暗い秘密の通路へと足を踏み入れた。
暗闇の奥、ココは自分の頑なな行動が急に恥ずかしくなったのか、ぎゅっと唇を噛み締めていた。
「ねえ、私……よく考えたら、ちょっと馬鹿だったみたいで……」
「全然、馬鹿なんかじゃない」
低く穏やかな声で答えたカリゴは、怯えさせないよう静かにココへもう一歩近づいた。ようやく目が暗闇に慣れてきた頃、カリゴの目には、涙でぐしゃぐしゃになったココの顔に、小さな照れ隠しの笑みが浮かんでいるのが見えた。
「どうして一人でここにいたんだ? あんなに泣いていただろう」
カリゴはそっと微み、自分の額をココの額に優しく当てて小さくつぶやいた。「俺には、どうせ君のことは全部見えているんだから」
「うん……」
「君が何をしていようと、どこに隠れていようと、俺は影を通して全部見守っている。だから、一人で泣いちゃ駄目だ」
「うん……」
「つらい時は俺を頼れ。俺たちは友達だろ? そうだろう?」
カリゴは優しく微笑み、ココに向かって温かい手を差し伸べた。
「ココ、みんなが君を心配している」
ここは強固な魔力で隔離された秘密の通路だ。本来なら外の音などほとんど聞こえないはずの場所。
それなのに、ココはきっと気づいていたのだ。自分を探して慌ただしく駆け回る人々の気配を。自分を呼ぶアミウスの咆哮も、チュンチュン園長のさえずりも、生チュウの必死な鳴き声も、すべてこの耳に届いていた。
それらすべてを「聞きたくない」と耳を塞ぎたくなるほど、この小さな心は深く傷ついていたのだと、クロエは壁の向こう側で痛感していた。
「みんな……私のこと心配してるの……? 違う嫌な声が聞こえていて……気づかなかったの……」
ココがつぶやいた。違う声、とは一体何のことなのだろうか。ココは一瞬だけクロエの方へ視線を向けたが、耐えかねたようにすぐにまた目を閉じてしまった。
すると、カリゴがその小さな手をぎゅっと握りしめて言った。
「うん。だから、ココ。早くここから出よう」
『俺がついているじゃないか』――そう物語るようなカリゴの強い眼差しを見て、ココは力なく微笑んだ。
そうだ、私には友達がいる。背後では、生チュウがチュウチュウと、チュンチュン園長がチュンチュンと、愛おしそうに鳴いていた。まるで「大丈夫だよ」と励ましてくれているように。
(アルドス公爵様も、ルースお兄ちゃんも、みんな私のことをすごく心配してくれていたんだ……)
今まで気づけなかった。耳の奥にはいつも、『お前は捨てられた野良犬だ』という冷酷な幻聴ばかりが響いていて、自分を探してくれる温かい人たちの声が遮られていたのだ。
それでも、みんなが自分を求めてくれているのだと知ると、冷え切っていた体に少しだけ温かい力が戻ってきた。ココは限界まで小刻みに震えていた体を、ようやく落ち着かせることができた。
「行こう、私たち」
ココはカリゴに向かって手を差し出し、その手をぎゅっと握りしめて、ついに光の射す外へと歩き出した。
通路から出てきたココを、クロエは引き裂かれそうな痛みをこらえてじっと見つめ、そっと細い手を差し伸べた。
「……どうして泣いていたの? どこか痛むの?」
赤くなった目元を愛おしそうに包み込もうとする指先は、いつも通りとても温かかった。それだけで、胸につかえていたドロドロとした塊がすっと溶けていきそうになる。だが、ココの脳裏に完璧なモルティーズの姿がよぎった。
「だめ……。お姉ちゃんには、新しい子犬がいるから……」
そう拒むように呟くと、ココはカリゴの手を握ったまま、身をよじるようにしてクロエの手から逃れた。
その時、別邸の階段の下から、雲霞のごとく大勢の人々が押し寄せる足音が響いてきた。
「ひっ、人が多すぎる……」
ココは戸惑いながら、きょろきょろと辺りを見回した。さっきまでは体調の悪さと心の苦しみで、周囲を気遣う余裕すら見つけられなかったのだ。
(私が勝手にいなくなったせいで、こんなに大ごとにして、みんなを心配させちゃったんだ……)
人波を割るようにして、アルドス公爵とルースが血相を変えて駆け寄ってきた。
「ココ! 見つかったのか!?」
「はい……」
アルドス公爵は猛烈な勢いで近づいてくると、壊れ物を扱うようにココをぎゅっと抱きしめた。
「怖かっただろう! こんな忌々しい暗黒の通路なんぞ、今すぐ跡形もなく全て叩き潰して塞いでしまうべきだ……!」
すると横から、ルースが呆れたように口を挟む。
「そんな物騒な命令、一度も出していませんよ、お父様」
「……とにかくココ、このお騒がせ娘め! どうしてこんな通路に閉じ込められたんだ? どこか怪我はしていないか、ん?」
「うぅ……」
少し心が落ち着いてくると、今度はどう説明すればいいのか分からなくなってしまった。「訓練中に生命力を使い果たして子犬に戻りかけた」とも、「お姉ちゃんが別の子犬を飼うと思って拗ねた」とも言えない。ココは仕方がなく、道に迷って出られなくなったふりをして、自然にうつむいた。
ルースは安堵したように深く息を吐き出し、ココの頭を撫でた。
「まったく、このお転婆娘め。これからはどこへ行くにも、侍女を絶対に二人以上付き添わせないとな」
アルドス公爵は愛おしさが爆発したようにココをさらに強く抱きしめ、ココの顔はすっぽりと公爵の広い胸に埋もれてしまった。
「どれだけ私の心臓が縮み上がったと思っているんだ、ん? もう具合は悪くないのか?」
「もう……大丈夫です……」
「いや、やっぱり駄目だ。よし、今日限りでクロエの別邸への出入りは全面禁止にしよう!」
「えっ!」
ココは真っ赤になった顔を、公爵の肩にぐりぐりと押しつけながら必死に抗議した。
「お姉ちゃんの屋敷に行けなくなるのは……それは絶対に嫌です……っ」
「まったく、言うことを聞かないおねだり上手な子だ……。本当に怖かっただろう。さあ、本館に戻ってゆっくり休みなさい。温かいミルクも用意させよう」
公爵の温かい言葉に包まれながらも、ココの心はまだ沈んでいた。別邸への出入りを禁止されるのは嫌だったけれど、今の状態のままクロエに会う勇気だけは、どうしても出そうになかった。耳元では、まだあの冷たい幻聴がささやき続け、心を苦しめている気がしたからだ。
だからココはアルドス公爵の腕の中に抱かれたまま、ぎゅっと顔をうずめて微動だにしなかった。
「よしよし、私の可愛いココ」
「……うぅ」
(こんな風に優しくされたら、だめなのに……)
ようやく泣き止んだ子犬を抱きしめて、優しく背中を撫でてあげるのが、この公爵邸のあたたかい決まりごと。だけど、そんな風に無条件の愛を注がれたら、まるで「もっと甘えて泣いてもいいんだよ」と言われているみたいで、また涙が溢れそうになってしまう。
ココが小さく鼻をすすっていたその時、背後からクロエが、いつになく動揺を隠した静かな声で話しかけてきた。
「ココ。本当に道に迷っただけなの? どこか痛むところがあるなら言いなさい」
ココは公爵の胸に顔を埋めたまま、小さく首を横に振った。
いつもなら真っ先に自分の方へ両手を広げて飛び込んでくるはずの妹が、頑なに背を向けて躊躇している。その様子を見て、クロエの表情はかつてないほど痛ましく歪んだ。
「おいで、ココ」
クロエはもう一度、切実な拒絶を否定するように両手を差し伸べた。
「おいで。どこをケガしたのか私に見せなさい。鼻も真っ赤じゃない。一緒に顔を洗いましょう」
クロエは、あの子が当然のように自分の腕の中へ飛び込んでくるものと信じていた。そして実際、公爵の腕の中で宙ぶらりんになっていたココの小さな足も、本能的にお姉ちゃんの方へ向かいかけたのだが――。
その瞬間、ココはぴたりと動きを止めた。
(でも……お姉ちゃんには私じゃなくて、他に完璧で可愛い子犬がいるじゃない)
もしお姉ちゃんと二人きりで話をしていて、突然、『もうココのことは忘れて、これからはこの子犬と幸せに暮らすわ』なんて笑顔で言われてしまったら、どうしよう……?
そうなったら私は――どんな顔をして、どこへ行けばいいのだろう。
せっかく落ち着きを取り戻しかけた心が、再び激しく揺らぎ始める。
(お願い、私に心の整理をする時間をちょうだい……)
ココは自分を強く抱きしめてくれているアルドス公爵の服の袖をぎゅっと握りしめ、そっと目を伏せた。
「私……今日はカリゴや、公爵様や、ルースお兄ちゃんと一緒にいる」
「えっ!? 何それ、夢じゃないよな? ココ、今俺を選んだのか!?」
ルースは突然の降って湧いた幸運に、思わず破顔して嬉しそうな笑みを浮かべた。
「……あなた」
クロエの声が低く震える。頬をぷくっと膨らませて視線を逸らすココを見て、クロエは信じられないというように目を細めた。ココの本心を、その瞳の奥にある真実を確かめようとするかのように。アルドス公爵もまた、意外そうな顔でココの横顔を静かに見つめていた。
その張り詰めた空気の中で、ココはハッと我に返った。
(しまった……お姉ちゃんに「拗ねてる」って思われたら駄目なのに……!)
自分はとても傷ついていたけれど、決してお姉ちゃんのことが嫌いになったわけではないのだ。ただ、お姉ちゃんの口から「本当にあの子犬を飼うことにしたの」という決定決定的な事実を告げられるのが怖くて、それを受け止める勇気がまだ足りないだけだった。
明日になれば、きっと笑顔でお姉ちゃんに会えるはずだから――。
ココは、ここで一番自分の複雑な乙女心(子犬心)を分かってくれそうにない、単純で能天気なルースを真っ直ぐに見つめて言った。
「……私、ルースお兄ちゃんと一緒にいく」
その瞬間、クロエの冷徹だった視線が、今まで誰も見たことがないほど激しく動揺に揺れ動いた。
だけど、お姉ちゃんの家にはもう別の子犬がいるのだ。ココは卑怯だと自覚しながらも、その場から逃げ出すように歩き出した。片手でアルドス公爵の手を握り、もう片方の手でルースの手を握る。そしてその後ろには、カリゴとアミウスがぴったりとナイトのように従っていた。
クロエは、遠ざかっていくココの小さな後ろ姿を、ただぼんやりと見つめることしかできなかった。
(……初めてだわ)
あの子が、自分に背中を向けて去っていったのは。
クロエはその時になって初めて、痛烈に気づかされたのだ。これまではいつだって、ココのほうから先に自分へ手を差し伸べ、無条件の愛を注いでくれていたのだということに。
『お姉ちゃん!』
『私は、お姉ちゃんが一番好きだから!』
あの鈴を転がすような澄んだ歌声が、今も耳の奥に焼き付いて離れない。
(まるで、深く深く傷ついてしまったかのような、あの子のあの態度は……いったいどうして?)
なぜだろう、胸の奥が締め付けられるように何度もズキズキと痛んだ。心を満たしていた温かい何かが、すっかり抜け落ちてしまったかのような猛烈な空虚さが襲う。それでもクロエは、湧き上がる感情を押し殺し、まずは目の前のやるべきことを終わらせることにした。
子供たちをルースの元へと送り届けた後、別荘での一件はこうしてひとまず幕を閉じた。
ココが一時的に姿を消した件も、大ごとにはならず「別邸の秘密の通路に誤って迷い込んでしまった小さな騒動」として収束した。そして、その危険な通路は二度と誰も立ち入れないよう、クロエの手によって完全に、永久に封鎖されることとなった。
しかし、空間を閉じる作業の最中、クロエは何度もその手を止めてしまっていた。
(……でも、あれは本当にただの事故だったのかしら)
いいえ、違う。あの子はきっと、明確な意志を持って自らあの闇へ入り、隅っこで息を潜めて身を隠していたのだ。だからこそ見つかった時、あんな風に頭を深くうつむかせ、悲しそうに肩を落としていたのではないか。
あの小さな子が、この世の何をそんなにつらく感じて、あれほど絶望していたというのだろう。
クロエは闇魔法の術式を一つずつ閉じていったが、なぜか手元が何度も狂い、魔力が霧散してしまう。
(……気になって、どうにも集中できないわ)
あの拒絶に満ちた、今にも消えてしまいそうだった小さな後ろ姿が、何度も何度も脳裏にフラッシュバックするからだ。クロエは深く重いため息をつき、逃れるように自分の屋敷の外へと出た。
「……クロエ様、お嬢様のところへ行かれるのですか?」
声をかけてきたのは、ココ付きの侍女だった。
「え?」
「お嬢様は今朝から、どういうわけか……とてもお気持ちを痛めて、ひどく落ち込んでいらっしゃるようでしたので」
クロエは思わず侍女を凝視した。
それまで機械的に手を動かし、公爵家の令嬢としての仕事を淡々とこなしていたのに、その言葉を聞いた瞬間、まるで頭から冷水を浴びせられたかのように思考が真っ白になった。と同時に、冷徹な理性が完全に目を覚ました。
自分は大人で、ココはまだほんの小さな子供なのだ。
もしココに何か言葉にできないつらいことがあったのなら、そしてそれが自分の屋敷の環境のせいだったのなら――大人である自分が真っ先に手を差し伸べ、その傷ついた心を優しく慰めてあげるべきだったのだ。クロエはようやく、そのあまりにも当たり前な事実に気づかされた。
あの子は――まるで水が器に馴染むように、自然と自分のもとへ近づいてきてくれた、あの小さな命は。いつの間にか、自分の人生から決して切り離すことのできない、かけがえのない存在になっていたのだと。
クロエは気が急くあまり、侍女の肩を掴まんばかりの勢いで詰め寄るように尋ねた。
「どうしてあの子があんなに落ち込んでいたの!? 何か嫌なことでもあったのを聞いたの!?」
「そ、そこまでは、私たち使用人にもよく分からなくて……」
「……分かったわ。あとは君がここを終わらせておいて」
「え? あ、クロエ様!?」
クロエは侍女の返事も待たず、ほとんど駆け出すようにして公爵邸の本館へと向かった。
それは、確固たる理由のない、ただの本能的な予感だった。――このままココを放っておけば、自分はきっと一生、消えない後悔を抱えて生きることになる。
そしてクロエは初めて、自分の胸の奥から湧き上がる切実な心の声に、素直に耳を傾けた。
(今回は、私の方から先に、ココへ手を差し伸べなければならない――)
あの小さな子が、もう二度と、ひとり寂しく暗闇の中で涙をこらえなくて済むように。絶対にそうしなければならないという強い衝動に突き動かされ、クロエは淑女としての気品も忘れ、我を忘れたように廊下を駆け抜けていくのだった。
要点は以下の3点です。
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ココの拒絶とカリゴの寄り添い
クロエが救出に向かうも、ココは「今の醜い姿を見せたくない」「自分にはもう新しい子犬がいるはず」という誤解と自卑心から、お姉ちゃんを拒絶してしまいます。代わりに中へ入ったカリゴがココを優しく諭し、孤独から救い出して外の世界へ連れ出します。
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姉妹のすれ違いとココの逃避
公爵やルースに保護されて落ち着きを取り戻したココですが、クロエに対する「捨てられるかもしれない」という恐怖心は消えません。クロエからの温かい救いの手や問いかけに対し、ココはあえて距離を置き、ルースたちを頼ることでその場から逃げ出します。
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クロエの自覚と新たな行動
妹が自分に背を向けたことに大きな衝撃を受けたクロエは、自責の念に駆られます。侍女からココが以前から深く傷ついていたことを知ったクロエは、大人として、そして姉として、今度は自分から手を差し伸べるためにココのもとへと必死に駆け出します。