こんにちは、ピッコです。
今回は55話をまとめました。
ネタバレありの紹介となっております。
又、登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
55話
登場人物に違いが生じる場合がございますので、あらかじめお詫びさせていただきます。
- 新しい訓練②
マックは彼らの渋い視線に気まずい笑みを浮かべた。
最近はほとんど克服したと思ったが、武装した体で散漫な男たちの前に立っていると緊張で指先が震えてしまう。
マックはローブの袖を引っ張って、素早くそれを隠し、何とか口を開いた。
「た、足りない実力ですが・・・、わ、私が皆さんのき、傷を・・・」
もぞもぞと吐き出す言葉に、騎士たちは困惑した顔でお互いに目配せを交わした。
しばらくぎこちない沈黙が流れた末、一番前に立っていたエリオット・カロンが口を開く。
「心はありがたいのですが、簡単な傷くらいなら私たちが自分たちで治療できます。気にしなくてもいいですよ」
顔見知りの騎士がそんなに断固として断ると、一気に気が滅入った。
何の返事もできないと、ルースは見ていられなかった。
「奥様は今魔法を習っているところです。癒しの魔法を練習する対象が必要なので、ご協力くださいということです」
「魔法?」
水筒から水をすくってぐびぐびと飲んでいたヘバロンがびっくりした顔でマックを振り返る。
他の騎士たちも意外であるかのように彼女をちらりと見た。
「奥様は魔法の使い方を知っているのですか?」
「い、今ちょうど習い始めたばかりで・・・、で、できる魔法は、ま、まだ・・・」
言葉じりを濁す姿が全く頼りなく見えたのか、騎士たちが再び視線を向ける。
ヘバロンでさえ、汗でテカっている癖毛をごしごし掻きながら、困った表情をした。
「魔法使い、趣旨はいい。だが失敗して副作用でも生じたら困る。そうでなくても、最近訓練強度が半端ないのに・・・」
「たとえ失敗したとしても、癒しの魔法は何の副作用もありません。余計な心配ですよ」
それでも信頼できないのか、騎士は顔色ばかりうかがった。
すると、ルースが胸に腕を組んで騎士たちの顔を一つ一つ見る。
「治療術師がどれだけ役に立つ存在なのか、私があえて説明しなくても分かると思います。今私はアナトールとレムドラゴンの騎士団のために寝る時間まで惜しんで貴婦人に魔法を教えているんですよ!それなのに、卿たちは今、身を立てるために少しの助けも与えないということですか?はてさて、すごい騎士道精神ですね!」
ギャアギャアという声にヘバロンは耳を塞ぎながら顔をしかめた。
「ああ、この小言屋は。誰が手伝わないと言ったの?私は頭のてっぺんからつま先まで傷一つついていないからだよ!おい、誰か怪我をした人はいないの?」
「奥様はまだ十分な魔力を集めていないので、大きな怪我は治りません。どうせなら軽い怪我をした方に志願してもらいたいです」
「何がそんなに気難しいの?」
ぶつぶつ言っていたヘバロンがふと何かが浮かんだのか軽く指をはじき、遠く離れたところで馬に水を飲ませている騎士を呼んだ。
「おい、リカイド!さっき組手中に頬に傷がついたじゃん!君が試験の対象になってくれない?」
ヘバロンの力強い声に騎士は眉をひそめ、鋭い視線を投げかけた。
マックは思わず肩をすくめる。
よりによって彼女に最も敵対的な態度を取る金髪の騎士、ウスリン・リカイドだった。
彼は乾いた目でマックに目を通し、へバロンに無愛想に叫んだ。
「お前が試験の対象になってくれ。さっき私が加えた一撃のせいで、お腹に青くあざができたじゃないか」
「痣は何の痣だ!蚊に剌されたように痒いだけだね」
「虚勢を張るな。馬の上でカカシのようにふらついたじゃないか」
「貴婦人!あいつを隅々まで治療してくれなければならないようです」
マックは困惑した表情でウスリンの冷たい顔をちらりと見た。
ルースは2人の口論にうんざりするかのように深いため息をつきながら彼に近づく。
「頬に傷がついたんですね。この程度なら奥様も治療できると思います。長くはかからないでしょうから、ご協力ください。」
「必要ない。これくらいは放っておいてもいい」
「すぐに治ればもっといいじゃないですか。ハンサムな顔に傷跡ができたらどうするつもりですか」
「魔法使いに顔を任せるより、むしろ傷跡ができたほうがましだね。
その冷たい言葉にひそかに意地が張り出した。
失敗したって何の副作用もない。
それなのに、そんなに頑強に断ることはないじゃないか。
マックは乾いた唾を一度飲み込んだ後、震える声で吐き出した。
「れ、練習をたくさんし、したから大丈夫だと思います。し、失敗しないから、い、一度だけ試させてくれれば・・・」
彼女は後口をつぐむことができず、口をつぐんだ。
騎士の冷淡な顔に嫌悪感が明確に浮び上がったのだ。
リカイドは不満そうな目で彼女に目を通し、冷ややかに吐き出す。
「ちゃんと呪文を唱えられるのですか?」
マックは恥ずかしさで頭のてっぺんからつま先まで真っ赤になった。
熱が上がりすぎて耳たぶが熱くなり、瞼がヒリヒリする。
自尊心を守るためにも毅然とした姿でいたかったが、到底騎士の目をまともに向かい合うことができなかった。
「じゅ、じゅ、呪文は・・・」
やっと平常心をかき集め、呪文を唱えなくても魔法はできると言い返そうとすると、突然、大きな手が彼女の肩をつかんだ。
マックは驚いて振り返る。
いつ来たのか、リプタンが恐ろしい目で騎士を睨んで立っていた。
彼は軽くマックを脇に押しのけ、片手でリカイドの胸ぐらを掴んだ。
「妻にそんな言い方をするな」
リプタンは彼の体をほとんど持ち上げるように怒り狂った猟犬のように絶え間なくうなり声を上げる。
騎士が抜け出そうと彼の手を押し出したが、リプタンはびくともしなかった。
マントの裾に首を絞められたせいで、騎士の顔があっという間に赤く染まる
その姿を見て、騎士たちがびっくりしながら慌ててリプタンを引き止めた。
「団長、落ち着いてください!」
二人の男が剥がそうとするにもかかわらず、彼はびくともしなかった。
リプタンは脅すようにリカイドの体を揺らし、すぐに投げつけるように放してやった。
彼が赤くなった顔でごほんごほんと咳をすると、他の騎士たちが素早く彼を支える。
冷ややかな目でその姿を見守っていたリプタンはさっと身を回して彼女の腕を引っ張った。
「こっちにおいで。城に帰ろう」
ぼんやりと固まっていたマックは、夫の手に引かれてもじもじと足を運んだ。
その瞬間、背後からリカイドの険しい声が響き渡った。
「団長にはプライドもないんですか?」
リプタンは立ち止まってリカイドの方を振り返った。
「悔しくないんですか!誰のためにあんな苦労をしたか・・・。どうしてあんな人間の娘をかばうことができるのですか!どうしてそんな女を・・・!」
誰かが止める間もなくリプタンが飛びかかり、リカイドの顔に拳を放つ。
騎士の大きな体がよろめきながら後ろに飛んだ。
マックは驚いて悲鳴を上げる。
リプタンは怒りが収まらないかのように再び拳を振り上げた。
騎士たちは慌てて彼の腕を掴む。
「だ、団長・・・、我慢してください!」
「リカイド卿もやめてください!行き過ぎじゃないですか!」
リプタンは破れた口元を拳で拭うリカイドを睨みつける。
その殺伐とした勢いに押されたように、勢いよく向かい合っていた彼の額にも冷や汗がにじんだ。
リプタンはそのような彼を威圧するように近付きながら、一字一字噛んで吐いた。
「もう一度私の妻のことをそんなふうに言えば、口から股まで一刀のもとに斬り伏せる」
自分に向けられた言葉ではないにもかかわらず、後ろの骨がぞっとして、マックは背中を震わせた。
ウスリンの反抗的な顔をしばらく脱みつけていたリプタンは、自分にしがみついた騎士たちの手を振り払い、再び彼女の腕をつかんで大股で歩き始める。
マックは当惑した目で後ろに残された人々をちらりと見て、彼についてあたふたと階段を上った。
いつもの通りなら彼女の歩幅に合わせてくれたはずのリプタンが、大股で一気に城門を通過する。
長い脚で素早く庭を横切る彼を追いかけるために、マックはほとんど走っていなければならなかった。
「リ、リプタン・・・」
あごまで冷や汗をかきながら震える声で彼を呼ぶと、リプタンがやっと足を止めた。
マックは何を話せばいいのか分からず、唇を震わせる。
驚いた胸が少し落ち着くと、恥ずかしい思いをした。
よりによって恥をかいていた姿を見せてしまうなんて・・・。
少なくとも彼にだけは孤高で上品だという姿を見せたかった。
急に涙が出そうになり、彼女は慌てて頭を下げる。
その姿を見下ろしていたリプタンが、涙を流すように話した。
「だから、どうして余計なことをしてあんなことを・・・!」
マックは肩をすくめた。
火の塊を飲み込むようにリプタンが大きく唸る。
彼は手のひらで顔を荒々しくなでおろしながら、しっかりとした声で吐き出した。
「あんなことを言われるようにして・・・、すまない」
期待していなかった謝罪に、マックは湿った目で彼を見上げる。
リプタンは彼女の頬を庇うように、小さくつぶやいた。
「ごめん。だから泣かないで」
それから頭を下げて、彼女の額に自分の額を当ててこすった。
動物にでもなれそうな不器用で、痛ましい慰めの身振り。
その優しい行動に急に悲しみがこみ上げてきた。
マックはすすり泣きを飲み込み、彼の裾をしっかりとつかんだ。
リプタンは途方に暮れて、彼女の顔から流れる涙を絶えず拭う。
「二度とあなたにあんな風に言えないようにする。だから泣かないで」
あの男があのように言ったのはリプタンのせいではなかった。
自分のせいだった。
もじもじして、吃って、何の能力もない、愚かで不格好な自分の姿をありのままに見て軽蔑しただけだ。
胸がずきずきする。
もし自分が尊敬に値する貴婦人だったら、彼は自分の騎士と争うことはなかっただろう。
王女と結婚していたら、彼は今まで以上に尊敬されていただろう。
あまりにも恥ずかしかった。
いつも、いつも、自分が嫌いだったが、今ほどゾッとしたことはない。
マックは彼の胸に額をうずめ、ぎゅっと目を閉じる。
「あの、私はも、もう大丈夫だから・・・、し、仕事に戻ってください」
「目が赤く充血している」
「し、湿布をすればいいんです。ほら、心配しなくてもい、いいから・・・」
「どうして心配しないの」
マックはドアから足を踏み入れることができないリプタンに困惑した視線を送った。
部屋に戻って彼の胸に抱かれていることをしばらく、乱れた感情が落ち着くと子供のようにふらふらしたのが恥ずかしくて彼に向き合うのが恥ずかしかった。
リプタンを探す執事の呼びかけに安堵感を感じたほどだ。
「君に二度とあんな態度を取らないように、しっかり注意する」
リプタンは再び強い口調で話した。
マックは当惑した表情で首を横に振る。
「私のために、そ、その必要はありません。わ、私のために・・・、そんなにき、気にしなくても・・・」
「当然気にする」
彼は少しいらいらした声で言った。
「私がこの世で一番気を使わなければならない人は、まさにあなただ。気分が悪くなったのは分かるけど、そんな風に言わないで」
マックは当惑した表情で彼の固い顔を見る。
自分のために騎士たちと争わないようにという意味で言った言葉だったが、リプタンは彼女が気分を害して自分の仕事に構わないように押し出しているように感じたようだった。
彼の陰になった瞳をのぞき込みながら、マックは心の中で苦笑いをした。
確かに、いつもの堂々ある貴族の令嬢だったら、自分を侮辱した代価を払わせてほしいと我儘を言ったかもしれない。
しかし、彼女は自分にそれだけの価値がないことをよく知っていた。
マックは陰鬱な内心を隠すように薄い笑みを浮かべながら、わざと淡々と吐き出した。
「ごめんなさい。も、もう、あ、あんなことしません」
「・・・すぐ戻ってくるから、休んでいて」
「わ、わかりました」
リプタンは安心できないかと彼女の青白い顔をしばらく見て、やっとドアを開けて外に出た。
マックは暖炉の前に座って、パチパチと火花が飛び散る光景をほんやりと眺める。
絨毯の縫い目でいたずらをした猫たちがゆっくりと膝の上に上がってきて、彼女のお腹に頭を突っ込んでむずむずした。
彼女は機械的に猫の背中を掻いて深呼吸をする。
古い羞恥心が油かすのように胸の中にくっついて心をベタベタさせた。
クロイソ城を離れて、生半可な貴婦人のふりをしたからといって、自分の根本が変わるわけでもない。
自分はまだ取るに足らない、吃りのマクシミリアンだった。
無力感に包まれたマックは、思いっきり背中を丸める。
憂鬱で悲しかった。
そうして次の瞬間には、ひどく不安になる。
苦労して積み上げた砂の城が今にも崩れ落ちそうに、強い焦りが起きた。
リプタンは本当に自分を恥ずかしく思っていないのだろうか?
たとえそうだとしても、いつかはうんざりするかもしれない。
ふと彼女は恥辱感に襲われた。
自分をあれほど大事にしてくれた人のことをそんなに疑っている自分が嫌だった。
自分の中にある歪んだ判断が何よりも恥ずかしかった。
苦しそうに顔を覆っていたマックは藁をもつかむような気持ちで席を蹴って立ち上がる。
外に出ると、廊下に明かりを灯していた使用人たちが彼女に向かって急いで頭を下げた。
マックは挨拶を受けて、階段の2階を一気に駆け上がる。
初の練習は後味の悪いものになりましたね・・・。
マックには心を折れずに頑張ってほしいです!